デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

大阪「OverSeas」に青春のあの頃を見た

2011-12-04 08:22:01 | Weblog
 京都駅から大阪駅まではどの位の時間で行けるのだろう?関西の二大都市を結ぶとなれば相当距離があるのだろうか。関西にお住まいの方や地理に詳しい方から笑われそうだが、海を超えない限り他県を跨ぐこともなければ、大きな駅まで数時間要する北海道に暮らしていると地図では時間の感覚がつかめない。京都の知人に尋ねたところ、「快速でしたら30分で行けますわぁ」と、鈍行のようなおっとりした関西弁で返事が返ってきた。

 そうと聞いたら観光目的で訪れた京都だが、ライトアップされた清水の舞台どころではない。大阪駅からタクシーで15分ほどの所に目的地があった。ドアを開けるとよく磨かれたピアノが目に入る。優しい眼差しでピアノに向かっているのは寺井尚之さんで、弟子を取らなかったトミー・フラナガンの唯一の弟子として知られるピアニストだ。そして奥のカウンターから奥様の珠重さんが迎えてくれた。毎週木曜日に更新されているブログ「INTERLUDE by 寺井珠重」は、多くのミュージシャンとの触れあいやジャズクラブに集う方々との交流を軽妙な文章で綴られていて毎週楽しみにされている方もあろう。

 尚之さんのピアノは初めて聴いたが、速い曲は実にスインギーでデトロイト・バップピアニストの名に恥じないばかりか、バラードの表現が素晴らしく、ステージにシンガーがいるのかと錯覚するほど歌っていた。もしそこに師トミー・フラナガンがいたなら、オレを超えたな、とニヤリと笑うかもしれない。帰り際に数枚のアルバムから珠重さんに1枚選んでいただいたのは「ユアーズ・トゥルーリー」で、珠重さんが病から幸い無事回復したのを機に録られたという。愛を歌った曲が並ぶ作品は、尚之さんが愛妻に寄せたメッセージであり、「You're My Everything」に全てが込められている。日本人、それも寡黙な男は照れもあり妻への愛を語ることは少ないが、ピアノで愛を表現できるのは何とも羨ましい。

 時間の都合もあり2ステージしか聴けなかったが、寺井尚之さんと宮本在浩さんのベース、菅一平さんのドラムからなるトリオ「Mainstem」は、そのエリントンの曲のように美しく構築されていた。大阪のジャズクラブ「OverSeas」、そこにはあのフラナガンの名盤を映した誇り高いバップの薫りと、ジャズの聴き始めに誰しもがときめいたジャズの熱いロマンがある。海を超えて行った甲斐があるというものだ。
コメント (20)
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