デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

「hot house」をスラングで解き、聴いてみよう

2011-12-18 07:40:11 | Weblog
 ジャズに夢中になった高校生のころ、ようやく小遣いを貯めて買った1枚のレコードは宝だった。繰り返し聴いたあとジャケット裏のライナーノーツを読むのだが、英語力の貧困さとスラングが理解できずうまく訳せない。特にジャズは辞書に載っていない隠語が多く、ときには曲のタイトル自体がスラングだったりする。そんなとき英語の先生が頼りだった。教科書を広げて職員室に行くのはよく見るが、レコードを抱えて先生の横に立つのは小生だけかもしれない。

 辞書を引き引き数時間かけて訳したノートに、僅か数分で赤ペンのチェックが入る。何故、この片田舎で英語教師をしているのか謎だった京都大学出身の先生だ。「ジャズはスラングのかたまりだからねぇ、これも多分まともな意味ではないだろうね」と。これとは「hot house」である。バップナンバーのベスト3に数えられるタッド・ダメ ロンの曲で、ビ・バップの喧騒と熱情がほとばしるテーマはジャズが大きく変わる象徴であり、そこから発展するアドリブはジャズの核心ともいえる即興性を大きく広げることになる。タイトルにしても、どの演奏にしても熱い展開だが、意味が直訳した「温室」ではないことぐらいは分かった。

 バップ期から変わらず愛されている曲で、カヴァーは枚挙にいとまがないが、キューバ出身のトランペット奏者アルトゥーロ・サンドヴァルが素晴らしい演奏を残している。ラテン・ジャズ、それもビッグバンドとなるとお祭り騒ぎのようで鑑賞派のファンから敬遠される向きもあるが、ガレスピーを敬愛してやまないサンドヴァルのソロは派手なだけの南米のそれではなくバップ特有のスリルを持つ。ガレスピーの生涯の愛奏曲をタイトルにしたアルバムは、全体にラテンビートが強調されていて、ジャズ初期のビッグバンドが踊る音楽であったように音楽で踊る楽しさも教えてくれるだろう。

 「hot house」の隠れた意味は君が大人になったらわかるよ、とニヤリと笑った先生は安藤美紀夫という。のちに日本女子大学の教授を務めた人であり、イタリア児童文学の翻訳や、自らの創作で児童文学者としてつとに著名な人である。安藤先生から高校の授業では絶対教えることのできないスラングの味わいを教わった。「hot house」の意味は恩師が仰った通り大人になってようやく理解する。
コメント (18)
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