元経済産業省官僚の「古賀茂明」さんが、現役官僚時代に書いた東電処理策いわゆる「古賀ペーパー」を読みました。凄い人がいるもんですね。内容を簡単にまとめてみました。昨年3月11日に原発事故が起き、4月上旬に政府内に回ったレポートが無視されたため、5月に民間誌に掲載させるため少し修正したものです。最終的には、ストップをかけられました。
先日JALが最短で再興したと話題になっていましたが、そのベースを作ったのは古賀さんです。表面的には稲森和夫氏がトップで改革したように報告されていますが、そのほとんどは古賀氏の下準備があってことです。この経験を活かして東電に切り込んでいます。
東電破綻処理と日本の電力産業の再生のシナリオ
東京電力福島第一原子力発電所事故の補償問題とそれに伴う東電の経営問題について、政府の対応策の検討が混迷を極めている。
この問題に関する論点を順序だてて整理することが、迅速で公正、かつ長期的な構造改革に資する対応策を策定することにつながる。その一環として株主と銀行の責任を問えば、5兆円近くの国民負担が減る可能性がある。
また、原理原則を無視した拙速な対応は、結局、国会で野党の理解を得られず、解決に余計な時間がかかることにつながる。
以下、検討の一つのたたき台として、議論の筋道を提示してみたい。
1)東電の責任か政府の責任か・・・決めつけは危険
今回の地震と津波による損害について賠償責任は「一義的には」東電にあるというのが政府の一貫した見解である。ただし、原子力損害賠償法第3条但し書きには、「その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものである時は、この限りでない。」との規定がある。
「一義的には東電の責任」ということは、「異常に巨大な天災事変ではない」と言う認識を政府が持っていることになる。とすれば、それを想定した対応が政府にもあるべきで、それがなされていないという事は、政府の過失があったという事で賠償責任も生じる可能性が高い。
津波の危険性、全電源喪失の危険性は数年前から指摘されていた事実を踏まえれば「異常に巨大な天災事変」と認定するのは難しいのではないかと考える。
2)被災者との関係では連帯責任に・・・・・政府と東電両方に支払義務を
被災者から見れば早く損害を賠償してくれるのは東電でも政府でもどちらでもいいわけである。とすれば、現在の原子力損害賠償法はただちに改正し
原子力損害は「政府と事業者(東電)の連帯債務」と定めるべきである。
東電と政府の責任、あるいは、分担は原子力損害賠償紛争委員会の仲介により早期に解決する(原子力賠償法18条)ことにより、その後の東電処理の前提条件を確定することが望ましい。
3)東電が払えないなら破綻処理しかない・・・・・払えないと言った東電
東電は、補償債務を東電だけで支払うことは難しいとしている。補償債務がいくらになるか決まっていない段階でこう表明するのだからずいぶんいい加減な話だ。・・・・・・
被災者も債権者で数兆円規模の債権を有するから、論理的には今すぐにも会社更生手続きの開始を求めて裁判所に申し立てをしてもよい。
もし仮にこのまま支払い不能の会社が放置されることになるのなら、回避する方策を考えねばならない。原子力損害賠償債務を電力会社が負い、かつその額が相当規模に膨らみ、債務の弁済が困難になる可能性がある場合には、政府が被災者に代わって会社更生の申し立てを行うことができる、という規定を原子力損害賠償法に盛り込むことが必要である。
政府の対応を急がせるために、今回の事故で
被害者の立場に立つ自治体が損害賠償債権者として会社更生法の手続き開始の申し立てを行って、自らの債権及び住民の債権の保全のため、東電の財産の保全を確保することも真剣に検討すべきであろう。
4)破綻処理の際の負担の順位・・・・・なぜ当たり前の議論が無視されるのか
次に問題となるのは、破綻処理の際の負担の順位だ。これは、通常の原則にしたがうべきだ。まず、東電と言う企業自身の責任が問われるのは言うまでもない。
経営陣の責任の取り方としては、役員全員の退任、年金の返上、退任までの給与の全額返上、相談役・顧問等の非常勤ポスト全廃などを実施すべきだ。
従業員の人員削減、給与削減(今は高給だが、一般の企業並みに下げねばならない)、福利厚生の引き下げ(社宅・保養施設の廃止含む)、年金の減額など。ただし、福島の現場で命がけの仕事を行っている従業員については当然例外とし、むしろ待遇改善を行うべきである。
資産の売却。本社、支店、営業所等の不動産売却と移転や子会社の売却など。特に、本社を売却し、福島に移転することを実施すべきだろう。
原発を推進することを前提に積み立てられている各種の引当金、積立金についても、原発推進をやめる場合に必要なくなる分については積立義務を解除して、弁済原資に充てられるようにすべきだ。核燃料サイクルなど、既に破綻していた計画のためにこれ以上積み立てる意味はないだろう。
次に、
株主責任は当然追及しなければならない。すなわち、100パーセント減資がが必要だ。未だに保有を続けている金融機関もあるようだが、そのような者を守るために株主責任を不問にするという判断は絶対にしてはならない。ここで、株主を守るということは、その分を国民または消費者に押し付けるという事であって、絶対に許されることではない。
前記のように
引当義務を解除した核燃料サイクルの引当金等は株主資本に組み入れた上で100パーセント減資する。これにより、財務改善効果は最大8000億円程度改善され、全体では3.5兆円程度国民負担が減少することになる。
負担の順位で次に来るのは債権者である。
このうち、一般の商取引債権者は保護すべきであろう。次に社債だが、電気事業法37条の規定により優先債権となっているので、公租公課には劣後するが、他の一般債権より優先されることになる。被災者の損害賠償債権も一般の金融債権と同じと考えられるので、銀行などと同じ順位でカットの対象になる。
なお、現在政府内で補償金の支払いスキームを検討しているが、東電の支払い能力をどう査定しているかが不明である。これだけ大規模な会社で、子会社も多数保有している企業の価値を算定していくためには、
多数のプロを使っても優に半年はかかるのが普通である。仮に帳簿上の係数のみを使って、東電の支払能力を査定しているとすれば笑止千万である。その結果を国民の負担として押し付けるとすれば、その神経が疑われる。
国民に負担を強いるのであれば、厳格なデューデリジェンス(財務調査)を得た上で、プロの作る事業再生計画によって将来キャッシュフローを最大化する努力をしたうえで、その額を確定すべきである。
5)カットされた補償債務は消費者、政府・国民が負うしかない・・・電力事業をにくむな
補償額が巨額になった場合は、電力事業の再生を前提にする限り、補償債権カットの対象とせざるを得ない。そこで、カットされた部分をどうするかという事が次の問題となる。現在の国民の多数意見は、これを泣き寝入りで終わらせることは不当であり、何らかの形で政府が責任を持つべきと考えていると思われる。
そもそも、一で述べたとおり、政府にも過失責任がある可能性が大であり、その場合は国家賠償責任となる。少なくとも東電が払えない部分は、当然政府が払うべきという事になる。
東電の責任の一部を国民に転嫁することには反感が強いかもしれない。それを恐れて、東電が20年、30年かけて、利益の中から全額支払いをすべきと言う議論も出るだろう。しかし、金に色は無い。その場合、結局のところ様々な形で目には見えないが、料金負担やサービスの低下と言う形で東電の負担が消費者に転嫁されていくという事は必至だ。
しかも、責任を果たすためにも、東電が存続しなければならないという議論になり、後述するような
東電の解体による電力市場の構造改革の障害になる可能性が高い。この点は非常に重要な問題である。
また、東電に長期的に責任を課すと、それを監視するために国がその間経営に関与する必要が出てくる。これは、絶対に避けたほうが良い。純粋なビジネスに政府の影響力を及ぼすとこれまでの経験から分かる通り、経営にひずみが生じて企業の健全な発展の障害になったり、
新たな利権構造が生まれ生まれることが必至である。
現在伝えられるように
新たな機構を創設して長期にわたり東電に支払い義務を課し、政府や政治家が東電の経営などにかなりの影響力を持ち続けるというのは最悪の選択になる可能性がある。新機構は数年後には天下り機関になることは必至である。その前でも、現役出向・派遣と称して多くの官僚がそこで給料を得ることになるであろう。
6)電力供給を止めない方法・・・・・すぐにフリーズして2段階処理を
冷静に考えてみると、東電は他の企業とは全く異なる特性を持っている。すなわち、消費者・顧客を人質にとっていて、自分が起こした事故なのに、料金を値上げしたいというようなことを平気で言えるほど、売り手優位の企業なのである。
東電は独占企業であるため、毎日多額の料金収入がある。そんなに巨額の資金調達が必要なわけではない。ただし、信用不安が起きれば、たとえば、燃料の購入取引を現金にしてくれと言われるかもしれない。万が一にもそうしたことが原因で停電が起きるようなことは避けねばならない。
これを防ぐためには、(3)で述べたように、会社更生手続きが開始されて財産の保全命令が出されたような状況を作ることが必要だ。
仮に財産保全を行わないと、銀行の債権でたまたま先に弁済期限が来たものから順に弁済されてしまう。その分被災者への弁済原資が外に流出してしまう。
財産保全を行うとともに急ぐべきなのは、
日々のキャッシュフロー管理を厳格に行ったうえで、どうしても必要な資金については、何らかの形で国が調達を保証する仕組みを作り、国の債権をDIPファイナンスとして優先弁済を保証することだ。
会社更生法と企業再生支援機構を使う場合は、管財人がその後の東電の経営管理も行うことになる。JALで行ったような厳しいリストラ(子会社売却を含めた資産売却、人員整理、年金削減等)を実施することになるだろう。
特別な立法措置を取るのであれば、東電経営監視委員会のような独立の組織を設けて、そこが管財人のような役割を果たすことにする必要がある。
これらの措置を取れば、資金調達に不安は無く、また、今までのような独占を前提にした放漫経営で資産を徒に流出させるようなことも防止できる。銀行の債権を保証債務支払いの前に優先的に実行してしまうことも避けられる。もちろん、電力供給が止まることもない。
7)金融不安は起きない・・・・銀行がパニックに陥る理由
銀行の債権をカットすると金融不安が生じるという脅しや、社債市場が崩壊するなどという大げさな噂が飛び交っている。
なぜ、これほどまでに100パーセント減資反対とか債権カット反対と叫んでいるのか。金融機関の経営者の責任が問われるからである。特に、3月末に実施した2兆円近い融資については、(4)で述べたとおり、背任罪さえ視野に入ってくる無謀な融資である。これがカットされれば株主代表訴訟は避けられないだろう。いずれにしても経営者の保身のためのチキンゲームに踊らされるのは早くやめねばならない。
8)電力会社の資金調達コストは上がって当然・・・・それによる消費者負担増は経済合理化
上記のとおり、原発事故のリスクを抱えた電力会社の資金調達コストが上がるだろうという予想は正しい。しかし、それは市場のリスク評価が本来あるべき姿になるだけの事であって、それのよって、原発事業のコストが上がることはむしろ好ましいことであろう。原発をこのまま運転しますという企業の金利が上がることによって、真の原発コストが分かることになる。
原発を保有していない沖縄電力の金利が相対的に低くなれば、沖縄はそれだけ電力コストを相対的に低く保つことができ、企業の立地競争上優位に立てる。
なぜ、経団連が東電の責任を免除せよと要請しているのか。(9)の議論のほかに、電力コストの上昇を避けたいというのも本音の一つであろう。
9)なぜ、事故が起きたのか、対応がうまくいかなかったのか・・・・・東電による日本支配の構造
今回の事故がなぜ起きたのか、と言う問いに対する答えは、ガバナンスということに尽きるだろう。根本的な問題は、東電は、日本中で誰よりも圧倒的に強い立場にあったという事実を指摘しなければならない。
まず、政治家との関係では、自民党の政治家は全国の電力会社に古くから世話になっている議員が多い。電力会社は各地域の経済界のリーダーであり、資金面でも選挙活動でもこれを敵に回して選挙に勝つことは極めて困難である。従って、今回の事故後にも、自民党の政治家で具体的に東電の解体論などを唱えているのは、河野太郎議員ら極めて少数の議員しかいない。
民主党も電力会社の関連労働組合である電力総連の影響を強く受ける。
こうした状況を変えて、東電の影響力を排除した形で、政治的判断をできるようにするために、ただちに東電および東電労組による政治家への献金、便宜供与、ロビー活動の禁止などの措置を取る。特に、個人献金の形で事実上の企業献金が行われる可能性が高いので、東電再生期間中は役員・従業員にも献金の自粛を求める必要がある。
次に省庁との関係である。
政府の中では、「内閣府の原子力委員会」と「経済産業省の資源エネルギー庁」が原発推進機関、「内閣府の原子力・安全委員会」と「経産省の原子力安全・保安院」が安全規制実施機関であるが、いずれも事実上電力会社、東電の支配下にあると言ってよい。
「原子力安全委員会」は「原子力委員会」と同じ内閣府の下にあり、また、原子力安全・保安院は資源エネルギー庁の特別の機関と言う位置づけだが、実質はいわば子会社である。しかも、これらの組織に関与している多くの学者がいわゆる御用学者である。
3番目に経済界も東電に支配されているつまり、推進と安全チェックの組織が同居していて、チェックの機能が正しく働く仕組みになっていない。
いずれの組織も巨額の原子力予算で潤っており、業界との関係も深い。つい最近も経産省から過去50年で68人が電力会社に天下っていたことが報道されていた。
さらに、東電は強力な政治力を背景に、経産省の人事まで影響を行使すると信じられており、現に電力自由化を強硬に唱えた官僚は左遷されたり、早期退職を余儀なくされたりしていると言われている。
東電が電力を供給しているからではない。東電が巨額な調達を行うからである。
鉄、化学、電気、石油はもちろん自動車産業も東電には大量の製品を納入している。
銀行も東電は優良顧客だった。証券会社も東電社債は最大の社債銘柄である。ある証券会社の最近のレポートでは、補償金の支払いスキームに関して、東電を守るための提灯提案をしている。プロを装いながら自分たちの商売を守ろうとする詐欺行為だ。
商社ももちろん東電には頭が上がらない。
これらの大企業の集まりである経団連が必死に東電を擁護しているのは利益最優先の私企業集団としては当然だが、それを公益のために主張しているかのように見せていることに偽善を感じる人は多いだろう。
東電はコストに一定割合(公正報酬率などと呼んでいるが公正と言えるのか甚だ疑問)かけて利潤を上乗せできる。コストを増やす方が利益も増えるのだ。だから、厳しいコストカットなど行うインセンティブはない。従って、単に調達額が大きくなるだけでなく、
納入業者から見れば、他にないおいしい商売が補償されていることになる。東電の経営が厳しくなれば、コストカットの影響がおいしい商売に及んでくることを本能的に恐れていると見ることも出来る。
マスコミも東電に支配されている。東電は膨大な広報予算の配分によって、原発批判などはすぐに抑え込む力がある。
学者も電力会社からの研究資金や情報提供などを含めた便宜供与を受けていること等により影響下にあると言われている。
原子力安全委員会の多くのメンバーが御用学者と言われているし、経産省の各種審議会・研究会などでも電力自由化や原発安全基準などの議論をしていると、当初改革派が優勢でも、途中からほとんどの学者が寝返って、最後は多くの場合、一人か二人になって改革派が孤立するというのが常である。
文脈がやや違うが、今日最もその独立性が問われているのが、新日本監査法人の東電担当チームだ。新日本監査法人は、りそなやJALで、政府の影響を受けたという風評でその信用に大きな傷がついた。政府や東電、銀行の圧力に屈していい加減な監査でお茶を濁すようなことになれば今度こそ市場の信認を失うだろう。強大な圧力を受けることが予想されるが、むしろ新日本が彼らに引導を渡し、今回の東電処理を正しい道筋に導くことを強く期待したい。
10)「政府の責任=国民負担」の前に経産省と内閣府の責任を問え
・・・・・東電をスケープゴートにする官僚たち、まず資産売却を
現在燃え盛っている東電バッシングは、国民感情としてはよく理解できるが、
これだけに関心が集まると、経産省等の政府の責任が不明確なまま東電の処理策が決まってしまう可能性がある。政府の責任と言うとすぐに国民負担と言う話になるが、その前に経産省等の責任を明らかにする必要がある。
今回の原発事故の直接の原因である地震や津波に対する安全対策の基準が甘すぎたことは明らかだ。政府は東電に責任があると言っているが、東電は政府の基準に従っていた。本来、安全をチェックする責任を負っている政府は、東電の対策が不十分な場合、適切な安全対策の指示をしたり、不十分なら原発の運転を止めたりする責任があったはずである。
現在の幹部ももちろんだ。
彼らが、今、東電の温存策策定に必死になっているが、事故の責任者に将来の対策の立案を任せていては、自分たちの利権擁護と保身のために対策が歪んでしまう。
彼らをまず対策立案チームからはずすことが正しい対策立案への近道になる。これらの責任のある幹部には退任と退職金返上を要請すべきだ。過去の幹部にも補償金のための退職金返納を求めるべきだ。
天下りによって規制対象企業との癒着で、十分な安全規制が実施できなくなるという不安はかねてから指摘されていた。今、それが最悪な形で証明されたわけである。これは、なにも経産省に限ったことではない。
今こそ、全省庁において、最低限、規制対象企業への天下りは全面的になくすように内閣として自粛要請すべきだ。
次に、政府の責任と言う場合、個人の責任追及だけでなく、東電が行うのと同様に意味のない資産を売却して、保障財源を確保するという事が必要だ。手っ取り早いのは、まず、JT株(現在の株価でも3兆円)、NTT株の売却、さらに、日本郵政株も本来の方針通り早期に売却すればさらに数兆円が入るだろう。
公務員幹部宿舎、印刷局その他の土地、独法の保有する株、債権など天下りや各種の利権を温存するために保有している資産は、国民にとって百害あって一利なしであるから、直ちに売却する。これによって、料金値上げや増税の必要はなくなるか、かなりその規模を圧縮できる。
なお、核燃料サイクル推進を前提とした積立金なども取崩しを認める。他の電力会社にも積立義務を解除し、免税されていた分の課税を行って、補償金財源に充てることも必要だ。
11)すぐに簡単にできること・・・・広告禁止と研究資金源・便宜供与の公開
東電の広報は原則禁止措置を取ればいい。これによって、マスコミへの不当な影響力を排除することができる。また、これまでに行ったマスコミに対する接待や便宜供与などは全て個人名を含め公表させることが重要だ。
東電による学者等への資金拠出・原稿料・講演料などの支払いも全面公開を要請する。これにより、御用学者があぶりだされ、彼らによる東電寄り「専門家」情報の影響を弱めることができる。
12)事故調査は政府任せではいけない
・・・・・・・・・・・・・・・・・国会の下に独立の事故調査委員会を
政府は5月中旬に事故調査委員会を設置するとしているが、今回は、1省の問題ではなく、内閣そのものの責任が問われることになる。そうなると、内閣が作る調査委員会で真に公正な調査ができるのかと言う疑問がある。今回は、国会に事故調査委員会を設置し、国会に対して報告することにすべきである。
委員には、原子力関係者はごく一部とし、危機管理の専門家や経済学者など他分野の専門家も入れるとともに、御用学者を排除しなければならない。
今回、日本の原発危機管理が世界でもかなり遅れていることが判明した。世界の専門家を招聘して国際レベルの調査をすべきである。
13)電力事業の構造問題への対応
・・・・・・・・・・・・・・・・・発送電分離と発電分割と完全自由化
今回の事故後の対応によって、実は将来の電力市場の在り方、さらには日本社会の在り方まで大きな影響を与える可能性がある。
逆に言えば、やり方によっては、今の構造をそのまま温存することになる危険性も十分にあるということだ。
まず、首都圏直下型等の地震発生可能性が高まっていることを前提として、経済機能の首都圏集中を根本的に見直し、10年後に首都圏で供給される電力を現在よりもかなり低めに設定する。
同様の趣旨から電源の分散設置のための方策を検討する。
併せて再生可能エネルギー利用・自家発電などあらゆる分野における規制緩和を、集中的に行う。電気事業法はもちろん消防法などを含め関連規制を総合的に見直す。
これらを実施していくうえで、東京電力が発送電で事実上の完全独占状態になっていることが、大きな障害となることは明らかだ。
まず、発送電分離を前提とした電力自由化の方向を明確にして、乗り越えるべき課題について早急に検討する必要がある。その際、東電の巨大な経済力が政治、社会を支配している状況も併せて根本から正すために、発電部門は分割してその規模を縮小するとともに自由競争下において、通常の企業としてもガバナンスが働く構造を確立することが必要である。
今回の事故の原因は、事故対応のまずさがガバナンスの欠如を主因としていることは既に広く指摘されているが、その根本原因である、
東電による市場の独占と巨大な経済支配力くずすことが、今後の改革の主要なテーマになる。
14)第二段階の具体案
・・・・・・・・・・・・・・・・・持ち株会社段階を経て規制を整備し完全分割へ
財産保全と電力供給のための資金確保を講じる第一段階を経て、将来の再生に向けた第二段階のプロセスに入る。
まず、事故被災者に対する補償債務がどの程度になるか概ねの額が判明するまでにはまだかなり時間がかかる。さらに、東電の資産査定や事業再生計画つくりの前提となる、今後の原発行政や電力行政の基本方向が決まるまでにも時間がかかる。
これまでの多くの巨大企業の再生では、必ず相当な無駄なコストが隠れていて、実は、コストカットだけでもかなりの収益構造の改善ができるのが常識だ。東電の場合は独占企業であり、しかも、過去に経営危機に瀕したことが無いので、その程度はこれまでの企業の比ではない可能性が高い。コストカットは、今後の電力行政の方向がどうであれ、どんどん進めるべきで事柄である。
また、これまで、
経産省と東電の間での癒着構造の中で行われていた料金査定も、今回は過去の積み上げからの変化分をチェックするのではなく、根本から徹底的に見直す作業が必要だ。他の電力会社にもその結果は適用されることにする。それによって、電力料金はかなりかがる可能性がある。
これらの作業を早期に実施するためにも、
早急に再生処理の専門家チームに今後の経営を任せるスキームに移行しなければならない。
実際に事業再生過程で発送電分離と発電部門分割を行うやり方は、専門家に任せればいいが、一つの案としては次のような経路を取ることが考えられる。
・まず、東京電力を持ち株会社として、その傘下に発電部門(東京発電株式会社)と送電部門(東京電線株式会社)を別々の子会社として配置する組織編成を実施する。
・次に発電部門を事業単位で分割して持ち株会社の下に子会社として直接配置する。
・福島第一原発の廃炉事業はこれらと別会社とする。
これらの準備期間を得て、
概ね3年から5年以内に、発電事業会社を順次売却する前提で、特に送電会社に対する特別の規制のための法整備を行う。送電会社は上場により資金回収することを基本とする。
電力事業の規制主体としては、独立の3条委員会(電力事業規制委員会)を過渡的に設置し、電力全体の自由化が終了して安定した段階で、この委員会を公正取引委員会に統合する。
なお、送電については、現在の交流送電網は今後も独占となるため、適切な規制が必要だが、今後は新たな技術開発の進展に応じて直流送電の可能性が高まるとも言われており、これらについては自由化することができる。
いずれにしても、送電にも競争が部分的に導入されれば、地域を超えた市場の自由化につながるだけでなく、電力安定供給の観点からも効果が期待できる
。
15)原発規制の見直しへ
原発推進機関の経産省と原子力安全・保安院の事実上の一体化がずさんな地震・津波に対する安全規制につながった可能性が高い。原発関連情報の隠ぺい・改ざん事件にみられる過去の東電と経産省の天下りを含む癒着の構造も事故原因となり、また、事故後の対応に失敗した原因となっている可能性が高い。
原子力安全・保安院には実は
高度な専門知識を持つ職員がほとんどいないため事実上規制能力がなかったことも判明した。
ア)
原子力安全規制の実施機関は経産省から完全に切り離す。
イ)原子力安全・保安院は廃止し、原子力安全委員会を抜本的に改組・強化(人員も増強)して
独立性の高い三条委員会とする。
ウ)能力のない者は雇用しない。
エ)委員会の委員の独立性・公正性を確保するための措置を導入する
(電力会社やその関係組織・支援組織からの資金提供に関する情報公開など)
オ)事務局には、外国人を含む民間人を大量に登用する。
専門知識が必要なポストには、それにふさわしい職員を配置する。
16)スマートグリッドと再生可能エネルギーで世界一の電力市場を
我が国はこれまでスマートグリッドの取り組みが進まなかった。その最大の原因は電力会社の抵抗だと言われている。
スマートグリッドを本格的に推進するとなると、再生可能エネルギーを含めた分散電流の振興の議論と対になって、発送電分離が必要と云う議論を誘発し、本格的な電力市場の自由化につながるからだ。
従って(13)で述べた改革は、これまで電力会社の抵抗で進まなかったスマートグリッド推進のために最低限の環境整備につながることが期待される。
また、我が国では原子力推進について国があまりに肩入れしすぎてきたことにより、原発のコストが過少に評価されていた。そのことにより、電力多消費産業には補助金を与える効果をもたらした。逆に言えば、再生可能エネルギーは不当な差別を受けてきたとも考えられる。
今後は、原子力偏重の政策を見直し、
原子力関連予算の大半を再生可能エネルギーの普及策に回すことなども考えるべきであろう。
以上のとおり、原発保障問題と東電の経営問題の処理に当たっては、長期的な視野に立ったうえで、幅広い論点について整理しながら、将来の電力産業や社会の在り方まで見据えた抜本的な対応策を策定していくことが求められる。
これには時間が必要だ。従って二段階処理が求められる。
上記の第一段階の措置を実行するには、それほど難しい条文は必要ない。内閣に
少数精鋭の改革魂あふれる独立性の高いプロ(官僚を含む)を集めたチームを置き、作業を与えさせることが必要だ。法案作成を含めて一ヶ月で実際の破綻処理に移行できる程度のスピード感が必要だろう。
そして、民主党政権の最大の弱点である、
専門分野に素人の思いつきと
感情論そして
政局がらみのバイアスを持ち込むことを一切排除するスキームを作る。それさえできれば、現在の混迷した状況は一挙に改善するであろう。
記事一覧 フォト一覧