祐さんの散歩路 Ⅱ

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・ 「美しい予算」に隠されたカラクリを暴く

2015-01-18 00:39:01 | 予算
平成15年度の政府予算が発表された。それについてマスメディアは特別な報道は無い。明治大学の田中秀明教授の予算に対する考え方がダイアモンドオンラインにあります。通常言われている一般予算は、国全体のごく一部の物であり、いかようにでも数字を調整できる・・・・これほど適当な数字を並べて、国の財政をきちんと管理などできないでしょう。以下転載します。

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2015年度政府予算案を緊急レビュー
「美しい予算」に隠されたカラクリを暴く

――明治大学公共政策大学院教授 田中秀明 【第553回】 2015年1月16日

14日、昨年末の衆議院選挙で編成が遅れていた2015年度政府予算案が閣議決定された。安倍政権にとっては、3回目の予算となる。当初予定していた消費増税(税率8%を10%へ引き上げる)は見送られたものの、2015年度までに基礎的財政赤字を半減するという目標は達成できる見通しだ。果たして、政府が宣伝するように、「強い経済の実現による税収の増加等と、聖域なき徹底的な歳出削減を一層加速させることにより、経済再生が財政健全化を促し、財政健全化の進展が経済再生の進展に寄与するという好循環を作り出す」(「平成27年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」2015年1月12日閣議了解)ための予算を言えるか、緊急にレビューする。

田中秀明

たなか・ひであき
明治大学公共政策大学院教授
1960年生まれ。1985年、東京工業大学大学院修了(工学修士)後、大蔵省(現財務省)入省。内閣府、外務省、オーストラリア国立大学、一橋大学などを経て、2012年4月から現職。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修士、政策研究大学院大学博士。専門は予算・会計制度、公共政策・社会保障政策。著書に『財政規律と予算制度改革』(2011年・日本評論社)、『日本の財政』(2013年・中公新書)。


各省庁が持っている別の財布

 2015年度予算案についての財務省の資料によると、一般会計の歳出総額は、前年度(当初)と比べて0.5兆円増えて96.3兆円となる。ポイントとなるのは税収増であり、前年度より4.5兆円増えて54.5兆円となると見込んでいる。

 これを財源として、新規公債発行額(財政赤字)は、前年度より4.4兆円削減され、36.9兆円となる。税収増の残り0.1兆円とその他収入の増を併せると0.5兆円であり、これが歳出の増加に使われる。歳出の中身を見ると、社会保障関係費が1兆円、国債費が0.2兆円増えるものの、地方交付税交付金が0.6兆円減ることなどから、歳出総額の増加は0.5兆円にとどまる。上記以外の主要経費で前年度より増えるものは、防衛関係費(953億円増)、公共事業関係費(26億円増)であり、文教及び科学振興費、経済協力費、エネルギー対策費などは減額となっている。

 2015年度一般会計予算の大まかな数字を見ると、実に「美しい予算」であると感じる。財務省を代弁すれば、概ね次のようになるだろう。税収増をほぼ全額使って公債発行額を減額するとともに、歳出の効率化などにより財源を捻出し、社会保障関係費の自然増(予算編成の当初において0.8兆円と見積もられていた)や充実、防衛関係費などの増に対応した。限られた財源を必要な分野に重点的に充て、メリハリをつけたというわけである。消費増税を見送ったことから、社会保障充実のための財源は減ったものの、子育て支援などの予算は確保されており、評価できる点もある。

 予算の数字を見る限り、これはもっともらしい説明である。しかし、これをそのまま丸ごと信じることはできない。各省庁には別の財布があるからである。2015年度予算案を決定する前に、政府は2014年度補正予算案を決定している。この補正予算はかなり膨らんでおり、2015年度予算に計上する予算を補正予算に移しているともいえる。


 2014年度補正予算を見ると、税収増が1.7兆円、前年度の剰余金が2兆円あり、その他収入の増などを併せると、合計で歳入が4.5兆円も増えている。この財源で、公債発行額1.3兆円減らしたものの、歳出は3.1兆円も増えている。これは、「地方への好循環拡大に向けた緊急経済対策」の財源確保のための予算である。

 政府は、財政再建にも配慮して、国債を追加発行しなかったと説明しているが、税収が4.5兆円も増えたのに、なぜ国債の減額はたった1兆円ちょっとなのだろうか。せめて税収増の半額程度は削減できなかったのか。年度途中における実際の国債発行額や剰余金の使用などは、役所に大きな裁量があり、いかようにも調整できる。要は、本予算で歳出を絞ったことの代償だ。

連結した予算資料なく真の姿が見えず

 補正予算には、当初予算の歳出を少なく見せるもう1つの役割がある。例えば、各種手当を給付するための歳出が1兆円と見積もられるとしよう。しかし、当初予算には0.7兆円だけ計上し、同年度の補正予算に残りの0.3兆円を計上することができる。手当に必要な予算そのものは削ることはできないが、当初予算では少なく見せることができるのだ。当初予算には、いわゆるシーリング(歳出の上限額)が適用されるが、補正予算には適用されないので、歳出を補正回しにすることができる

 何が言いたいかというと、一般会計の当初予算の数字は、会計上の操作によりいくらでも動かせるので、信用できないのである。当初予算で正確に所要額が計上されているかを検証する仕組みはない。補正予算に加えて、特別会計からお金を移すこともできる。例えば、特別会計の積立金1兆円(しばしば「埋蔵金」と呼ばれている)を一般会計に移すと、財務省の資料では、一般会計の財政収支は1兆円改善すると説明される。しかし、貯金を取り崩して財政が良くなることなど全くない。財務省は、一般会計と特別会計を連結した予算資料を出していないから、こういうばかげたことになるのだ。

 最近の一般会計の当初予算、補正予算、決算を比較したのが図表である。ただし、これらの数字は、財務省が発表したそのままのものではなく、調整している。特別会計の積立金の取崩し(特別会計から一般会計への移転)は、会計上、赤字国債の発行に等しいので、取崩額は公債発行額に含めている。この図表を見れば、当初予算がいかに実態を表していないかがわかる
一般会計


 2011年度の決算は100兆円にまで達しているが、これは東日本大震災の復旧復興予算が含まれているからである。2011年度は特殊要因があったので歳出が膨らんだことは理解できるが、その後の3ヵ年度もほぼ100兆円となっており、安倍政権でいかに歳出が膨らんでいるかがわかる。安倍政権は、経済が成長すれば財政再建も達成できると言っているが、たとえ経済成長により税収が増えても、それを使ってしまうのが現実である。なお、これは一般会計だけなので、特別会計も合わせた数字を検証しなければ、正確な姿はわからない。

 政府は財政再建にも配慮したと言っているが、それを検証できる予算資料を政府が公表していないので、真実はわからない。例えば、昨年の夏の時点(概算要求時)において、慎重な経済見通しに基づき歳入歳出の見通し(一般に「ベースライン」という)が発表さされていれば、それと2015年度予算の姿を比較することにより、財政再建の努力がどの程度なされたかを検証することができる。例えば、自然体では歳出が3兆円増えるところを、2兆円の増にとどめることができたといった分析である。

 もちろん、補正予算への予算の付け替えなどは許されない。また、財政収支は景気循環の影響を受けるので、例えば財政収支が5兆円改善したとしても、それが好景気による税収増で達成されていたとすれば、政府が意図的に歳出削減や増税といった財政再建努力をしたことにはならない。通常、景気循環の影響を取り除いた財政収支は「構造収支」と呼ばれている。日本政府はこの数字を出していないので、真の財政再建努力を検証できないのだ


何でもあり」の地方創生関連予算
 2015年度予算の中身を詳しく論じる余裕はないので、安倍政権の看板の1つである、地方創生関連予算を見てみよう。関連予算の総額は約7200億円となっている。中身を見ると、様々な予算が計上されている。

 例えば、民法ラジオ視聴解消支援事業(総務省、14.5億円)、国産酒類の活用事業(外務省、0.5億円)、文化財総合活用戦略プラン(文科省、83.7億円)、障害者の就労支援(厚労省、58.3億円)、鳥獣被害防止総合対策交付金(農水省、45.4億円)、健康寿命延伸産業創出推進事業(経産省、8.2億円)、日・アセアン連携によるクルーズ振興(国交省0.1億円)、指定管理鳥獣捕獲等事業(環境省、5億円)などなど、実に約180の事業が挙げられている。


 これらの事業がほんとうに地方創生に寄与するのだろうか。地方創生関連事業のリストを見てわかることは、「何でもあり」ということである。「まち・ひと・しごと」を創生するのが目的であるが、この対象にならないのは国債費ぐらいだろう。地方創生に寄与するかどうかを判定する明確な基準を設けて、「選択と集中」を行って、必要な事業に資源を投入しなければ、効果はない。しかし、各省庁が競争するため、結局、予算は各省庁に満遍なく配布されるのだ。

 当初予算では、○○するための予算だ、○○の効果があるといった説明、いわば能書きが説明されるが、本当にそうなるか、事後の検証が必要である。政府も、地方創生に関する「総合戦略」において、成果指標や重要業績評価指標を設定しており、予算の無駄遣い・ばらまき批判に反論している。確かに、一歩前進であるが、さらに、2015年度予算等で盛り込まれた各事業が総合戦略にどう貢献したのか、検証しなければならない。


財政再建には予算制度改革が必要

 さて、2015年度予算は、財政再建目標にどの程度寄与していると言えるのだろうか。政府が掲げている財政再建目標は2つある。第1に、2015年度の国・地方の基礎的財政赤字の対GDP比を、2010年度の水準(6.6%の赤字)から半減することであり、第2に、2020年度までに、基礎的財政収支(社会保障など政策的に必要な支出を税収などでどれだけ賄っているかを示す指標)を黒字に転換することである。

 内閣府が昨年7月に経済財政諮問会議に提出した「中長期の経済財政に関する試算」によれば、2015年度の国・地方の基礎的財政収支は、3.3%の赤字になると見込まれていた。ただし、それは、消費税率を2015年10月に10%に引き上げることが前提となっていた。増税を取りやめたものの、税収の自然増や歳出削減などより、目標は達成できることになった。本音では財政再建には興味がない安倍政権も、さすがに消費増税は延期する、財政再建目標の達成も断念するでは、世の中の批判に耐えられないので、なんとかやりくりをしたわけである。といっても、そもそも、15年度半減は楽勝な目標だったともいえる。

 問題は、2020年度の財政再建目標である。先の内閣府の資料では、2020年度の基礎的財政収支は1.8%の赤字となっている。これは、アベノミクスが予定どおりうまくいっても、数字上は財政再建できないということである。アベノミクスが成功する場合、2013年度から2022年度までの平均実質成長率は2%、名目成長率は3.3%になると予測しているが、このようにバラ色の成長率が達成できても、目標を達成できないのである。試算では、平均成長率が実質で1.3%、名目で2.1%となる前提でも推計を行っているが、この場合は、2020年度の基礎的財政収支は、2.9%の赤字であり、赤字幅は拡大する


 政府は、来年度の消費増税を見送った代わりに、今夏に新たな財政健全化計画を策定することを決定した。甘利経済財政担当相が経済財政諮問会議に提出した資料(「経済財政諮問会議における今後の課題について」2014年12月27日)によると、計画策定に当たり、潜在成長率並みの堅めの成長率を前提とする、2020年度の基礎的財政収支黒字化等に必要となる「必要対応額」を推計する、進捗状況を毎年度レビューするなどとしている。

 これらが実現されれば、世界標準の中期財政フレームとなるかもしれない。これまでダイヤモンド・オンラインでも繰り返し述べているように、予算制度を改革しなければ、財政再建は達成できない(「諸外国の予算制度改革:失敗国と成功国は何が違うか」「予算改革は政治改革そのもの日本版財政責任法を導入せよ」などを参照)。もし予算制度改革が実現できれば、消費増税の先送りも意味があるかもしれない。また、予算制度改革に加えて、予算の中身の改革も待ったなしである。膨張が止まらない年金、医療、介護の制度改革に踏み込まなければいくら増税しても財源は足りない。官邸が強い今こそ構造改革ができるチャンスだ。口先ではない、真の改革を実行できるかどうかが、今後問われることになる。