【IWJブログ・特別寄稿】に「ゆりかりん」さんが「TPP」と「脱原発」に関することを書いています。TPPに参加することにより、脱原発は難しくなることを説明しています。特別寄稿の一部を転載します。
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◆安倍首相へ世界が突きつけた覚悟◆
昨今の状況をよく観てください。ここにきて、アベノミクスの失墜は必至であり、安倍政権には既に陰りが見え始めている中、今後は、安倍首相の暴走も弱体化せざるを得ない状況に陥っているように見えませんか?
つい先日も、スイスのダボス会議で安倍首相の発言をめぐり一悶着あったことによって、安倍首相の靖国参拝に対する諸外国の見方には極めて厳しいものがあることを再認識せざるを得ませんでした。
諸外国は、明らかに、安倍首相の暴走にブレーキを要求しているのです。
そんな中、運転中の原発数が世界一の米国ですが、安倍首相嫌いで有名なオバマ大統領は、米国内の原発を次々に廃炉にしたいと考えているようです。たとえば、メリーランド州のカルバートクリフス原発3号機は建設許可を出さないことを決定し、フロリダ州の原発(デューク・エナジー)を廃炉にすると発表し、ウィスコンシン州の原発(ドミニオン)も廃炉を決め、ニュージャージー州の原発(エクセロン)を10年前倒しで閉鎖する方針です。
米国は、原発を削減する方向に大きく舵を切ったようです。
日本は、戦後ずっと、米国の顔色を見ながら、その思いを忖度する政治を行ってきたと言えます。そういう意味では、あえて都知事がどうのこうのするまでもなく、そうした米国の政策転換に少なからず影響を受け、安倍首相の原発に対する政策にも変更や影響が出てくるかもしれません。
ところがです、その一方で、米国は、TPPや集団的自衛権、特定秘密保護法などに関しては、日本に対し積極的な姿勢を要求しているようです。これらの暴走に関しては、米国が後押しして暴走を加速させているかのようにさえ見えます。
その中でも、今回の都知事選において、最も見過ごしてはいけないのが、このTPPの行方です。 この問題こそ、都民にとって、いや全国民ひとりひとりにとって、あらゆる意味で日々の生活に多大な影響を及ぼし、ひいては、国家主権を売り渡すことにも繋がる重大問題だからです。
特に脱原発を標榜するなら、TPPは重要です。なぜなら、TPPに加盟してしまうと、脱原発も絵に描いた餅と化すからです。脱原発を達成するためにも、TPPには反対しなければならないのです。
そこで、TPPに関して、ここで重要なポイントだけ、ザッとおさらいしておきます。
◆TPP、「ISD」という名のポイズン◆
私は、昨年6月に、郭洋春立教大学経済学部長の著書『TPPすぐそこに迫る亡国の罠』という本を編集しました。
郭教授は、TPPに関して大変博識で、お人柄も抜群に素晴らしい方です。
ちなみに、この本では、TPPのモデルと言われる米韓FTAで、実際に今進行中の韓国の悲劇を追うことを通して、日本がTPPに加盟したあとに起きる様々な問題点を分かりやすく述べてくださっています。
※2013/02/21 「TPPは現代の植民地政策」 米韓FTAの惨状からTPPを考える ~郭洋春氏(立教大学経済学部教授)緊急インタビュー
ちなみに、前民主党政権や自民党の議員たちが、足しげく米国に赴き、なんとかTPPの内容を知ろうとした際、米国の政府関係者が、必ずと言っていいほど述べたのが以下のような発言です。
「米韓FTAを見てくれ」 「TPPで議論していることは、すべて米韓FTAに盛り込まれている」 「TPPは、米韓FTAの貿易自由化のレベルをもっと強めたモノ」。したがって、米韓FTAで、今まさに韓国に起きている事案を見ていくと、TPPで日本に起こるであろう問題点も自然と見えてくるのです。
その際、「脱原発は、いったんTPPに加盟してしまえば実現できない(しかも後戻りややり直しは効かない)」と実感しました。
つまり、脱原発を実現するには、TPPに加盟しないことが大前提となるのです。これは、非常に重要なポイントです。
逆に言えば、安倍政権が、たとえ一時的に「日本は脱原発します」と約束したとしても、後にTPPに加盟しさえすれば、その約束は反故にされてしまう可能性が非常に大きいわけです。
なぜなら、TPPの中に組み込まれる『ISD条項』が、日本の国家司法の上に燦然と君臨することになるからです。
つまり、TPP加盟国同士の企業活動において起きた問題や紛争は、それが日本国内で起きたとしても、日本の司法では裁くことが出来ないのです。それらは全てTPPの『ISD条項』に則り、米国の国際投資紛争解決センターで審判が行われます。 国際投資紛争解決センターは、世界銀行傘下の組織です。世界銀行の総裁は、1946年に設立されて以来、一貫して米国人です。また、議決権の割合を決める最大の融資国も米国です。
さらには、仲裁審判員の最終任命権は、その米国の影響下にある国際投資紛争解決センターの事務総長が持っているのです。 要するに、国際投資紛争解決センターの実態は、国際機関といいながら、米国の影響力が非常に色濃い組織であり、到底中立とは言いがたいのです。
かつて、国際投資紛争解決センターの仲裁審判員を務めたことのある前職の連邦裁判所判事が、「実際に、裁判過程で米国の圧力があった」と暴露したことがありました。この発言一つをとってみても、米国が議長仲裁人を選任する際に、いかがわし気な影響力を行使する可能性が常にあるのです。
TPPに加盟すると、電気・水道・ガス・通信のような公共部門も当然、外資に開放することになるでしょう。実際、麻生副総理は、米国訪問の際に、日本の水道をすべて民営化する、すなわち外資に開放すると表明してしまいました。
※「日本のすべての水道を民営化します」 ~マスコミが一切報じない我が愛すべき「麻生さん」の超弩級問題発言 (<IWJの視点>佐々木隼也の「斥候の眼」: IWJウィークリー13号より)
将来は、電力事業も発送電分離が行われて、外資の参入も行われるかもしれません。
そうすれば、米国をはじめとするグローバル大企業は、自国に及ぼす危険の少ない日本に、原発を作って電気を提供しようとするかもしれません。
「そんなことをされたら、日本は脱原発を成し遂げられないじゃないか!」 と、それを日本が規制しようとすれば、企業の自由な経済活動を邪魔されたとして、『ISD条項』によって訴えられることになります。
この『ISD条項』を見ていく時に参考になるのが、NAFTA(北米自由貿易協定)です。
NAFTA(北米自由貿易協定)の場合は、UNCTAD(国連貿易開発会議)の調査によると、紛争件数46件のうち、米国が訴えられた件数が15件であり、それ以外は、米国の企業が、カナダ、メキシコ両政府を提訴しています。
その15件中、米国の敗訴はゼロ。逆に、米国の企業がカナダ・メキシコ両政府を訴えて、一部容認か和解を含め賠償金を得た件数は6件、請求件棄却はたった6件。あとは不明か係属中です。(2011年10月現在)
ここからわかることは、米国政府が訴えられて負けたことはなく、逆に米国の企業が他国を訴えて賠償金を得た(事実上、勝った)ケースは、6件あるということです。
さらに言えば、TPPには他にも、『ラチェット条項』という規定があります。 『ラチェット』とは、「歯止め」、「元に戻せない」という意味です。 すなわち、「いったん決めた約束は、反故に出来ない」、「あとになって見直したいと思っても、それが許されない」という規定です。
後悔しても、後の祭り。いったん回り始めた歯車TPPは、逆回転出来ないのです。
このように、日本が国民の利益のためとか、環境上の保全など、公序良俗を考えて、「原発はもう作らないんだ。再稼働もしないんだ」といくら懇願し叫んでみたところで、TPPに加盟してしまえば、米国をはじめとするグローバル大資本には、その思いのひとかけらも届かない可能性がある、ということを知っておく必要があります。
それは、諸外国の例をみれば、明らかです。 たとえば、最初に『ISD条項』が注目されたのは、1994年に締結されたNFTA(北米自由貿易協定)で、米国の企業がカナダ政府を訴えたケースです。 米国の廃棄物処理業者が、カナダで処理をした廃棄物(PCB)を、米国内に輸送してリサイクルする計画を立てたところ、カナダ政府は、環境保護上の理由から、米国への廃棄物の輸出を一定期間禁止しました。
これに対し、米国の廃棄物処理業者は、『ISD条項』に則ってカナダ政府を提訴し、結果、カナダ政府は、823万ドルの賠償金を支払わなければならなくなりました。 また、2011年11月に、東日本大震災による福島第一原発事故を受け、脱原発政策に転じたドイツ政府が、(フランクフルト近郊に原発を提供していた)スウェーデン企業バッテンフォール社からEU版『ISD条項』によって訴えられたケースもあります。
ドイツ政府は、「2011年までに6つの原発を廃炉にし、2022年までに残りの9つを廃炉にする」との政策を表明しました。
このバッテンフォール社は、ドイツの原発ゼロ政策方針に対して、『ISD条項』を盾に、原発ゼロ政策方針取り消すよう求めてきたのです。
その原発の寿命延長を考慮して計算すると、「70億ユーロ(約9,000億円)の損失が予想される」として、その賠償を求めたのです。日本でもこうした賠償請求が行われる可能性がないとは言えません。
◆竹中氏のもたらす『国家戦略特区』という罠◆
さて、そうした経緯を知ってか知らずか、日本政府は昨年5月14日、議長・安倍晋三首相の下、産業競争力会議を開き、アベノミクスの第三の矢となる成長戦略の取りまとめを行いました。成長戦略は、大胆な金融緩和、機動的な財政運営に続くアベノミクスの柱とされています。
特筆すべきは、この産業競争力会議のメンバーに、あの竹中平蔵氏がいるということです。
その会議では、TPPなどの経済連携の推進や、国主導で規制緩和や税制優遇に取り組む『国家戦略特区』の創設が目玉となりました。
しかし、なんだか漠然としていて分かりにくいですよね?
そもそも『国家戦略特区』は、2011年当時に、民主党の菅政権が主導した『総合特区』がベースとなっています。この『総合特区』のキーワードは、「国民経済の発展及び国民生活の向上」でした。
ところが、第二次安倍政権発足後、『国家戦略特区』と名称が変わった途端、「民間投資の喚起により日本経済を停滞から再生へ導く」 「国際競争力の向上、世界で一番ビジネスのしやすい環境」 と、かつての「特区」の目的がゴッソリ抜け落ち、「投資」という言葉が象徴するように企業優先の概念になってしまいました。
以前の『総合特区』で掲げていた「地域の活性化」という言葉は、今回の『国家戦略特区』で消え去りました。これは、地域の住民生活や産業振興のことなど眼中にないことを示しています。
それどころか、『国家戦略特区』関連法について、一括新法で議決される可能性が指摘されています。関連法の中に労働・医療・税制などを一括新法で盛り込むことで、何が法改正されたかを見えにくくする狙いがあると思われます。
そうした目眩ましによって勘違いをしている人が多いのですが、『国家戦略特区』とは、これまで日本で行ってきた従来の「特区」という概念とは全く異なるという認識が重要です。
要するに、TPPのもとで行われる『国家戦略特区』というのは、全ての分野で市場原理を導入して、弱肉強食社会を実現しようという流れの中に位置づけられるのです。
いわば、TPPの既成事実化といった側面の強い政策なのです。
政府が発表した資料によると、『国家戦略特区』の候補地には、東京、大阪、名古屋の都市圏が含まれており、3月に具体的な地域決定を行い、とりあえず全国で3~5カ所を指定する方針ということです。
もう時間は残されていません。都知事選後すぐに対応すべき喫緊の重要事案です。
既に、東京エリアでは、「東京都心・臨海地域」「新宿駅周辺地域」「渋谷駅周辺地域」「品川駅・田町駅周辺地域」「羽田空港跡地」と、主な5つの地域が候補として上がっています。
先程も述べましたが、この『国家戦略特区』とは、TPPの布石であり、これを突破口として、グローバル大資本の支配が日本全国に拡散する呼び水となるものです。ということは、これこそが、都知事が何としても阻止すべき課題、そして、本来なら最大の争点とされるべき論点ではないでしょうか?
なぜなら、都知事として、都民の生活を守るために、『国家戦略特区』は拒否するという意思表示を明確にすることは実行可能だからです。
これは、「TPP(『国家戦略特区』)を拒否する」→「脱原発を成し遂げる」という架け橋にもつながります。しかし、その逆「TPP(『国家戦略特区』)を容認する」→「脱原発を成し遂げる」はあり得ません。
ところが、今回の都知事選の争点では、このTPPや『国家戦略特区』に関する論点が、まるで押し隠されるように、全く議論されていないのが実情です。
耳に心地よいキャッチフレーズの大合唱の中、水面下では、国民にトドメを刺す、「安倍首相に絶対させてはいけない最も危険な暴走」が着々と進行しているのです。
あとの祭りで、政権の用意した茶番のステージで踊らされるだけ踊らされて、気がついたら、梯子を外されていた・・・という事態にならなければいいのだけれどと、私は気をもんでいます。
前述したように、米国の政府関係者が述べた、「TPPで議論していることは、すべて米韓FTAに盛り込まれている」という発言に従い、米韓FTAで韓国の「特区」で今まさに起きている悲劇を見れば、言わずもがなです。
公的医療制度の規制緩和が、皆保険制度や医療システムの健全性を崩壊させ、金儲け重視の医療に変質させる危険をはらんでいます。
公立学校の民間への運営開放は、格差や競争教育を拡大し、平等で健全な教育の場を、子どもたちから奪い去るものです。
土地利用の規制を見直すことは大企業優先の乱開発・地域破壊に拍車をかけます。
農業分野への株式会社参入の要件緩和の方向を打ち出すことは、日本農業の将来を危うくするだけでなく、流通業界全般の制度破壊や雇用喪失にも直結します。
その他にも、様々な悪影響がいたるところで巻き起こるでしょう。
そして、東京の『国家戦略特区』で、海外のグローバル大資本によるエネルギー政策が導入されることになれば、東京のエネルギーは、東京都主導ではなくなるのです。
ここで、再度、冷静にしっかりと考えてみてください。
都民にとって、今、最重要課題は何かを?
真の意味で「安倍首相の暴走を阻止」したいなら、TPPの布石となる『国家戦略特区』に対してあえて触れない候補者、または、『国家戦略特区』を推進しようとしている候補者に一票を投じてはいけないのです。
その候補者は、安倍首相の暴走を止めるどころか、さらなる危険な暴走に拍車をかける手伝いをしていることになります。 (ゆりかりん @yurikalin・クリエイティブ・プランナー)
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◆安倍首相へ世界が突きつけた覚悟◆
昨今の状況をよく観てください。ここにきて、アベノミクスの失墜は必至であり、安倍政権には既に陰りが見え始めている中、今後は、安倍首相の暴走も弱体化せざるを得ない状況に陥っているように見えませんか?
つい先日も、スイスのダボス会議で安倍首相の発言をめぐり一悶着あったことによって、安倍首相の靖国参拝に対する諸外国の見方には極めて厳しいものがあることを再認識せざるを得ませんでした。
諸外国は、明らかに、安倍首相の暴走にブレーキを要求しているのです。
そんな中、運転中の原発数が世界一の米国ですが、安倍首相嫌いで有名なオバマ大統領は、米国内の原発を次々に廃炉にしたいと考えているようです。たとえば、メリーランド州のカルバートクリフス原発3号機は建設許可を出さないことを決定し、フロリダ州の原発(デューク・エナジー)を廃炉にすると発表し、ウィスコンシン州の原発(ドミニオン)も廃炉を決め、ニュージャージー州の原発(エクセロン)を10年前倒しで閉鎖する方針です。
米国は、原発を削減する方向に大きく舵を切ったようです。
日本は、戦後ずっと、米国の顔色を見ながら、その思いを忖度する政治を行ってきたと言えます。そういう意味では、あえて都知事がどうのこうのするまでもなく、そうした米国の政策転換に少なからず影響を受け、安倍首相の原発に対する政策にも変更や影響が出てくるかもしれません。
ところがです、その一方で、米国は、TPPや集団的自衛権、特定秘密保護法などに関しては、日本に対し積極的な姿勢を要求しているようです。これらの暴走に関しては、米国が後押しして暴走を加速させているかのようにさえ見えます。
その中でも、今回の都知事選において、最も見過ごしてはいけないのが、このTPPの行方です。 この問題こそ、都民にとって、いや全国民ひとりひとりにとって、あらゆる意味で日々の生活に多大な影響を及ぼし、ひいては、国家主権を売り渡すことにも繋がる重大問題だからです。
特に脱原発を標榜するなら、TPPは重要です。なぜなら、TPPに加盟してしまうと、脱原発も絵に描いた餅と化すからです。脱原発を達成するためにも、TPPには反対しなければならないのです。
そこで、TPPに関して、ここで重要なポイントだけ、ザッとおさらいしておきます。
◆TPP、「ISD」という名のポイズン◆
私は、昨年6月に、郭洋春立教大学経済学部長の著書『TPPすぐそこに迫る亡国の罠』という本を編集しました。
郭教授は、TPPに関して大変博識で、お人柄も抜群に素晴らしい方です。
ちなみに、この本では、TPPのモデルと言われる米韓FTAで、実際に今進行中の韓国の悲劇を追うことを通して、日本がTPPに加盟したあとに起きる様々な問題点を分かりやすく述べてくださっています。
※2013/02/21 「TPPは現代の植民地政策」 米韓FTAの惨状からTPPを考える ~郭洋春氏(立教大学経済学部教授)緊急インタビュー
ちなみに、前民主党政権や自民党の議員たちが、足しげく米国に赴き、なんとかTPPの内容を知ろうとした際、米国の政府関係者が、必ずと言っていいほど述べたのが以下のような発言です。
「米韓FTAを見てくれ」 「TPPで議論していることは、すべて米韓FTAに盛り込まれている」 「TPPは、米韓FTAの貿易自由化のレベルをもっと強めたモノ」。したがって、米韓FTAで、今まさに韓国に起きている事案を見ていくと、TPPで日本に起こるであろう問題点も自然と見えてくるのです。
その際、「脱原発は、いったんTPPに加盟してしまえば実現できない(しかも後戻りややり直しは効かない)」と実感しました。
つまり、脱原発を実現するには、TPPに加盟しないことが大前提となるのです。これは、非常に重要なポイントです。
逆に言えば、安倍政権が、たとえ一時的に「日本は脱原発します」と約束したとしても、後にTPPに加盟しさえすれば、その約束は反故にされてしまう可能性が非常に大きいわけです。
なぜなら、TPPの中に組み込まれる『ISD条項』が、日本の国家司法の上に燦然と君臨することになるからです。
つまり、TPP加盟国同士の企業活動において起きた問題や紛争は、それが日本国内で起きたとしても、日本の司法では裁くことが出来ないのです。それらは全てTPPの『ISD条項』に則り、米国の国際投資紛争解決センターで審判が行われます。 国際投資紛争解決センターは、世界銀行傘下の組織です。世界銀行の総裁は、1946年に設立されて以来、一貫して米国人です。また、議決権の割合を決める最大の融資国も米国です。
さらには、仲裁審判員の最終任命権は、その米国の影響下にある国際投資紛争解決センターの事務総長が持っているのです。 要するに、国際投資紛争解決センターの実態は、国際機関といいながら、米国の影響力が非常に色濃い組織であり、到底中立とは言いがたいのです。
かつて、国際投資紛争解決センターの仲裁審判員を務めたことのある前職の連邦裁判所判事が、「実際に、裁判過程で米国の圧力があった」と暴露したことがありました。この発言一つをとってみても、米国が議長仲裁人を選任する際に、いかがわし気な影響力を行使する可能性が常にあるのです。
TPPに加盟すると、電気・水道・ガス・通信のような公共部門も当然、外資に開放することになるでしょう。実際、麻生副総理は、米国訪問の際に、日本の水道をすべて民営化する、すなわち外資に開放すると表明してしまいました。
※「日本のすべての水道を民営化します」 ~マスコミが一切報じない我が愛すべき「麻生さん」の超弩級問題発言 (<IWJの視点>佐々木隼也の「斥候の眼」: IWJウィークリー13号より)
将来は、電力事業も発送電分離が行われて、外資の参入も行われるかもしれません。
そうすれば、米国をはじめとするグローバル大企業は、自国に及ぼす危険の少ない日本に、原発を作って電気を提供しようとするかもしれません。
「そんなことをされたら、日本は脱原発を成し遂げられないじゃないか!」 と、それを日本が規制しようとすれば、企業の自由な経済活動を邪魔されたとして、『ISD条項』によって訴えられることになります。
この『ISD条項』を見ていく時に参考になるのが、NAFTA(北米自由貿易協定)です。
NAFTA(北米自由貿易協定)の場合は、UNCTAD(国連貿易開発会議)の調査によると、紛争件数46件のうち、米国が訴えられた件数が15件であり、それ以外は、米国の企業が、カナダ、メキシコ両政府を提訴しています。
その15件中、米国の敗訴はゼロ。逆に、米国の企業がカナダ・メキシコ両政府を訴えて、一部容認か和解を含め賠償金を得た件数は6件、請求件棄却はたった6件。あとは不明か係属中です。(2011年10月現在)
ここからわかることは、米国政府が訴えられて負けたことはなく、逆に米国の企業が他国を訴えて賠償金を得た(事実上、勝った)ケースは、6件あるということです。
さらに言えば、TPPには他にも、『ラチェット条項』という規定があります。 『ラチェット』とは、「歯止め」、「元に戻せない」という意味です。 すなわち、「いったん決めた約束は、反故に出来ない」、「あとになって見直したいと思っても、それが許されない」という規定です。
後悔しても、後の祭り。いったん回り始めた歯車TPPは、逆回転出来ないのです。
このように、日本が国民の利益のためとか、環境上の保全など、公序良俗を考えて、「原発はもう作らないんだ。再稼働もしないんだ」といくら懇願し叫んでみたところで、TPPに加盟してしまえば、米国をはじめとするグローバル大資本には、その思いのひとかけらも届かない可能性がある、ということを知っておく必要があります。
それは、諸外国の例をみれば、明らかです。 たとえば、最初に『ISD条項』が注目されたのは、1994年に締結されたNFTA(北米自由貿易協定)で、米国の企業がカナダ政府を訴えたケースです。 米国の廃棄物処理業者が、カナダで処理をした廃棄物(PCB)を、米国内に輸送してリサイクルする計画を立てたところ、カナダ政府は、環境保護上の理由から、米国への廃棄物の輸出を一定期間禁止しました。
これに対し、米国の廃棄物処理業者は、『ISD条項』に則ってカナダ政府を提訴し、結果、カナダ政府は、823万ドルの賠償金を支払わなければならなくなりました。 また、2011年11月に、東日本大震災による福島第一原発事故を受け、脱原発政策に転じたドイツ政府が、(フランクフルト近郊に原発を提供していた)スウェーデン企業バッテンフォール社からEU版『ISD条項』によって訴えられたケースもあります。
ドイツ政府は、「2011年までに6つの原発を廃炉にし、2022年までに残りの9つを廃炉にする」との政策を表明しました。
このバッテンフォール社は、ドイツの原発ゼロ政策方針に対して、『ISD条項』を盾に、原発ゼロ政策方針取り消すよう求めてきたのです。
その原発の寿命延長を考慮して計算すると、「70億ユーロ(約9,000億円)の損失が予想される」として、その賠償を求めたのです。日本でもこうした賠償請求が行われる可能性がないとは言えません。
◆竹中氏のもたらす『国家戦略特区』という罠◆
さて、そうした経緯を知ってか知らずか、日本政府は昨年5月14日、議長・安倍晋三首相の下、産業競争力会議を開き、アベノミクスの第三の矢となる成長戦略の取りまとめを行いました。成長戦略は、大胆な金融緩和、機動的な財政運営に続くアベノミクスの柱とされています。
特筆すべきは、この産業競争力会議のメンバーに、あの竹中平蔵氏がいるということです。
その会議では、TPPなどの経済連携の推進や、国主導で規制緩和や税制優遇に取り組む『国家戦略特区』の創設が目玉となりました。
しかし、なんだか漠然としていて分かりにくいですよね?
そもそも『国家戦略特区』は、2011年当時に、民主党の菅政権が主導した『総合特区』がベースとなっています。この『総合特区』のキーワードは、「国民経済の発展及び国民生活の向上」でした。
ところが、第二次安倍政権発足後、『国家戦略特区』と名称が変わった途端、「民間投資の喚起により日本経済を停滞から再生へ導く」 「国際競争力の向上、世界で一番ビジネスのしやすい環境」 と、かつての「特区」の目的がゴッソリ抜け落ち、「投資」という言葉が象徴するように企業優先の概念になってしまいました。
以前の『総合特区』で掲げていた「地域の活性化」という言葉は、今回の『国家戦略特区』で消え去りました。これは、地域の住民生活や産業振興のことなど眼中にないことを示しています。
それどころか、『国家戦略特区』関連法について、一括新法で議決される可能性が指摘されています。関連法の中に労働・医療・税制などを一括新法で盛り込むことで、何が法改正されたかを見えにくくする狙いがあると思われます。
そうした目眩ましによって勘違いをしている人が多いのですが、『国家戦略特区』とは、これまで日本で行ってきた従来の「特区」という概念とは全く異なるという認識が重要です。
要するに、TPPのもとで行われる『国家戦略特区』というのは、全ての分野で市場原理を導入して、弱肉強食社会を実現しようという流れの中に位置づけられるのです。
いわば、TPPの既成事実化といった側面の強い政策なのです。
政府が発表した資料によると、『国家戦略特区』の候補地には、東京、大阪、名古屋の都市圏が含まれており、3月に具体的な地域決定を行い、とりあえず全国で3~5カ所を指定する方針ということです。
もう時間は残されていません。都知事選後すぐに対応すべき喫緊の重要事案です。
既に、東京エリアでは、「東京都心・臨海地域」「新宿駅周辺地域」「渋谷駅周辺地域」「品川駅・田町駅周辺地域」「羽田空港跡地」と、主な5つの地域が候補として上がっています。
先程も述べましたが、この『国家戦略特区』とは、TPPの布石であり、これを突破口として、グローバル大資本の支配が日本全国に拡散する呼び水となるものです。ということは、これこそが、都知事が何としても阻止すべき課題、そして、本来なら最大の争点とされるべき論点ではないでしょうか?
なぜなら、都知事として、都民の生活を守るために、『国家戦略特区』は拒否するという意思表示を明確にすることは実行可能だからです。
これは、「TPP(『国家戦略特区』)を拒否する」→「脱原発を成し遂げる」という架け橋にもつながります。しかし、その逆「TPP(『国家戦略特区』)を容認する」→「脱原発を成し遂げる」はあり得ません。
ところが、今回の都知事選の争点では、このTPPや『国家戦略特区』に関する論点が、まるで押し隠されるように、全く議論されていないのが実情です。
耳に心地よいキャッチフレーズの大合唱の中、水面下では、国民にトドメを刺す、「安倍首相に絶対させてはいけない最も危険な暴走」が着々と進行しているのです。
あとの祭りで、政権の用意した茶番のステージで踊らされるだけ踊らされて、気がついたら、梯子を外されていた・・・という事態にならなければいいのだけれどと、私は気をもんでいます。
前述したように、米国の政府関係者が述べた、「TPPで議論していることは、すべて米韓FTAに盛り込まれている」という発言に従い、米韓FTAで韓国の「特区」で今まさに起きている悲劇を見れば、言わずもがなです。
公的医療制度の規制緩和が、皆保険制度や医療システムの健全性を崩壊させ、金儲け重視の医療に変質させる危険をはらんでいます。
公立学校の民間への運営開放は、格差や競争教育を拡大し、平等で健全な教育の場を、子どもたちから奪い去るものです。
土地利用の規制を見直すことは大企業優先の乱開発・地域破壊に拍車をかけます。
農業分野への株式会社参入の要件緩和の方向を打ち出すことは、日本農業の将来を危うくするだけでなく、流通業界全般の制度破壊や雇用喪失にも直結します。
その他にも、様々な悪影響がいたるところで巻き起こるでしょう。
そして、東京の『国家戦略特区』で、海外のグローバル大資本によるエネルギー政策が導入されることになれば、東京のエネルギーは、東京都主導ではなくなるのです。
ここで、再度、冷静にしっかりと考えてみてください。
都民にとって、今、最重要課題は何かを?
真の意味で「安倍首相の暴走を阻止」したいなら、TPPの布石となる『国家戦略特区』に対してあえて触れない候補者、または、『国家戦略特区』を推進しようとしている候補者に一票を投じてはいけないのです。
その候補者は、安倍首相の暴走を止めるどころか、さらなる危険な暴走に拍車をかける手伝いをしていることになります。 (ゆりかりん @yurikalin・クリエイティブ・プランナー)
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