酒場の太宰治を考えている。「俺も撮れ」と林忠彦に撮らせたルパンのポーズが自意識満々で、それを含めてそれが本当の太宰治なのだろうが、私が創作する場合はそうはいかない。隠し撮りさながらのカットにしてみたい。しかし太宰の飲み方は陰々滅々とした酒ではあったが絡む事もなく、陽気になることもあった。その代わりに、食い意地が張っていて、その大食らいの様は、見ている人が引く程だったようである。檀一雄は寿司屋で鳥の丸焼きを指でむしって裂きながら、ムシャムシャと食っては飲んだ狂乱の姿を見て「頭髪を振り乱して鶏をむしり裂く姿は悪鬼のようだった。」 また味の素好きで「ぼくが絶対に確信が持てるのは味の素だけだ。」鮭缶を丼にあけ、無闇と味の素を振りかけて食ったらしい。私はこの話を読んでいながら口中にある記憶が蘇った。子供の頃、お隣に勝手に上がり込んでテレビで鉄腕アトムを観ていた。アトムが科学の子供だから、という訳ではないだろうが、ちゃぶ台の味の素を手のひらに高さ一センチほどの三角錐。目はテレビを見たまま放り込んだ。これをかけて美味しくなるなら、当然これ自体相当美味しいに決まっている。その時の一撃は未だに口中の記憶として残っている。もっとも私は何かに当たったとしても、たまたまだと思うタイプで、男によくいるが、二度と食べられなくなる、なんてことは全くない。私は制作において、もっともっと、とついやり過ぎる傾向があるが、物事には程という物がある、と最初に学んだのはあの一撃だったような気がしている。
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アートコレクターズ(生活の友社)引用の美学 存在しないものを撮る 石塚公昭
『石塚公昭 幻想写真展 生き続ける作家た18年7/25~9/2 リコーイメージングスクエア銀座ギャラリーA.W.Pyoutubeこ2016年『深川の人形作家 石塚公昭の世界』 youtube
※『タウン誌深川』“明日できること今日はせず”連載12回『大つごもり 樋口一葉