いよいよ灯ともしの翁役の柳田國男と河童の出会いのくだりに入る。身勝手な河童の三郎に対し、いさめながらも愛情深く接する翁である。 今まで作者を主役に添えてきたので、当初は鏡花に笛吹きの役をやってもらおうと思っていた。しかし今回はダイジェストではないので、人間との共演シーンも多くなる。人形と人間を同じ場面にいれるのは、そう簡単なことではない。先日入稿したロシアの文豪と著者の共演は、前後に距離を保っており気にはならない。しかし人間3人の中に一人だけが人形となるとそうもいかない。そこに面白さがない限り、素材感の違いは違和感ばかりが残るだろう。 鏡花は主役でなく、作者として登場するだけだが、その代わりに鏡花の盟友、柳田を翁にすることを思いついた時は、すぐ飲みにいってしまったが、柳田と河童の共演の機会は、柳田に物語内の住人になってもらうしかなく、絶好の機会といえるだろう。もちろん柳田に興味がない人にはただの老人と河童であるが、幸い神主姿の柳田には無理矢理な、当てはめた感がないところも決め手となった。 見開きで両者見つめ合う。しゃがむ老人とひれ伏す愛犬のイメージである。足許までいれずに、見つめ合うところを強調するつもりでいるが、気になっていることがある。翁は足中という草履を履いている。土踏まずのあたりからかかとの部分をカットしたような履物である。かかとをあげて歩くような健康サンダル的な効果もありそうだが、そんな履物があるのを私は知らなかった。鏡花作品は脚注がつきものである。しかしせっかくの鏡花作品のビジュアル化である。表現についてはともかく、見ればわかるよう、脚注を最小限、できればなくしたいくらいである。翁の足許、特に足中の様子が判る横向きを描けるのはここしかない。
過去の雑記
HOME