週刊朝日2013年7月12日号
農薬のドサクサ規制緩和で子どもが危ない
(前略)
ネオニコ系農薬とは、ニコチンと似た化学構造を持つ農薬の総称で、1990年代から世界各地で使用されるようになった。チアクロプリドの他にも、アセタミプリド、ジノテフランなど7種類の農薬が販売されている。
ネオニコ系農薬は虫の中枢神経に作用する毒性があり、害虫の駆除に少量で効果があって持続性も高いことなどから、従来の有機リン系に代わる「夢の農薬」として近年、使用量が急速に拡大していた。2000年ごろまでは年150トン程度だった国内出荷量は、02年には200トンを超え、㎝年には400トンを突破するなど、ここ15年ほどで約3倍に増えていた。この新農薬は、有機リン系の農薬よりも「哺乳類などへの毒性が低い」というふれこみだったが、最近になって別の面で注目を集めている。世界各地で続発しているミツバチの大量死の原因なのではないか、と指摘されているのだ。
日本でもミツバチが大量死し、09年にそれが一因となって、イチゴ、メロンに授粉するミツバチが不足する騒ぎにもなったことがある。昨年4月には、米科学誌「サイエンス」で英仏の科学者が、ネオニコチノイド剤によってミツバチの帰巣本能が失われるなどの研究結果を発表した。真相究明には至っていないものの、事態を重くみたEUは今年5月、ネオニコ系農薬3種の使用を一部禁止することを決定している。
さらには、人への影響を指摘する声もある。前出の青山医師とともに農薬による健康被害間題に長年、取り組んできた東京女子医大の平久美子医師は、奇しくも6月9日、国際シンポジウムで次のような発表を行っていた。
「群馬県で松枯れ防止のためにネオニコ系農薬のアセタミプリドが散布された04年と05年、それが原因と思われる頭痛、吐き気、めまいや心電図異常がみられる患者が多数、群馬県内の病院を訪れました」
平医師によれば、青山医院を訪れた農薬の慢性中毒とみられる患者は06年8月から8ヵ月で1111人。うち549人が、果物やお茶、野莱を大量に摂取していた。
「その後も似た症状の患者が後を絶たず、果物やお茶の摂取をやめさせると、症状は改善され、消えました。さらにはお茶を飲み、桃とナシを食べて胸が痛くなったと来院した30代の女性の尿からは、かなり高い数値のアセタミプリドが検出されたのです」(平医師)
これらの臨床結果から、お茶、果物などのネオニコ系の残留農薬が中毒の原因ではないかと疑った平医師が世界各国の残留農薬の基準値を調査し、日本だけが突出して高すぎることを問題視した。
(略)
事実、日本のネオニコ系農薬の食品中の残留基準はEUやアメリカと比べると、なんと数倍から数百倍も甘く、特に果物、茶葉について、顕著な差がみられたのだ。
しかも驚いたことに、日本では欧米と逆行して、一部のネオニコ系農薬についての残留基準がさらに緩和されていた。
例えば07年10月に基準が改定されたネオニコ系のジノテフランの残留基準は、ほうれん草で5PPmから15PPmに、春菊で5PPmから20PPmに、チンゲンサイも5PPmから10PPmになった。
さらには11年12月に改定されたネオニコ系のイミダクロプリドは、ほうれん草について従来の2・5ppmから15ppm、なすでO・5ppmから2ppmなどと緩くなった。いずれもネオニコ系をより使いやすくする"規制緩和〃である。
(後略)
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