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ダンスとか。

TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2004 nextage(最終審査会)(第一日)

2004-07-03 | ダンスとか
三軒茶屋・シアタートラム。
▼康本雅子 『脱心講座 ~昆虫編~』
これを見るのは四回目。ランコントルに出た時のに近い構成で、アフリカ系のヴォーカル(サリフ・ケイタ?)がかかる中盤が良くなっていた。例によって三浦宏之としょうもない掛け合いみたいなのが続くのだが、欲望と羞恥、動物(または機械)と人間の間を絶え間なく揺れるさまを哀愁に満ちた歌が見事に演出する。二人が今いる場所が現実なのか幻なのかもわからなくなる圧倒的なドラマトゥルギー。しかし終盤はやはり散らかっていてよくわからないし、今回は序盤のヴィデオ講座の部分があまり良くない。三浦の動きが遅くて映像に翻弄されているように見えなかったし、プロジェクターの位置が悪いのか影がやたら大きかったり三浦が闇に入って見えなくなってしまったりした。逆に今回面白かったのは、冒頭で康本が入っていたバッグを三浦が袖に持って行く時、なぜかぎこちないロボットのような動きになっていたところ。これは凄い。何しろまだ何も「こと」は始まっていないのだから、これから起こる出来事の結果が先取りされているわけだ。初めて見る人も妙に思うかもしれないが、この作品を知っている人にとっては本当にゾッとする仕掛けである。ホラー映画とかで、一回見ただけでは気づかないような序盤部分に露骨な伏線が隠してあったりするのと似ている。「宿命」というか、人の手の及ばない出来事として観客を決定的に絶望させる技法。30分。少し長い。
▼矢内原美邦 『ノート』
ダンサー/カスヤマリコ、佐川智香、ホナガヨウコ(藤瀬のりこからバトンタッチ)、三坂知絵子、矢沢誠、山本圭祐、陽茂弥、矢内原美邦。映像なしで、振付だけをじっくり見せる。冒頭から終わりまでテンションはずっと高いまま、いつもの支離滅裂なシーン群がほぼ切れ目なく移り変わっていくのだが、ロックがかかる前半では舞台上に一つか二つしか焦点がなく、一人一人のキャラクターがよく見え、テクノに変わる後半は常に8人が出てグループを組み換えつつあちこちでシーンが同時多発するという構成になっている。人の出入りのない後半がややベタッと平板に感じたが、やはり振付は呆れるほどの過密さで、それでいて今までになくダンシーな流れがあり、目に快くさえあった。今回特徴的だったのは、集団を一斉にワッと一方向に移動させて一人を取り囲ませるなどの演劇的な集団処理だろう。全体の起伏が少ない代わり、わずか18分でバサッと切ってあるのも良かった。どこを切っても大体こうなる、という反「作品」的な上演というべきかもしれない。
▼高野美和子 『匿名トリップ』
ダンサー/青田玲子、伊東歌織、河村篤則、原田香織、高野美和子。3人から5人にダンサーが増え、俄然よくなった。決め手はユニゾンが大幅に取り入れられたことだ。とりわけ上手に後ろ向きガニ股で居並び、アトランダムに右腕を振り上げていた5人が次第にバラけて散っていくところなどは、作品のテイストをわかりやすく表現するし、高野の振付言語を把握することを容易にしてもくれるだろう。振付言語が把握されることによって、作品全体のトーンが明瞭になる。また青田と原田を増やしたからといって、彼女らのために新しいキャラクターを作ることをせず、結局は元の3人のキャラクターを際立たせて終盤に入っていくのも非常にクレヴァーなやり方だと思う。小道具のカツラは前から使用されていたが、今回は強烈な印象を残した。高野のソロパートでは、膝に髪を取り付けて戯れる行為が次第に病的なものに変化してきて、見ているこちらまで病気に巻き込まれそうなほどの異様な迫力を醸し出すし、河村が両膝に取り付けて自分の頭と三つ並べてみせるところなども不気味だった。見ているといつの間にかダンサーの体に対する認識が混乱させられ、頭が二つ三つあるように見えたり、髪が意志をもって動いているように見えてきたりする。そして挙句には、本物の頭部の他に片膝あるいは両膝にも頭部をもつ、人ならざる奇形的な生物が舞台の上に蠢いているかのような妄想まで生まれてしまうのだ。この人の作品はいつ見てもマイナーチェンジという感じだったが、ようやく世界観がクリアに見えた気がする。ラストシーンの出だしには、一度上手袖にハケた3人(伊東、河村、高野)のうち、四つん這いの高野だけが尻をはみ出させたままで止まり、その間に舞台中央には青田と原田が現れ、すると3人が袖からまたバックしてきて舞台に戻る、という実に奇妙な部分があった。こういうのは本当にたまらない。25分。
▼可世木祐子 『件』
初めて見る人。ベルリンで活動していて、日本ではおそらく作品を発表していないと思う。蝸牛のような角を付け、革の上着を後ろ前に着て、その下は白塗りの裸、ただし乳首は他の動物のように三、四列ある。とてもグロい。普段見る機会の少ない洋物の「舞踏」という感じで(古川あんずに師事。三年目にしてようやくトヨタ・アワードに「舞踏」が出た)、ソロだが体へのフェチ的な集中度よりもどちらかというとスペクタクル路線へと傾斜しているように思う。上着をマントのようにまとって体をくねらせる部分と、上着を頭の上へめくり上げて巨大なダースヴェイダー状の頭部を静かに揺らす部分とが交互に来る。音楽はサウンドスケープ的な音響と、サラサーテのヴァイオリンなど。空間的・時間的な構成はあまりにも平板というしかない。しなやかな体の良いダンサーだと思うが、顔が弱く、もう少し客席に食い込んでくる力がほしいと思った。特に目は全くといっていいほど使われていない。27分。
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