徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

麻痺を残す「エンテロウイルスD68」感染症

2015年10月18日 07時51分03秒 | 小児科診療
 先日、本ブログに「EV-D68」について記しました。

 この秋の咳の風邪~喘息患者の増悪の原因と認識していました。
 でも2014年にアメリカで流行し、ポリオのような麻痺の後遺症が問題視されているウイルス感染。

 そして、日本でも麻痺症例が出てしまいました。

■ 麻痺が残るエンテロウイルスD-68 流行のおそれ 感染研
2015.10.26:ハザードラボ
 昨年、全米で1000人以上が感染した“謎のウイルス”と呼ばれる「エンテロウイルスD-68型」の感染が、先月、東京や埼玉県内で相次いで確認されたと、国立感染症研究所が15日発表した。
 「エンテロウイルスD-68型」はぜんそく症状を引き起こす呼吸器疾患で、海外では昨年8月、米国で大流行し、今年1月までに全米で1153人が感染し、このうち14人が死亡したと報告されている。
 乳幼児や子供が発症しやすく、大人では症状が無かったり、軽傷で済む場合が多い。発熱やくしゃみ、鼻水などの軽症から、気管支炎や肺炎、呼吸困難に至り、重症化すると筋肉が虚弱化し、脳神経機能に異常をきたす場合もあり、麻痺が残るケースもある。
 国立感染症研究所によると、東京都内では9月に小児総合医療センターに気管支ぜんそくのような症状で入院する患者が急増。このうち生後11カ月の女の子や2歳の男児など4人の子供の鼻水や気管内から「エンテロウイルスD68型」が検出された。
 さらに埼玉県内でも、医療機関に入院した11カ月の男の子や5歳の女児など8人からウイルスの陽性反応が報告された。いずれも気管支ぜんそくや急性気管支炎で入院し、このうち11カ月の男の子は、9月7日に右半身に弛緩性まひの症状が現れて入院。9日から10日にかけて左足にもまひが進み、退院後も右側には後遺症が残ったという。
 エンテロウイルスD-68型は、国内では2010年と2013年に120例以上の感染が報告されたが、今年は今月13日までに全国で51例発生している。ウイルスに対するワクチンは今のところ無く、国立感染症研究所では、予防のためにこまめな手洗いと塩素系の消毒剤による消毒が有効だとして注意を呼びかけている。


 詳細はこちら;

■ エンテロウイルスD68型が検出された、急性弛緩性脊髄炎を含む8症例―さいたま市
2015.10.15:国立感染症研究所
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EV-D68による喘鳴

2015年10月08日 08時04分05秒 | 小児科診療
 9月はゼーゼーする患者さん、久しぶりに発作を経験した軽症喘息患者さんの受診が目立ちました。
 秋は喘息のハイシーズンなので、こんなものかなあ、でもちょっと多いなあ・・・という印象を持っていたところに、以下の記事が目に留まりました。

 犯人はエンテロウイルス D68という病原体による感染症の可能性大。
 なるほど。腑に落ちました。
 昨年の米国の流行(アウトブレイク)では麻痺や神経症状の合併症/後遺症も報告されていますが、日本では今のところ発生報告はないようです。
 一部を抜粋します;

■ 気管支喘息様症状の小児入院例からEV-D68が検出
 東京都立小児総合医療センターが小児4症例を報告
 昨年8月には米国で治癒後に麻痺を生じた例も

2015/10/2 加納亜子=日経メディカル

 昨年、米国各地で呼吸器疾患のアウトブレイクが発生し、その後にポリオ様の急性弛緩性麻痺を来した入院患者が相次いだことで注目されたエンテロウイルスD68(EV-D68)。2015年9月、東京都立小児総合医療センターへ気管支喘息様症状による呼吸障害で入院する小児患者4人からこのEV-D68が検出されたことが10月1日に国立感染症研究所のウェブサイトで発表された。
 報告によると、2015年9月に東京都立小児総合医療センターへ気管支喘息様症状による呼吸障害で入院する患者が著しく増加。喘息様症状の原因を探るため、RSウイルス(RSV)やヒトメタニューモウイルス(hMPV)、アデノウイルス、インフルエンザウイルスなどを疑い、気管内分泌物などを用いてPCR検査を実施したところ、これら通常の呼吸器ウイルスは検出されず、EV-D68が検出された。
 その後、EV-D68アウトブレイクを疑い、5人から検体を採取したところ、このうち4人からEV-D68が検出された。報告されたのは、11歳1カ月の女児、7歳1カ月の男児、5歳3カ月の男児、2歳8カ月の男児の4人。このうち2人は気管支喘息の既往歴があったが、吸入薬の投与を必要としていたのは1人のみだった。4人中2人には気管支喘息の既往歴はない。
 東京都立小児総合医療センターを受診したEV-D68の4症例は、気管支喘息の既往の有無にかかわらず閉塞性呼吸障害を来していた。同センターは、現時点では「弛緩性麻痺や脳神経異常を呈した症例の報告はないものの、今後の動向に注意する必要がある」とまとめている。

 エンテロウイルス感染症は、夏から秋にかけて多く発生し、冬に減少する傾向がある。感染により起こる症状は主に呼吸器症状とされ、軽度の発熱、鼻水、くしゃみといった感冒症状から、気管支炎や肺炎などの下気道炎、喘鳴、呼吸困難まで様々な症状を呈することが知られている(参照記事:エンテロウイルスD68の国内流行に備えよ)。
 昨年8月には米国のミズーリ州とイリノイ州を皮切りに、全米でEV-D68による呼吸器疾患のアウトブレイクが発生。2015年1月15日までに中程度から重度の呼吸器疾患を発症し、EV-D68が検出された患者は49州で1153人となった。このうち14人が死亡した。
 加えて、米国では、このEV-D68のアウトブレイクの報告とほぼ同時期に、小児が急性弛緩性麻痺や脳神経障害を発症する例が相次いだ。米コロラド小児病院では、アウトブレイクの時期に急性弛緩性麻痺や脳神経障害を生じた12人中5人からEV-D68を検出。これらの神経症状とEV-D68感染との流行に関係があるとして、2015年1月28日にLancet誌電子版に報告していた。
 なお、コロラド小児病院の入院患者に生じた神経障害は、弛緩性の四肢の脱力や脳神経障害。発声不全や構音障害、嚥下困難といった球脊髄性の障害、第VI脳神経障害である複視、第VII脳神経障害による顔面下垂などの例も報告されている。

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2014年仕事納め

2014年12月30日 06時39分21秒 | 小児科診療
 昨日12月29日で2014年の診療が無事終了しました。
 この時期になると「今年の十大ニュース」類が発表されますね。
 目に付いたものを取りあげてみます;

2014年の医療界10大ニュース
(2014/12/25 日経メディカル)
 日経メディカル Onlineでは12月中旬、医師会員を対象に「2014年の医療界10大ニュース」の投票を実施しました。ここでは、その結果を紹介します。

< 2014年の医療界10大ニュース>


 ダントツの1位だったのは「STAP細胞」でした。理化学研究所(理研)がマスコミを集めた大々的な記者会見を行い、テレビや新聞に小保方晴子氏が華々しく登場したのは、1月の下旬のこと。割烹着で実験する彼女の姿とともに、リケジョ(理系の女子)が注目を集めたのもつかの間、論文に不正疑惑が持ち上がり、4月1日には理研が論文に捏造があったことを認めています。8月には、STAP細胞論文の執筆者の1人である理研の笹井芳樹氏が自殺。そして、この投票を実施している12月19日には、理化学研究所が検証実験の結果を発表し「STAP現象は再現できなかった」とする会見を開きました。始まりから終わり(?)までに約1年、まさに2014年を象徴するニュースといってよさそうです。
 2位と4位に選ばれたエボラ出血熱デング熱は、2014年の半ばごろから話題になりました。西アフリカで猛威を振るうエボラ出血熱は、12月下旬時点では日本に上陸していませんが、まだ現地で鎮圧には成功しておらず、その脅威は続いています。デング熱は、国内感染例が続々と見つかり、感染症として定着した可能性も指摘されていますから、2015年以降も対策が必要になりそうです。
 そのほかスキャンダル系では、ディオバン問題をはじめとした臨床研究不正(6位)、東京女子医大病院のプロポフォール事故(8位)が上位にランクイン。投票対象にエントリーしていませんでしたが、自由記述欄には「全国で相次ぐ腹腔鏡下肝切除術での死亡事故」も重大ニュースとして挙がっていました。
 新技術関連では、2014年に続々登場した新規糖尿病治療薬「SGLT2阻害薬」が5位にランキング。こちらも番外ですが、「iPS細胞の臨床応用、黄斑変性から」「C型肝炎でインターフェロンフリー療法が可能に」を推す声もありました。


 一方、アメリカCDCがまとめた「2014年の重要な健康対策」は・・・

■ CDC,「2014年の重要な健康対策」トップ10を発表~エボラから処方鎮痛薬の過剰摂取まで今年の実績を総括
 米疾病対策センター(CDC)は12月15日,2014年にCDCが実施した健康対策の中でも特に重要度の高いトップ10を発表した。筆頭に挙げられたのは,エボラウイルス病(EVD)対策だ。現在も続くEVDの流行に対しては,CDCの創設以来,人員面でも最大規模の対策が講じられたと説明。一方で,「今年のCDCによる健康対策はEVD対策だけではない」としており,トップ10には薬剤耐性菌や近年米国で深刻化している処方鎮痛薬の過剰摂取などの対策も並んだ。

EVD対策は「CDC史上,最も複雑な課題」
 2014年の健康対策トップ10(以下)の筆頭に挙げられたEVD対策に関し,CDCは「現在も続くEVDの流行は,CDCがこれまでに直面した課題で最も複雑なもの」と位置付けた。現地での検査・治療体制の整備でリーダーシップを発揮する一方,各州の保健省との連携により感染国からの帰国者の発熱や症状の追跡,感染疑い例の受け入れ施設の整備などを実施したと実績を振り返った。一方,CDC長官のTomFrieden氏は,EVD対策に関して「流行が発生した西アフリカでの感染を封じ込めない限り,米国民が100%安全であるとはいえない」とコメントした。

□ 感染症による新たな脅威への取り組み
 1.エボラウイルス病
 2.薬剤耐性菌
 3.エンテロウイルスD68型
 4.中東呼吸器症候群コロナウイルス
□ 感染症への継続した取り組み
 5.HIV/エイズ
 6.ポリオ根絶
□ 研究施設の安全性向上のための取り組み
 7.研究施設の安全性
□ 死亡の最大要因における取り組み
 8.心血管疾患
 9.喫煙
 10.処方鎮痛薬の過剰摂取


 なお,今回発表されたトップ10では,「感染症による新たな脅威への取り組み」として4つの課題と対策が示された。EVDはその1つであったが,薬剤耐性菌も前年に引き続き重要な項目として示された。
 その対策の進捗状況について,CDCは「ある程度は前進したが,依然として薬剤耐性菌への感染による死亡例は多く,重大な脅威であることに変わりはない」と強調。2015年も薬剤耐性菌や医療関連感染症は引き続き取り組むべき重要課題として位置付けた。

「感染症による新たな脅威」には米国内のEV-D68感染拡大,MERS-CoVなども
 また,エンテロウイルスD68型(EV-D68)の米国内における感染拡大も「感染症による新たな脅威」に含まれた。この背景には,今年の夏以降,米国内ではまれにしか起こらないと考えられていたEV-D68感染による重症呼吸器疾患の報告があり,特に喘息を有する小児で増加した。
 9月17日にはEV-D68による同疾患のアウトブレイクがPHO/WHOに通知された。CDCはEV-D68の迅速検査法を開発・導入し,調査を強化。8月から11月にかけて提出された2,600検体の約40%でEV-D68陽性であることが確認された。その後はEV-D68感染の報告は減少傾向にあるとしている。
 中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)は2012年にサウジアラビアで初めて報告されたが,2014年には感染例の報告が大幅に増加。5月には米国で初の感染例(サウジアラビアでの活動後に帰国した医療従事者2例)が報告された。Frieden氏は「ボーダーレス化した世界では,いつMERS-CoVが米国内に入ってきても不思議ではないと考えられた。われわれはその可能性を視野に入れ,2012年から備えていた」と説明している。

処方鎮痛薬の過剰摂取で1日に44人が死亡
 一方,トップ10には「感染症への継続した取り組み」としてHIV/エイズ対策とポリオ対策の2つが示された。HIV/エイズ対策に関しては,大統領緊急エイズ救済計画(PEPFAR)との連携により今年だけで770万人に抗レトロウイルス療法を,5,670万人にHIV検査やカウンセリングを提供できたと評価。ポリオに関しては,「根絶まであと一歩のところまで来ている」との見解が示された。
 また,今年CDCの研究施設で研究職員が誤って不活性化されていない炭疽菌に接触するなどの事故が発生したことを踏まえ,研究施設での安全対策もトップ10に入った。CDCは「これらの事故から学んだことを,研究施設の安全性と効率性の向上につなげるべく,さまざまな取り組みに着手した」と説明。今後も取り組みを継続する姿勢が示された。
 この他,トップ10には「死亡の最大要因」として心血管疾患(CVD),喫煙,処方鎮痛薬の過剰摂取の3つを挙げ,それぞれの対策を紹介。特に近年,米国で深刻化している処方鎮痛薬の過剰摂取に関しては,「米国では処方されたオピオイドの過剰摂取によって毎日44人が死亡している」と問題視。処方薬剤のモニタリングシステムを改善するために,CDCでは関連団体や州と連携した取り組みを展開しているという。

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とうとう消費者庁にダメ出しされた「空間除菌」グッズ

2014年04月18日 06時39分50秒 | 小児科診療
 この製品を取りあげるのは3回目です。
 過去の記事はこちら;

ウイルスより危険な「ウイルスプロテクター」(2013.2.19)
再度、「エアーマスク」の安全性と効果について(2014.2.8)

 入院病棟の感染対策で苦労した医療者から見ると、首から二酸化塩素をぶら下げただけで感染対策になるとは到底信じがたく、「詐欺まがい」としか考えられません。
 しかし、製品は「医薬品」ではなく「雑貨」の扱いなので、法の目を逃れて取り締まりと逃走のイタチごっこが続き、いつの間にか市民権を得たような雰囲気になっていて、日本国民の民度の低さにため息をついていたところです。
 そこに今回の消費者庁の措置命令、いよいよ法的に”ダメ出し”されました;

■ 消費者庁 News Release「二酸化塩素を利用した空間除菌を標ぼうするグッズ販売業者17社に対する景品表 示法に基づく措置命令について」(2014.3.27)

 メディアの扱いは以下の通り;

「置くだけ空間除菌」は根拠なし 消費者庁が措置命令
(2014年3月27日:朝日新聞)
 消費者庁は27日、空気中に放出される二酸化塩素の効果で生活空間の除菌・消臭ができるとうたう空間除菌グッズは効果を裏付ける根拠がないとして、景品表示法に基づき、販売元の製薬会社など17社に表示変更などを求める措置命令を出した。「首からぶら下げるだけ」「部屋に置くだけ」で除菌できると宣伝するのは同法違反(優良誤認)にあたると判断した。
 対象商品は大幸薬品「クレベリンゲル」、中京医薬品「クイックシールドエアーマスク」など25商品。身につけて使う携帯型が15商品、室内に置く据え置き型が10商品ある。同庁によると大幸薬品、中京医薬品、大木製薬、ティエムシィの4社は対象商品で年間1億円以上の売り上げがあるという。
 同庁の説明では、二酸化塩素自体には除菌効果が認められる。しかし生活空間を除菌する効果があるかを疑問視し、17社に表示を裏付ける合理的根拠の提出を求めた。各社から提出されたのは密閉空間などでの試験結果で、換気をしたり、人が出入りしたりする部屋などでも効果があるとは認められなかったという。

◇ 措置命令を受けた除菌グッズ
※消費者庁発表資料から。《》内は販売元
【携帯型】
・空間除菌ブロッカーCL―M50《アシスト》
・ERA空気除菌グッズ《ERA Japan》
・ハイパー・ブロック《エイビイエス》
・ウィルオフバリア《大木製薬》
・ウィルオフポケット《同》
・携帯用エアドクター台紙セット(エアドクターポータブル)《紀陽除虫菊》
・ウィルスブロッカーノヴァ《クオレプランニング》
・スペースウオッシャー《ザッピィ》
・ハイパー・バリア《CKKインターナショナル》
・ES-010 エコムエアマスク《新光》
・ES-020 エコムエアマスク《同》
・クイックシールドエアーマスク《中京医薬品》
・ウイルスガード《ティエムシィ》
・エアースクリーン《ヒュー・メックス》
・ウイルハント《同》
【据え置き型】
・ウィルオフスタンド《大木製薬》
・空間除菌AirDoctor(ゲルタイプ)150g《紀陽除虫菊》
・ウィクリアGEL《阪本漢法製薬》
・クレベリンゲル《大幸薬品》
・クレベリンマイスティック《同》
・クイックシールド置き型《中京医薬品》
・ウイルスガード・ゲル《ティエムシィ》
・ウィルキルG《東京企画販売》
・ウイルバッシュ ホルダー《プライス》
・パルエックスG《レッドハート》


 次は裏事情にも言及した記事です;

インフル&花粉対策…空間除菌商品は効果なし?誇大広告横行、人体や衣服を傷める危険
(Business Journal 2014.4.17)
 3月27日、消費者庁は景品表示法(優良誤認)に違反するとして二酸化塩素を利用した空間除菌を標ぼうする商品の販売会社17社に対して措置命令を出した。これらの商品は、それまで薬局薬店のレジ前や店の目立つ場所に「空間除菌」「インフルエンザ対策に」、果ては「花粉も除去する」などのPOPを掲げて売られていたので、ご存じの人も多いと思う。
 今回は、これらの商品にどのような問題があったのかを検証してみたい。
 今回のニュースで誤解してはならないのは、二酸化塩素に殺菌力がないわけではないという点だ。二酸化塩素は、水道施設での上水処理をはじめ小麦や米の殺菌消毒などに使用され、1994年からは食品添加物としても少量の残留が認められているほど安全性が高く、かつ殺菌効果が高い有用な成分だ。
 また近年は、悪臭の原因物質(カビ臭やアンモニア臭等)に対しても働き、無臭化を促進することが判明し、飲食店や公衆衛生の維持などに二酸化塩素噴霧器が使われるようになっている。
二酸化塩素の殺菌能力
 ただし、十分な殺菌効果を得るためには数百ppm以上もの濃度で使用する必要があり、それは、その濃度にさらされていれば人間でも粘膜に炎症などを起こす可能性があるレベルだ。しかも、サルモネラ菌で数分、大腸菌やセラチア菌などは十数分二酸化塩素に暴露させないと無菌化には至らない。
 従って、少量の二酸化塩素を発生させるプレートを首から下げるだけで直径1m以内を無菌化できるなどと標ぼうしているのは、まるっきりデタラメなのは明らかだ。実際に、実験データを持っていないメーカーも多く、とにかく注意されるまでは売り続け、消費者庁から注意されたらやめればいいという思惑が感じられる商品だ。
 また、首から二酸化塩素を発生させるプレートを提げるということは、漂白力の強い二酸化塩素に衣類がさらされる可能性も大きい。商品が掲げている効果はない上に、かぶれや衣類漂白の可能性があるという、極めて悪質な商品だ。
 インターネット上では発売当初から、「首から下げるバカ発見機」と揶揄されていたが、それでも大ヒットしてしまったのは、悪質な売り逃げメーカーを多く発生させる現行法と行政の甘さに問題がある。消費者庁の対応の遅さもさることながら、措置命令という大層な響きのする命令を出しているが、ほとんど抑止力は働いていない。

 措置命令というのは、消費者庁がメーカーに対して「この商品は誇大広告だから、改善しなさい」と注意するだけだ。法的には「命令確定後、その指示に従わない場合、事業者の代表者等は2年以下の懲役又は300万円以下の罰金、また、当該事業者は3億円以下の罰金」となっている。2年の懲役や3億円の罰金と聞くと厳しい処分にも思えるが、あくまで命令に従わなかった場合のことだ。
 役所の命令に従ってさえいれば、お咎めはない。売り逃げが十分に可能となる状況をつくっている。特に悪質なメーカーは、次々と会社を立ち上げて新会社でインチキ商品をつくり、役所から注意を受けると会社を閉じるということを繰り返している。
 空間除菌商品の市場規模は数十億円にまで膨らんでおり、相当数の人が効果のない商品を買わされたわけだが、誰もお咎めを受けない。
空間除菌商品の時代背景
 この空間除菌商品、もともとは大幸薬品などのごく限られたメーカーが、それなりに大規模な効果実験を行い(いくつか論文も存在する)、販売していただけだった。
 しかし2009年に新型インフルエンザ騒動が起こり、インフルエンザを無効化できる商品が薬局に売られていると話題になり、大幸薬品のクレベリンが爆発的に売れた。追随するように、それまで聞いたこともないようなメーカーがジェネリック商品を雨後の竹の子のように販売し始めた。
 その中には、除菌スプレーと称して中身はごく薄い次亜塩素酸ナトリウム水溶液(塩素系漂白剤を100~300倍程度に水で薄めただけのもの)や、次亜塩素酸カルシウム(さらし粉と呼ばれる、プールの消毒や排水溝のぬめり取りに使われる極めて安価な薬剤)のタブレットを入れただけの商品を数百円から千円以上の金額で売る業者も少なからずある。さらに、それらの悪質商品は「類似品にご注意ください」などとパッケージに注意書きを添えて、自社製品が元祖で正当であるといわんばかりにアピールしている。
 13年の2月25日に、首から下げるだけの草分け的商品、ウイルスプロテクター(ダイトクコーポレーション)の成分が、ただの次亜塩素酸カルシウムであり、汗や雨などがかかると中身が溶け出し、高濃度の水溶液によってひどい薬品ただれを起こすということで回収する騒ぎになったことを覚えている人もいるだろう。
 しかしそれ以降も、次亜塩素酸カルシウムの代わりに亜塩素酸ナトリウムを主剤とした商品が性懲りもなく売られ続けている。
 亜塩素酸ナトリウムは二酸化塩素を発生させるのに都合のよい薬品で、単体でも空気と反応して二酸化塩素を生成する。雨などでびしょ濡れにならない限りは、ゆっくりと二酸化塩素が放出されるようにポリマーやゼオライトに吸着させた商品から、ただ薬剤を溶剤に入れてプレスで固めただけの乱暴な商品まである。いずれもネームプレートのようなケースの中に小さいタブレットが1つ入っているだけの安っぽい商品でありながら、数百円以上の値段で売られ、その利益率の高さから参入企業が多く出たのは、ある意味、必然といえる。
 このたびの措置命令で、ひとまず空間除菌商品のフィーバーは終わりを見せるだろうか。
ニュースの裏側
 今回、ニュースでは、首から下げる亜塩素酸ナトリウム錠剤が入った空間除菌商品とは別に、大幸薬品のクレベリンの一部の商品も措置命令対象になっている。
 大きな会社は批判のやり玉に挙げられやすいため、クレベリン自体がほかの商品と同様に「効果がない」として各所で叩かれているが、同社は首から下げるタイプの空間除菌商品は出しておらず、いうなればインチキ商品の巻き添えを食った印象がある。
 クレベリンは、それなりに大規模な感染予防効果を実証する実験も行っており、クレベリンスプレー(高濃度二酸化塩素水)は、汚物の消毒などに病院でも使われており、ほかのインチキ商品とは趣を異にすると考えられる。
 ただし、論文を見る限り、空間除菌の効力について、それを実証するための根拠としては弱く、大幸薬品も資料を消費者庁に提出し抗議したものの、「合理的な根拠を示すには値しない」と断じられている。
 多くのインチキメーカーが、そそくさと商品撤去(ウェブサイトも軒並み閉鎖)するのに対して、大幸薬品は一部表現を変更するにとどめ、今後も販売を継続する構えを見せている。
 そういう意味では、据え置き式のクレベリンゲルがウイルス除去に効果があるのかどうかについては、最終的な結論はまだ出ていないといえる。根拠がないわけでもないが、実証も難しいという状況で、大幸薬品は消費者庁とどのような折り合いを付けるだろうか。
(文=へるどくたークラレ/サイエンスライター)


表示例
 科学的(らしい)文言が並んでいて購買意欲を誘いますが、すべて根拠(エビデンス)は不十分です;


























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地元で紅葉を楽しむ~鑁阿寺

2013年11月23日 08時09分46秒 | 日記
 足利市民で知らない人はいない(?)鑁阿寺。
 足利氏ゆかりのお寺で、先日本堂が国宝指定され話題になりました。
 境内にある大銀杏の紅葉が見事です。
 例年タイミングを見計らって見に行ってます。
 今年はドンピシャ。
 西日に照らされる黄色や紅色の葉が輝いていました;














(クリックすると大きくなります)




(クリックすると大きくなります)








(クリックすると大きくなります)





 私が小さい頃、鑁阿寺境内でよく開催されていた植木市に父親が連れてきてくれました。
 また、境内の遊具広場も懐かしく、近くの耳鼻科へ中耳炎を繰り返して通院していた時期があり、待ち時間が長いとここで時間をつぶしたものでした。
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「佐野せいじ」氏の木版画

2013年01月27日 09時25分43秒 | 日記
 最近、木版画家である佐野せいじさんの「心の故郷十二ヵ月」という作品を入手しました。

 12ヶ月のシリーズものですのでセットで購入すると高価ですが、ひと月だけ抜けているものを安価で譲っていただきました。
 版画の大きさは「16.5×24.5cm」と小ぶりです。
 その中に、いつかみた日本の原風景がぎゅっと凝縮されています。
 私は北関東の田舎で育ち、田んぼや小川、鎮守の森を遊び場にした最後の世代。
 これらの版画を見ていると、その時の空気や漂う草花の香りが幼き日々の思い出とともに甦ってくるのです。

 作者の佐野せいじさんを知ったのは、数年前に京都の井堂雅夫さんのギャラリー「雅堂」に立ち寄った時のこと。
 井堂さんは京都の風景を中心に、穏やかなタッチと鮮やかかつ精妙な色彩で表現する木版画家です。中でも緑色の深い表現は「IDO GREEN」として高く評価されているそうです。


 お店の中で版画作品を眺めていると、少し作風の違う作品群に気づきました。
 「あれ、この版画もどこかで見たことあるなあ」
 と思いつつ作者名を見ると「佐野せいじ」とありました。
 たしか、Amazonで井堂さんの画集を探している時に「この本を購入したヒトはこんな本も同時購入しています」コーナーの中で見かけた名前。
 井堂さんの作品と雰囲気は共通するものがありますが、あえて比較すると「よりイラストチックに日本の一般的な原風景を題材にした優しく郷愁感漂う作風」という印象です。
 特定の場所ではなく、日本人の誰もが心の奥に閉まっている「こころの原風景」を多く描いています。

 店員さんが「井堂さんの弟子のお一人ですよ」と教えてくれました。
 なるほど。
 私が惹かれるのも頷けます。
 待合室にそれとなく季節ごとの版画を展示する予定ですので、ぜひ目に留めてみてください。

 さて、私はなぜか、絵画よりも木版画に惹かれます。
 それも世間一般に有名な作品ではなく、日本の風景画にほぼ限定されます。
 私の本棚を眺めますと・・・

葛飾北斎(1760~1849年)
歌川(安藤)広重(1797~1858年)
小林清親(1847~1915年)
井上安治(1864~1889年)
高橋松亭(1871~1945年)
吉田博(1876~1950年)
川瀬巴水(1883~1957年)
井堂雅夫(1945~)
佐野せいじ(1959~)
宮本秋風(1950~)

 等の版画家の画集が並んでいます。

 惹かれる理由を自問自答してみると、
・日本の原風景がその時代の雰囲気とともに描かれている
・細かすぎない、つまりある程度抽象化されている
・大作でなくても絵はがきやテレホンカードの大きさでも鑑賞可能

 あたりでしょうか。

 江戸時代に北斎や広重の浮世絵版画が人気を呼び空前の旅行ブームとなったそうですが、そのおかげで後世の我々も当時の日本の風景を知ることができるのですね。
 ありがたいことです。

 版画家以外の画家では、
向井潤吉(1901~1995年)
中島潔(1943~)
 さんも好きです。
 いずれ、ぼちぼち紹介していきたいと思います。
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