徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

B型肝炎ワクチンが2016年10月に定期接種化します。

2016年03月03日 07時58分36秒 | 小児科診療
 B型肝炎って何?流行するの?
 という反応が一般的かと。
 確かにピンと来ないかもしれません。
 が、重要な疾患であり、皆さんも知るほどにワクチンが必要と感じるようになる思われます。

 B型肝炎はB型肝炎ウイルス(HBV)による感染症です。
 血液や体液を介するので、飛沫感染・空気感染ほど感染力は強くありません。
 古くは輸血による感染症、母子感染などが問題になり、それぞれに対応がなされてきました。
 さらに医療事故として、予防接種の際に針や注射筒を変えなかった時代に感染が拡大した経緯があります。
 まあ、特殊な状況ですよね。
 しかし近年、体液(湿疹の滲出液)による集団感染が知られるようになり、問題視されるようになりました。
 
 B型肝炎の最大の問題点は、一過性の感染症で終わらないところです。
 免疫力が未熟なためウイルスを排除できない小児では、ずっと体の中に抱えるという病態があります(B型肝炎ウイルスキャリア)。
 キャリアになると、真綿で首を絞めるようにウイルスはジワジワと肝臓を攻撃し、何十年もかけて肝硬変~肝癌へと進行していくのです。

 また、従来は一過性の肝炎と考えられた例にも問題が起こることがわかってきました。
 肝炎が治癒した後にも、ウイルスは肝臓の一部に潜んでいることが判明したのです。
 高齢となり癌を患い、抗がん薬で治療して免疫力が抑制された状態になると、潜んでいたB型肝炎ウイルスが再活性化して劇症肝炎を起こし命に関わることがあると判明しました(de novo 肝炎)。
 癌の治療は成功しても、B型劇症肝炎で命を落とす危険があるということ。

 以上を知った医療関係者はワクチンの定期化をずっと待ち続けていました。

■ B型肝炎ワクチンが10月から定期接種化
(2016/2/5 加納亜子=日経メディカル)
 厚生労働省は2月5日、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会基本方針部会を開催し、B型肝炎ワクチンを今年10月から定期接種化する方針を決めた。今後、この方針が予防接種・ワクチン分科会で了承されれば、定期接種化が正式に決定する。
 定期接種化で用いられるワクチンは、化学及血清療法研究所(化血研)の「ビームゲン」とMSDの「ヘプタバックス」の2つ。接種対象は、今年4月以降に生まれる生後1歳までの小児。原則、生後2、3、7~8カ月の3回接種を基本とし、組み換え沈降B型肝炎ワクチンを27日以上の間隔で2回、さらに初回接種から140日以上経過した後に1回、皮下に接種する。
 すでにワクチンを任意で接種し始めている場合には、必要な接種回数とされる3回の接種を終えていなければ、残りの回数が対象となる(任意で1回接種していれば残りの2回が制度の対象となるなど)。
 また、妊婦がB型肝炎ウイルスに感染している場合など、母子感染が疑われる小児には母子感染防止事業としてすでに生後5日以内(12時間以内が望ましい)に抗HBs人免疫グロブリンを投与することが定められている。そのため、B型肝炎ウイルス母子感染予防の対象者は、定期の予防接種の対象外となる。
 厚労省は昨年1月、すでに予防接種・ワクチン分科会で定期接種化の方針を決めていたが、財源の確保やワクチンの供給・実施体制の整備を進めるため、定期接種化の時期は示していなかった。
 加えて昨年、化血研が承認申請時と異なる方法でワクチン製剤を製造していたことが明らかになり、厚生労働省は同社に出荷自粛を求め、安定供給に懸念が示されていたことも、定期接種化の判断が遅れる要因になっていた。
 しかし、今年1月29日に厚労省は、化血研が製造するB型肝炎とA型肝炎のワクチンについて「品質と安全性に重大な影響を及ぼす可能性は低い」と評価し、同日付で出荷の自粛要請を解除した。
 B型肝炎ワクチンに関するこれら厚労省の評価について、同部会長の岡部信彦氏(川崎市健康安全研究所長)は「B型肝炎ワクチンについては科学的な根拠に基づき安全上の問題はなく、安心して従来通りの接種を続けるべきという結論に至った。それを十分に信頼していただきたい」と説明している。


 医原病としての集団予防接種によるB型肝炎感染は認定されると給付金が出ます。
 私も就職時にB型肝炎の抗体がすでに陽性になっていて驚きました。家族に感染者はいないので予防接種による感染の可能性があります。
 しかし、救済対象者は「肝炎発症者、肝硬変/肝がんとウイルスキャリア」に限定され、一過性感染で済んだ人は対象とならないようです。
 デノボ(de novo)肝炎の発症が明らかになっており、健康被害が出ることが予想される今日、無視されることは腑に落ちません。
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日本脳炎ワクチンは何歳から?

2016年03月03日 07時33分49秒 | 小児科診療
 蚊が媒介する感染症として昨今、「ジカ熱」が話題になっています。
 数年前には「デング熱」が話題になりました。
 でも、以前から日本で有名な蚊が媒介する感染症があります。
 その名も「日本脳炎」。

 現在、日本脳炎ワクチンは3歳から接種するのが一般的で、市町村からのお知らせもそのようになっています。
 実は、生後6ヶ月から接種可能であることはあまり知られていません。
 不思議です。

 小児科医は以前から、より早期に接種することを推奨してきました。
 日本脳炎は蚊に刺されて感染しますが、蚊に刺されることに年齢制限はありませんから、0歳児でも10歳児でもリスクは同じですから。

 実際に1歳時の発症例も報告されています。
 もし、自分の子どもが1歳で日本脳炎に罹り、そしてワクチンが生後6ヶ月から可能であったことを知ったら・・・悔やみきれません。
 以前、地域自治体に「接種可能年齢が生後6ヶ月からであることを周知してください」と意見したことがありますが、梨のつぶて。
 こういうことって、市民が騒がないと行政は動かないんですよねえ。

 先日、日本小児科学会が見解を出しました;

■ 日本脳炎、リスク高い小児は6カ月から接種を 小児科学会が見解を発表
(2016/2/26 加納亜子=日経メディカル)
 日本小児科学会は2月23日、日本脳炎の流行地域に渡航・滞在する小児など、日本脳炎への罹患リスクの高い小児に対して生後6カ月からの日本脳炎ワクチンの接種開始を推奨する見解を同学会ウェブサイトで公表した。
 推奨の対象としたのは、日本脳炎流行地域に渡航・滞在する小児、最近日本脳炎患者が発生した地域に居住する小児、ブタの日本脳炎抗体保有率が高い地域に居住する小児など。
 日本脳炎ワクチンの接種時期は予防接種法で、生後6~90カ月未満に6~28日の間隔をあけて2回、最初の2回の接種からおおむね1年をあけて1回、さらに9~13歳未満に第2期の接種として1回と幅を持たせた接種期間が定められている。
 しかし、接種の推奨時期が3歳時に2回、その約1年後となる4歳時に1回、そして9歳時に1回とされているため、多くの小児が3歳以降に接種を始めている
 日本脳炎の患者は少なくなっているものの、毎年各都道府県で実施されているブタの抗体保有状況で、西日本を中心に日本脳炎ウイルスが広い地域で確認されていることから、渡航・滞在地区ごとのリスクを考慮した接種勧奨に至った。
 同学会は併せて、日本脳炎ワクチンの接種量が3歳未満では0.25mL、3歳以上で0.5mLであることについても注意を喚起している。なお、3歳未満に第1期(3回分)の接種を済ませた場合でも免疫原性に問題はなく、標準的な2期接種の時期(9歳以上13歳未満)までに追加接種をする必要はない。
 近年の国内における日本脳炎の罹患状況は、2006年に熊本県で3歳児が発症。09年には熊本で7歳児、高知県で1歳児。10年には山口県で6歳児、11年には沖縄県で1歳児、福岡県で10歳児、13年には兵庫県で5歳児。喫緊では15年に千葉県で11カ月児の報告が寄せられている。
 なお、米疾病管理予防センター(CDC)が示す日本脳炎の罹患リスクの高い国は、中国、台湾、タイ、韓国、インド、ネパールなど(CDCウェブサイト)。
 国内ではかねてから西日本がブタの日本脳炎抗体陽性率が高い地域とされていたが、近年では茨城県、千葉県、山梨県など東日本にも広がりつつあることが知られている(国立感染症研究所ウェブサイト)。
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水痘ワクチンが「帯状疱疹予防ワクチン」へ適応拡大されます。

2016年03月03日 07時18分40秒 | 小児科診療
 最近目にした、ワクチン関係のちょっとした話題を提供します。
 まずは、水痘ワクチンが帯状疱疹予防に適応が通ったという記事。

 水痘と帯状疱疹は同じウイルスが原因であることはご存じかと思います。
 小児期に水痘にかかると1週間くらいで治ります。
 しかし、水痘ウイルスは体から消えることなく、神経節という所に隠れて住み続けることができます。
 そして中年期以降、体力が落ちたときに活性化して再び皮疹を出すのが帯状疱疹です。

 水痘との違いは、体の一部にしか皮疹が出ないこと、そして「痛い」ことです。
 とくに痛みはやっかいで、運が悪いと痛みだけ残りずっと悩まされることがあります(帯状疱疹後神経痛)。
 神経ブロックとかの治療法はあるのですが、それより賢い方法としてワクチンが注目されるようになりました。
 ワクチン接種による水痘抗体価上昇が、帯状疱疹予防になることが医学的に証明されているのです。

 帯状疱疹予防に水痘ワクチンを接種することは「水痘にかかったことのある人に水痘ワクチンを接種する」という、ちょっと不思議な構図になりますね。
 日本の水痘ワクチンは、そのまま帯状疱疹予防も可能なほど高力価であることは以前から知られており、一部の医師は非公式に実施していました。
 今回、それが正式に認められたという形になります。

水痘ワクチン、帯状疱疹予防に適応拡大へ 対象は50歳以上
(2016/3/1:日経メディカル)
 厚生労働省は、2月26日に開催された薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会で、阪大微生物病研究会(阪大微研)の「乾燥弱毒生水痘ワクチン『ビケン』」に、「50歳以上の帯状疱疹の予防」の効能・効果を追加することを報告した。事務手続きを経て承認され、1カ月程度で添付文書が改訂される見込み。
 帯状疱疹は、過去に感染した水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再燃により発症する疾患だ。高齢者ほど、帯状疱疹後神経痛(PHN)に移行するリスクが高く、神経痛を生じた患者は治療に難渋しやすい。
 これまでの研究で、水痘ワクチン接種で帯状疱疹の発症を予防できることが確認されている。既に米国予防接種諮問委員会(ACIP)は2008年に、免疫抑制状態になく、帯状疱疹を発症していない60歳以上の高齢者に対するワクチン接種を推奨している。
 これらの知見に基づき、国内でも、帯状疱疹予防の目的で水痘ワクチンを接種する医療機関があったが、帯状疱疹の予防は水痘ワクチンの適応外であることから、水痘ワクチン接種により健康被害が生じた場合には、公的な救済措置の対象とならない状態だった。
 阪大微研以外では、ジャパンワクチンが帯状疱疹ワクチンを開発中で、現在フェーズ3臨床試験中だ。
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花粉症には漢方の併用がオススメ。

2016年03月02日 23時01分22秒 | 小児科診療
 わたしは花粉症の治療に漢方薬の併用をオススメしています。

 西洋薬の抗アレルギー薬で切れのよいタイプはどうしても眠気の副作用が気になります。
 花粉症に使用する漢方薬には麻黄という交感神経を刺激する生薬が含まれていますので、目が冴える効果があります。
 これらを併用することにより、眠気を打ち消して効果2倍という目論見です。

 こんな記事を見つけました;

■ 漢方併用で花粉症薬の効果アップ 加藤士郎 / 野木病院副院長
(2016年3月2日:毎日新聞)
 3月はスギ花粉の飛散がピークをむかえます。スギ花粉症の薬物治療では、抗ヒスタミン薬を中心とした西洋薬が中心となりますが、症状が抑えられない時は漢方薬を一緒に使うと効果がアップします。

◇悪化してからでは薬が効きにくい
 今年もスギ花粉のシーズン本番となりました。スギ花粉症の皆さんは準備万全でしょうか? 近年、スギ花粉症では「初期療法」が広く知られるようになりました。花粉症の症状が出る前から抗ヒスタミン薬を中心としたお薬を服用し、薬が必要でなくなるまで続ける方法で、症状を軽くすませることができます。
 一方、悪化してから薬を飲むとなかなか効きません。重い花粉症の患者さんでは症状が抑えられないケースもあります。実はこのような場合に役立つのが漢方薬。西洋薬と一緒に使うと症状が軽くなります。
 漢方医学ではスギ花粉症を含むアレルギー性鼻炎を起こす最も大きな原因に、体の中の過剰な水分があると考えています。普段から冷たい飲食物をとり過ぎたり、過労やストレスがたまったりすると、胃腸のはたらきが衰えて水分代謝が悪くなります。この結果、消化吸収力が低下し、飲食物などの水分が体内に残ってしまう。これらが体の生理機能に影響を与え、鼻や喉の働きも低下させてしまうのです。

◇漢方薬で体を温め余分な水分を取り除く
 このため、漢方医学に基づく花粉症対策ではまず、胃や体を冷やさないような食事、生活を心がけることが大事です。生活療法を実践するだけで花粉に反応する閾値(いきち=症状が出る最小限の値)が上がり、症状が軽くなります。
 そして、もう一つの方法が漢方薬を服用することです。体を温め、余分な水分を取り除く働きが効果を発揮するのです。代表的なものが皆さんもご存じの小青竜湯(しょうせいりゅうとう)。鼻水の多い花粉症の方によく効きます。ただし、鼻づまりが中心という方は麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)のほうが合います。
 含有されている生薬の附子(キンポウゲ科のハナトリカブトまたはその他の同属植物の塊根)と細辛(ウマノスズクサ科のウスバサイシンまたはケイリンサイシンの根および根茎)は体を温める作用が強く、麻黄(マオウ科のマオウまたはその他同属植物の地上茎)にはエフェドリンという有効成分が含有されています。エフェドリンは粘膜の腫れを緩和し、気道の収縮をやわらげるなどの働きがあります。麻黄は古来、ぜんそくの治療に使われていたという記述もあります。

◇体質を見極めて合う薬を決める
 このほか、顔のかゆみや炎症による腫れをともなう方には越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)、のどの腫れをともなう場合には清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)などがあります。
 これらの薬は漢方医学的な診断を基に、患者さんの症状、体質を見極めて最も合うものを決めていきます。興味のある方は漢方を取り入れている医師に相談してみることをおすすめします。


 実は西洋薬でも、交感神経刺激成分を混合したディレグラという製剤があります。
 わたしから見ると、漢方薬の併用を真似した感が否めず(^^;)。
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