2018年春、新顔の抗インフルエンザ薬が承認されました。
その名はゾフルーザ®。
この薬の斬新なところは、今までの抗インフルエンザ薬と作用メカニズムが違うことと、1回だけの内服で終わりと手軽なこと。
約1年前にもこのブログで取りあげましたが、それがとうとう発売され使用できるようになったのです。
おなじみのタミフル®、リレンザ®、イナビル®、ラピアクタ®は「ノイラミニダーゼ阻害薬」(ヒトの細胞内で増えたウイルスが細胞から出ていくときに邪魔をする)といって、すべて同じ作用機序なので、併用や変更は意味がありません。
しかしゾフルーザ®は「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬」といって、ヒトの細胞に侵入したウイルスが増殖するレベルで邪魔をするメカニズムです(下の記事のイラスト参照)。
効果はタミフルと同等、副作用はむしろ少なく、なんと言っても「1回飲んで終わり」が最大のメリット(飲み忘れがありません)。
それから製薬会社の説明では「他の抗インフルエンザ薬より早くウイルスがいなくなるので、二次感染が減ることが予想される」とのこと。
□ 単回投与でインフルエンザ罹患期間を短縮する経口薬 新規抗インフル薬「ゾフルーザ」をどう使う?
(2018/3/1 本吉葵=日経メディカル)
2月23日、抗インフルエンザウイルス薬バロキサビル マルボキシル(商品名ゾフルーザ錠)の製造販売が承認された。ゾフルーザは2015年10月、従来より審査期間を短くして早期の実用化を目指す「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されており、申請から4カ月でのスピード承認となった。
ゾフルーザはオセルタミビルリン酸塩(タミフル)と比較し、抗ウイルス効果が有意に高いことが確認されている。単回投与で済むため、患者の服薬コンプライアンスを心配する必要がない。また、既存薬とは作用機序が異なるので、タミフルをはじめとしたノイラミニダーゼ阻害剤に耐性を獲得したウイルスにも効果が期待できる。適応は、A型またはB型インフルエンザウイルス感染症で、薬価収載後、塩野義製薬から発売される。
A型またはB型インフルエンザウイルス感染症患者を対象とした第III相臨床試験では、インフルエンザ罹患期間の短縮効果についてはゾフルーザ群(単回投与)とタミフル群(1日2回 5日間投与)で同程度であり、副作用発現率はゾフルーザ群で有意に低かった。またタミフル群と比較し治療開始1、2および4日後のインフルエンザ陽性患者の割合を有意に減少、ウイルス排出期間の短縮においてもゾフルーザ群が優越性を示した。(Open Forum Infect Dis.2017; 4(Suppl 1): S734.)
図 主な抗インフルエンザ薬の作用機序(塩野義製薬プレスリリースより)
ゾフルーザは、mRNA合成の開始に関わるキャップ依存性エンドヌクレアーゼの活性を選択的に阻害し、ウイルスのmRNA合成を阻害することで、インフルエンザウイルスの増殖を抑制する。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発研究部門教授の渡辺彰氏は「ゾフルーザはウイルス増殖過程のかなり早い段階で作用する。既存薬とは作用機序が異なるので、重症例やタミフル耐性例では他剤と併用することも考えられる」と話す。
また、タミフルをはじめとするノイラミニターゼ阻害剤はインフルエンザ発症後から48時間以内の投与が必要であり、ゾフルーザも添付文書で発症後速やかに投与することが推奨されているが、「作用機序から考えると、ノイラミニターゼ阻害剤に比べてゾフルーザは、多少投与が遅れても有効な可能性がある」と渡辺氏は話している。
★ 2018.9.19追加情報 ★
ゾフルーザの臨床試験データが追加されました。
□ 抗インフル薬バロキサビルの第II相・第III相試験の結果/NEJM(2018.9.13:ケアネット)
まあ、前述した内容と同じなのですが、一つ気になった記述がありました;
「バロキサビルへの感受性低下につながるI38T/M/F置換を伴うポリメラーゼ酸性蛋白領域の変異は、第II相試験とCAPSTONE-1試験で、それぞれバロキサビル投与例の2.2%と9.7%で認められた。」
これは「耐性化獲得」ということなのでしょう。
1回内服で終了ですが、効果が発揮される途中でインフルエンザウイルスの薬剤耐性化が誘導され、効きが悪くなる例が発生するということ。
10%未満の数字ではある者の、タミフル/リレンザ/イナビル/ラピアクタではあまり聞いたことがありません。
また、この論文を受けた吉田敦氏の解説がありました。
□ 成人のインフルエンザに対するバロキサビル マルボキシルの効果―合併症のない例での二重盲検ランダム化比較試験(2018.9.17:ケアネット)
まとめの部分で、やはり耐性化について言及しています(下線部)。
「バロキサビルは合併症のないインフルエンザにおいて1回投与でも有意に有症期間を短縮し、さらに速やかにウイルス量を減少させることができ、有望な抗インフルエンザ薬であることが裏付けられた。
なお本検討にはいくつかの興味ある点が見受けられる:
(1)投与開始が早いほうが成績がよい、
(2)オセルタミビルよりも早くウイルス量は減少するが、有症期間は同等である、
(3)ウイルス量の早い減少は感染伝播を減らす面ではやや有利かもしれない。しかしバロキサビル投与によって低感受性関連変異を来すと、ウイルス排泄は長引き、有症期間も長くなってしまう(30%ではプラセボよりも延長する)。
合併症を有する例、小児・高齢者、免疫不全者における成績や、低感受性ウイルスに関する具体的な解釈もこれからではあるが、本剤の使用にあたっては、オセルタミビルに比べ優れている点と上記のような特徴を理解したうえで、考慮すべきであろう。」
おそらく2018/19シーズンはゾフルーザ®が大量に使用されるでしょう。
シーズン終了後、この「ウイルス耐性化」をぜひ検証していただきたい。
その名はゾフルーザ®。
この薬の斬新なところは、今までの抗インフルエンザ薬と作用メカニズムが違うことと、1回だけの内服で終わりと手軽なこと。
約1年前にもこのブログで取りあげましたが、それがとうとう発売され使用できるようになったのです。
おなじみのタミフル®、リレンザ®、イナビル®、ラピアクタ®は「ノイラミニダーゼ阻害薬」(ヒトの細胞内で増えたウイルスが細胞から出ていくときに邪魔をする)といって、すべて同じ作用機序なので、併用や変更は意味がありません。
しかしゾフルーザ®は「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬」といって、ヒトの細胞に侵入したウイルスが増殖するレベルで邪魔をするメカニズムです(下の記事のイラスト参照)。
効果はタミフルと同等、副作用はむしろ少なく、なんと言っても「1回飲んで終わり」が最大のメリット(飲み忘れがありません)。
それから製薬会社の説明では「他の抗インフルエンザ薬より早くウイルスがいなくなるので、二次感染が減ることが予想される」とのこと。
□ 単回投与でインフルエンザ罹患期間を短縮する経口薬 新規抗インフル薬「ゾフルーザ」をどう使う?
(2018/3/1 本吉葵=日経メディカル)
2月23日、抗インフルエンザウイルス薬バロキサビル マルボキシル(商品名ゾフルーザ錠)の製造販売が承認された。ゾフルーザは2015年10月、従来より審査期間を短くして早期の実用化を目指す「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されており、申請から4カ月でのスピード承認となった。
ゾフルーザはオセルタミビルリン酸塩(タミフル)と比較し、抗ウイルス効果が有意に高いことが確認されている。単回投与で済むため、患者の服薬コンプライアンスを心配する必要がない。また、既存薬とは作用機序が異なるので、タミフルをはじめとしたノイラミニダーゼ阻害剤に耐性を獲得したウイルスにも効果が期待できる。適応は、A型またはB型インフルエンザウイルス感染症で、薬価収載後、塩野義製薬から発売される。
A型またはB型インフルエンザウイルス感染症患者を対象とした第III相臨床試験では、インフルエンザ罹患期間の短縮効果についてはゾフルーザ群(単回投与)とタミフル群(1日2回 5日間投与)で同程度であり、副作用発現率はゾフルーザ群で有意に低かった。またタミフル群と比較し治療開始1、2および4日後のインフルエンザ陽性患者の割合を有意に減少、ウイルス排出期間の短縮においてもゾフルーザ群が優越性を示した。(Open Forum Infect Dis.2017; 4(Suppl 1): S734.)
図 主な抗インフルエンザ薬の作用機序(塩野義製薬プレスリリースより)
ゾフルーザは、mRNA合成の開始に関わるキャップ依存性エンドヌクレアーゼの活性を選択的に阻害し、ウイルスのmRNA合成を阻害することで、インフルエンザウイルスの増殖を抑制する。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発研究部門教授の渡辺彰氏は「ゾフルーザはウイルス増殖過程のかなり早い段階で作用する。既存薬とは作用機序が異なるので、重症例やタミフル耐性例では他剤と併用することも考えられる」と話す。
また、タミフルをはじめとするノイラミニターゼ阻害剤はインフルエンザ発症後から48時間以内の投与が必要であり、ゾフルーザも添付文書で発症後速やかに投与することが推奨されているが、「作用機序から考えると、ノイラミニターゼ阻害剤に比べてゾフルーザは、多少投与が遅れても有効な可能性がある」と渡辺氏は話している。
★ 2018.9.19追加情報 ★
ゾフルーザの臨床試験データが追加されました。
□ 抗インフル薬バロキサビルの第II相・第III相試験の結果/NEJM(2018.9.13:ケアネット)
まあ、前述した内容と同じなのですが、一つ気になった記述がありました;
「バロキサビルへの感受性低下につながるI38T/M/F置換を伴うポリメラーゼ酸性蛋白領域の変異は、第II相試験とCAPSTONE-1試験で、それぞれバロキサビル投与例の2.2%と9.7%で認められた。」
これは「耐性化獲得」ということなのでしょう。
1回内服で終了ですが、効果が発揮される途中でインフルエンザウイルスの薬剤耐性化が誘導され、効きが悪くなる例が発生するということ。
10%未満の数字ではある者の、タミフル/リレンザ/イナビル/ラピアクタではあまり聞いたことがありません。
また、この論文を受けた吉田敦氏の解説がありました。
□ 成人のインフルエンザに対するバロキサビル マルボキシルの効果―合併症のない例での二重盲検ランダム化比較試験(2018.9.17:ケアネット)
まとめの部分で、やはり耐性化について言及しています(下線部)。
「バロキサビルは合併症のないインフルエンザにおいて1回投与でも有意に有症期間を短縮し、さらに速やかにウイルス量を減少させることができ、有望な抗インフルエンザ薬であることが裏付けられた。
なお本検討にはいくつかの興味ある点が見受けられる:
(1)投与開始が早いほうが成績がよい、
(2)オセルタミビルよりも早くウイルス量は減少するが、有症期間は同等である、
(3)ウイルス量の早い減少は感染伝播を減らす面ではやや有利かもしれない。しかしバロキサビル投与によって低感受性関連変異を来すと、ウイルス排泄は長引き、有症期間も長くなってしまう(30%ではプラセボよりも延長する)。
合併症を有する例、小児・高齢者、免疫不全者における成績や、低感受性ウイルスに関する具体的な解釈もこれからではあるが、本剤の使用にあたっては、オセルタミビルに比べ優れている点と上記のような特徴を理解したうえで、考慮すべきであろう。」
おそらく2018/19シーズンはゾフルーザ®が大量に使用されるでしょう。
シーズン終了後、この「ウイルス耐性化」をぜひ検証していただきたい。