その昔「病院出産が子どもをおかしくする」という本を読んでから、「医療化したお産」や「麻酔薬曝露と子どもの発達」に興味を持ってウォッチしてきました。
学術的にも小児期の麻酔と学習障害(LD)の関係が取り沙汰されてきましたが、今回ADHDとの関連を示すデータが報告されました;
■ 2歳までの全身麻酔反復曝露でADHDリスク2倍
(2012年2月6日:メディカルトリビューン)
◇ 米メイヨ―・クリニック研究,出生コホート5,000人超対象
米メイヨ―・クリニック小児麻酔科医のDavid O. Warner氏らは,児の全身麻酔曝露と注意欠如・多動性障害(ADHD)発生との関連を検討するため,出生コホート約5,000人超を対象に観察研究を行った。その結果,2歳までに全身麻酔に複数回曝露した児が19歳までにADHDを発症するリスクは約2倍に上ることが分かった(Mayo Clin Proc 2012; 87: 120-129)。同氏らは「リスクの上昇は明らかになったが,因果関係が証明されたわけではない」として,あらゆる危険因子を考慮したさらなる研究の必要性を訴えている。
◇ 19歳までのADHD累計発生率7.6%,平均発症年齢10.3歳
動物実験では,麻酔薬や鎮静薬の曝露により発達過程にある脳に神経変性が起こることが既に知られているという。さらに,Warner氏らの研究グループが出生コホート研究で麻酔薬の反復曝露と学習障害(LD)との関連について報告していることから(関連記事),同氏らは同研究の出生コホートを用いて麻酔薬曝露とADHD(※)発生リスクについて観察研究を行った。
対象としたのは,米ミネソタ州ロチェスター市で1976年1月1日~82年12月31日に出生し,5歳以降も同市内に在住していた5,357人。ADHDの診断書などのほか,在学時の問題行動記録や医療診断書などからADHDの疑いがある場合はDSM-IVに基づいて判断した。麻酔の曝露については,2歳までの全身麻酔曝露の有無を調査し,曝露した児では曝露時間・回数,麻酔薬の種類などを集計した。
ADHDの発症を19歳までとしたところ,5,357人中341人がADHDを発症していた〔推計累計発生率7.6%(95%CI 6.8~8.4%)〕。なお,ADHD発症の平均年齢は10.3歳であった。
◇ 全身麻酔曝露は男児,低体体重出産時などで有意に多い
一方,全身麻酔は5,357人中350人が2歳までに1回以上受けていた(帝王切開時の曝露除く)。平均曝露時間は133分,曝露回数は1回が286人,2回以上が64人,最も多かった麻酔薬の種類はハロタンと亜酸化窒素の併用であった。また,非曝露の児に比べて,曝露は男児,低体重出産児,母親の低年齢妊娠で有意に多いことが認められた(すべてP<0.001)。
続いて,2歳までの全身麻酔曝露と19歳までのADHD発症について検討した結果,ADHDの推定累計発生率は7.3%(95%CI 6.5~8.1%)であった。曝露回数別にADHDの推定累計発生率を求めたところ,曝露1回では10.7%(同6.8~14.4%),曝露2回以上では17.9%(同7.2~27.4%)であった(図)。

◇ 曝露1回ではADHD発症リスクの有意な上昇示さず
Cox比例ハザード回帰モデルにより,母親の妊娠年齢,児の性,出生体重などで補正後の非曝露の児に対するADHD発生のハザード比(HR)を求めた。その結果,2回以上の反復曝露HRは1.95(95%CI 1.03~3.71)と,複数回の全身麻酔曝露でADHD発症リスクが有意に上昇した。しかし,曝露1回ではHR 1.18(同0.79~1.77)と有意差は示されなかった。
同氏らは,今回の結果を受け,「2歳までに全身麻酔による2回以上の反復曝露を経験した児は19歳までにADHDを発症するリスクが約2倍になることが分かった」と結論。ただし,「これにより因果関係が証明された訳ではない」として,あらゆる危険因子を考慮したさらなる研究の必要性を訴えている。(松浦 庸夫)
※ ADHD(attention-deficit/hyperactivity disorder)の診断が原著ではDSM-IVに基づいているため,本記事でも「注意欠如・多動性障害」と表記しているが,国際疾病分類第10版(ICD-10)における「注意欠陥多動障害」と同義である。
この報告では周産期麻酔(帝王切開、無痛分娩)が含まれてませんが、未熟な脳に麻酔薬を曝露するという意味では出生後の曝露より深刻な影響が出ることが推測されます。周産期麻酔曝露がADHDの原因になっていないかどうか、緊急の検証が必要です。
私は小児科医なので、病院勤務時代はハイリスク分娩の立ち会いをたくさん経験しました。腰椎麻酔が多いのですが、事情により全身麻酔が選択された場合は赤ちゃんにも麻酔薬が移行しやすいため、麻酔がかかった状態で生まれて(sleeping baby)、自分で呼吸できない状況が発生しうるのです。
「痛いからイヤ、麻酔をかけて無痛分娩にして!」などとお母さんの都合で赤ちゃんに負担をかけることはもってのほか・・・やめていただきたいですね。
<参考HP>
□ 無痛分娩と sleeping baby
□ 帝王切開の麻酔法
□ 産婦人科の基礎知識~胎児に対するリスク
学術的にも小児期の麻酔と学習障害(LD)の関係が取り沙汰されてきましたが、今回ADHDとの関連を示すデータが報告されました;
■ 2歳までの全身麻酔反復曝露でADHDリスク2倍
(2012年2月6日:メディカルトリビューン)
◇ 米メイヨ―・クリニック研究,出生コホート5,000人超対象
米メイヨ―・クリニック小児麻酔科医のDavid O. Warner氏らは,児の全身麻酔曝露と注意欠如・多動性障害(ADHD)発生との関連を検討するため,出生コホート約5,000人超を対象に観察研究を行った。その結果,2歳までに全身麻酔に複数回曝露した児が19歳までにADHDを発症するリスクは約2倍に上ることが分かった(Mayo Clin Proc 2012; 87: 120-129)。同氏らは「リスクの上昇は明らかになったが,因果関係が証明されたわけではない」として,あらゆる危険因子を考慮したさらなる研究の必要性を訴えている。
◇ 19歳までのADHD累計発生率7.6%,平均発症年齢10.3歳
動物実験では,麻酔薬や鎮静薬の曝露により発達過程にある脳に神経変性が起こることが既に知られているという。さらに,Warner氏らの研究グループが出生コホート研究で麻酔薬の反復曝露と学習障害(LD)との関連について報告していることから(関連記事),同氏らは同研究の出生コホートを用いて麻酔薬曝露とADHD(※)発生リスクについて観察研究を行った。
対象としたのは,米ミネソタ州ロチェスター市で1976年1月1日~82年12月31日に出生し,5歳以降も同市内に在住していた5,357人。ADHDの診断書などのほか,在学時の問題行動記録や医療診断書などからADHDの疑いがある場合はDSM-IVに基づいて判断した。麻酔の曝露については,2歳までの全身麻酔曝露の有無を調査し,曝露した児では曝露時間・回数,麻酔薬の種類などを集計した。
ADHDの発症を19歳までとしたところ,5,357人中341人がADHDを発症していた〔推計累計発生率7.6%(95%CI 6.8~8.4%)〕。なお,ADHD発症の平均年齢は10.3歳であった。
◇ 全身麻酔曝露は男児,低体体重出産時などで有意に多い
一方,全身麻酔は5,357人中350人が2歳までに1回以上受けていた(帝王切開時の曝露除く)。平均曝露時間は133分,曝露回数は1回が286人,2回以上が64人,最も多かった麻酔薬の種類はハロタンと亜酸化窒素の併用であった。また,非曝露の児に比べて,曝露は男児,低体重出産児,母親の低年齢妊娠で有意に多いことが認められた(すべてP<0.001)。
続いて,2歳までの全身麻酔曝露と19歳までのADHD発症について検討した結果,ADHDの推定累計発生率は7.3%(95%CI 6.5~8.1%)であった。曝露回数別にADHDの推定累計発生率を求めたところ,曝露1回では10.7%(同6.8~14.4%),曝露2回以上では17.9%(同7.2~27.4%)であった(図)。

◇ 曝露1回ではADHD発症リスクの有意な上昇示さず
Cox比例ハザード回帰モデルにより,母親の妊娠年齢,児の性,出生体重などで補正後の非曝露の児に対するADHD発生のハザード比(HR)を求めた。その結果,2回以上の反復曝露HRは1.95(95%CI 1.03~3.71)と,複数回の全身麻酔曝露でADHD発症リスクが有意に上昇した。しかし,曝露1回ではHR 1.18(同0.79~1.77)と有意差は示されなかった。
同氏らは,今回の結果を受け,「2歳までに全身麻酔による2回以上の反復曝露を経験した児は19歳までにADHDを発症するリスクが約2倍になることが分かった」と結論。ただし,「これにより因果関係が証明された訳ではない」として,あらゆる危険因子を考慮したさらなる研究の必要性を訴えている。(松浦 庸夫)
※ ADHD(attention-deficit/hyperactivity disorder)の診断が原著ではDSM-IVに基づいているため,本記事でも「注意欠如・多動性障害」と表記しているが,国際疾病分類第10版(ICD-10)における「注意欠陥多動障害」と同義である。
この報告では周産期麻酔(帝王切開、無痛分娩)が含まれてませんが、未熟な脳に麻酔薬を曝露するという意味では出生後の曝露より深刻な影響が出ることが推測されます。周産期麻酔曝露がADHDの原因になっていないかどうか、緊急の検証が必要です。
私は小児科医なので、病院勤務時代はハイリスク分娩の立ち会いをたくさん経験しました。腰椎麻酔が多いのですが、事情により全身麻酔が選択された場合は赤ちゃんにも麻酔薬が移行しやすいため、麻酔がかかった状態で生まれて(sleeping baby)、自分で呼吸できない状況が発生しうるのです。
「痛いからイヤ、麻酔をかけて無痛分娩にして!」などとお母さんの都合で赤ちゃんに負担をかけることはもってのほか・・・やめていただきたいですね。
<参考HP>
□ 無痛分娩と sleeping baby
□ 帝王切開の麻酔法
□ 産婦人科の基礎知識~胎児に対するリスク
失礼しました。
★無痛分娩でのリスクとは?
http://www.gpcreators.com/139_1.html