徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

インフルエンザ経鼻生ワクチン、効くの? 効かないの?

2018年09月17日 08時51分21秒 | 小児科診療
 それまで不活化タイプしかなかったインフルエンザワクチンに、鳴り物入りで2003年に登場したのが「経鼻生ワクチン」。
 たしか「有効率90%」が謳い文句にあったと記憶しています。
 アメリカで登場してから15年が経ちますが、まだ日本では認可されていません(噂ではもうすぐらしい)。

 生ワクチンは症状が出ない程度に弱毒化したウイルスを注射して人に感染させて免疫を獲得させるというメカニズム。
 一般的に不活化ワクチンより有効率が高い傾向があります。

 差が出るのは乳幼児です。
 現行の不活化ワクチン(スプリットワクチン)では、インフルエンザ感染歴のない乳幼児への効果は期待できません。
 なぜなら、不活化ワクチンは既に獲得した免疫を再活性化する能力(ブースター効果)はありますが、獲得免疫のない状態では感染・発症を阻止できないのです(重症化予防は期待できます)。
 一方の生ワクチンは軽く感染させるというメカニズムなので、初期免疫を獲得可能です。

 と大きな期待が集まる中、蓋を開けてみると現実には一筋縄ではいかず、なんと2016/17シーズンには「効果が期待できないので推奨しない」とCDCが答申し、関係者を驚かせました。
 私の率直な感想は「生ワクチンが効かないって、どういうこと?」でした。

 しかし疑問が解ける前に、今シーズン(2018/19)は、経鼻生ワクチンが推奨ラインナップに戻りました。
 いったい何が起きているんだろう?

インフル経鼻ワクチン、米国で再度接種推奨へ
2018/3/3 古川 湧=日経メディカル
 米国疾病管理予防センター(CDC)の予防接種諮問委員会(ACIP)は2月21日、インフルエンザの2018/19シーズンにインフルエンザ経鼻ワクチン「フルミスト(FluMist Quadrivalent)」を米国で再度接種推奨することを決定した。
 フルミストは鼻腔に噴霧するタイプの4価の弱毒生ワクチンで、A(H1N1)pdm2009(AH1pdm09)、A(H3N2)、B(山形系統)、B(ビクトリア系統)を対象としている。2003年の登場以来、米国や欧州で一般的に使用されており、日本では承認されていないものの医師が個人輸入して使用するケースがある。
 フルミストは2013/14シーズンからワクチン効果の低下を指摘されており、CDCは2016/17シーズン以降、同ワクチンを接種推奨リストから取り下げていた。
 ACIPの推奨再開は、販売元の英AstraZeneca社が米国で行った臨床試験の結果を受けたもの。2~4歳未満の小児200例を対象に、2015/16シーズン用フルミストと2017/18シーズン用フルミストの、AH1pdm09に対する抗体価の上昇率を評価した。その結果、1回の接種で抗体価が4倍に上昇した子どもの割合は2015/16シーズン用が5%だったのに対し、2017/18シーズン用では23%だった。接種回数を2回にすると、抗体価が4倍に上昇した割合は12%と45%となった。
 米国において2015/16、2017/18シーズンの流行の主流はAH1pdm09だった。2015/16シーズン用フルミストのワクチン効果は一般的な皮下接種不活化ワクチンと比べて有意に低かったと報告されており、特にAH1pdm09に対してはほとんど効果がなかったとされている(関連記事:インフル用経鼻ワクチンが効かなくなった理由)。
 AstraZeneca社は臨床試験の結果について「2017/18シーズン用ワクチンのAH1pdm09株は、2015/16シーズン用ワクチンよりも有意に良好に作用することが示された」としている(AstraZeneca社プレスリリース)。国内では、AstraZeneca社と契約した第一三共がフルミストの開発を2015年から進めており、現在製造販売申請中となっている。



 有効性が確認できたから復活、といっても当初の「有効率90%」とはほど遠い数字です。
 もう一度、文中に引用されている過去の記事「インフル用経鼻ワクチンが効かなくなった理由」を読み返してみました。
 要約しますと、

・2〜17歳での効果(全型のインフルエンザを対象)は、①経鼻生ワクチン、②皮下不活化ワクチンで表示すると、
(2013-2014)・・・ ①マイナス1%、②約60%
(2014-2015)・・・ ①3%、    ②(記載なし)
(2015-2016)・・・ ①3%、    ②約60%

・2012年までの過去3シーズンはフルミストの効果が50%から70%(一般的な皮下接種の不活化ワクチンとほぼ同程度)

・一般論として、不活化ワクチンと異なり、生ワクチンの場合はすでに感染歴があるとワクチンウイルスが体内で排除されてしまうために効果が弱い。直近の数年、同じH1N1型が流行しており、気づかないうちに多くの子どもがH1N1ウイルスに曝露されたことで効果が発揮されなかったのではないか。

・異なる型の生きたインフルエンザウイルスは互いに干渉し合うことが知られており、体内で増えなかった型のワクチン効果は下がることになる。それでも、なぜH1N1型に対する抗体価が上がらなかったのかなど、謎が多い。



 ・・・と結局、闇の中。
 ただ、注目すべきは「免疫のあるヒトにワクチンを接種しても、感染しないという点では変わらない(つまり効果がないようにみえてしまう)」という基本的事実。
 これがインフルエンザワクチンの評価を複雑にしている主因と考えられます。
 インフルエンザは毎年変異しているので大人でも繰り返しかかります。
 でも毎年というヒトは珍しいでしょう。まあ数年毎、「忘れた頃、油断しているとかかってしまう」というイメージではないでしょうか。

 そうなんです。
 毎年少しずつ変異しているので、一度罹って獲得した免疫は、数年間は有効なのです。
 でも3年も経つと、変異の積み重ねでかなり違ったウイルスとなり、過去の免疫が役立たなくなってしまう。

 ちなみに、一度獲得したインフルエンザの免疫は、型の変異がなければ数十年有効であることが証明されています。

 話を経鼻生ワクチンに戻します。
 「一定の比率で免疫を持っている集団にワクチンを接種しても、差が出にくい=無効と判断されてしまう」のですね。

 でもこの辺の事情をあまねく国民に周知するのは難しそう。
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