徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

「厚生労働大臣は風疹の国家的予防接種施策の発動を拒否した」by CDC

2013年06月29日 06時17分39秒 | 小児科診療
 世界の常識からみて、現在の日本の風疹対策がいかに非常識なのかを象徴するコメントがCDC(アメリカ疾病予防管理センター)から発せられました。

米CDC、日本の風疹予防対策不備に警戒、日本への渡航注意を呼びかけ
(2013年06月28日:QLife Pro)

CDC日本の風疹対策を批判
 アメリカ疾病予防管理センターCDCは、日本における風疹流行の現状に対し、「日本の厚生労働大臣は国家的予防接種施策の発動を拒否」と報じ渡航に注意するよう呼びかけている。6月24日、NYタイムズが報じた。
 風疹が流行している日本とポーランドへの渡航に際し、妊娠しているかその可能性がある女性は、医師と相談するように注意を促している。
妊娠10週以内で90%が先天性風疹症候群
 欧米では「ドイツはしか(German Measles)」と呼ばれる風疹。風疹ウイルスによる飛沫感染または直接接触感染で、感染が広がる。風疹自体は、発疹と熱程度で数日で治癒するが、妊娠10週以内の妊婦が感染した場合、90%の確率で先天性風疹性症候群を合併するとされている。この先天性風疹症候群の典型的症状は、心奇形・難聴・白内障である。
日本の風疹予防接種体制への懸念
 2012年に兵庫県で大流行してから、国内では10,000人以上が発症。これは2011年のアジアでの大流行が飛び火したものと言われている。
現在、国内では都市部を中心に発症が増加、神奈川県と大阪府では非常事態宣言が出されている。ポーランドでも同様に26,000人以上が発症している。問題が指摘されているのは、日本の「異常な (peculiarity) 」ワクチン史が原因で,発症者の75%は20-40代男性である、という点。
 国内では1976年まで中学2年の女子にだけ風疹の予防接種をしており、その後、予防接種が個人単位になったことや自治体単位での法改正などから、1979~1987年に生まれた人では、予防接種を受けてない人が多数いる。
 アメリカでは風疹の予防接種を2回義務づけており、永住するには風疹の予防接種を必須としている。
 また、近年では、アメリカでの風疹発症は日本人が持ち込んだとさえ言われるほどである。
先天性風疹症候群の発症例を重視
 CDCは、今回の大流行で日本国内では2013年1月~5月に先天性風疹症候群が少なくとも5例は発生しているにもかかわらず,日本の厚生労働大臣は国家的予防接種施策の発動を拒否した、との点を強調。
 予防接種を受けていない世代が、働き盛りであることが流行の一因でもあり、医療界からは、早くから風疹制圧のため、ワクチンの積極的接種の助成や不足するワクチンの緊急輸入など、多くの要請が行われているものの、田村憲久厚生労働相は「特別な対応を取るところまでは来ていない」と述べ何ら対応しない姿勢を崩していない。残念ながらCDCがこうした発表を行った以上、海外からの観光やビジネスでの来日が減る事も予想され、せっかくの景気回復に水を差す可能性すら懸念され始めた。もはや一国の対応では済まされない状況になりつつある。国益を損ねる前に厚労省の前向きな対応を期待したい。


 とにかく、田村厚生労働大臣の発言は医療者からみると「信じられない!」レベル。
 妊娠初期に風疹に罹り、自分のお腹の中にいる命をどうすべきか選択を迫られている母親の気持ちを考えたことがあるのでしょうか。
 CRSの発生数の60倍の人工妊娠中絶が存在するという報告もあります。すると、生まれてくるはずの600の命が「なかったもの」とされた可能性が・・・。
 風疹の被害者はCRSとしての数字だけで判断できないのです。
 CRSの子を持つ母のコメントです;

母と子を風しんから守るためワクチンを打ってください
(医療ガバナンス学会 :2013年6月27日)

 先天性風疹症候群(CRS)の子をもつ母 
 可兒 佳代、川井 千鶴、西村 麻依子

 私たちの子供は、CRSという病気をもって生まれてきました。私たち母親が妊娠中に風しんにかかったのが原因です。ずっと苦しい思いを抱いてすごしてきま した。それなのに、去年からの風しんの流行で、すでに11人(2013年6月24日現在)のCRSのお子さんが生まれています。もうこれ以上は待っていら れません。田村憲久厚生労働大臣に、CRSの子の母の気持ちを知っていただき、そして国が主体となって風しんワクチン接種を推進してほしいと思い、私たち は立ち上がりました。

 6月16日、新宿の国立国際医療研究センターで開催された『風疹の流行を止めよう緊急セミナー』に参加し、当時者としての気持ちを述べました。そして、翌 17日に、厚生労働省に要望書と手紙を渡しに行きました。17日は、田村厚生労働大臣はもとより、副大臣や大臣政務官には会ってもらえず、結核感染症課の 課長補佐の方に要望書をお渡ししました。
とても短い時間でお手紙を読みました。要望書を渡しても、その方は無言で受け取っただけでした。私たちは、自分 たちの思いが軽視されたように感じました。

 その後の記者会見では、たくさんの報道陣の方々に集まっていただきました。すごく緊張しましたが、みんなの代表として伝えたい事を言いました。1番伝えた かったのは「この風疹の流行で、多くの赤ちゃんが中絶されている。これ以上、小さな命を亡きものにしたくない!」という事です。

 記者会見の後も、
たくさんの取材を受けました
・風疹の流行によって、今も不安な気持ちでいる妊婦さんがおられること
・『産む・産まない』の選択を迫られている人がいること
・亡くなっていく命があること
・それを風疹ワクチンによって無くしたいこと
・その為には臨時接種が必要な事
を伝えました。どうか思いが伝わりますように。

 帰りに乗ったタクシーの運転手さんに、「厚労省で何かあったの?」と聞かれたので、「風疹ワクチンの臨時接種を求めるため要望書の提出をして、記者会見し てきたのです」と、説明すると、運転手さんは「あれ、副作用あるんでしょ?」と。一般の方々にとって、ワクチンは必ずしも正しく理解してもらえていないこ とが多いです。

 記者会見で理化学研究所の加藤茂孝博士が説明しましたが、日本で開発されたMRワクチンは、とても弱毒化されており、副作用がほとんどありません。ワクチ ンの副作用とワクチンを打たないリスクを天秤にかけた時、圧倒的にワクチンを打たないことで、麻疹や風疹に感染する健康リスクの方が高いのです。

 6月18日、風しん患者数が10,102人と、1万人を超えました。しかし田村大臣は、風しん患者は「まだ一万人」とおっしゃっています。先進国で風疹が 流行っているのは日本だけです。私たちにとっては『まだ』一万人ではなく『もう』一万人なのです。この風疹の流行のために何人のお母さんがお腹の中の赤 ちゃんを諦めたか分かりません。生きている命を殺したのです。風疹さえ流行らなかったら産まれていた命を、です。私たちCRSの子の母は先天性風疹症候群 のお子さんが産まれると、胸が引き裂かれそうなくらい苦しくなります。本当に悔しい思いです。田村大臣と厚生労働省は、もっともっと先天性風疹症候群のお 子さんが生まれても良いと考えているのでしょうか?それによる中絶が増える事も関係ないのかと・・・。

 また、厚生労働省は、ワクチンが不足する可能性があるから、接種を、妊娠を希望する女性と、その周囲の方を優先するように通知を6月9日に出しました。こ れでは、風しんや、CRSはなくなりません。何故なら、私たち自身が、周囲には風しん患者さんはおらず、どこで誰から風しんをもらったか不明だからです。 
田村大臣のコメントは、やがて自然に風しんの流行が終息するのを待て、その間に起きることは仕方ない、という事だと感じました。

 田村厚労大臣と厚生労働省は母と子供を守るつもりはないのでしょうか。CRSの子どもたちは何も悪くありません。どうか願いをきいて下さい。私達は、あきらめません。これからもワクチンによる風疹の撲滅を目指します。めざしましょう!ストップ風疹。


 CDCから「日本の異常なワクチン史」とまで言われてしまった日本のワクチン行政は「責任回避」「批判されないよう」「訴えられないよう」方針を決めてきました。

・HPV(子宮頸がん)ワクチンに罹っても国は訴えられませんが、HPVワクチンで副反応が出ると訴えられます。
・日本脳炎に罹り後遺症が残っても国は訴えられませんか、日本脳炎ワクチンで副反応が出ると訴えられます。
・妊婦が風疹に罹ってCRS児が生まれても国は訴えられませんが、風疹ワクチンで副反応が出れば訴えられます。

なら、やらない方が無難・・・という判断です。
現場の認識とどんどん乖離し、世界の常識からも乖離して今回のような事態に陥いることになったのですね。

※ この「無責任体質」は司法と連動していますので、根本的解決法は「無過失保障制度」なのですが、まだワクチン行政に関しては導入されていません。
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