アトピー性皮膚炎はスキンケアが大切なことは常識ですが、それを支持する最近の報告、指針を紹介します。
まずは日本の報告から;
■ 保湿剤でアトピー3割低下 新生児に毎日使用で
(2014/10/2:日本経済新聞)
新生児に出生直後から毎日保湿剤を塗ると、約8カ月後のアトピー性皮膚炎の発症率が3割低下したとの研究成果を、国立成育医療研究センターがまとめ、1日発表した。
国内では未就学児の10~30%がアトピー性皮膚炎を患っているとされる。アトピー性皮膚炎になると食物アレルギーなどのほかのアレルギー性疾患にもなりやすいとされ、これらの発症予防につながる可能性がある。
チームは、アトピー性皮膚炎になった経験のある親を持つ新生児118人を、毎日1回以上、全身に保湿剤を塗るグループと、特別なスキンケアをしないグループに分け、32週後に専門医が湿疹の状態を診断した。
その結果、保湿剤を塗ったグループは、アトピー性皮膚炎の発症率が約3割低かった。乾燥で角質細胞が傷つき皮膚の保護機能が低下するのを予防できたとみられる。
血液を調べた結果、アトピー性皮膚炎になった場合は、卵アレルギーを発症しやすいことも分かった。同センター生体防御系内科部アレルギー科の大矢幸弘医長は「アトピー性皮膚炎の発症率をさらに減少させ、食物アレルギーの発症予防を実現したい」と話した。
保湿剤の種類が書いてないのが残念。
保湿剤にもいろいろありますので・・・ん、検索してみると資生堂の「2e(ドゥーエ)」という商品のようです。
■ 新生児期の保湿がアトピー発症率を3割減に~成育医療センターがJ Allergy Clin Immunol誌に発表
(2014/10/3 加納亜子=日経メディカル)
成分は「ヘパリン類似物質」で、元々は製薬会社マルホさんから「ヒルドイド」として販売されているモノですね。
当院ではそのヒルドイドのジェネリックである「ビーソフテン」を採用しています。
(余談ですが、記事を担当している加納さんの取材を受けたことがあります。はつらつとした「リケジョ」でした。)
次は米国小児科学会の指針です;
■ 小児アトピー性皮膚炎「場合により入浴は2~3日に1回でもOK」~米小児科学会が非専門医向けGL
(2014.11.26:MTPro)
米国小児科学会(AAP)が皮膚科やアレルギー科を専門としないプライマリケア医向けのアトピー性皮膚炎(AD)に関するガイダンス“Atopic Dermatitis: Skin-Directed Management”を発表(pediatrics 2014年11月24日オンライン版)。ADケアの行動計画として,ステロイド外用剤の使用の目安や十分な保湿などの日常的なケアに関する勧告を記載した。本人が入浴を楽しめない場合などにはその頻度を2~3日に1回とすることなどを推奨している。
□ 「ADへの早期介入でアレルギーマーチの進展が予防できる可能性」
ガイダンスでは,2008年頃からADは皮膚バリア機能の原発性の異常によるとの仮説を裏付ける報告が行われており,AD治療には皮膚の直接管理(skin-directed management)が特に重要との見解を示している。一方,食物アレルギーとの関連については「複雑な関わりがあるが,その関連が強調されすぎているようだ」と指摘。「真の食物によるADはまれ」で,食物アレルギーが確定診断されていない場合,卵アレルギーなどの一部の例外を除き「ADにおける除去食の意義を支持するエビデンスは少ない」との政府機関(NIAID)ガイドラインの見解を紹介している。
一方,ADを起点に喘息やアレルギー性鼻炎を発症する「アレルギーマーチ」については,早期にADの至適治療が行われることで進展を抑制できる可能を示す報告があると説明。また,皮膚の直接管理を実施しているにもかかわらず,十分な治療効果が得られない場合にはアレルギー性接触性皮膚炎(ACD)の可能性も考慮に入れるべきと述べている。
ガイダンスではAD管理のゴールは皮膚バリア機能の修復と維持を目標としたスキンケアの継続を基本に掲げ,行動計画を示した。項目の一部は次の通り。
・子供が入浴を楽しんでいれば毎日10~15分,ぬるめのお湯に浸かっても良い。もし入浴を楽しんでいない,あるいは(保護者が)水分が子供の皮膚に刺激を与えていると感じる時には入浴を2~3日に1回にする。石けんは刺激の少ないものを汚れた場所,入浴の最後にのみ使用する
・入浴後には体の水分は軽く押さえて取り,湿ったままにしておく
・保湿剤(クリームまたは軟膏が望ましい,ガイドラインでは別途「クリームは添加剤がアトピー症状の刺激になることがある」と説明している)を顔と体全体に塗布する。処方された外用剤および保湿剤は入浴後数分以内,皮膚が完全に乾かないうちに使用すべき
・処方された外用剤は赤みや湿疹病変が無くなるまで続ける。2週間経っても湿疹が改善しない場合には医師に相談する
・湿疹がきれいになった後も顔全体,全身の保湿を継続する
□ 入浴回数「十分な検討なく議論が続いている」
ガイダンスでは,AD患児の適切な入浴回数については十分な検討がなく,議論が続いていると指摘。入浴後に保湿が行われていれば,湯船に浸かることや毎日の入浴はAD患者にとってベネフィットがあるとの報告を紹介し,個別の入浴回数は患児の状態や本人の入浴に対する意欲に応じて調節すべきとの見解を示している。
「保湿ケア」が話題になる度に、私は愛育病院皮膚科の山本一哉先生の話を思い出します。
彼がモンゴルを訪れた時、首都ウランバートルの子どもたちは日本同様、痒い湿疹で悩んでいました。それから遊牧民族の移動式住居「ゲル」をへ行くことになり、「さぞかし湿疹が多いことだろう」と思いきや、年数回しかお風呂の入らない遊牧民族の子どもたちの肌はツルツルであることに驚いたそうです。
そこで気づいたことは「究極の皮膚バリアは皮脂と垢」。
ただし「臭かった」と。
いろいろな要素はあるのでしょうが、湿疹の原因の一つは「清潔信仰~洗いすぎ」なのですね。
日本はどうでしょうか。
毎日入浴し、冬の乾燥する季節はエアコンでさらに湿度を下げています。
これで保湿ケア無しでは、皮膚が悲鳴を上げても仕方ありません。
湿疹患者さんから
「保湿ケアはいつまで続けなければいけないのでしょうか?」
と質問を受けることをあります。
私は上記エピソードを紹介し、
「毎日入浴&エアコンという生活をしている限りずっと必要です。」
「清潔でカサカサの皮膚か、ちょっと臭うけど風呂に入らないツルツルの皮膚か・・・この2つの間のどこで妥協するかは個人個人の考えです」
とお話ししています。
まずは日本の報告から;
■ 保湿剤でアトピー3割低下 新生児に毎日使用で
(2014/10/2:日本経済新聞)
新生児に出生直後から毎日保湿剤を塗ると、約8カ月後のアトピー性皮膚炎の発症率が3割低下したとの研究成果を、国立成育医療研究センターがまとめ、1日発表した。
国内では未就学児の10~30%がアトピー性皮膚炎を患っているとされる。アトピー性皮膚炎になると食物アレルギーなどのほかのアレルギー性疾患にもなりやすいとされ、これらの発症予防につながる可能性がある。
チームは、アトピー性皮膚炎になった経験のある親を持つ新生児118人を、毎日1回以上、全身に保湿剤を塗るグループと、特別なスキンケアをしないグループに分け、32週後に専門医が湿疹の状態を診断した。
その結果、保湿剤を塗ったグループは、アトピー性皮膚炎の発症率が約3割低かった。乾燥で角質細胞が傷つき皮膚の保護機能が低下するのを予防できたとみられる。
血液を調べた結果、アトピー性皮膚炎になった場合は、卵アレルギーを発症しやすいことも分かった。同センター生体防御系内科部アレルギー科の大矢幸弘医長は「アトピー性皮膚炎の発症率をさらに減少させ、食物アレルギーの発症予防を実現したい」と話した。
保湿剤の種類が書いてないのが残念。
保湿剤にもいろいろありますので・・・ん、検索してみると資生堂の「2e(ドゥーエ)」という商品のようです。
■ 新生児期の保湿がアトピー発症率を3割減に~成育医療センターがJ Allergy Clin Immunol誌に発表
(2014/10/3 加納亜子=日経メディカル)
成分は「ヘパリン類似物質」で、元々は製薬会社マルホさんから「ヒルドイド」として販売されているモノですね。
当院ではそのヒルドイドのジェネリックである「ビーソフテン」を採用しています。
(余談ですが、記事を担当している加納さんの取材を受けたことがあります。はつらつとした「リケジョ」でした。)
次は米国小児科学会の指針です;
■ 小児アトピー性皮膚炎「場合により入浴は2~3日に1回でもOK」~米小児科学会が非専門医向けGL
(2014.11.26:MTPro)
米国小児科学会(AAP)が皮膚科やアレルギー科を専門としないプライマリケア医向けのアトピー性皮膚炎(AD)に関するガイダンス“Atopic Dermatitis: Skin-Directed Management”を発表(pediatrics 2014年11月24日オンライン版)。ADケアの行動計画として,ステロイド外用剤の使用の目安や十分な保湿などの日常的なケアに関する勧告を記載した。本人が入浴を楽しめない場合などにはその頻度を2~3日に1回とすることなどを推奨している。
□ 「ADへの早期介入でアレルギーマーチの進展が予防できる可能性」
ガイダンスでは,2008年頃からADは皮膚バリア機能の原発性の異常によるとの仮説を裏付ける報告が行われており,AD治療には皮膚の直接管理(skin-directed management)が特に重要との見解を示している。一方,食物アレルギーとの関連については「複雑な関わりがあるが,その関連が強調されすぎているようだ」と指摘。「真の食物によるADはまれ」で,食物アレルギーが確定診断されていない場合,卵アレルギーなどの一部の例外を除き「ADにおける除去食の意義を支持するエビデンスは少ない」との政府機関(NIAID)ガイドラインの見解を紹介している。
一方,ADを起点に喘息やアレルギー性鼻炎を発症する「アレルギーマーチ」については,早期にADの至適治療が行われることで進展を抑制できる可能を示す報告があると説明。また,皮膚の直接管理を実施しているにもかかわらず,十分な治療効果が得られない場合にはアレルギー性接触性皮膚炎(ACD)の可能性も考慮に入れるべきと述べている。
ガイダンスではAD管理のゴールは皮膚バリア機能の修復と維持を目標としたスキンケアの継続を基本に掲げ,行動計画を示した。項目の一部は次の通り。
・子供が入浴を楽しんでいれば毎日10~15分,ぬるめのお湯に浸かっても良い。もし入浴を楽しんでいない,あるいは(保護者が)水分が子供の皮膚に刺激を与えていると感じる時には入浴を2~3日に1回にする。石けんは刺激の少ないものを汚れた場所,入浴の最後にのみ使用する
・入浴後には体の水分は軽く押さえて取り,湿ったままにしておく
・保湿剤(クリームまたは軟膏が望ましい,ガイドラインでは別途「クリームは添加剤がアトピー症状の刺激になることがある」と説明している)を顔と体全体に塗布する。処方された外用剤および保湿剤は入浴後数分以内,皮膚が完全に乾かないうちに使用すべき
・処方された外用剤は赤みや湿疹病変が無くなるまで続ける。2週間経っても湿疹が改善しない場合には医師に相談する
・湿疹がきれいになった後も顔全体,全身の保湿を継続する
□ 入浴回数「十分な検討なく議論が続いている」
ガイダンスでは,AD患児の適切な入浴回数については十分な検討がなく,議論が続いていると指摘。入浴後に保湿が行われていれば,湯船に浸かることや毎日の入浴はAD患者にとってベネフィットがあるとの報告を紹介し,個別の入浴回数は患児の状態や本人の入浴に対する意欲に応じて調節すべきとの見解を示している。
「保湿ケア」が話題になる度に、私は愛育病院皮膚科の山本一哉先生の話を思い出します。
彼がモンゴルを訪れた時、首都ウランバートルの子どもたちは日本同様、痒い湿疹で悩んでいました。それから遊牧民族の移動式住居「ゲル」をへ行くことになり、「さぞかし湿疹が多いことだろう」と思いきや、年数回しかお風呂の入らない遊牧民族の子どもたちの肌はツルツルであることに驚いたそうです。
そこで気づいたことは「究極の皮膚バリアは皮脂と垢」。
ただし「臭かった」と。
いろいろな要素はあるのでしょうが、湿疹の原因の一つは「清潔信仰~洗いすぎ」なのですね。
日本はどうでしょうか。
毎日入浴し、冬の乾燥する季節はエアコンでさらに湿度を下げています。
これで保湿ケア無しでは、皮膚が悲鳴を上げても仕方ありません。
湿疹患者さんから
「保湿ケアはいつまで続けなければいけないのでしょうか?」
と質問を受けることをあります。
私は上記エピソードを紹介し、
「毎日入浴&エアコンという生活をしている限りずっと必要です。」
「清潔でカサカサの皮膚か、ちょっと臭うけど風呂に入らないツルツルの皮膚か・・・この2つの間のどこで妥協するかは個人個人の考えです」
とお話ししています。