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徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

2025年春の花粉飛散量は過去10年で最多!?

2024年10月07日 06時37分01秒 | 小児科診療
これから冬のインフルエンザシーズンを迎えますが、
メディアは早くも来年春の花粉飛散量の予想を報じています。

なんと春の花粉(スギ・ヒノキ)飛散量は「過去10年で最多」との予想。
・・・お、恐ろしい。
花粉飛散量は前年夏の暑さが関係しますので、
今年夏の暑さを思い返すと頷けますね。

▢ 2025年春の花粉飛散量、西日本は過去10年で最多か
2024/10/02:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 2024年10月1日、ウェザーニューズが2025年春の「第一回花粉飛散傾向」を発表した。北海道や東北地方の一部などを除くほとんどの地域で、平年(2015~2024年の平均)を上回る花粉の飛散量になると予想した。特に、近畿から九州地方までの西日本では、過去10年で最多の飛散量となる可能性がある。なお、「第一回花粉飛散傾向」では、北海道以外の地域でスギとヒノキ、北海道でシラカバの花粉について報告された。

 2024年の夏は、全国的に平年より気温が高く、日照時間も長い地域が多かった。そのため、花粉の発生源となる雄花が成長し、飛散量も平年を上回る見込みだ。2024年春の飛散量が少なかった西日本では、特に大量の飛散が予想され、京阪神地域では前年比で4倍超、香川県では前年比で8倍超になる可能性もあるという。また、関東地方や北陸地方、東海地方でも、前年より多量の花粉飛散が予測されている(図1)。


図1 2025年花粉飛散傾向(2024年比)※weathernewsより引用

 一方、2024年の飛散が比較的多かった北海道や東北地方の北部では、前年を下回る予想。花粉の飛散が多い「表年」と少ない「裏年」が交互に訪れる傾向があることを踏まえ、2025年は「裏年」の傾向が強くなる見込みだとした。ただ、北海道で平年の84%、東北北部で平年の112%と、平年並みの花粉飛散は見込まれるため油断は禁物だ。

<各地域の花粉飛散予測>
北海道:平年比84%、前年比48%
東北地方北部:平年比112%、前年比60%
東北地方南部:平年比128%、前年比96%
関東地方・山梨県:平年比151%、前年比138%
北陸地方・長野県:平年比156%、前年比176%
東海地方:平年比140%、前年比112%
近畿地方:平年比213%、前年比302%(京阪神地域は平年比200%超、前年比400%超の予想)
中国・四国地方:平年比232%、前年比527%(瀬戸内地域は前年比800%超のエリアもある予想)
九州地方:平年比181%、前年比287%(平年比200%超、前年比400%超の地域もある予想)


当院では春の花粉症症状が重く、
薬を使っていてもつらい患者さんには「舌下免疫療法」を提案していますが、
近年人気があって薬が足らなくなり(スギ花粉をアナログ的に集めて作ってます)、
現在薬の供給が停止状態で、新たにはじめられない状況が続いています。


この咳、マイコプラズマ?

2024年10月04日 05時51分06秒 | 小児科診療
「マイコプラズマが流行しています」
との情報が繰り返しTVから流れてきます。

当院外来にも心配して受診される患者さんが増えてきた印象。

さて、マイコプラズマとそれ以外の風邪の咳を見分けることは可能なのでしょうか?
「迅速検査をすればいい」
と仰る方が居るかもしれませんが、
咳をしている患者さん全員に検査するのは現実的ではありません。

では私はどうしているかというと・・・
発症からの経過で大まかに判断しています。
その特徴は・・・

・咽頭痛で始まることが多い。
・熱の勢いは弱いことが多い(高熱が出ることもあります)。
・咳は発症後1週間経っても勢いが止まらない。
・比較的元気。

等が揃うと可能性が高いと考えています。
とくに咳の経過が大切で、
ふつうの風邪の咳のピークは発症後3-4日目頃ですが、
マイコプラズマの場合はそれを過ぎて勢いを増してきます。

上記項目からマイコプラズマが疑われると、
私はマイコプラズマに有効な抗菌薬(=抗生物質)を処方します。
そして、マイコプラズマに有効な抗菌薬は特殊なのです。

高齢者の肺炎に使用される抗菌薬は、
伝統的なペニシリン系、セフェム系が基本ですが、
これらはマイコプラズマには効きません。
近年主流になったキノロン系は有効ですが、
小児適応のある薬剤が少なくあまり選択されません。

マイコプラズマにはマクロライド系という種類の抗菌薬が有効で、
私はこれを選択して処方します。

しかし発症後1-2週間が既に経過して咳がひどくなっている場合は、
抗菌薬で菌を消失させても咳の勢いは止まらないのも、
マイコプラズマの特徴です。

そんな時、私は漢方薬を提案します。
顔を真っ赤にして咳き込む、
咳き込んで吐いてしまう・・・
実はこんな症状に効く漢方薬が存在します。

さて、最近の記事からマイコプラズマに関係するモノを拾ってみましょう。

▢ マイコプラズマ肺炎の見分け方 「3日目の咳がポイント」 医師が解説する症状と対策
2024/10/2:テレ朝ニュース)より一部抜粋(下線は私が引きました);

▶ マイコプラズマ肺炎の見分け方 「3日目の咳がポイント」 
 いま急増しているマイコプラズマ肺炎は、風邪の症状とよく似ているということですが、どうやって見分ければいいのでしょうか。今年のマイコプラズマ肺炎の感染者数は、全国的に見ても去年の37倍と大流行しています。いとう王子神谷内科外科クリニックの伊藤博道院長に話を聞きます。

▶ 風邪とマイコプラズマ肺炎の見分け方

―風邪とマイコプラズマ肺炎の症状は非常によく似ています。発熱、咳、倦怠感、のどの傷み、鼻水などがあり、見極めが難しいとされています。自分が風邪なのか、マイコプラズマ肺炎なのか不安な人もいると思います。伊藤院長によると、見極め方のポイントは「3日目の咳」だということですが、これはどういうことでしょうか? 
伊藤院長 「最初の1日目や2日目は、通常の風邪との見分けを付けるのがなかなか難しいです。3日目になると、風邪であれば自然に治ったり、市販薬で治る頃です。マイコプラズマ肺炎の場合、3日目から咳がひどくなることが多いです。かなり深いところから出るような咳や、痰が絡んだり、ゼーゼーしたり、胸の痛みを伴うような肺炎の症状が出てきたら要注意です」


▶ 厚生労働省が注意呼び掛け

―つまり、3日目以降に症状がひどくなった場合、マイコプラズマ肺炎を疑った方が良いと思いますが、医療機関を受診する目安も3日目か、もっと早い方が良いのでしょうか? 
伊藤院長 「最初からマイコプラズマ肺炎だけを疑う場合、3日目で良いですが、他の病気もありますので、患者さんの立場になって見れば、つらい症状があれば、もちろん1日目や2日目でも相談していただいて大丈夫です」 「ただ、レントゲンで影が出てくるタイミング、あるいは抗原検査で陽性になりやすい時期は、新型コロナウイルスでもインフルエンザでも、1日目よりも2日目や3日目の方が検査結果がはっきり出るケースも多いです」 「症状が強ければ、最初に相談に来ていただく。症状が軽微であれば1日から2日様子を見て、いよいよこれは咳が深いところから出てくるようになって、悪い方向に向かっているという時点で受診をして、マイコプラズマ肺炎の検査をすることがよろしいかと思います」・・・

この記事でも「3日目の咳がポイント」と私の印象と同じ事を指摘していますね。


咳が止まらない・・・マイコプラズマ感染症?

2024年09月25日 06時35分55秒 | 小児科診療
ふつうの風邪による咳は発症後3〜4日目頃がピークで、それ以降は改善に向かうとされています。
でも、その後も悪化の一途を辿ることがあります。
私はその場合、マイコプラズマ感染症を疑い、抗生物質の投与を考えます。

マイコプラズマはTVで最近よく取りあげられるようになりました。
「歩く肺炎」と呼ばれることがありますが、これは必ずしも高熱が出るわけではなく、元気に社会生活を送れる状態にもかかわらず、気がつくとこじれて肺炎になっていることを表現しています。

そう、熱の勢いはないんだけど、発症後1週間経っても咳の勢いが止まらない・・・こんな時に疑う感染症です。

しかし、他の病気・・・例えば副鼻腔炎による後鼻漏で咳が続くとか、喘息がベースにあるとか、を除外した場合の話です。
なので勝手に「私は咳が長引いているからマイコプラズマだ」と判断するのは間違いです。
医師の診察を受けてください。

マイコプラズマに関するわかりやすい解説が目に留まりましたので紹介します。
他の風邪とは異なる特徴が列記されています。
気になる薬剤耐性に関しては、微妙な書き方をしてますね。


▢ 特効薬が効かない「耐性マイコプラズマ」が増えているって本当? 感染予防策は
倉原優:呼吸器内科医
2024/8/24:Yahoo!ニュース)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
▶ マイコプラズマとは
 「マイコプラズマ」と聞くと、恐ろしい感染症のように思われるかもしれませんが、呼吸器感染症ではありふれた細菌です。インフルエンザや新型コロナなどのウイルスとは分類が異なり、マイコプラズマは「細菌」に位置付けられています。
 子どもに多い感染症ですが、家庭内で大人も感染する事例が増えています(図1)。ひどい場合、肺炎になってしまうことがあります。

図1.マイコプラズマ感染症の特徴(筆者作成、イラストは看護roo!)


▶ マイコプラズマ肺炎は実際に増えているのか?
 コロナ禍では、多くの感染症が低い流行水準に抑えられていました。この理由は、手洗いや手指消毒などの感染対策が強化されていたため、ヒトからヒトへの感染自体が少なかったからです。
 実際、新型コロナが5類感染症に移行してから、多くの感染症は急激に反転増加しました。子どもを中心に広がった、RSウイルス感染症、手足口病などがそうです。免疫の成立していなかった人が多かったため、感染が広がったと考えられます。
 さて、マイコプラズマ肺炎は確かに増加していますが、これもコロナ禍に抑え込まれていた部分が噴出したと考えられています。この10年の報告数を見ると、2016年の流行に次ぐ多さですが(図2)、過去経験したことがないほど激増しているわけではありません。肺炎になった症例だけが報告対象となっており、水面下には風邪どまりや気管支炎などの患者さんがたくさんいると考えられます。



 潜伏期が2週間と長い場合があること、無症状で保菌している子どもが多いことから、誰から感染したかわからないこともしばしばです。

▶ マイコプラズマの症状
 マイコプラズマに感染しても、簡単に肺炎になるわけではありません。風邪や気管支炎どまりのことも多いです。とはいえ、頑固な咳になりやすいので(図3)、気になるようなら早めに医療機関を受診してください。

図3.マイコプラズマの経過(筆者作成、イラストは看護roo!)


▶ 耐性マイコプラズマ
 乗用車にいろいろな車種があるように、抗菌薬にはいくつかの系統があります。微生物ごとに、その系統にあった抗菌薬を使います。
 たとえば、マイコプラズマ肺炎と診断された場合、マクロライド系という抗菌薬を使います。先ほど特効薬と書きましたが、この表現はいささか大げさで、この病原体に特化した治療薬ではなく、広く使われている薬剤です。
 実は、10年ほど前に、このマクロライド系が効きにくい、耐性マイコプラズマが流行しました(2)。当時は8割以上がマクロライド系に耐性でした。しかしその後、徐々に耐性率は下がっていきました(3)。これは流行する遺伝子型というものが変わったからと考えられています。
 今年の耐性マイコプラズマの比率はまだ不明です。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると(4)、最新のデータでは、カナダで12%、中国で80%(最近の研究では100%だそうです(5))、ヨーロッパは5%(ただしイタリアは20%)、アメリカは10%です。
 CDCのウェブサイトには「日本は50%以上」と書かれています。実は国内では10~20年ごとに、2種類の遺伝子型のマイコプラズマが交互に流行を繰り返していることがわかっています。そのため、耐性マイコプラズマと耐性でないマイコプラズマが交互に流行していいます。現在は、おそらく耐性でないタイプが流行していると思われます。
 しかし、中国では耐性でないはずのタイプが耐性化しているなど、マイコプラズマの顔つきが変わっているという報告もあることから(5)、今回の流行のデータを集める必要があります。
 ただ、決してこれら耐性マイコプラズマはマクロライド系が効かないわけではなく、他剤より効果が劣るだけです(6)。
 とてもやっかいな敵に変貌したわけではないので、過度な懸念は不要です。マイコプラズマの感染に注意は払うべきですが、かといって毎日不安に感じて過ごすほどではないでしょう。

▶ マイコプラズマの感染予防策
 マイコプラズマは、基本的に飛沫感染・接触感染でうつります。新型コロナやインフルエンザの感染予防策とほとんど共通しています(図4)。異なるのは、マイコプラズマにはワクチンがないということです。

図4.マイコプラズマの感染予防策(筆者作成)


 マイコプラズマは家族内で発症することが多いので、家族全員がゴホゴホ咳をしていたら、これを疑う必要があります。

<参考資料>
(2) Kawai Y, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2013 Aug; 57(8): 4046–4049.
(3) Kenri T, et al. Front Cell Infect Microbiol. 2020 Aug 6:10:385.
(5) Chen Y, et al. Front Microbiol. 2024 Aug 6:15:1449511.
(6) 日本呼吸器学会. 成人肺炎診療ガイドライン2024. メディカルレビュー社.


インフルエンザに対する痛くない(経鼻噴霧)ワクチン「フルミスト®」登場!

2024年09月01日 14時48分23秒 | 小児科診療
以前から米国で使用(2003年認可)されてきた「鼻に噴霧するインフルエンザワクチン」が、
2024/25年シーズンからようやく日本でも使えるようになりました。
その名は「フルミスト®」。

最大の特徴は鼻にスプレー噴霧するだけなので、痛くありません!
これまでインフルエンザが心配だけど、
とにかく注射が恐くてワクチン接種を避けてきたお子さんに朗報です。

ただし、鼻に噴霧するという性質からの注意点もあります。
・鼻炎で鼻水・鼻づまりがあるお子さん、
・鼻に噴霧した後に大泣きするお子さん、
・「フン!」と鼻をかむように出してしまうお子さん、
は効果が落ちますのでオススメできません。

同じ理由から以下のタイプのお子さんも無理だと思います。
・医院内、診察室に入るだけでギャン泣き幼児
・「予防接種」と聞いただけで拒否る子ども

その際に一つ気になるのが、ワクチンが入っている容器の形です。
…「注射器」そのものなのですよね。
もちろん注射針はついていませんが、
「注射器 → 恐い!」という先入観があると、
それを鼻に差し込むことに抵抗する子どもが出てきてもおかしくありません。
もっと子どもが受け入れやすいかわいい形にすればよかったのに…残念。

@DIMEより)

それから注射のインフルエンザワクチンは“不活化ワクチン”ですが、
経鼻ワクチンは“生ワクチン”です。
これは、弱毒化したウイルスをあえて鼻粘膜にくっつけることにより、
症状が出ない程度に感染させ、免疫だけつけるというシステム。
なので中には軽い風邪症状が出るお子さんがいます。
また、免疫不全状態のヒトは危険なので接種できません。

では、フルミストのポイントを概説します。

名称】フルミスト
性質】経鼻生ワクチン
接種方法】両鼻に0.1mLずつ噴射
接種回数】1回
効果持続】1年間
接種対象】2歳〜18歳
※ 鼻水等の症状のある方、泣いてしまって鼻汁でワクチンが流れ出てしまう可能性のあるお子様は接種できません(噴霧しても十分な効果が期待できません)。
接種できない方
・2歳未満、19歳以上。
・5歳未満の方で喘鳴(ゼーゼー)の歴があった方や、1年以内に喘息発作のあった方。
・免疫不全患者(抗がん剤治療を受けている人)や、免疫不全患者様をケアする立場にいる介護者の方
・心疾患、肺疾患・喘息、肝疾患、糖尿病、貧血、神経系疾患などの慢性疾患を持つ場合
・アスピリンを服用中の方
・妊婦の方
・重度の卵白アレルギーやゼラチンアレルギー、ゲンタマイシン、アルギニンアレルギーの方
・今風邪をひいていたり、鼻炎のひどい人
有効率】発症予防効果は3〜7割(注射ワクチンと同等)
副反応
・小児:鼻水、喘鳴、頭痛、嘔吐、筋肉痛、発熱、喉の痛み
その他の副反応についてはこちらでご確認ください。

生ワクチンというと、有効率(発症予防効果)が高いというイメージがあります。
麻疹・風疹ワクチンは90%以上ですから。
でもこの経鼻生ワクチンの有効率は不活化ワクチンとそう変わりません。
ちょっと残念・・・
ただ、有効期間が長く、不活化ワクチンの5ヶ月と比較して1年です。
これはいいですね。

最後に厚生労働省の説明会(2024年6月)で使用されたスライドから表を引用させていただきます。




表にあるように、米国では2003年、EUでは2012年に認可済みです。
日本は米国から遅れること20年で、ようやく認可されました。
厚労省というより日本の国民性でしょうか。

小児科医としては重症化が心配な乳児に接種したいところですが、
2歳未満では接種後の入院例・喘鳴頻度が上昇したため、「適応外」とされました。
日本もこれに準じています。

・・・当院でも導入を準備中です。

<参考>

<医療者用>



「マイコプラズマ疑い」で処方された粉の抗生物質が苦くて飲めません。

2024年08月22日 05時37分28秒 | 小児科診療
2024年夏、マイコプラズマが流行中です。
そしてマイコプラズマに有効な抗生物質は「マクロライド系」ですが、
この粉薬は苦いことで有名です。
製薬会社は粉にコーティングして苦みが出ないように加工していますが、
それでも後味に苦みが襲ってくるので、それを一度経験した子どもは次を拒否します。

私は薬を飲んだ後、さらに口の中を洗い流すイメージで水分を飲むよう指導しています。
それから苦い薬を飲むときの定番であるココアを推奨します。

その関連記事が目に留まりましたので紹介します。
どうやら酸性飲料(酸味のあるジュース)と一緒に飲むと、せっかくのコーティングが剥がれてしまうので苦みが増すようですね。
痰を切れやすくするカルボシステイン(=ムコダイン)は一緒に処方されることが多い薬ですが、この粉薬も産生のため、同じ理由で苦みが増すとのこと。

■ マクロライドの苦みと飲み合わせ
2024/08/07:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 苦味をマスクしているコーティングが剥がれるからです。
 一緒に内服する薬剤のpHにも注意が必要です。
 小児の服薬指導において、「薬を飲んでくれない」ということは永遠の課題です。・・・マクロライド系抗菌薬などのように苦味が強い薬もあります。マクロライド系抗菌薬の苦味はキニーネに匹敵するとされていることから、各製薬会社は小児用の細粒にコーティングを施してあります。コーティングによって口腔内のpH(6.8~7.0)では溶出しにくく酸性である胃の中で溶出するようになっているのですが、酸性飲料などと一緒に内服するとコーティングが壊れやすくなること、マクロライド系抗菌薬は酸性条件下で溶けやすいことなどの理由から、薬本来の苦味が表在化して、「苦くなってしまった」と感じるようになります1)。
 注意するポイントとしては「マクロライド系抗菌薬は去痰薬との相互作用にも注意する必要がある」が挙げられます。同時に処方されることがあるカルボシステインはpHとして酸性であることが多く、シロップだけではなくドライシロップや散剤に関しても同時に内服したときにマクロライド系抗菌薬が苦くなることがあります2)。また、製薬会社ごとにpHやコーティング方法が若干異なるため、苦味の強度は組み合わせによっても変わります。

<参考文献>

小児科医の堀向健太Dr.も記事を書いていました。
具体的な対策として、
・マクロライド系抗生物質を飲む際に、酸性度が強いモノは避け、酸性度が低いモノを選択する。
・薬と飲み物は直前に混ぜてコーティングが剥がれないうちに飲む。
ことを提案しています。

実はマクロライド系抗菌薬の中で「苦くなくて飲みやすい薬」が存在します。
ミオカマイシンという薬です。
でもあまり効かないので、使われなくなっています。

■ 流行中のマイコプラズマ。『抗菌薬が苦くて飲めません』という話が多いのはなぜ?対策は?
堀向健太:医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。
2024/8/18:Yahoo!ニュース)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・マイコプラズマへの抗菌薬は、『マクロライド系抗菌薬』が使用されます[1]。
しかし、外来では『苦くて飲めないです。どうすれば良いでしょうか…』という質問を受けることもあります。
もちろん、薬を飲まずに治療をすることは難しいです。しかし、その苦みがなぜ起こるのかを知っていると、対策が立てやすくなるかもしれません。
・・・
マクロライド系抗菌薬の名前の由来は、「大きな(マクロ)」「ラクトン環(ライド)」という構造を持っていることから来ています。
マクロライド系抗菌薬の歴史は1952年にさかのぼります。
最初のマクロライド系抗菌薬であるエリスロマイシンは、フィリピンの土の中から発見されました。
その後、現在の主力であるクラリスロマイシンやアジスロマイシンなどの改良された『誘導体』が開発されていきました。歴史のある薬ということですね。
マクロライド系抗菌薬は、細菌のタンパク質を合成する装置(リボソーム)に結合し、細菌のタンパク質を作ることを邪魔することで増えることを抑えて効果を発揮します。

しかし、マクロライド系抗菌薬には大きな課題があります。強い苦味があることです 。
この苦味の原因は、マクロライド系抗菌薬の構造にあります。

▶ マクロライド系抗菌薬の苦味は子どもが飲むことを難しくするため、コーティングなどの対策が取られています。
ラクトン環という、マクロライド系抗菌薬の『抗菌薬としての作用の元』でもある輪っか状の構造が、苦味の元となっているのです。
子どもは、錠剤やカプセルの薬を飲むことが難しい場合が多く、より苦みを感じやすい粉薬を飲むことになります。
さらに、子どもは大人よりも苦味に敏感であるため、マクロライド系抗菌薬の服用が特に難しくなりがちです。

そこで、この苦味問題に対して、製剤の段階から様々な対策が取られています。
その一つが、薬の粒子をコーティングする方法です。コーティングにより、マクロライドのラクトン環が直接舌に触れるのを防ぐことができるのです。

▶ マクロライド系抗菌薬を飲むときは酸性の飲み物を避け、直前に混ぜて服用すると良いでしょう
しかし、このコーティングには弱点があります。
酸性のものと接触すると、コーティングが溶けてしまいやすいのです。そのため、マクロライド系抗菌薬を服用する際は、以下の点に注意が必要です。

1)苦味を強める飲み物を避ける。
・ 柑橘系のジュース
・ スポーツ飲料
・ 乳酸菌飲料
・ ヨーグルト
これらの飲み物は酸性度が高く、コーティングを溶かしてしまう可能性があります。

2)苦味を緩和する飲み物を選ぶ。
・ 牛乳
・ プリン
・ 練乳
・ アイス(特にチョコレートアイス)
・ ココア
これらの飲み物は酸性度が低く、苦味を感じにくくします。

3)服用のタイミングを工夫する。
薬と飲み物は飲む直前に混ぜることが重要です。
長時間置いておくと、酸性度が低い飲み物でもコーティングが溶けてしまう可能性があります。
これらの対策を活用することで、マクロライド系抗菌薬の苦味を軽減することができるでしょう。
・・・


マイコプラズマが流行中(2024年夏)

2024年08月20日 06時02分32秒 | 小児科診療
「マイコプラズマが流行」というニュースが度々テレビから流れてきます。
新型コロナ・パンデミックの反動ですね。

パンデミック中は日本国民全体が感染対策に注力していました。
そのため、他の感染症も激減しました。

「全国一斉休校」措置が取られた2020年春は、
小児科外来から風邪患者が消えました。
外来患者の8割が風邪・感染症患者である小児科開業医は、
経営困難になり閉院するところも出たくらいです。

2023年5月に感染対策が緩められてから、
なりを潜んでいた他の感染症達が、
「やっとオレたちの出番が来た!」
と言わんばかりに流行し始めました。

今回のマイコプラズマも、その流れに沿ったモノです。
逆に言うと、新型コロナと同レベルの感染対策をしっかりやっていれば、
流行しない、流行拡大を防げるということです。

小児科医にとってのマイコプラズマのイメージを列挙します。

・咽頭痛、倦怠感から始まり、咳は数日後に出てくる。
・発熱はあることもないことも。
・比較的元気なので「気がついたら肺炎になっていた」という感じ。
・乳幼児よりも年長児の方がこじれやすい(RSウイルスと真逆)。
・潜伏期が数週間と長いので、どこで感染したかわからないことが多い。
・感染力は発症前からあり、発症後数週間続く(隔離義務はない)。
・聴診所見は当てにならず、肺胞音正常でもレントゲンを撮るとしっかり影がある。
  → 咳がよくならないので他院を受診してレントゲンを撮ると肺炎像が…
  → “藪医者”と言われる(小児科医泣かせ)。
・ふつうの抗生物質(ペニシリン系、セフェム系)は効かない。
・第一選択薬はマクロライド系であるが、近年耐性化が報告されている。

ふつうの風邪では、咳のピークは発症後3-4日頃とされています。
4-5日目になってもどんどん咳が悪化する場合は“こじれた”と判断し、
マイコプラズマの可能性も考慮し、
私はマクロライド系抗生物質を処方することが多いですね。

さてここで、マイコプラズマの基礎知識を確認しておきましょう。
以前まとめた「マイコプラズマが心配な方へ」もご参照ください。

■ 寒い時期 肺炎を見逃すな! 「子どもや若者は注意 マイコプラズマ肺炎」
2023年2月1日:NHK)より;







“マザーキラー”と呼ばれる子宮頚がんを予防するワクチンの“キャッチアップ接種”

2024年07月31日 07時09分05秒 | 小児科診療
子宮頚がんワクチンの“キャッチアップ接種”が行われています。
マスコミが流した誤った情報により保護者が怯えて接種を躊躇し、
接種の機会を奪われた子どもたちへの救済策です。

日本医師会が作成したポスターを紹介します;



しかし接種率は低いまま・・・
諸外国では80%を維持している接種率、
日本ではまだ40%だそうです。

群馬県では特別枠(ふだんの診療時間以外)をつくって対応しています。
当院も参加しています。

なぜ接種率が低いのか?

そこには、
・ワクチン訴訟で国が負けたトラウマ
・誤った情報を野放しにして訂正しない国と学会
・医療事故・医療訴訟をエサとする弁護士達とワクチン反対派のコラボ
などが見え隠れします。

もう何回も取りあげてきたので、私自身、呆れ気味ですが・・・
キャッチアップ接種の期限が迫ってきている(今年度末までに3回接種を終了するためには9月中に開始しなければ間に合わない)ので懲りずに書いてみます。

今回は森戸やすみDr.が書いた記事を紹介します。

<ポイント>
・キャッチアップ制度によって、来年3月までは平成9年度生まれ~平成19年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日)で、過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない女性も無料で接種できます。
・日本ではHPVワクチンを間をあけて合計3回受けるため、まだ1回も接種していない場合は今年9月に接種を開始しないと3月までに完了することができません。
・日本では副反応が多いという誤解から接種率が下がり、当初は70%だった接種率が1%以下と限りなくゼロになりました。
・厚生労働省が及び腰だったことから、8年近く「HPVワクチンの積極的勧奨の差し控え」がありました。この間、他国のように各種学会、がん患者団体などと協力して接種率回復のためのキャンペーンを行うことも、ソーシャルメディアでの発信を行うこともありませんでした。その結果、接種率は現在でもHPVワクチンの実施率は40%にとどまっています。
・世界にはHPVワクチンの接種を公費で行っている国は138カ国あり、そのうち61カ国は男性も対象です。
・本来、感染症予防は国が国民を守るために方策を決めて行う問題です。なぜ日本政府がデンマークやアイルランドのようにできないのかと大変疑問です。


■ 幼い子を持つ母が…"マザーキラー"の異名もつがんを予防する「HPVワクチン」の接種率が驚くほど低いワケ〜接種率の高い国は子宮頸がん撲滅を目標にしているのに
 森戸 やすみ 小児科専門医
2024.7.21:PRESIDENT Online)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 HPVワクチンの接種率が高い国では、子宮頸がん撲滅も遠い未来の話ではない。ところが、日本では不正確な情報が流布された結果、HPVワクチンの接種率は低いままで、子宮頸がんの発症率は高い。・・・

▶ キャッチアップ1回目は9月までに
 2024年3月末日で、HPVワクチンのキャッチアップ接種が終了することをご存じですか? ・・・本来、定期接種の対象は小学校6年生から高校1年生までの女性です。でも、このキャッチアップ制度によって、来年3月までは平成9年度生まれ~平成19年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日)で、過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない女性も無料で接種できます
 日本ではHPVワクチンを間をあけて合計3回受けるため、まだ1回も接種していない場合は今年9月に接種を開始しないと3月までに完了することができません。予診票をなくしてしまっていても再発行が可能ですから、保健所に問い合わせましょう。定期接種の実施は市町村単位なので、住民票がある人ならば無料で受けられます。

▶ デンマーク保健当局の素晴らしさ
・・・
 2007年にHPVワクチンの接種を開始したデンマークでも、日本のように副反応が多いという誤解から接種率が下がったことがありました(※1、2)。当初、デンマークではHPVワクチンの接種率は95%だったのに、新聞やテレビといった主要メディアが否定的な報道をしたのです。そのせいで2016年には接種率が半分程度まで下がりました。
 しかし、デンマークの保健当局の努力によって、わずか1年で接種率は回復。保健当局は、がん患者団体などと協力しながら、迅速にソーシャルメディアを中心としたキャンペーンを行ったのです。その後、デンマークでは男女ともに公費でHPVワクチンを受けられるようになり、2022年の接種率は78%となっています。

▶ 日本の厚生労働省は無策すぎないか
 同様のことがアイルランドでもありました(※3)。アイルランドでは、2010年にHPVワクチンの接種が開始されましたが、ワクチンに反対する団体がソーシャルメディアを駆使し、メディアや政治家に働きかけたのです。そのせいで当初は87%だった接種率が、2017年には54%にまで落ち込みました。しかしアイルランド政府が専門機関を設立したり、ソーシャルメディアを使って発信したり、医療従事者に教育を行ったりしたおかげで回復しました。現在はアイルランドでも男女ともに公費でHPVワクチンを接種することができ、2022年の接種率は79%です。
 一方、日本では厚生労働省が及び腰だったことから、8年近く「HPVワクチンの積極的勧奨の差し控え」がありました。この間、他国のように各種学会、がん患者団体などと協力して接種率回復のためのキャンペーンを行うことも、ソーシャルメディアでの発信を行うこともありませんでした。
 その結果、当初は70%だった接種率が1%以下と限りなくゼロになった後、現在でもHPVワクチンの実施率は40%です。・・・日本におけるHPVワクチン接種率は2022年には7%でデンマークやアイルランドの回復にはまったく及びませんし、そのうえ日本は男性のHPVワクチンは定期接種になっていません(※4)。

▶ 費用対効果を考えつつ国民を守るべき
 さて、世界にはHPVワクチンの接種を公費で行っている国は138カ国あり、そのうち61カ国は男性も対象です
 ノルウェーにおいては、男女ともに十分に接種率が上がったため、2017年に敢えて2価ワクチンに変更しました。2022年のノルウェーのHPVワクチン接種率は、男女共に91%です。同国は2039年までに子宮頸がんをなくすことを目標としていますが、より高額な4価、9価のワクチンを広くやっても、目標達成が早まることがないからです(※5)。がん以外の疾患も防げる4価、9価のワクチンを受けたいのであれば、希望者が自費で行うように、という考えなのでしょう。
 HPVワクチンはとても高価ですが、中国は2021年、インドは2022年に自国産のHPVワクチンを開発しました。これらはずっと低価格なので、周囲の国々もこのワクチンを輸入すれば、国民を子宮頸がんから守ることができます。このようにさまざまな国が、国民を子宮頸がんから守るために、費用対効果を考えながら戦略を練っているのです。

▶ 日本の子宮頸がん発生率は高い
 現在日本の子宮頸がんの発症率は高く、HPVワクチンでがん予防ができていない低所得の国々と同程度。一方、子宮頸がんの治療成績は、HPVワクチンを男女ともに公費で行っている高所得国と同等です。これは日本の産婦人科医の努力のおかげですが、子宮頸がんにかかっても治せばいいというものではありません。
 もちろん、HPVに感染したからといって、全員が子宮頸がんになるわけではありません。大半の人は無症状のまま自然に治ります。でも、約10%は前がん病態である「軽度異形成」になり、約4%は「高度異形成」になり、0.1〜0.15%は「子宮頸がん」になります。子宮頸がん検診で異形成が見つかった場合、がん化しないかどうか定期的に通院して経過を見る必要があり、精神的にも経済的にも負担が大きいのです。「がんになるかも」という不安を抱えて生活していくのは大変なことです。
 また早期発見できず、すでに子宮頸がんが進行していて各種治療をすることになれば、身体的にはもちろん、精神的にも経済的にも負担はいっそう大きくなります。子宮頸がんになりやすいのは小さな子どもを持つ女性で、この病気が「マザーキラー」と呼ばれていることはよく知られています。そもそもHPVに感染せず、異形成にも子宮頸がんにもならないのが一番よいのです。

▶ 大切な接種の機会を失わないで
 HPVワクチンは、思春期の子どもが接種するワクチンなので、保護者の意向が大きいといわれています。医師会が実施したアンケート、公衆衛生を研究している医師らの調査によると、HPVワクチンの接種率を上げるためには、かかりつけの医師や看護師が対象者の保護者にすすめるのがもっとも効果的だということがわかっています。
 そのため、医師のあいだでは「私たちが接種率向上のためにがんばりましょう」と話しています。医師会や市町村によっては、独自にパンフレットを作ったり、声かけを行ったりと努力をしているほど。
 とても素晴らしいことだと思いますが、私は最前線の医師に接種率回復のための責任を負わせないでほしいと思っています。本来、感染症予防は国が国民を守るために方策を決めて行う問題です。なぜ日本政府がデンマークやアイルランドのようにできないのかと大変疑問に思っています
 最後にHPVワクチンは定期接種のワクチンとはいえ、当然ながら強制されるものではありません。しかし、HPVワクチンに関する間違った情報を信じてしまったせいで大切な接種の機会を失い、子宮頸がんなどの病気にかかってから後悔する人がいないようにと心から願っています。

<参考>



コラーゲンサプリも根拠なし?

2024年07月30日 16時45分50秒 | 小児科診療
TVのCMで、
「コンドロイチン配合!」
「コラーゲン配合!」
というサプリメント通販の宣伝を目にしない日はありません。

あたかも関節痛などに効果があるような素人のインタビュー画像が流れますが、
画面の端に、
「効果を約束するものではありません」
「感想には個人差があります」
などと“責任逃れ”のための注意書きが小さく表示されます。

昔からこのような品物を、
医療関係者は「怪しい」と指摘してきました。

理由は、有効成分を飲んでもそのまま患部に達することはあり得ないからです。

例えば「コラーゲン」。
コラーゲンはたんぱく質でアミノ酸からできています。
コラーゲンを飲んだり食べたりすると、
消化管でアミノ酸にまで分解されてから吸収されます。
これはすべてのたんぱく質に共通すること。

体内に吸収されたアミノ酸は、
線維芽細胞という特殊な細胞内でコラーゲン造りの原料となります。

コラーゲン → アミノ酸に分解されて体内に吸収 → 線維芽細胞でコラーゲンに
たんぱく質 → アミノ酸に分解されて体内に吸収 → 線維芽細胞でコラーゲンに

つまり、アミノ酸の元は、コラーゲンでも他の蛋白質でもOKなのです。
だから、高いお金を払ってコラーゲン・サプリメントを飲むより、
ふだんの食事の中でしっかりたんぱく質を摂取すれば同じ効果が期待できますよ。

こんな単純なことなのに、
日本人はだまされサプリ製造会社のよいカモになっている・・・
と呆れているのが医療関係者です。

おそらく、TVのCMは番組のスポンサーなので、
TVのニュースでは悪口は言えないというカラクリもあるのでしょう。

これは統一教会の悪口を言えない政治家と同じ構図です。
票田になる宗教団体の悪口を言うと、選挙で勝てないのです。

それはさておき・・・
コラーゲンサプリに関して少し詳しく解説した記事を見つけましたので紹介します。

<ポイント>
・一部の研究は、特に肌の見た目などにある程度の効果を期待できるかもしれないとしているが、明確な答えは出ていない。
・サプリメントを摂らなくても、食事や生活習慣によって同じ目的を達成させることは可能。
・患者にコラーゲンのサプリメントを勧めたり、自分で摂取しようと思えるほどの証拠はない。
・コラーゲンは、哺乳類が最も豊富に持っているタンパク質。私たちの体内にあるタンパク質の30%をコラーゲンが占めている。コラーゲンは、皮膚、靭帯、筋肉、腱、骨、血管、腸の内壁、その他の結合組織を構成する重要な要素である。
・コラーゲンは、3本のアミノ酸の鎖がねじれた三重らせん構造になっている。この鎖がしっかりとからみ合うことで、強く、硬いタンパク質になる。分子構造や体のどこにあるかによって、コラーゲンは28種類に分類される。体内のコラーゲンの90%はI型で、皮膚、骨、腱、靭帯に見られる。また、I型からV型までが最も多い。
・人体はコラーゲンをそのまま吸収することができないため、最終的には個々のアミノ酸にまで分解し、必要に応じて利用する。
・コラーゲンは、主に線維芽細胞と呼ばれる専門化された細胞によって、吸収されたアミノ酸から私たちの体が作り出している。
・日本ではコラーゲンは薬機法上の医薬品に該当しないため、成分や表示については一般の食品と同様の規定に従う。
・サプリメントに含まれているコラーゲンは、人由来ではなく、牛、魚、鶏など、由来はさまざま。
・経口サプリメントの場合、目に見える皮膚の変化とコラーゲンを関連付けたデータはあまりない。肌の張りやうるおい、しわなどへの効果を調べたランダム化比較試験の結果にも、大きな違いは見られなかったと指摘している。髪や爪に関する研究はほとんど存在しない。
・コラーゲンを豊富に含む食事と栄養素を取り入れ、体が自らコラーゲンを作るようにすることが大事。


■ コラーゲンサプリの効果は根拠なしとの意見も、ホントはどっち?
肌や関節の衰えを改善する機能が謳われ人気、今わかっていることを詳しく解説
2023.05.20:National Geographic)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 コラーゲンが皮膚や髪、爪、骨、関節、その他あらゆる体の部分の老化防止に効くという宣伝文句や有名人の証言が巷にあふれている。多くの消費者がこれを信じ、2021年には米国でコラーゲンのサプリメントに20億ドル(約2750億円)が費やされたという。この数字は、今後さらに増えると予測されている。しかしコラーゲンに関していえば、科学を差し置いて評判ばかりが先走りしているようだと、専門家たちは言う。(参考記事:「効果うたう投稿動画が量産、マグネシウムは不眠や不安に効くの?」)
 一部の研究は、特に肌の見た目などにある程度の効果を期待できるかもしれないとしているが、明確な答えは出ていない。サプリメントを摂らなくても、食事や生活習慣によって同じ目的を達成させることは可能だ。
 米ラッシュ大学の皮膚科医であるソニア・ケンケア氏は、患者にコラーゲンのサプリメントを勧めたり、自分で摂取しようと思えるほどの証拠はないと語る。・・・「摂取しているという人は多いですが、そういう人たちには、効果を裏付けるデータがないと言っています」(参考記事:「「汗をかいてデトックス」はウソだった、研究報告」)

▶ コラーゲンとは何か
 コラーゲンは、哺乳類が最も豊富に持っているタンパク質だ。私たちの体内にあるタンパク質の30%をコラーゲンが占めている。コラーゲンは、皮膚、靭帯、筋肉、腱、骨、血管、腸の内壁、その他の結合組織を構成する重要な要素であると、米クリーブランド・クリニック人間栄養センターで管理栄養士を務めるジュリア・ズンパーノ氏は言う。
 コラーゲンは、3本のアミノ酸の鎖がねじれた三重らせん構造になっている。この鎖がしっかりとからみ合うことで、強く、硬いタンパク質になる。分子構造や体のどこにあるかによって、コラーゲンは28種類に分類される。クリーブランド・クリニックによると、体内のコラーゲンの90%はI型で、皮膚、骨、腱、靭帯に見られる。また、I型からV型までが最も多い

▶ 体内でのコラーゲンの働き
 コラーゲンは、主に線維芽細胞と呼ばれる専門化された細胞によって、私たちの体が作り出している。アミノ酸を結び合わせてコラーゲンにするために、線維芽細胞はビタミンCや亜鉛といった栄養素も必要とするとズンパーノ氏は言う。
 コラーゲンの主な仕事は、体の組織に支えや強度、構造を与えることだ。皮膚に弾力を与え、内臓を守る。また、止血や新しい皮膚細胞の成長も助ける。
 体がコラーゲンを十分作ることができないと、このプロセスが崩壊する。遺伝性の病気であるエーラス・ダンロス症候群は、コラーゲンに関わる遺伝子に異常があるため、皮膚が柔らかくて伸びやすい、あざができやすい、関節が外れやすいといった症状が出る。全身性エリテマトーデスや関節リウマチなどの自己免疫疾患も、コラーゲンにダメージを与えることがある。

▶ 年を取るとコラーゲンが減少
 年を取ると、体が作るコラーゲンの量が減り、分解されるのも早くなる。表皮の下にある真皮のコラーゲン量が減ると、皮膚がたるみ、しわができる。ほかにも、喫煙、飲酒、紫外線、砂糖の摂りすぎなど、さまざまな要因がコラーゲンを作る能力を低下させることが、研究で示されている。それによってコラーゲンが減り、しわが増える。(参考記事:「「老化細胞を除去する薬」で若返り、実用化へ高まる期待」)

▶ 市場に出回るサプリメント
 市場にはさまざまなコラーゲン製品が出回っているが、中に何が含まれているかに関しては基準がない。米国の場合、栄養サプリメントであるコラーゲンは、米食品医薬品局(FDA)の規制対象になっていないため、企業にはその安全性や有効性、純度を示す義務がない(編注:日本でもコラーゲンは薬機法上の医薬品に該当しないため、成分や表示については一般の食品と同様の規定に従う)。
 一口にコラーゲンといっても、牛、魚、鶏など、由来はさまざまだ。I型やIII型など種類が書かれていたり、「コラーゲンペプチド」などと表示されている場合もある。コラーゲンペプチドは、アミノ酸の鎖が短いコラーゲンのことだ。サプリメントの形状は、錠剤、粉末、グミ、ドリンクなどがある。
 コラーゲンペプチドは、1日2.5グラムから15グラムまで安全に摂取できるとズンパーノ氏は言う。しかし、体はコラーゲンをそのまま吸収することができないため、最終的には個々のアミノ酸にまで分解し、必要に応じて利用する

▶ 宣伝される効果、根拠は不足
 コラーゲンは、美容整形でもよく用いられる。ケンケア氏によると、皮膚に注入して一時的に張りを与えることができるが、最後には体内で分解されるという。しかし経口サプリメントの場合、目に見える皮膚の変化とコラーゲンを関連付けたデータはあまりない
 サプリメントの摂取によって皮膚の状態がわずかに改善される可能性があることを示す研究もあるが、いずれも但し書きがついている。2021年に医学誌「International Journal of Dermatology」に発表されたレビュー論文によると、大半が女性である1125人を対象に行った19の研究から、コラーゲンのサプリメントを摂取することでしわが減り、肌の張りとうるおいが向上することを示す証拠が見つかったという。
 とはいえ、どのサプリメントにも、コラーゲン以外の成分も含まれており、それらが結果に影響した可能性もあると、米ハーバード大学医学部と米マサチューセッツ総合病院の皮膚科医たちは分析している。さらに、2016年に学術誌「Journal of the Science of Food and Agriculture」に発表された、肌の張りやうるおい、しわなどへの効果を調べたランダム化比較試験の結果にも、大きな違いは見られなかったと指摘している。髪や爪に関する研究はほとんど存在しない。「もっと多くの研究が必要です」とズンパーノ氏は言う。
 肌以外にも、運動選手や変形性関節症患者について、関節の動きや、ひざや関節の痛みが改善したこととコラーゲンのサプリメントを関連付ける研究が2006年に医学誌「Current Medical Research and Opinion」や2020年に医学誌「Rheumatology and Therapy」で発表されている。これに関してはさらに詳しい研究が進められている。
 サプリメントに頼らなくても、コラーゲンの潜在的な恩恵を得ることはできる。肉、魚、卵のほか、骨でだしをとったスープなど、コラーゲンを含む食品は多い。ズンパーノ氏は、コラーゲンが作られるのを補助するためにビタミンC、銅、亜鉛、アミノ酸のプロリンとグリシンも一緒に摂取するよう勧めている。多くのアンチエイジングクリームに配合されているレチノイドには、コラーゲンが作られるのを促す働きがあると、ケンケア氏は付け加えた。
 ズンパーノ氏は、コラーゲンを豊富に含む食事と栄養素を取り入れ、体が自らコラーゲンを作るようにすることが大事だと話す。「サプリメントは万能だとは言えませんから」(参考記事:「こんなサプリメントにご用心」)

ビタミン剤、無意味です。

2024年07月29日 05時52分31秒 | 小児科診療
世の中にはサプリメント、トクホなど、
医薬と健康食品の間のグレーゾーンの商品がたくさんあります。

医療者の私からすると、
すべて業者の金もうけの餌食になっているとしか見えませんが。

「健康によさそう」
「百歩譲って、身体に悪くはないだろう」

程度のイメージで摂っている方が多いと思われます。
しかし今回の“紅麹事件”で脆くもそのイメージが崩れました。

さて、サプリの王様的存在である「ビタミン剤」。
やはり「効果がない」という報告が目に留まりました。

<ポイント>
・米国では主に疾患予防を目的に、成人の3人に1人はMV(マルチビタミン)を摂取している。
・約40万人の健康成人のデータを解析した。
・MVの摂取が寿命を延ばすというデータは存在しない。

■ マルチビタミン、やはりベネフィットなし
米・3つの前向きコホート研究の長期追跡統合解析結果
2024年07月08日 :Medical Tribune)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ビタミンやミネラルなど、さまざまなサプリメントや健康食品が日本や米国で大量に消費されているが、それらがもたらす健康ベネフィットを支持する確固たるエビデンスは乏しい。米・National Institutes of HealthのErikka Loftfield氏らは、大規模な前向き研究3件の長期追跡データを基に、マルチビタミン(以下、MV)摂取と死亡との関連を検討する観察研究を実施。「MVの摂取が寿命を延ばすというデータは得られなかった」とJAMA Netw Open(2024; 7: e2418729)に報告した(関連記事「サプリに心血管疾患・がんの初発予防の益なし」、「心血管疾患・がん予防サプリ、また推奨せず」)。

▶ 登録時に慢性疾患がない健康成人を抽出
 米国では主に疾患予防を目的に、成人の3人に1人はMVを摂取しているといわれている。しかし、米国予防医学専門委員会(USPSTF)は2022年、ランダム化臨床試験のデータなどをレビューした結果、MVサプリメントのベネフィットや害について断言できる十分なエビデンスは見つからなかったと報告している。
・・・

▶ 追跡期間の前半/後半いずれも死亡リスクの差なし
 解析に際し、MV使用のカテゴリーを統一するため、3コホートの参加者に対し、追跡期間中にMV使用に関する追加の質問を行い、非使用群(nonuser)、毎日でない使用群(nondaily user)、毎日使用群(daily user)に分類した(無回答あるいは既に死亡していた参加者は解析対象から除外)。
 解析対象となった参加者の合計は39万124例(NIH-AARP 32万7,732例、PLO Cancer Screening Trial 4万2,732例、AHS 1万9,660例)で、ベースラインの年齢中央値は61.5歳(四分位範囲56.7~66.0歳)、男性が55.4%(21万6,202例)だった。また、40.9%(15万9,692例)が喫煙未経験者、40.3%(15万7,319例)が大卒だった。
 毎日使用群と非使用群の比較では、女性割合が49.3% vs. 39.3%、大卒が42.0% vs. 37.9%、現喫煙者が11.0% vs. 13.0%だった。
 MV使用と全死亡リスクの低下には追跡期間の前半(多変量調整後のHR 1.04、95%CI 1.02~1.07)、後半(同 1.04、0.99~1.08)いずれにおいても関連を認めなかった。主な死因別解析や時変解析でも毎日使用群と非使用群のHRは同等だった。
 以上の結果を踏まえLoftfield氏らは「慢性疾患既往歴を有さない総合的に健康な成人約39万例の本コホート研究において、MVの定期摂取による寿命の改善を支持するエビデンスは見つからなかった」と指摘。・・・


2024年夏、手足口病が大流行!

2024年07月19日 10時35分45秒 | 小児科診療
2024年夏、手足口病の流行が止まりません。

私が小児科外来の中で患者さんに説明している、
手足口病の基本事項を列記します;

・ウイルス感染症(エンテロウイルス※1
・病名とウイルスは1:1対応ではないので、複数回罹る(1シーズンに2回罹患もあり得る)。
・大人は子どもの時に何回か罹って免疫があるので、罹りにくい。
・発熱は出ても1〜2日のみで、高熱が3日以上続くことはない。
・手(手掌)足(足底)に赤いブツブツが出現し、一部水疱化(※2)。口には口内炎。
・皮疹はかゆみ・痛みに乏しい(足底は歩くとき少し痛い)、口内炎は痛くてつらい。
・皮疹は約1週間で消えていく。
・皮疹が四肢に目立つタイプ(コクサッキーウイルスA6)は治癒後に一過性に爪が変形することがある(※ 3)。
・特効薬はなく、対症療法(口内炎に対するぬり薬など)のみ。
・隔離義務はないが、感染力がないわけでは無く、症状がなくなってからも感染力が数週間(2〜4週間)続くため、隔離期間が設定できないのが現実。
・「感染対策を取りながら、元気になったら集団生活に戻しましょう」という妥協案。

※ 1)コクサッキーA16(CA16)、CA6、エンテロウイルス71(EV71)などのエンテロウイルス。
※ 2)水疱内容物からの感染もありうる。水痘疹のように治癒過程で痂皮形成をすることはない。
※ 3)近年のコクサッキーA6による手足口病では、従来のHFMDと発疹の出現部位が異なり、水疱は扁平で臍窩を認め、これまでより大きいことや、手足口病発症後、数週間後に爪脱落が起こる症例(爪甲脱落症)が報告されている。

・・・今シーズンは非典型例が多い印象があります。
とくにヘルパンギーナと手足口病のオーバーラップ例が目立ちますね。

発熱とのどの痛みで発症し、
初期に受診すると喉の奥に口内炎ができていて「ヘルパンギーナ」と診断されます。
数日以内に解熱し、その頃に手足の皮疹に気づき、再度受診すると「手足口病」と診断されます。
「前回、“ヘルパンギーナ”と診断されたのですが・・・」
と怪訝な表情のご家族。
「誤診?」
いえいえ、そうではありません。
夏風邪(手足口病・ヘルパンギーナ)を発症するウイルスは、
エンテロウイルスという広い分類の中で共通し、
つまり複数の種類のウイルスが「手足口病」だったり「ヘルパンギーナ」を発症させ得るのです。

そしてこのエンテロウイルスはお腹の中で増殖してから症状を出すので、
お腹の症状(気持ち悪い、嘔吐、腹痛など)を伴いやすいのも特徴です。
ただ、冬に多いロタウイルス・ノロウイルス胃腸炎のように、
嘔吐下痢が激しくて脱水になる例は稀です。

さらに、エンテロウイルスは症状が治まった後も、
しばらくの間(子どもでは数週間)お腹の中にとどまり、
ウンチの中に排泄されるため、
感染力がしばらく続きます。
これが保育園で感染拡大がなかなか止められない理由です。

もし「感染力がなくなるまで登園禁止」というルールを作ってしまうと、
「手足口病・ヘルパンギーナと診断されたら3週間(〜1ヶ月)登園禁止」
となってしまい、しかし子どもは元気なので、現実的な措置とは考えられず、
隔離義務が作れないのが現実です。

手足口病に関する記事が目に留まりましたので、紹介します。
流行の原因として、
・コロナ禍の感染対策の影響で数年間流行がなかったため集団の免疫が低下
・コロナ後遺症としての免疫低下
の可能性を指摘していますね。
1つ目は肯けますが、2つめはどうなんでしょう?

それから、手足口病の原因ウイルスには、
“アルコールや石けんが効きにくい”ことも指摘しています。

さらにポイントとして以下の事項を列挙しています;
1.どんなに感染対策を強化しても、手足口病の原因となるウイルスからの感染を、完全に防ぐことはできない。
2.一部の子どもは口腔病変が潰瘍(かいよう)化して口内炎を発症し、強い痛みを生じる。
3.手足口病は学校保健安全法に定められた感染症ではなく、法定の出席停止期間は存在しない。

■ 14週連続で増加「手足口病」で知っておきたいこと症状や治療法、感染対策について
上 昌広 : 医療ガバナンス研究所理事長
2024/07/19:東洋経済ONLINE)より抜粋(下線は私が引きました);
 手足口病の流行が拡大している。
 国立感染症研究所(感染研)によると、現時点で最新データである、6月24~30日の約3000の小児科を対象とした定点あたりの感染者数は8.45人で、14週連続で増加している。この時期の感染者数としては、過去10年で最多だ。・・・

▶ 手足口病が感染拡大する2つの理由
・・・この時期に手足口病が増えているのは、2つの可能性が指摘されている。
 1つはコロナ禍で外出を自粛する人が増えたため、流行が抑制され、集団免疫が低下したからだ。その証左に2020、2021年には手足口病は流行せず、2022年も流行は小規模だった。
 2つめの可能性は、コロナ後遺症として免疫力が低下する可能性だ。
 手足口病に関する研究はないが、2023年5月、アメリカ・ケースウェスタンリザーブ大学の研究チームが発表した研究によれば、コロナに感染したことのある子どもが風邪ウイルスのRSウイルスに感染するリスクは、コロナに感染したことのない子どもの1.4倍だったという。同様の指摘は、他の研究グループからも報告されている。

▶ 手足口病はどんな病気か?
 手足口病はその名の通り、口の粘膜、手、足に症状が出るウイルス性の感染症で、英語でも“hand,foot and mouth disease”となっている。
 原因となるのはコクサッキーA16、コクサッキーA6、エンテロウイルス71などの胃や腸で増殖するウイルスだ。夏場に子どもを中心に流行することが多く、患者の過半数は2歳以下の乳幼児である。
 それぞれのウイルスは、一度感染すると免疫を獲得するため、再感染することはない。ただ、コクサッキーA16に感染しても、ほかのコクサッキーA6やエンテロウイルス71に対する完全な免疫は獲得できないため、感染することがある。
 一方、大人が手足口病を発症することは稀なため、学童期までに大半の子どもが、不顕性感染(感染していても症状が出ていない状態)を含め、すべての型のウイルスに感染していると考えられている。
 手足口病は、一般的には軽症だ。感染すると3~5日の潜伏期間をおいて、口腔粘膜、手のひら、足の裏や甲などを中心に直径2~3 ミリの水疱ができる。約3分の2の感染者は発熱せず、発熱した場合でも、多くは38℃以下だ。水疱は3~7日程度で自然に消退する。
 ただ、一部の患者は急性髄膜炎を合併し、重症化することがある。稀だが、急性脳炎を引き起こすこともある。エンテロウイルス71の感染が特に重症化しやすいといわれている。
 1997年4~6月にマレーシアで大流行し、30人以上の死亡が報告されている。この翌年は東アジアでも手足口病が流行した。1998年2~12月には台湾で大流行し、78人の死亡が確認されている。マレーシアと台湾、いずれの流行もエンテロウイルス71が原因だ。
 筆者が調べた範囲では、今回のわが国の流行に関して、感染研は流行中のウイルスの型を公表していない。
今年2~5月には台湾の新北市で手足口病が流行したが、感染者からエンテロウイルス71が検出されている。感染研は流行中の手足口病のウイルスを同定しているだろうから、このあたりの情報は公開すべきであろう。
 このように書くと、手足口病を恐ろしい感染症と感じる方もいらっしゃるだろうが、あまり心配しなくていい。前述したように、ほとんどは軽症だ。手足口病に対する抗ウイルス薬は開発されておらず、治療には解熱薬や痛み止めなどを用いる。

▶ 手足口病の対策「3つのポイント」
 では、手足口病とどう付き合えばいいのか。3つの点を強調したい。
1つめのポイントは、「どんなに感染対策を強化しても、手足口病の原因となるウイルスからの感染を、完全に防ぐことはできないことを認識すべき」(高橋医師)だ。
・・・
高橋医師がこのように感じるのは、手足口病のウイルスの構造に起因する。手足口病の原因ウイルスは、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスが有するエンベロープ(ウイルス粒子を囲む膜のようなもの)を持たない。エンベロープは脂質二重膜でできているため、アルコールやせっけんで破壊できる。だからこそインフルエンザや新型コロナの流行期には、アルコール消毒やせっけんでの手洗いが推奨される。
だが、手足口病については、このような効果は期待できない。
 もちろん、一般的な感染対策として手洗いは有効だ。水流でウイルスを洗い流せるからで、筆者も手洗いの励行をおすすめしたい。また、手足口病は飛沫感染でもうつるため、マスクやうがいも一定の効果はあるだろう。
 それでも、限界があることを認識しておこう。周囲に手足口病にかかった子どもがいても、それは感染対策が不十分だったためではない。感染者に落ち度はない。また、手足口病をおそれて、感染を予防するため、保育園や幼稚園を休ませたり、人混みを避ける必要はない
 手足口病のウイルスに感染した場合、症状が治まっても、便からのウイルスの排泄は1カ月程度続く。どんなに清潔にしても完全に予防はできないと考えたほうがいい
 第2のポイントは、一部の子どもは口腔病変が潰瘍(かいよう)化して口内炎を発症し、強い痛みを生じることだ。重症例では唾液が飲み込めず、よだれが多くなる。
 高橋医師は、「塩からいものや酸っぱいもの、温かいものは痛みの感じ方を強めるので、できるだけ避けたほうがいい。自分が口内炎になったときを思い出して、薄味のお粥を作り、冷ましてからあげてほしい」と言う。

▶ 登校再開のタイミングは?
 最後のポイントは登校再開のタイミングだ。 
 わが国では一部の感染症に対し、学校保健安全法で出席停止の期間を定めている。例えば、インフルエンザは発症した後5日を経過し、かつ解熱後2日(幼児で3日)を経過するまで、麻疹は解熱後3日を経過するまで、学校に行けない。
 手足口病はどうかというと、学校保健安全法に定められた感染症ではなく、法定の出席停止期間は存在しない明確な基準がないためだろうか、多くの保育園や幼稚園が、回復した子どもを再登園させる際に「担当医から登園許可証をもらってくるように」と求める。彼らは、「周囲に伝染させるおそれがないこと」を医師に保証させようとする
 これは間違った対応だ。理由は前述したように、手足口病を患った子どもは、症状がとれても長期間にわたりウイルスを排出するからだ。数週間も出席停止にするのは現実的ではない。また、不顕性感染者がいるのだから、症状がある人や回復して間もない人だけを出席停止にしても感染拡大は防げない。
 幸い、症状が改善すると、排出するウイルス量も減少する。周辺に感染を拡大するリスクは低下する。登園再開のタイミングは、本人の体調が回復したときだ。その時期は感染の重症度により、個人差もあるだろう。不安な保護者は具体的な時期について、かかりつけの小児科医に聞けばいい。
 以上、手足口病について、筆者が重要と考えるポイントをご紹介した。手足口病は麻疹やインフルエンザ、新型コロナように「封じ込め」はできない。しかし、感染してもほとんどは軽症ですむ。感染は避けては通れないことを認識し、感染対策を十分に講じつつも、あまり心配せず、鷹揚に対応すればいいだろう。

<参考>
▢ 手足口病とは(NIID:国立感染症研究所)