徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

2024年夏、新型コロナ第11波の主役は「KP.3」株

2024年07月20日 08時02分18秒 | 新型コロナ
GW明け辺りから
「沖縄で新型コロナが流行」
というニュースを耳にしてきましたが、
7月に入り九州にも広がりはじめ、
7月下旬の今、日本全国で増加傾向にあります。

実は新型コロナは毎年、冬と夏に流行の山がありました。
今年も例外ではないようです。

その理由としていろいろ推察されていますが、
ひとつは「三密になりやすい」気候が指摘されています。
冬の寒い時期、夏の暑い時期は、
エアコンの効いた部屋で過ごす時間が長くなりがちです。

熱帯地方のインフルエンザ流行は雨季に発生するとされています。
外は雨なので、部屋で過ごす時間が長くなるためです。

さて、第11波(ともう呼ばなくなっている?)の主役は、
第10波の「JN.1」から派生した「KP.3」とのこと。
・感染力が強く
・今までの免疫が効きにくい
というイヤな性質を持ち合わせているらしい。
ただ幸いなことに、
・重症化リスクは大きくなっていない
…様子。

猛暑日のマスクはキツいから、
この夏もそれなりに流行すると思われます。

■ コロナ変異ウイルスKP.3 オミクロン株の一種 特徴は? “感染増の要因のひとつか”
2024年7月19日:NHK)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 新型コロナウイルスの感染が広がっています。専門家は「夏場は冷房を効かせるために換気が行われにくく、マスクを外す人も増えることから感染が広がりやすい。さらに、オミクロン株の1種、「KP.3」と呼ばれる新しい変異ウイルスが広がっていることも要因の1つとみられる」としています。
・・・
 東京・北区のクリニックでは6月から患者が増え始め、最近は1日平均10人ほどが新型コロナへの感染が判明し、患者の急増に伴って先週から診察できる人数を制限しているといいます。
 医師によりますと、コロナの初期の症状は、発熱やけん怠感など熱中症と似ていて区別がつきにくい場合もあるということです。

▶ KP.3 新たな変異ウイルスも要因のひとつか
 新型コロナウイルスの感染が広がっていることについて、国内外の感染症に詳しい東京医科大学の濱田篤郎客員教授は次のように話しています。

〇変異ウイルス
 もともと夏場は冷房を効かせるために換気が行われにくく、マスクを外す人も増えることから感染が広がりやすい。さらに、オミクロン株の1種、「KP.3」と呼ばれる新しい変異ウイルスが広がっていることも要因の1つとみられる。
 「KP.3」は「JN.1」から派生したウイルスで、日本だけでなく、欧米などの北半球で流行の主流になっている。従来のウイルスよりも
▽過去の感染やワクチンによる免疫を逃れる能力が高い、
▽感染力がやや強い、
という報告もある。
 症状の重さなどについてはこれまでと変わらないとされているが、直近の厚生労働省のデータでは新型コロナによる入院が増えていることもあり注意しておく必要がある。

〇今後の注意点
 夏休みを行楽地などで過ごす人が増え、人の移動が盛んになることからお盆明けごろまでは患者の数は増え続けると考えられる。これから流行期に入っていくことを踏まえ、
▽換気や手洗いを徹底する、
▽重症化しやすいとされる高齢者は、人混みに出る際にマスクの着用の徹底する
▽症状が出た場合は、早めに医療機関を受診する
ことなど、これまでよりも少し強めの対策を心がけてほしい。

 厚生労働省によりますと、新型コロナウイルスの全国の感染状況は、7月14日までの1週間では1つの医療機関あたりの平均の患者数が11.18人、前の週の1.39倍で、10週連続で増加しています。

都道府県別では多い順に
 ▼鹿児島県が31.75人
 ▼佐賀県が29.46人
 ▼宮崎県が29.34人
 ▼沖縄県が28.57人
 ▼熊本県が26.33人
などとなっていて、45の都府県で前の週より増加しています。

関東地方の感染状況
・千葉県 12.77人 
・茨城県 10.83人
・埼玉県 9.97人  
・神奈川県 9.13人
・栃木県 8.18人  
・群馬県 7.75人
・東京都 7.56人

 厚生労働省は「例年お盆明けが感染拡大のピークで、今後夏休みで人の移動が多くなることが見込まれる時期となる・・・


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2024年夏、手足口病が大流行!

2024年07月19日 10時35分45秒 | 小児科診療
2024年夏、手足口病の流行が止まりません。

私が小児科外来の中で患者さんに説明している、
手足口病の基本事項を列記します;

・ウイルス感染症(エンテロウイルス※1
・病名とウイルスは1:1対応ではないので、複数回罹る(1シーズンに2回罹患もあり得る)。
・大人は子どもの時に何回か罹って免疫があるので、罹りにくい。
・発熱は出ても1〜2日のみで、高熱が3日以上続くことはない。
・手(手掌)足(足底)に赤いブツブツが出現し、一部水疱化(※2)。口には口内炎。
・皮疹はかゆみ・痛みに乏しい(足底は歩くとき少し痛い)、口内炎は痛くてつらい。
・皮疹は約1週間で消えていく。
・皮疹が四肢に目立つタイプ(コクサッキーウイルスA6)は治癒後に一過性に爪が変形することがある(※ 3)。
・特効薬はなく、対症療法(口内炎に対するぬり薬など)のみ。
・隔離義務はないが、感染力がないわけでは無く、症状がなくなってからも感染力が数週間(2〜4週間)続くため、隔離期間が設定できないのが現実。
・「感染対策を取りながら、元気になったら集団生活に戻しましょう」という妥協案。

※ 1)コクサッキーA16(CA16)、CA6、エンテロウイルス71(EV71)などのエンテロウイルス。
※ 2)水疱内容物からの感染もありうる。水痘疹のように治癒過程で痂皮形成をすることはない。
※ 3)近年のコクサッキーA6による手足口病では、従来のHFMDと発疹の出現部位が異なり、水疱は扁平で臍窩を認め、これまでより大きいことや、手足口病発症後、数週間後に爪脱落が起こる症例(爪甲脱落症)が報告されている。

・・・今シーズンは非典型例が多い印象があります。
とくにヘルパンギーナと手足口病のオーバーラップ例が目立ちますね。

発熱とのどの痛みで発症し、
初期に受診すると喉の奥に口内炎ができていて「ヘルパンギーナ」と診断されます。
数日以内に解熱し、その頃に手足の皮疹に気づき、再度受診すると「手足口病」と診断されます。
「前回、“ヘルパンギーナ”と診断されたのですが・・・」
と怪訝な表情のご家族。
「誤診?」
いえいえ、そうではありません。
夏風邪(手足口病・ヘルパンギーナ)を発症するウイルスは、
エンテロウイルスという広い分類の中で共通し、
つまり複数の種類のウイルスが「手足口病」だったり「ヘルパンギーナ」を発症させ得るのです。

そしてこのエンテロウイルスはお腹の中で増殖してから症状を出すので、
お腹の症状(気持ち悪い、嘔吐、腹痛など)を伴いやすいのも特徴です。
ただ、冬に多いロタウイルス・ノロウイルス胃腸炎のように、
嘔吐下痢が激しくて脱水になる例は稀です。

さらに、エンテロウイルスは症状が治まった後も、
しばらくの間(子どもでは数週間)お腹の中にとどまり、
ウンチの中に排泄されるため、
感染力がしばらく続きます。
これが保育園で感染拡大がなかなか止められない理由です。

もし「感染力がなくなるまで登園禁止」というルールを作ってしまうと、
「手足口病・ヘルパンギーナと診断されたら3週間(〜1ヶ月)登園禁止」
となってしまい、しかし子どもは元気なので、現実的な措置とは考えられず、
隔離義務が作れないのが現実です。

手足口病に関する記事が目に留まりましたので、紹介します。
流行の原因として、
・コロナ禍の感染対策の影響で数年間流行がなかったため集団の免疫が低下
・コロナ後遺症としての免疫低下
の可能性を指摘していますね。
1つ目は肯けますが、2つめはどうなんでしょう?

それから、手足口病の原因ウイルスには、
“アルコールや石けんが効きにくい”ことも指摘しています。

さらにポイントとして以下の事項を列挙しています;
1.どんなに感染対策を強化しても、手足口病の原因となるウイルスからの感染を、完全に防ぐことはできない。
2.一部の子どもは口腔病変が潰瘍(かいよう)化して口内炎を発症し、強い痛みを生じる。
3.手足口病は学校保健安全法に定められた感染症ではなく、法定の出席停止期間は存在しない。

■ 14週連続で増加「手足口病」で知っておきたいこと症状や治療法、感染対策について
上 昌広 : 医療ガバナンス研究所理事長
2024/07/19:東洋経済ONLINE)より抜粋(下線は私が引きました);
 手足口病の流行が拡大している。
 国立感染症研究所(感染研)によると、現時点で最新データである、6月24~30日の約3000の小児科を対象とした定点あたりの感染者数は8.45人で、14週連続で増加している。この時期の感染者数としては、過去10年で最多だ。・・・

▶ 手足口病が感染拡大する2つの理由
・・・この時期に手足口病が増えているのは、2つの可能性が指摘されている。
 1つはコロナ禍で外出を自粛する人が増えたため、流行が抑制され、集団免疫が低下したからだ。その証左に2020、2021年には手足口病は流行せず、2022年も流行は小規模だった。
 2つめの可能性は、コロナ後遺症として免疫力が低下する可能性だ。
 手足口病に関する研究はないが、2023年5月、アメリカ・ケースウェスタンリザーブ大学の研究チームが発表した研究によれば、コロナに感染したことのある子どもが風邪ウイルスのRSウイルスに感染するリスクは、コロナに感染したことのない子どもの1.4倍だったという。同様の指摘は、他の研究グループからも報告されている。

▶ 手足口病はどんな病気か?
 手足口病はその名の通り、口の粘膜、手、足に症状が出るウイルス性の感染症で、英語でも“hand,foot and mouth disease”となっている。
 原因となるのはコクサッキーA16、コクサッキーA6、エンテロウイルス71などの胃や腸で増殖するウイルスだ。夏場に子どもを中心に流行することが多く、患者の過半数は2歳以下の乳幼児である。
 それぞれのウイルスは、一度感染すると免疫を獲得するため、再感染することはない。ただ、コクサッキーA16に感染しても、ほかのコクサッキーA6やエンテロウイルス71に対する完全な免疫は獲得できないため、感染することがある。
 一方、大人が手足口病を発症することは稀なため、学童期までに大半の子どもが、不顕性感染(感染していても症状が出ていない状態)を含め、すべての型のウイルスに感染していると考えられている。
 手足口病は、一般的には軽症だ。感染すると3~5日の潜伏期間をおいて、口腔粘膜、手のひら、足の裏や甲などを中心に直径2~3 ミリの水疱ができる。約3分の2の感染者は発熱せず、発熱した場合でも、多くは38℃以下だ。水疱は3~7日程度で自然に消退する。
 ただ、一部の患者は急性髄膜炎を合併し、重症化することがある。稀だが、急性脳炎を引き起こすこともある。エンテロウイルス71の感染が特に重症化しやすいといわれている。
 1997年4~6月にマレーシアで大流行し、30人以上の死亡が報告されている。この翌年は東アジアでも手足口病が流行した。1998年2~12月には台湾で大流行し、78人の死亡が確認されている。マレーシアと台湾、いずれの流行もエンテロウイルス71が原因だ。
 筆者が調べた範囲では、今回のわが国の流行に関して、感染研は流行中のウイルスの型を公表していない。
今年2~5月には台湾の新北市で手足口病が流行したが、感染者からエンテロウイルス71が検出されている。感染研は流行中の手足口病のウイルスを同定しているだろうから、このあたりの情報は公開すべきであろう。
 このように書くと、手足口病を恐ろしい感染症と感じる方もいらっしゃるだろうが、あまり心配しなくていい。前述したように、ほとんどは軽症だ。手足口病に対する抗ウイルス薬は開発されておらず、治療には解熱薬や痛み止めなどを用いる。

▶ 手足口病の対策「3つのポイント」
 では、手足口病とどう付き合えばいいのか。3つの点を強調したい。
1つめのポイントは、「どんなに感染対策を強化しても、手足口病の原因となるウイルスからの感染を、完全に防ぐことはできないことを認識すべき」(高橋医師)だ。
・・・
高橋医師がこのように感じるのは、手足口病のウイルスの構造に起因する。手足口病の原因ウイルスは、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスが有するエンベロープ(ウイルス粒子を囲む膜のようなもの)を持たない。エンベロープは脂質二重膜でできているため、アルコールやせっけんで破壊できる。だからこそインフルエンザや新型コロナの流行期には、アルコール消毒やせっけんでの手洗いが推奨される。
だが、手足口病については、このような効果は期待できない。
 もちろん、一般的な感染対策として手洗いは有効だ。水流でウイルスを洗い流せるからで、筆者も手洗いの励行をおすすめしたい。また、手足口病は飛沫感染でもうつるため、マスクやうがいも一定の効果はあるだろう。
 それでも、限界があることを認識しておこう。周囲に手足口病にかかった子どもがいても、それは感染対策が不十分だったためではない。感染者に落ち度はない。また、手足口病をおそれて、感染を予防するため、保育園や幼稚園を休ませたり、人混みを避ける必要はない
 手足口病のウイルスに感染した場合、症状が治まっても、便からのウイルスの排泄は1カ月程度続く。どんなに清潔にしても完全に予防はできないと考えたほうがいい
 第2のポイントは、一部の子どもは口腔病変が潰瘍(かいよう)化して口内炎を発症し、強い痛みを生じることだ。重症例では唾液が飲み込めず、よだれが多くなる。
 高橋医師は、「塩からいものや酸っぱいもの、温かいものは痛みの感じ方を強めるので、できるだけ避けたほうがいい。自分が口内炎になったときを思い出して、薄味のお粥を作り、冷ましてからあげてほしい」と言う。

▶ 登校再開のタイミングは?
 最後のポイントは登校再開のタイミングだ。 
 わが国では一部の感染症に対し、学校保健安全法で出席停止の期間を定めている。例えば、インフルエンザは発症した後5日を経過し、かつ解熱後2日(幼児で3日)を経過するまで、麻疹は解熱後3日を経過するまで、学校に行けない。
 手足口病はどうかというと、学校保健安全法に定められた感染症ではなく、法定の出席停止期間は存在しない明確な基準がないためだろうか、多くの保育園や幼稚園が、回復した子どもを再登園させる際に「担当医から登園許可証をもらってくるように」と求める。彼らは、「周囲に伝染させるおそれがないこと」を医師に保証させようとする
 これは間違った対応だ。理由は前述したように、手足口病を患った子どもは、症状がとれても長期間にわたりウイルスを排出するからだ。数週間も出席停止にするのは現実的ではない。また、不顕性感染者がいるのだから、症状がある人や回復して間もない人だけを出席停止にしても感染拡大は防げない。
 幸い、症状が改善すると、排出するウイルス量も減少する。周辺に感染を拡大するリスクは低下する。登園再開のタイミングは、本人の体調が回復したときだ。その時期は感染の重症度により、個人差もあるだろう。不安な保護者は具体的な時期について、かかりつけの小児科医に聞けばいい。
 以上、手足口病について、筆者が重要と考えるポイントをご紹介した。手足口病は麻疹やインフルエンザ、新型コロナように「封じ込め」はできない。しかし、感染してもほとんどは軽症ですむ。感染は避けては通れないことを認識し、感染対策を十分に講じつつも、あまり心配せず、鷹揚に対応すればいいだろう。

<参考>
▢ 手足口病とは(NIID:国立感染症研究所)
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ようやく整いつつある『RSウイルス』に対する予防医療

2024年07月19日 07時10分26秒 | 小児科診療
私が小児科勤務医をしていた20年前、
冬になると病棟に「ロタ部屋」と「RS部屋」ができるのが年中行事でした。

ご存知のように、
ロタウイルスは嘔吐下痢(急性胃腸炎)で脱水になり入院、
RSウイルスは赤ちゃんがゼーゼー(気管支炎)して呼吸困難になり入院、
する感染症です。

しかし特効薬はなく、対症療法で回復を待つしかありませんでした。

その後、ロタウイルスワクチンが開発され、
ロタ胃腸炎が激減し、入院する赤ちゃんも激減、
外来でも点滴する患者さんも減りました。

ロタ胃腸炎の予防に成功したのです。
ワクチンの威力ってすごい!と実感。

そして残された問題はRSウイルス。
近年ようやく、RSウイルスに対抗できる体制が整いつつあります。
それを解説した記事を紹介します。

従来からハイリスク児(RSウイルス感染で重症化しやすい背景のある赤ちゃん)にはシナジス®という予防薬がありました。
ただ、一般の健康乳児には適応がなく、
しかし、一般乳児も入院例が後を絶たないというジレンマがありました。

そして2024年、一般乳児をターゲットとした予防薬が2つ認可・発売されました。
抗体製剤のベイフォータス(ニルセビマブ)と母子免疫ワクチンのアブリスボ(組換えRSウイルスワクチン)です。
ベイフォータスは非常に高価な薬剤なので一般使用には向きません。
現実的にはアブリスボの使用を検討することになりそうです。

現時点でのラインナップから考えられる方針は、
「基礎疾患のない正期産児のためのアブリスボ
 ハイリスク児のためのシナジスベイフォータス
と考えられます。

■ 登場相次ぐRSウイルス感染症の予防戦略、専門家に聞く位置付け
2024/07/09:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 RSウイルス(RSV)感染症の予防戦略が、母子免疫ワクチン、新生児および乳児に対する抗体製剤、高齢者向けワクチン──と次々登場している。・・・
 2024年に入り、RSV感染症に対するワクチンや抗体製剤が相次いで発売された(表1)。これら以外にも、小児を対象とした経鼻ワクチンや、小児、妊婦を含む成人に対するmRNAワクチン、小児への新たな抗体製剤などの開発が進んでいる。現在60歳以上を対象としているアレックスビーは50~59歳への対象拡大について承認申請を行っているほか、60歳以上に対するmRNAワクチンも製造販売承認申請がなされている。


表1 RSV感染症に対するワクチン・抗体製剤(2024年7月時点)

 乳児の細気管支炎や肺炎の主要原因の一つであるRSVには、ほぼ全ての乳幼児が2歳までに感染するといわれる。かぜ症状のみで回復することも多いが、一部の患児では重症化して入院や人工呼吸管理を要するケースもある。
 そうしたRSV感染による重篤な下気道疾患の発症抑制に用いられてきたのが、抗体製剤のシナジス(一般名パリビズマブ)だ。2002年の登場時には対象が早産児と気管支肺異形成症の児に限られていたが、現在では先天性心疾患や免疫不全などを有するハイリスク児に適応を拡大している。

▶ 母子免疫ワクチンの登場で健康な子も守れるように
 シナジスによってハイリスク児が守られるようになった結果、課題となっているのが「基礎疾患のない正期産児の入院をどう防ぐか」だ。2018年に東京周辺の12医療機関でRSV感染症のために入院した3歳未満の患児900人のうち、878人(97.6%)がシナジスの適応がない児だったという報告もある(Seimiya A,et al. Pediatr Int.2021;63[2]:219-21.)。
 こうした基礎疾患のない正期産児におけるRSV感染症予防の選択肢として2024年5月に登場したのが、抗体製剤のベイフォータス(ニルセビマブ)と母子免疫ワクチンのアブリスボ(組換えRSウイルスワクチン)だ。この2つのうち、費用面や現在の医療制度を考えると「今の日本で、健康な新生児や乳児を守る手段はアブリスボが選択肢になるだろう」と、日本大学医学部小児科学系小児科学分野主任教授の森岡一朗氏は語る。 
 ベイフォータスの薬価は、体重5kg未満の新生児および乳児の1回投与用量である50mgで約46万円と高価であり、早産児やハイリスク児への投与は保険が適用されるものの、基礎疾患のない児に対する予防のための投与は全額自己負担となるためだ。
 アブリスボも接種にかかる費用は全額自己負担だが、約3万円とベイフォータスに比べると15分の1ほどになる。とはいえ、アブリスボの接種が広がるには時間がかかると森岡氏はみる。妊娠中のワクチン接種に抵抗感のある妊婦も少なくない上、母体自身の感染や重症化を抑制することが分かっているインフルエンザワクチンや新型コロナワクチンとは異なり、アブリスボの接種は、将来生まれてくる子どもへの予防効果を目的としたものになる。
 「母子免疫ワクチンの接種に当たっては、抗体移行の媒体となる母体の安全が担保されないといけない」と森岡氏。アブリスボの第3相試験では副反応として注射部位疼痛(40.6%)、頭痛(31.0%)、筋肉痛(26.5%)などが接種した母親に出現し、大部分は軽度から中等度で、発現から2~3日で消失したと報告されているが、同氏は今後、日本や海外のリアルワールドでのデータ収集を行い、効果と安全性のさらなる検証も重要になるとの考えだ。

▶ 適応や投与タイミングが異なる2つの抗体製剤は「共存」
「『基礎疾患のない正期産児のためのアブリスボ、ハイリスク児のためのシナジスとベイフォータス』と考えるべき」と話す、日本大の森岡一朗氏。
 では、ベイフォータスの立ち位置はどうなるのか。森岡氏は「ハイリスク児への選択肢として、ベイフォータスはシナジスと共存していくだろう」と語る。RSVの流行期に毎月投与する必要があるシナジスに対し、ベイフォータスは1回の投与で済むというメリットがある。一方、2024年7月時点で肺低形成、気道狭窄、先天性食道閉鎖症、先天代謝異常症、神経筋疾患を有する新生児、乳児および幼児を対象としているのはシナジスだけだ。加えて、基礎疾患のない在胎期間28週以下の超早産児において、ベイフォータスは生後初回の流行期しか適応がなく、生後2シーズン目の選択肢はシナジスのみとなる。
 選択肢が増えた結果、「生後初回の流行期にはベイフォータスを1回投与し、2シーズン目にはシナジスを毎月投与する」といった組み合わせも可能となり、複雑になっていることも事実だ。
 こうした状況を受け、日本小児科学会は「日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン」や「日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドラインQ&A」を公開。シナジスやアブリスボとの使い分けについて解説している。「現場の医師からの問い合わせも多いが、現状の日本では、『基礎疾患のない正期産児のためのアブリスボ、ハイリスク児のためのシナジスとベイフォータス』と考えるべき。学会などによる情報も参考にしてほしい」(森岡氏)。
 なお、RSVは従来、冬に小児感染者のピークが訪れていたが、この10年ほどは徐々に流行期が早まり、最近は夏にも流行のピークが訪れるなど、流行シーズンが読めない感染症となっている。流行の直前に投与することが求められるシナジスとベイフォータスの投与タイミングが取りにくくなっており、上記のコンセンサスガイドラインおよび「日本におけるパリビズマブの使用に関するコンセンサスガイドライン」には、「各都道府県内で周産期医療やパリビズマブ/ニルセビマブ投与に関わる小児科医などが中心となって審議し、投与開始月と投与終了月の検討を行うことが望ましい」と記載している。
 さらに、使用回数や組み合わせなどに応じてレセプトが査定を受けるかどうかのローカルルールも異なる可能性があるため、「社会保険診療報酬支払基金、国民健康保険連合会の審査員などとの情報共有が有益である」ともしている。

▶ 疾病負荷のデータが待たれる、高齢者のRSV感染症
 子どもの病気と見なされることの多いRSV感染症だが、高齢者を対象とするワクチンも立て続けに2種類登場した。国内初のRSVワクチンとなったアレックスビー(2024年1月発売)と、先述の通り母子免疫ワクチンでもあるアブリスボ(2024年5月発売)だ。
 高齢者のRSV感染症に関して、医師からよく聞かれるのが、「そもそも疾病負荷はどれほどなのか」という声だ。2019年の流行期に国内の65歳以上の高齢者1000人を対象とした研究では、24人(2.4%)がRSVによる急性呼吸器疾患を、8人(0.8%)が下気道疾患を発症し、1人が入院した(Kurai D,et al. Influenza Other Respir Viruses.2022;16[2]:298-307.)。同研究を取りまとめた杏林大学医学部臨床感染症学教室臨床教授の倉井大輔氏は、「日本での成人や高齢者におけるRSV感染症の疾病負荷に関するデータは極めて限られており、予防のメリットを定量化する上でも今後集めていく必要がある」と語る。
 2024年4月には2700~5400人の組み入れを予定している長崎での疫学研究「Nagasaki ROAD study」が開始しているほか、日本感染症学会ではRSV感染症診療の手引き作成委員会が発足。国外の情報も含め、現時点でのデータを取りまとめて提示する予定だという。
 杏林大の倉井大輔氏は「ワクチン接種のメリットが大きいのは、RSVの感染により増悪するおそれが高い基礎疾患を有する患者」と語る。
 疾病負荷のデータが不足している状況にもかかわらずワクチンが相次いで登場していることから、「現場の医師から『かかりつけ患者に接種すべきだろうか』という質問を受けることも多い」と倉井氏。アレックスビーもアブリスボも、基礎疾患の有無によらず60歳以上であれば接種可能だが、同氏は「ワクチン接種のメリットが大きいのは、RSVの感染により増悪するおそれが高い基礎疾患を有する患者だ。60歳以上でも基礎疾患がなく、健康であればかぜ症状で済むことが多い」と話す。
 基礎疾患の中でも、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)といった呼吸器疾患と、心不全や冠動脈疾患といった心疾患は「RSV感染症により、基礎疾患が悪化する頻度が明らかに高いと実感している」(倉井氏)。一方、糖尿病や慢性腎臓病(CKD)もRSV感染症による入院リスクが上昇するというデータはあるが、そうした患者に全員接種すべきなのかは「悩ましい」という。「呼吸器疾患や心疾患のある患者に加え、基礎疾患のコントロールが悪く『かぜをひいたら入院しそうな患者』『過去にかぜをひいて入院したことがある患者』には接種を検討する、というのが一つの線引きになる」と同氏。
 外来での迅速検査がしにくいことなどから、高齢者は小児と異なりRSV感染症と診断されることが少なく、感染による影響が見えにくい。それでも「高齢者が増加し、相対的に若い医療・介護従事者の不足が想定される社会では、医療体制を維持するためにも予防できる疾患は予防していく必要があるだろう」と倉井氏は語る。
 実際の疾病負荷や予防効果の持続期間など、不明瞭な部分も多い高齢者のRSV感染症予防。厚生労働省での定期接種化に向けた議論でも疾病負荷に関する情報不足が課題とされており、さらなるデータの蓄積が待たれる。

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新型コロナ検査の最適タイミングは発症後2日目以降?

2024年07月19日 06時18分36秒 | 小児科診療
インフルエンザの検査のタイミングは、
「発症当日より翌日の方が感度がいい」
ということは社会的な常識となっています。

ではコロナは?
…はっきりしないまま、今まで来ていますね。

でも私は知っていました。
発症当日より、翌日以降の方が感度がよいことを。
理由は、私自身が2022年に罹った際の経験からです。

発症当日、咽頭に違和感(痛みまでいかない) → PCR検査を行い陰性。
発症翌日、咽頭違和感悪化+微熱が出てきた → 抗原検査を行い陰性。
発症2日目、上記症状が続く → PCR検査を再検査して初めて陽性。

という経過でした。なので、
「発症日に検査陰性でも否定はできない」ことを患者さんにも説明してきました。

その後、こんな記事が目に留まりました。
約1年前(2023年)の記事です。

迅速検査はPCRより感度が劣るため、
コロナ感染を否定するには2回の検査が必要という内容。
私の経験、そのものですね。
では2回目はいつ?という疑問に関しては「2,3日以降」とはっきり述べていません。

■ 迅速抗原検査での新型コロナ感染の除外には2回以上の検査が必要
ケアネット:HealthDay News:2023/08/09)より抜粋(下線は私が引きました);  
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に、医師は患者に、自宅での迅速抗原検査で陰性の結果が出ても、48時間後に再検査するよう伝えてきたが、どうやらこの助言は正しかったようだ。新たな研究により、症状の有無にかかわらず、迅速抗原検査で新型コロナウイルス感染を除外するには、陰性判定から48時間後の再検査が必要であることが示された。米マサチューセッツ大学(UMass)チャン医科大学のCarly Herbert氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に7月4日掲載された。
 この研究は、有症状と無症状の新型コロナウイルス感染者における、新型コロナウイルスの迅速抗原検査であるAg-RDTの性能を検証するために実施された。試験参加者には、48時間の間隔を空けて自宅でAg-RDTを複数回実施してもらうとともに、RT-PCR検査用の鼻腔ぬぐい液も採取してもらった。鼻腔ぬぐい液は研究室に送られ、RT-PCR検査で感染の確認が行われた。試験に登録された7,361人のうち、試験1日目には症状がなく、検査結果も陰性だった2〜90歳の5,353人(平均年齢37.4歳)が解析対象とされた。このうちの154人は、試験期間中にRT-PCR検査で1回以上、新型コロナウイルス陽性と判定されたが、このうちの97人は無症状だった。
 RT-PCR検査で感染が確認された日にAg-RDTを行った場合の感度は、有症状の人で59.6%、無症状の人で9.3%であった。Ag-RDTの感度は48時間の間隔を空けて検査を繰り返すごとに向上し、2回目の検査では有症状の人で92.2%、無症状の人で39.3%、3回目の検査では同順で93.6%、56.4%であった。さらに、リアルワールドでは、感染が確認されたその日にAg-RDTで検査をするとは限らないため、RT-PCR検査での陽性確定から2、4、6、8、10日後にAg-RDTを行った場合の検査性能を割り出した。その結果、感染確認後0〜6日の間のいずれかの日に48時間の間隔を空けてAg-RDTを2回行った場合の感度は、有症状の人で93.4%、無症状の人で55.3%と推定された。無症状の人の中から1回目のテストで陽性が判明した人を除くと、この感度は62.7%に、Ag-RDTを3回行った場合には79.0%に向上した。なお、初回の検査で陽性と判定された場合は、偽陽性率が低かったため、再検査は必要なかったという。
 Herbert氏は、「迅速抗原検査の結果が陰性でも、体内のウイルス量が検査で検出される量に達していないだけの可能性があり、迅速抗原検査で検出されるまでには2、3日かかるかもしれない。この検査でのウイルス検出には、RT-PCR検査より多くのウイルス量が必要となる」と話す。
 COVID-19は今でも公衆衛生上の問題であり、1回の迅速抗原検査での陰性の結果だけに頼ると、深刻な事態を招きかねない。「もし、その結果が偽陰性だった場合、ただのアレルギーだったと思って仕事に復帰することで、ウイルスを他の人にうつしてしまう可能性がある」とHerbert氏は言う。・・・

さらに最近、以下の記事が目に留まりました。

こちらは「発症2日目以降の検査が望ましい」とはっきり述べています。
つまり、インフルエンザ同様、
「発症日に急いで検査しても偽陰性(罹っていても陽性に出ない)可能性がある」、
ということです。

しかし…陽性率が妙に低いことが引っかかります。
その説明として、
「新型コロナウイルスの抗原検査の場合疑陰性率が高過ぎると思うかもしれないが、
抗原検査はウイルス量が多く、周囲の人にうつす可能性のある人を検出する目的で作られたもの」
と言い訳(?)してます。

あれ、でもこの論文、
「インフルエンザは発症後すぐに検査をすべき」
と書いてありますね。
日本の常識と名違う…近年、迅速検査の感度が上がったということかな?

それからアメリカでは「オールインワン」検査、
つまりインフルエンザ+コロナ+RSウイルスが一度にわかる検査が存在している様子。
日本ではまだですね。

それからそれから、米疾病対策センター(CDC)が最近、
検査と予防のガイドラインを変更したことに言及しています。

以前の方針の『発症後5日間の隔離』
 ↓
・今回の改訂は「仕事や社会に復帰しても安全かどうかを判断する前に、もう一度、検査をするべき」

 …発症後5日間はほとんどのケースで必要以上に長かった。
 今回の改訂で「より理にかなった内容になった」と。

さて、日本は変わりますかね…

■ 新型コロナの抗原検査は発症から2日目以降に実施すべき
ケアネット:HealthDay News:2024/07/17)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 今や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やインフルエンザなどの迅速抗原検査はすっかり普及した感があるが、検査は、症状が現れてからすぐに行うべきなのだろうか。この疑問の答えとなる研究成果を、米コロラド大学ボルダー校(UCB)コンピューターサイエンス学部のCasey Middleton氏とDaniel Larremore氏が「Science Advances」に6月14日報告した。それは、検査を実施すべき時期はウイルスの種類により異なるというものだ。つまり、インフルエンザやRSウイルスの場合には発症後すぐに検査を実施すべきだが、新型コロナウイルスの場合には、発症後すぐではウイルスが検出されにくく、2日以上経過してから検査を実施するのが最適であることが明らかになったという。
 Middleton氏らは、呼吸器感染症の迅速抗原検査がコミュニティー内での感染拡大に与える影響を検討するために、患者の行動(検査を受けるかどうかや隔離期間など)やオミクロン株も含めたウイルスの特性、その他の因子を統合した確率モデルを開発した。このモデルを用いて検討した結果、新型コロナウイルスの場合、発症後すぐに迅速抗原検査でテストした際の偽陰性率は最大で92%に達するが、発症から2日後の検査だと70%にまで低下すると予測された。発症から3日後だとさらに低下し、感染者の3分の1を検出できる可能性が示唆された。
 この結果について研究グループは、「すでにほとんどの人が新型コロナウイルスへの曝露歴を有しているため、免疫系はウイルスに曝露するとすぐに反応できる準備ができている。そのため、最初に現れる症状は、ウイルスではなく免疫反応によるものだと考えられる。また、新型コロナウイルスの変異株は、ある程度の免疫力を持つ人に感染した場合には、オリジナル株よりも増殖スピードが遅い」と説明している。
 一方、RSウイルスとインフルエンザウイルスに関しては、ウイルスの増殖スピードが非常に速いため、症状の出現後すぐに検査を実施するのがベストであることが示唆された。
 Larremore氏は、最近では新型コロナウイルス、A型およびB型インフルエンザウイルス、およびRSウイルスへの感染の有無を1つの検査で同時に調べることができる「オールインワンテスト」が売り出されるようになり、また、薬局や診察室でも複数のウイルスを一度に調べるコンボテストが行われていることを踏まえ、「これは悩ましい問題だ。発症後すぐの検査だと、インフルエンザウイルスとRSウイルスについてはある程度のことが明らかになるが、新型コロナウイルスについては時期尚早だろう。だが、発症から数日後では、新型コロナウイルスの検査には最適のタイミングだが、インフルエンザウイルスとRSウイルスの検査には遅過ぎる」と話す。
 また、Larremore氏は、「新型コロナウイルスの抗原検査の場合、疑陰性率が高過ぎると思うかもしれないが、抗原検査はウイルス量が多く、周囲の人にうつす可能性のある人を検出する目的で作られたものだ」と指摘。その上で、「感染者の3分の1しか検出できなくても、最も感染力の強い3分の1を診断できれば、感染を大幅に減らすことができる」と説明している。
 一方、Middleton氏は、最近、米疾病対策センター(CDC)が検査と予防のガイドラインを、「仕事や社会に復帰しても安全かどうかを判断する前に、もう一度、検査をするべき」という内容に改訂したことについて、「より理にかなった内容になった」との見方を示す。同氏は、「以前の方針の『発症後5日間の隔離』は、ほとんどのケースで必要以上に長かったと思う」と話している。

<原著論文>

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学校での熱中症対応、どれが正しい?

2024年07月05日 21時12分10秒 | 小児科診療
梅雨の合間に猛暑が到来・・・熱中症が発生する季節になりました。
さて、熱中症対策は万全でしょうか?

学校における“正しい熱中症対応”をクイズ形式で解説する記事が目に留まりましたので、
紹介します。

<ポイント>
【マスク】
・マスクは常に着用だが、飲食時以外にも、息苦しい、暑いときは外してもいい。体育の授業中のマスク着用がのぞましくない。
【飲水のタイミング】
・飲料は喉が渇いたら(授業時間を含め)いつでも飲んでいいという指導が正しい。飲水に関する誤った制限は、子どもたちを熱中症リスクにさらす。
【飲料の種類】
・飲料の種類では「水かお茶しか認めない」「氷は禁止」などの指導は間違い。3度の食事を健康的に摂れている場合は、こまめにお茶や麦茶、お水を飲むことで十分、しかし朝ごはんを抜いてしまった、食欲がなくあまり食事がすすまないなどといった日には塩分・ブドウ糖・カリウムの入った飲料を飲まないと熱中症になるリスクが高くなる。また、体育やクラブ活動などで大量に汗をかくことがわかっている日、非常に気温が高い日にはスポーツドリンクや経口補水液を持たせるなどの“使い分け”を意識すべし。
・小中学校の7割ほどの保健室に経口補水液が常備されているが、常備していない学校は万が一の応急処置としての効率のよい水分摂取をさせてあげられず、大変危険。
【熱中症が疑われたとき】
熱中症が疑われる症状が現れた段階で、経口補水液をすみやかに、飲みたいだけ飲ませる(養護教諭の仕事)。初期段階で経口補水液を飲ませて脱水を解消することで、熱中症の進行・重症化を食い止められる。


■ 【全国の保護者に調査】マスク着用・飲料摂取…学校・担任によりバラつき。正解は?
〜熱中症対策に医師が警鐘、飲水の制限・マスク常時着用など、危険な指導。“3トル”指導の徹底を
2020/7/9:教えて!「かくれ脱水」委員会)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 熱中症予防の啓発団体「教えて!『かくれ脱水』委員会」は、PTA適正化おしゃべり会の協力のもと、
小学生から高校生までの子どもを持つ全国の保護者106名を対象に、「学校におけるマスク着用指導や熱中症予防・対処に関する調査」を実施いたしました。
  調査を通して、子どもの通う学校における熱中症に関する指導状況、予防意識や実際に熱中症が発生した際の応急処置のための備えなどの現状を聞きましたが、学校や担任教師により、意識レベル、対策レベルにばらつきがあり、かつ、保護者が不安を覚える対策レベルの学校もあるようです。
 教育現場における熱中症対策の改善点に関して、熱中症に詳しい医師の谷口英喜先生に伺います。
 
【監修】済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/周術期支援センター長/栄養部部長
 「教えて!『かくれ脱水』委員会」副委員長 医師 谷口英喜

▶ 学校のマスク着用・熱中症予防の指導の現状 
 学校で行われているマスク着用・熱中症予防指導に関してきくと、下記のような結果となりました。
・「授業中のマスク常時着用指示」(全体の81%)
・「学校の登下校時のマスク着用義務」(57%)
・「授業中の水分補給の制限」「水筒の内容物の制限(スポーツドリンク禁止等)」がともに40%
 ・「体育の授業中のマスク着用指示」は9%
・・・体育の授業中のマスク着用がのぞましくないという認識は浸透してはきているようですが、いまだ約1割の学校においては体育中にマスク着用を指示するというリスクの高い指導がなされてしまっているともいえます。
 マスク着用の指示についてのみをみると、
・「マスクは常に着用だが、飲食時以外にも、息苦しい、暑いときは外してもいい」という正しい指導が最多で63%
・「マスクは常に着用し、飲食時以外常に外してはいけない」(29%)
・・・苦しいとき、暑いときにもマスクを我慢して着用してしまいかねない指示がなされているという回答が3割弱もありました。
・「喋らなければ外してよい」「室外ではマスクはしない」という指導がされている場合もある
・「決められた時間(中休み・昼休み、等)しか飲んではいけない、先生によっては授業中もOK」(中学2年生の保護者)と、同じ学校内でもクラスによって異なるという場合も。
 また、教壇に立つ先生がマスクを付けており、飲み物も飲まないので飲みにくい、と考える子どももいるといいます。

 マスク着用に関する学校での指導に対し、ほかにも下記のような意見がありました。
・「剣道部で、素振りや足さばきなど練習中にマスク着用の指導があり。さらに対人稽古では面とマスクとフェイスシールド着用指導あり。酸欠状態での過酷な練習で熱中症が心配。」(中学3年生の保護者)
・「元から集団登下校時はお喋り禁止なのにさらにマスク着用が義務。『熱中症になるから外していいよ、先生に何か言われたらおばさんのせいにしていいよ』、と言ってあげも、低学年の子たちは友達の親より先生の言うことを守るので外さない。高学年はアドバイスすると外す。集団登校でもないのに登下校時のマスク着用に関して、市のガイドラインに沿っているからと学校独自の見解は出せない等責任逃れの発言。市は文科省からのものだから…結局何も考えていないことが明らか。しかし保護者が意見すれば進路や成績含めて、子供が人質だというように感じてしまう…。」(中学2年生の保護者)
・「登校時はマスクを外しても良いことになっているが、これから暑くなって夏休みもほぼなくなるので、日傘がOKになってくれるとソーシャルディスタンスにもなり嬉しいです。」(小学校2年生の保護者)
 保護者や子どもが納得できる合理的で安全なマスク着用ルールを策定していく必要がありそうです。
 
▶ 「飲料は、飲みたい時にはいつでも飲ませる」が医学的には正しい飲水指導。しかし実情は…
 学校での水分補給が許可されている状況をきくと、
・「喉が渇いたら【授業時間以外は】いつでも飲んでいい」が56人(全体の50.9%)
・「決められた時間(中休み・昼休み、等)しか飲んではいけない」が30人(全体の27.3%)
となっています。その他、「体育のときはいつ飲んでもいい」、「授業中に飲みたい時には担任の許可を得られれば飲める」、「担任によっては授業中でも可」などの回答がありました。
 熱中症予防の観点では、「喉が渇いたら【授業時間を含め】いつでも飲んでいい」という指導を行うべきですが、残念ながらこのような指導がなされていると回答した保護者は14名(全体の12.7%)にとどまり、約9割の学校環境において熱中症予防としては理想的とはいえない飲水指導がなされているのが実状です。
 授業中をはじめ、自由な飲水を禁じられているという文化が一般的とであるのが実状のようで、これは大変危険です。「水筒は集めて保管されているので、休み時間に校庭に持ち出すなどできない」(小学校4年生の保護者)や、「教室での授業中 エアコンをつけながら窓全開で汗だくで授業を受けていて、水分補給は許されず、頭痛、鼻血が出てしまった。(小学4年生の保護者)」などのコメントもありました。
  また、暑い屋外での通学時の飲水制限も問題です。「通学路での飲水も禁止なので、通学に40分以上掛かるので帰宅すると熱中症の症状を毎日訴えている」(小学校2年生の保護者)というケースも。
 飲水に関する誤った制限は、子どもたちを熱中症リスクにさらすことになります。
 学校や先生個人の誤った判断での飲水ルールを策定することは非常に危険であり、熱中症を起こさないための正しい指導を全国的に浸透させる必要があります。

▶ 飲み物の種類に関する制限は正しい?
 水分補給のための飲料を水筒に入れて持参することになっている学校が多いようですが、学校によって持参することが許されている飲み物の種類が制限されていることが多いようです。
 3度の食事を健康的に摂れている場合は、こまめにお茶や麦茶、お水を飲むことで十分ですが、朝ごはんを抜いてしまった、食欲がなくあまり食事がすすまないなどといった日には塩分・ブドウ糖・カリウムの入った飲料を飲まないと熱中症になるリスクが高まります
 また、体育やクラブ活動などで大量に汗をかくことがわかっている日、非常に気温が高い日にはスポーツドリンクや経口補水液を持たせるなどの“使い分け”を意識するとよりよいでしょう。
 また、熱中症は脱水と高体温によっておこるので、冷えた飲料を飲んで体温を下げることも予防策になるので、氷を魔法瓶に入れて持たせるのも有効でしょう。
  教師や親が汗により塩分・糖分・カリウム・鉄などのミネラルが喪失してしまう仕組み、熱中症の仕組みをきちんと子どもに教え、汗をたくさんかいてしまって熱中症リスクのあるときには塩分・糖分・カリウムを含んだ飲料が有効なのだという基本的な知識を身につけさせてあげましょう
水かお茶しか認めない」、「氷は禁止」などの指導がなされていることは大きな問題です。
 
▶ 実際に子どもが熱中症に! その時学校は正しく対処できるのか?
 熱中症の初期症状を起こした時点で正しい応急処置ができるか否かが、重症化や、最悪の場合に起こる脳障害などの後遺症を防ぐことに直結します。・・・
 熱中症の症状が出た際に、「すぐさま涼しい場所に移す」、「すぐに塩分・糖分の入った飲料を飲ませ
る」というのは正しい対処ですが、飲ませる飲料がお茶・お水であるケースもあるようで、もちろん、何も水分を摂らせないよりはまだいいですが、これは汗により塩分などのミネラルを喪失しているときに血中の塩分濃度をさらに下げてしまい、最悪の場合低ナトリウム血症にもつながりかねない危険な判断です。症状を訴えても活動を続けさせるのは問題です。
 
▶ 応急処置の時点で速やかに経口補水液を飲ませるかで重症化するかしないかの分かれ道。
 最悪の場合は意識障害や死亡のリスクに。
「おそらく小・中学校の7割ほどの保健室に経口補水液が常備されていると考えられますが、常備していない学校は万が一の応急処置としての効率のよい水分摂取をさせてあげられず、大変危険です。
また、せっかく経口補水液が常備されていても、養護教諭が正しく使用できていないために熱中症が重症化し、救急搬送されたり、後遺症が残ってしまう場合もあります。とにかく、熱中症とおぼしき症状が現れた初期段階で、経口補水液をすみやかに、飲みたいだけ飲ませることです」(谷口先生)
 経口補水液が熱中症対策にどう有効かよく知っている養護教諭は全体の44.2%にとどまります。
 命に関わる判断をすることもあり得る教員の理解度の低さに不安を覚える保護者の声も。
「炎天下の体育大会練習中でも、水分補給は休み時間のみ。痙攣し、経口補水できなくなった重症生徒が出たが、すぐ救急車を呼ばない。親に電話してきて、『どうしますか?救急車呼びますか?』と養護教諭。養護教諭がこうだと心配」(中学校3年生の保護者)
 
▶ 経口補水液に関する教員の意識データ
一般社団法人「Save Our Kids」が2020年6月に保育園・幼稚園/小学校/中学校/高等学校/その他の養護教諭を中心とした教諭を対象に行ったアンケート結果。
 既に経口補水液をストックしている学校は72.1%。しかしまだ3割弱の学校では備えられていません。
 経口補水液が熱中症対策にどう有効かを「よく知っている」は44.2%と半数を切り、「なんとなく知っている」が51.5%と、経口補水液の使い方・効果をきちんと把握していない教諭が半数以上を占めています。
 
▶ ウィズコロナの学校生活、「3とる」を意識しましょう。

その1 距離を「とる」= 「Keep Distance」
新型コロナウイルスの感染を防ぐために、人との距離を十分 にとる。なるべく人ごみを避ける生活を。感染予防のためには、できるだけ距離を少なくとも2mとる。体育やクラブ活動などの運動中は呼吸が激しくなるために、2m以上の距離をとる。

その2 マスクを「とる」=「TAKE off Mask」
屋外で人との距離を2m以上とれている場合は、マスクをとる。通学時などで人ごみを避けた場所を歩ける場合は、マスクは外す。マスクをした状態での運動は避け、マスク着用での作業や運動の場合は、人との距離を十分にとりつつ、適宜マスクを外して休息するように指導する。
 
その3 水分を「とる」= 「 Drink water ( oral rehydration solution) 」
脱水状態は、身体の免疫機能を低下させます。
室内でも、屋外でも、意識して水分をとるよう指導し、授業中を含め、「喉が渇いたらいつでも水分を摂っていい」というルールにするのが望ましいでしょう。ただし、小学校低学年だと、水分摂取量の目安を自分で判断できず不足したり、逆におもらしをしてしまうなどの可能性もあるので、その子ごとの傾向を教師や親が気づかいアドバイスするようにしましょう。
マスク着用時は、喉の渇きに気づきにくくなることを自覚し、休み時間など外に出られるタイミングなどを決めてマスクを外して水分補給を摂ることを習慣づけるのもいいでしょう。
 1日に3回のバランスのとれた食事を心がけるのが基本ですが、当校前や体育前には必ず、水筒に適切な水分補給と、必要に応じて水分や塩分の補給をできる準備を。終了後の水分補給も忘れずに。
 
▶ 『経口補水療法』について教員が正しく理解することも重要
 軽い頭痛やめまいを感じたら、先生がすぐに『経口補水療法』を行えるよう、すべての学校において経口補水液の常備と正しい使用法の浸透がなされるべきです。
 経口補水液は塩分・ブドウ糖・カリウム等が小腸からもっとも効率よく吸収できる濃度で配合されている飲料で、熱中症の初期段階で経口補水液を飲ませて脱水を解消することで、熱中症を初期段階で食い止められます
 もしも熱中症の初期症状が出たら、まずしっかり経口補水液を飲ませ、あとは少しずつ摂って重症化を防ぎましょう。
 また、学校から帰ってきたら熱中症を起こしていた、というケースも少なくありません。家庭においても、いつ子どもが熱中症を起こして帰宅しても応急処置ができるように経口補水液を常備しましょう。
 
 学校においての「3とる」生活を教師が正しくリードしてあげることで、熱中症により後遺症が残ったり、死亡したりする悲しい事故を防ぐことができます。・・・

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