ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

やさしい医学: 子宮がんについて

2010年12月22日 | 婦人科腫瘍

1 はじめに

一般に子宮に発生する癌(上皮成分から発生する悪性腫瘍)は、子宮頸部に発生する子宮頸癌と、子宮体部に発生する子宮体癌に大別されます。

Uterineca

2 子宮頚がん

◎子宮頸癌とはどんな病気か?

子宮頸癌は子宮頸部にできる癌で、最近では20~30歳代の若年女性に急増しています。初期の子宮頸癌ではほとんど自覚症状がありませんが、癌が進行すると不正性器出血や性交渉時の出血などの症状がみられることもあります。

子宮頸癌は扁平上皮癌と腺癌の2種類があります。扁平上皮癌は子宮頸癌の約80%で放射線療法がよく効きますが、腺癌は子宮頸癌の約20%で放射線療法はあまり効果が期待できません。

子宮頸癌は他の癌と異なり、定期的な検診で前癌病変のうちに発見することが可能です。前癌病変の異形成の段階で発見し治療を行えば、ほぼ100%完治します。また子宮を温存することも可能なため、その後の妊娠・出産も可能です。

◎子宮頚癌の原因

近年、子宮頸癌の原因のほとんどはヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスであることが分かってきました。HPVは性交渉により感染します。このウイルスはとてもありふれた存在で、性交渉の経験のある女性であれば、ほとんどの人が感染したことがあると考えられています。

HPVに感染しても多くの場合は、免疫力によってウイルスが体内から排除されますが、何らかの理由によりウイルスが持続感染した場合、長い年月(ウイルス感染から平均で10年以上)をかけて子宮頸癌へと進行する危険性があります。HPVには100以上ものタイプがあり、そのなかで約15種類が特に癌になりやすいハイリスクタイプとされています。

◎子宮頸癌の検査と診断

初期の子宮頸癌は自覚症状に乏しいので、定期的に子宮頸癌検診を受ける必要があります。現在、子宮頸癌検診では細胞診検査が主流です。細胞診とHPV検査を併用することで検診の精度がほぼ100%になり、将来の子宮頸癌のリスクも知ることができます。アメリカの婦人科検診のガイドラインでは、細胞診とHPV検査の両方が陰性の場合はその後3年間は検診の必要がないとされています。

子宮頚癌検診の結果、精密検査の必要性があると判断された場合、コルポスコープ(腟拡大鏡)検査を行います。コルポスコープ検査で異常が疑われる部位があれば、その部分の組織を一部採取(生検)して病理専門医が診断します。

前癌病変の異形成は、軽度、中等度、高度と長い時間をかけて進行し、最終的に子宮頸癌になる恐れがあります。

◎子宮頚癌の臨床進行期分類

Ⅰ期:癌が子宮頚部にとどまる場合。肉眼的に癌が見えない場合はⅠA期(間質浸潤の深さが3mm以内ならⅠA1期、間質浸潤の深さが3mmをこえるが5mm以内ならⅠA2期)と診断されます。肉眼的に癌が見えればⅠB期と診断されます。

Ⅱ期:癌が子宮頚部を超えて広がってるが、骨盤壁や腟壁の下3分の1には達してない場合。

Ⅲ期:癌が骨盤壁に達しているか、腟壁の下3分の1まで広がっている場合。

Ⅳ期:癌が小骨盤腔を超えてほかの臓器に転移しているか、膀胱・直腸の粘膜にまで広がっている場合。

◎子宮頸癌の治療

異形成・子宮頸癌の治療法は病変の進行状態によって異なります。

軽度異形成は、自然に治癒する可能性が高いため通常は治療の対象になりません。異形成がさらに進行した場合には、癌への進行を防ぐため円錐切除術という治療を行います。子宮頚癌ⅠA1期までの段階であれば、円錐切除術で治癒が可能で、子宮を温存できるのでその後の妊娠・出産にもほとんど影響はありません。

ⅠA2期以上の子宮頸癌に進行してしまうと、円錐切除術では病変を取りきれなくない場合が多く、子宮の摘出が必要になります。ⅠB期以上の子宮頚癌では、子宮だけでなく基靭帯、膣壁、骨盤内リンパ節なども同時に摘出する広汎子宮全摘出術を実施する必要があります。広汎子宮全摘出術では、下肢リンパ浮腫や排尿障害などの後遺症が高頻度に残ります。

子宮頸癌の中でも扁平上皮癌は放射線に対して感受性が高く、放射線療法の治療成績は手術と同等です。最近は、化学療法(抗癌剤治療)と放射線療法を同時に行う同時併用化学放射線療法により、治療成績が向上しました。しかし、放射線療法は癌だけでなく腸や膀胱などにも放射線があたってしまうため、後遺症が残ることがあります。

◎子宮頸癌の予防ワクチン

子宮頸癌の原因がウイルスだとわかり、子宮頸癌の予防ワクチンが開発されました。子宮頚癌予防ワクチンは、子宮頚癌の原因となりやすいHPV16型とHPV18型の感染を防ぐワクチンで、最近、日本でも一般の医療機関で接種することができるようになりました。

3 子宮体癌

◎子宮体癌とはどんな病気か?

子宮体癌は子宮内膜に発生する癌で、95%以上が腺癌です。以前は日本人には少ない癌と言われていましたが、近年増加傾向にあり、現在では全子宮癌の45%を占めるほどになっています。

子宮体癌は、食生活やその人の体質に深く関係があります。高脂肪・高カロリーの食事を好む人、肥満、糖尿病、高血圧などのある人は注意が必要です。また、出産経験のない人や、若い頃排卵障害、ホルモン異常のあった人も危険性が高いことが知られています。

年齢的には45歳以上から増えはじめ、50歳以上の閉経後に多く発生します。

◎子宮体癌の検査と診断

子宮体癌の症状としては、閉経後の不正性器出血や月経の異常が重要です。子宮体癌を早期発見するには閉経期前後の子宮内膜の検査が大切です。

子宮体癌のスクリーニング検査としては、子宮内膜細胞診が一般的です。子宮の内部に細い器具を入れ、子宮内膜の細胞をこすりとって調べる検査で、比較的簡単にできます。この検査で異常が発見された場合、今度は子宮内膜の組織を一部採取して病理専門医が顕微鏡で調べ診断を確定します(子宮内膜組織診)。

また、経腟超音波検査で、子宮内膜が厚くなっているかどうかも非常に重要な情報です。通常、閉経後には子宮内膜は委縮して薄くなりますが、子宮体癌の場合は子宮内膜が肥厚しています。

子宮体癌は、発生のメカニズムの違いから、2つのタイプに大別されます。1つは、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの影響を受けて発生する「タイプⅠ」と呼ばれるものです。もう1つは、エストロゲンと関係なく発生し、高齢者に多くみられる「タイプⅡ」と呼ばれるものです。タイプⅠは子宮体癌の80~90%を占め、「子宮内膜異型増殖症」という前癌病変を経て癌に移行します。タイプⅠは進行が遅く、予後は比較的良好です。タイプⅠの病理組織型は類内膜腺癌です。それに対して、タイプⅡの場合は委縮した子宮内膜から突然発症し、タイプⅠと比べて進行が速く、遠隔転移の頻度も高く、予後不良です。タイプⅡの病理組織型は、漿液性腺癌、低分化型腺癌、明細胞癌などです。

◎子宮体癌の手術進行期分類

Ⅰ期:癌が子宮体部にとどまる場合。

Ⅱ期:癌が子宮頸部間質まで広がっている場合。

Ⅲ期:癌が卵管・卵巣、腟、リンパ節に広がっている場合。

Ⅳ期:癌が骨盤を超えてほかの臓器に転移しているか、膀胱・直腸の粘膜にまで広がっている場合。

◎子宮体癌の治療

子宮体癌の治療は手術療法が中心となります。手術方法としては、子宮全摘出術・両側付属器切除 + 骨盤~傍大動脈リンパ節郭清術(または生検)などが行なわれます。

癌の進行度、糖尿病や高血圧の有無、年齢や肥満の程度など、患者さんそれぞれに最適な手術方法を正確に見きわめることが重要です。子宮体癌の進行度を手術前に正確に見きわめるために、CTやMRIなどの検査も行なわれます。

手術摘出物の病理検査結果(癌の組織型、筋層浸潤の深さ、癌の広がり具合、リンパ節転移の有無など)によっては、手術後の追加療法が必要になる場合もあります。子宮体癌の手術後の追加療法は、放射線療法や化学療法がありますが、未だに標準的な方法は確立されていません。これは、欧米では放射線療法が、日本では化学療法が主に使われてきたため、大規模な比較検討が行なわれていないためです。

4 子宮肉腫

子宮体部に発生する悪性腫瘍には、子宮体癌以外に子宮肉腫(子宮の非上皮性部分から発生する悪性腫瘍)があります。子宮肉腫には発生頻度の高い順に、「癌肉腫」、「子宮平滑筋肉腫」、「子宮内膜間質肉腫」の3つのタイプがあります。これらの腫瘍の発生頻度はいずれも非常にまれで予後不良の場合が多いですが、比較的ゆっくりした経過をたどる症例もあります。

特に、子宮平滑筋から発生する子宮平滑筋肉腫は進行が早く、予後はきめて不良です。癌に比べて非常にまれですが、術前診断が難しく、子宮筋腫と誤診されて、手術後の病理診断で子宮平滑筋肉腫と判明する場合もあります。治療は手術療法が主で、子宮全摘出術を行います。化学療法や放射線療法はあまり有効ではありません。

信濃の地域医療」(住民の健康を守るために)、2009・No.396、毎月1回発行、社団法人・長野県国保地域医療推進協議会


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。