日々茫然

猫・本・アート・日常生活などを、つれづれと思いつくままに記録

『邪魅の雫』 京極夏彦

2006-09-30 | 本と漫画の話

読み終わっちゃいました…
約4.5センチの厚みはさすがになかなか進みませんでしたが、
だいぶ読んだぞ、ちょっと休憩、と思って本を見たらまだ1/5くらいだったりしましたが、
それでも読み終わってしまえば、あっという間で「えっもう終わり」という感じです。
特に後半に入ってからは怒涛の勢いでした。
(ペースは変わらないんでしょうが、感覚として)
これからまた次の新作まで、数年待たねばならぬわけですね。

さて、あらすじですが、発端の部分だけでも、詳しく書いてるとついネタバレになりそうなので、裏表紙の文章を丸写しします

「殺してやろう」「死のうかな」「殺したよ」「殺されて仕舞いました」「俺は人殺しなんだ」「死んだのか」「──自首してください」「死ねばお終いなのだ」「ひとごろしは報いを受けねばならない」
昭和二十八年夏。江戸川、大磯、平塚と連鎖するかのように毒殺死体が続々と。
警察も手を拱く中、ついにあの男が登場する!
「邪なことをすると──死ぬよ」


これではよく分からないと思いますが
京極作品は、数多くの関係者や登場人物の目線で見たこと感じたことを、章ごとに分けて錯綜する形で書かれることが多いのですが、この前半のセリフ部分は、そういう色んな登場人物の言葉です。
読了してからこれを見ると、いかにも錯綜してた感じがわかります。
人それぞれの主観で書かれるので、同じものを見たり聞いたりしても、受け取り方が違うわけですね。
みんな自分が「世界の中心」のような心持で世の中を見ている。
今回はそういう個人の主観というか「個々の世界」についてがテーマだったようです。

そういう難しい部分も京極作品に嵌った人間には「おいしい」のですが、
そんな所を抜きにしても、
主役級・サブ級の登場人物たちの一挙手一投足が「たのしい」

今回、京極堂をはじめ、榎木津、木場などメインキャラ達の出番が少なかったのですが(出てはいてもバックアップ体制、みたいな)、サブキャラの益田、青木両氏が活躍してくれました。
益田君、探偵に弟子入りして以降、軽薄すぎて正直好きじゃなかったのですが(「ケケケ」、と笑ったりする)、今回はどんな考えで軽薄に振舞っているか、などもわかり、その軽薄さもなぜか今回は調子が出ない、といった感じで、しかも“あの”関口に助け舟を出してもらっているような ちょっと好きになれました。
逆に言えば関口君(つい君付けしたくなる人)がいつになくしっかりしていて「よく頑張った」と言ってやりたい感じでした。
青木さんは相変わらず優等生なんだけど、木場修の影響を受けていい方向に奮闘してます。木場修みたいに組織関係なく闇雲に突っ走ったりしない所がエライ

サブキャラ三人衆、といった感じの益田(榎木津の下僕)・青木(木場修の弟分)・鳥口(関口をそそのかす?)のなかで、私が一番好きな鳥口君が今回一切出てこなかったのが寂しかったです。

一方、今回の事件の関係者、今までになくムカツク人達が多かったです。
大鷹…お馬鹿すぎる馬鹿なんて言いたくないけど、馬鹿としか言いようがない。そして哀れ。
  今の時代なら、“なんとか症候群”とか病名が付きそう。でもこの時代だと、普通っぽいのに
  どこかおかしい=馬鹿として生きて行くしかなかったのですね。
江藤…“生きてる感覚が希薄な現代の若者”っぽくて理解不能。
××…名前を出すとネタバレになっちゃうので。自分勝手。許せん!

そして一番好きなキャラ榎木津の出番が少な~
発端は榎さんの話から始まりますが、本人がほとんど出てこなかった
やっと出てきたと思ったら、いつもの榎さんじゃないし。
やっぱり榎さんには、いつもどおり破天荒にわけの分からない大暴れをしてもらいたいものです。
最後のセリフは、よく言った!というかもっと言ってやれ!というか。
あの人には、これくらい言わなきゃきっと分からないままだよ、というかそれでも分かってくれたのかどうか。どこまでも自己正当化しそうな気がします。
そもそも何でこんな人を…?

肝心のストーリーとしては、もう京極作品は読みなれておりますので裏で糸引いてる人とその正体は、登場した時点でなんとなく分かりました。
が、それが分かっていてもなお、何本もの糸をごちゃごちゃと絡めて団子にしたような話をすっきり解いてつなげる、というところまでは頭が付いていけませんでした。参りました
構造として、『絡新婦の理』に近いと感じたのですが、色んなブログの感想を見ると人によって『魍魎』や『狂骨』の名前を出す人もいて、様々な感じ方があるようです。

ともかく言いたいことは…
面白かった 満足です

と言っても、京極作品は1回くらい読んでもまだ味わいつくせず(理解が及ばず)、何度も再読する度に「そうだったのか」という発見があるので、確認の意味でもさっそく2度目の読みに入ってます
色々な味わい方がある京極作品。確かに分厚い小難しい薀蓄が長いストーリーがややこしいととっつきにくいこと請け合いですが、一度お試しになられてみては

コメント (8)
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