MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラル・スリー 第十三章-1

2014-04-05 | オリジナル小説

        13・嵐の後

 

         鬼来村消滅

 

日付の変わった深夜、未明。

人々は信じられないものを目にすることになる。

鬼来村を背後から守っていた里山が突然、崩れ去った。

 

突如、群馬県の北上空に発生した巨大な低気圧が雷雲から500ミリを越える雨と30mに及ぶ風を周辺の山々に叩き付けた。それにより山の斜面が鉄砲水により300平方メートルに渡って崩れ落ちたのだ。

鬼来村と呼ばれた小さな集落はそれに完全に飲まれた。

幸いな?ことにその村の住民は2週間前から全員行方不明であったので・・・村からの犠牲者はこの時点ではなかったと思われていた。ただし、彼等の行方を突き止める手がかりは失われてしまったと言わざるを得ないが。

嵐が直撃する直前まで、そこには数台の警察車両と警察関係者数十人がいたが既に全員その場を引き上げた後であった。

暴力団関係者数十名の護送に手がかかった為、現場検証等が夜開けを待って行われることになっていたことはまさに僥倖としかいいようがない。

その場にいた一般人は基成素子と基成牡丹、星崎編集長と平副編集長。岩田譲とその妹香奈恵、香奈恵の付き添いのガンタ・スヴェンソンとナグロス神代の8人。彼等も事情聴取の為に県警本部に既に無事、移動していた。

全員が自分の幸運に胸を撫で下ろしたことだろう。

 

目を覚ました時、側にいる妹に岩田譲が驚いたことと言ったら。

驚いたと言えば霊能者、基成勇二はシドラと共に嵐の去った後本部に出頭していた。

鬼来雅己を見付けられなかったと2人は告げた。山の頂上を挟んで向こう側の沢にいた彼等は難を逃れることができたのだと言う。濡れて泥だらけになった2人は消防団の車に林道で助けられ山を下りた。村へ続く唯一の県道が寸断された為、関係者しかしらない林道で回り道を強いられての帰還だった。

しかし、2人は元気で傷ひとつなく仲間と再会を喜びあった。

そして。懸念される唯一の犠牲者。行方不明にして、生死も不明。

鬼来雅己、1名。

 

 

         譲の帰郷

 

そのことは岩田融には到底、受け入れられることではない。

信じられなかった。事実だと納得するしかないと悟った時から、彼がしばし腑抜けのようになったからと言って誰が咎めることができよう。

 

岩田譲には雅己と共に船で見聞きした記憶がある。

しかし、それを警察に話すわけにはいかない。

宇宙人の末裔。UFOと大勢の小さな宇宙人達。『兄貴』と霊能者の戦い。

いかにも怪しい雑誌編集者の妄想めいていた話であるし、到底信じてもらえそうもなかったからだ。その上、基成素子と牡丹、そして後から来たと言う実の妹が自分は睡眠薬を飲まされずっと眠っていたというのである。雅己がいなくなり、基成勇二が彼を捜索する為に香奈恵の連れの女性と裏山に入ったことも記憶にない。なぜ、その時に一緒にいなかったのか。雅己を見張っていろと指示した編集長は一言も彼を責めなかったのだが。村が襲われた時も、妹が来た時もただ眠っていただけだった自分を譲自身が責めていた。

それに自分がリアルに体験したと思っていたことに、まったく信用が置けなくなってしまったことも彼を苦しめた。

面白がって聞いてくれたのは、星崎緋沙子と平だけである。それも、基成勇二が死ぬのを見たと話す時点で2人とも首を振った。なぜなら基成勇二は生きている。

しかし、目を閉じると勇二の首が飛ぶ映像が鮮明に甦るのだから始末が悪かった。

死んだ雅己の遺体の断面もが鮮明に瞼に浮かぶ。

今度こそ。今度こそ、自分は夢を見たというのだろうか。

基成勇二に相談したかったが、彼はとても忙しいみたいだった。

編集者も霊能者のアポが取れないと嘆いていた。

事件は大きく報道され、事故災害としてヤクザが絡む暴力事件、住民消失の現代のミステリーとして連日報道されている。

さすがに隠蔽仕切れなかったのか、基成御殿炎上爆破の犯人が5つ子の兄弟であることは公表された。そのうちの一人が警官であったことも公式発表ではさりげなく付け加えられただけだったが、勿論マスコミが見逃すわけはない。しかも公表する前に吉井武彦を懲戒免職に処していた事など、容赦なく追求される。5兄弟は勿論、公開使命手配された。しかし未だに目撃証言や手がかりはない。珍しい5卵生兄弟の犯罪ということに加えて、伝説や伝聞に彩られた鬼来村一族の遺恨絡みとかがしきりに取沙汰された。巷ではどこか一目に付かないところで自決しているという噂も流れたし、更にもう既に海外逃亡しているという話も囁かれていた。

ただし、数々の遺留品や手がかり被害者遺体の消失に付いては遂に発表されなかった。犯人が捕まらない限り、その辺りのことはむやむやになることだろう。

おそらくその辺りのことは小惑星帯に潜む知られざるオリオン連邦からの母船の仕業と思われる。アギュレギオンが依頼した『お掃除』の一環か。

そしてまた『鳳来』と言う記号のことも一切、表には出ていない。

 

そんな世間のかしましい嵐からは見事に匿われた譲であった。

しかし、譲は疲弊していた。

早い時期から星崎から休暇を命じられていた譲は、何年かぶりに神月に帰省することになった。その辺は鬼来村からずっと一緒に付いて来た妹とその連れ達(妹の友人のガンタという若者が融の狭いアパートに転がり込んだ。残りははホテルに泊まっていたらしい。)に押し切られ連れ去られるように・・・気が付いたら旅館『竹本』だったと言うのが正しいかもしれない。とにかく一時、日常生活を失いかけていた譲にとってはまったく正しいサポートであった。

旅館の玄関に入った瞬間の嗅ぎ慣れた家の匂い。

自分より背が低くなった母親にいきなり抱きつかれた。

驚いたことに融の覚えている限り始めて、母親は泣いていた。

「悪い夢を見たんだから。あんたが生きててほんと良かった!。」

その悪い夢とやらの多くは語らなかったが、力一杯、抱きしめられた。

その気恥ずかしさを感じる間もなく、不覚にも目頭が熱くなってしまった譲である。

弱っていた。

おじさん夫婦もその両親も子供達も大騒ぎで譲を歓迎する。

譲が神月を出た時にまだほんの幼児だった渡とユリはすっかり大きくなっていた。

家族と暮らし、譲が受験勉強した離れは今は会社に貸し出されている。

しかし、譲の机は母屋に残っていた。母親と渡の部屋に挟まれて眠り、大家族で食事をした。従業員の清さんや田中さんも加わるし、離れからは東京で世話になったガンタの他に顔を見知ったナグロスという男とシドラ(よく見れば迫力の美人)が来る。鴉と呼ばれているやや気弱そうな若者も社員らしかった。彼は譲を本当によく気遣ってくれる。いつの間にか、昼間は彼等と離れで過ごす事が多くなった。そこには関係はよくわからないが、トラさんと呼ばれる子供も住んでいる。しょっちゅう出入りするユリと渡の悪ガキ仲間。社長である阿牛蒼一も時々、顔を出す。

とにかく、とんでもなく賑やかでいつもうるさい。まったく一人になることがない。かつては苦手で気詰まりであったそういう雰囲気、それらすべてが今はなんだか譲を和ませる。事件や雅己、他の色々なことを考える暇もない。きっと難しいことで頭を悩ませることもないせいだろう。夢は相変わらず見たが、うなされる事は次第に減って行った。気が付けば譲はまた笑っていた。


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