MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

ローズマリー・ブルー 7

2010-09-19 | オリジナル小説


「あれだけの宝石だと色々とセキュリティとか大変なんじゃございませんの?」
ロシフォード氏に婦人の取り巻きから声がかかった。
「そうですわ。今、流行のなんとか言う宝石泥棒とか。危ないんじゃないですの?」
「シャンゼリゼのあの高級店からエメラルドを盗んだ賊でしょう?」
「いえいえ。貴族や個人の屋敷を専門に狙うとか言う怪盗ですわ。」
「それは同じ泥棒ですの?それとも違うんですの?」
「まあ、そんなに泥棒ばかりでは気が休まりませんわ!」
わざとらしい怯えた声に隣にいた甥のラモンは顔を顰めたがロシフォード氏は婦人達のソファの方にグラスを手にゆっくりと歩み寄った。
「確かに。」ロシフォード氏は鷹揚にうなづいて見せた。
「ローズマリーは今までに何度か、盗難の危機にさらされたことがあります。」
「まあ、本当ですの?」「怖いわ。」ご婦人方がさざめく。
「それでどうやって、その危機を脱出なされたんですの、ムッシュ?」中でも熱心に瞳を輝かせているのは英国大使館員の婦人であった。この金髪と碧眼のいかにもたしなみの良いイギリス女性は物腰に似合わず、ミステリー小説の熱心な愛読者であり心霊研究と実物の犯罪事件にも深い興味を持っていた。
「なに、簡単な話ですよ、ブラインズ婦人。攻撃は最大の防御と言いますからな。」
もったいぶって顎をさするその姿はクララ・フォッシュの目にもよく見えた。
「私は最高の人材を常にこの屋敷に雇い入れているわけで。私のかわいいローズマリーに手を出そうとした奴は・・・」「奴は?」婦人が先を促す。
「蜂の巣にしてやりましたよ。」
「まぁ!」信じられないと言った小さな悲鳴が上がる。
「冗談でしょう?イタリアのマフィアみたいに?」
「あなた。」クララ・フォッシュと向かい合って座っていたロシフォード婦人が溜まらず声をかける。「いい加減になさって。皆さんを怯えさせてどうなさるの?」
大きな笑い声をロシフォード氏が響かせる。「皆さん、本気になさりましたか?これは失礼!なに、勿論、冗談ですよ!」
ロシフォード婦人だけが、ほっと緊張を解いた婦人達の中で表情を変えずクララ・ホッシュの耳元に扇子を近づける。
「実は、本当なんですのよホッシュさん。」囁く婦人の濃い香水の匂いをクララは驚きを持って嗅いでいる。「警察にお金を積んで表沙汰にならないようにもみ消していますけど、主人はドイツとハンガリーで強盗を何人か殺させてますの。」
クララは憂鬱な気持ちで防弾硝子ケースの箱に収まった人形を見つめた。気のせいかもしれない何かの反射だろうか、人形のサファイアの瞳がキラリと光った。
シビル・エレンを持つ手に自然と力が加わる。
婦人が小さい不安な声で続けている。
「もともとあのサファイアは主人の祖父がアフリカで手に入れたものなんですのよ。
不正な手段で手に入れた・・・と聞いております。そこでも血が流れたんですの。」
「まぁ。」クララは返事に困る。婦人の声は低く早口で聞き取りづらかった。
「その80カラットの石を二つに割りまして人形の目玉にしたんですの。娘の贈り物にと作らせたんです。でも、その娘は人形を抱くこともなくローズマリーが届く前に病気で亡くなりました。唯一の女の子でしたの。後を継いだ主人の父親も子供は息子ばかりでしたし、この私には残念なことに・・・子供がありませんでしょう?唯一の子供代わりは甥っ子のラモンだけなんですのよ。」婦人は言葉を切った。
「本当にローズマリーは呪われているのではありません?クララさん、私はそれが心配で・・・それでブラインズさんからあなたのことを聞いた時、ぜひにとお願いしましたの。」
「・・・それは、もっとよく拝見してみないと・・・」クララはシビルを手に言葉を濁した。今の所、見た感じでは・・・遠くから硝子に覆われた人形に目を走らせてるばかりでは・・・特に悪いモノは何も感じ取ることはできていなかった。
ただ頭の隅に幼い子供のような影が浮かぶばかりで、その息づかいというか存在感は次第に強くなっていく気がする。シビルも息を詰めて注目しているのを感じた。
『お友達になれるか話しかけてもいい?』
クララははやるシビルをそっとたしなめて、顔を上げた。
「霊視する時は集中して見なければならないんです。」
「ではぜひ、そうしてくださって。」婦人がクララの手を取ると立ち上がる。
「今?この席でですか?」幾分、予想していたとはいえ、クララは戸惑った。おそらくは、今夜遅くもっと少人数でと期待していたのだ。
クララが婦人に手を取られ、硝子ケースに歩み寄ると回りのざわめきが高くなった。


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