MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

GBゼロ-13

2007-10-04 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-13



            アギュ・ルーム

そこには背の高い若者がケフェウスと向かい合って立っていた。だだっ広い、個性のない殺風景な部屋だった。カプセルのような大きな寝床が三分の一を占めている。
窓一つない閉鎖的な銀色の部屋。そこにも壁にも床や天井にも、あらゆる計測装置がこれでもかと隠されているのだろう。
「今日はこれ以上は無理です。」
丁度、その若者がそう口をきいている瞬間だった。
彼は僕らが飛び込んで来ても表情も変えず、一瞥もしなかった。移動機械に乗った自称教師は体をこちらに振り向けると、あからさまな舌打ち一つ。
今日のケフェウスはシンプルないつものチェアーでなく、変な大きな機械に乗っていた。
緑がかった配色で、勿論コスチュームとコーディネイトしてることは言うまでもない。
移動機械は高価だが、セレブなおしゃれさんはいくつも持ってるんだろう。
「説明してもらおうか。」シドラ・シデンが威圧的な物言いと物腰で進み出た。
見知らぬ青年とケフェウスの間に立ちふさがる。
シドラはケフェウスの移動機械を軽蔑したように睨め付けた。
「なるほど?小さな実験室だな。ぬしもあきらめが悪いな。」
シドラの声が凄みを増すほど、背後が渦巻いているのがわかる。
用心棒の先生のようにバラキが控えているのだ。
「その様子じゃ合金にヒビは入らなかったようだな。」
「いい気になるなよ、ワーム使い。」
ケフェウスはそれでもせせら笑った。敵ながら勇気あるー。
「このカンブリアンの女と組んで最高進化体に媚を売ってるってな。有名だぞ、ワーム野郎め。何を企んでるんだかしらないが、必ずシッポを掴んでやる。」
ケフェウスが青年に顎をしゃくった方向で、僕はユウリの存在に気が付いた。ユウリは彼の広い背中に張り付いていた。彼女の伏せた黒い髪と男の腕に深く食い込んだ白い指の先だけが、僕にも見えた。
それはまるで彼がユウリの盾となって、ケフェウスから守っているようだった。
こいつ、誰?。
ドラコがしきりに僕に騒ぎ立てる。何かを伝えたがっている。
シドラも彼には背中を向けている!と、言うことはシドラはこいつを知っている。
僕は彼を見た。彼は年上だ。もう成人と言ってもいい。シドラ・シデンと並んでも遜色のない、一人前の逞しい原始星人。青白い端正な顔と青黒い髪。
そのあでやかな色が縁取る瞳は、確かに誰かの面影があった。
僕ははっとして思わず叫んでいた!
「おまえ・・カプートか!」
「やはり、ワームには隠せませんね。」
聞きなれた声が答え、正体のばれたカプートは哀しそうに僕を見た。

(ドラコはすぐわかったにょ!合図してたのにゃ。
 まったく、ガンちんはニブチンにょ~!)
普通、いばるかよ?バラキは絶対、もっと前に知ってたって。そうだろ?
「そうだ。」そうだろ。「私も知っていた。ユウリから聞いていた。」
ふう。はい、そうだと思ったよ。
「前ちらっと言ってたライバルって彼のことだったんでしょ?」
「まあな。」彼もユウリが好きだった?
「我はあやつを信用できなかった。」肩をすくめて「できるわけない。しかし、アギュを交えて彼と親しくしていることをイリトに報告する事をユウリは望まなかった。我は困った立場になったわけだ。報告する、しないを我に委ねられたって、なあ?」
シドラ・シデンの板挟み状態。結局、ユウリを取って報告しなかったなんていいとこあるじゃん!
「ユウリがなんで無条件で信じていたのか。我に納得いくわけがないだろう?。」
「それは嫉妬とも言ったりしてね、ドラコ」
「なんだと?」
(ドラコに振るにゃ~!)

「おまえなぜ、ここに?」
なんでユウリがおまえの背中に張り付いてるんだよ。
「僕はケフェウスの助手なのです。」カプートは目をそらした。その目はたじろぐことなく、ニヤニヤ笑うケフェウスを見た。
「彼はぼくの書類上のパートナーでもある。」
僕は衝撃を受けた!。
「あくまで共同体契約ってことだ。」意地悪く彼のパートナーが言う。
「ニュートロンの優れた血統に汚れた遺伝子など、混ぜるほど私も酔狂じゃないからな。」
「きさまっ!」
「ガンダルファ、抑えろ。」シドラが静かに制した。「言わせとけ。」
カプートは目をそらさなかった。。ユウリの指が更に深く食い込む。
「薄汚い原始星の孤児が・・優秀だと思ったから取り立ててやったのに。こいつらとつるんでるそうじゃないか?私はとっくに知ってたさ。お前を泳がせてたのさ。」
床から浮かんだ、移動機械が不気味な音を立てる。
「この恩知らずの原始人が!保護者のいないお前の後ろ盾となり、服も食い物も与えてやった。お前の身分じゃ望めない教育を受けさせ、コネを与え出世させてやった。自分の慈悲深さに涙がでるね!」
「それは・・感謝してます。」初めて、ケフェウスのパートナーは目を伏せた。しかし、彼の腕はさらに硬く握りしめられた。背中のユウリを庇うように。
「でも、それはお互い様ではないですか?」カプートは再び、目を上げた。
「ぼくはあなたの言いなりに研究しました。ぼくの成果はすべてあなたのモノになった。」
「そんなの当たり前だろが!この私がお前を飼っててやったんだ!当然だ!」
ケフェウスは僕に向き直った。
「知ってるか?私とこいつがどんな実験をしたか?お前のクローンもいたかな?」
「カプートは確か、アギュと同じ星の出身だったな。」突然、シドラが割って入った。
ケフェウスはちょっと舌なめずりした。
「ああ、そうさ。あの星の人間は根こそぎ実験体だからな。」
「ひどい話だ。おのれ達が孤児を作ったんじゃないか!」シドラは怒りを表わした。
「500年たっても人口は元に戻ってない!みんなおのれら、ニュートロンがやったんだ!」
「当たり前だ!連邦政府のご意向だ!何の為だ?人類の為だ!」唾を飛ばして吠える。「最高の進化だ!人類の素晴らしい臨界進化の謎を解く為だよ!」
「嘘だ!」たまらず僕も拳を機械に打ち付けた。驚いた、ケフェウスが体勢を建て直す。
「進化体とニュートロンの為だろが!原始星の意見なんて通らないくせに!人類の為なんて大嘘をつくなよな!」
「人類に原始人なんて入っていたかな?」引きつった笑い。
「お忘れですか?」カプートの暗い瞳も怒りに燃えていた。
「ぼくはとアギュは同じ原始星人です。臨界進化人類は原始星の者です。」
「私が臨界進化の秘密を解いたら、ニュートロンのモノになるだろうよ。」
ケフェウスは威厳を取り戻そうとした。睨みつける僕とシドラ・シデンを無視するかのように、カプートに顎を向けた。
「お前にはお仕置きが必要だな。ご主人様の手を噛んだんだからな。」
「カプートに何かしてみろ!」思わず叫ぶ。
「ジュラのミミズ飼いが!その手を離せ!」僕は尚も機械を押さえつけた。奴には見えないだろうが、ドラコもシューシュー怒った。
しかし、ケフェウスに犬呼ばわりされた青年は歯を食いしばって前に進み出ようとしていた。ユウリを付けたまま。シドラがすかさずユウリを引き受ける。ユウリの顔は蒼白でぐったりとして、意識が朦朧としてるように見えた。手を引きはがされた彼女の体はシドラ・シデンの腕の中で彼女にもたれかかり、ユラユラと泳いだ。
「ダメよ・・カプート・・ダメ。」ユウリの手だけが無意識にカプートを留めようと空を切った。
カプートは進み出た。
「では、ぼくをクビにして下さい。」
「お願いです。パートナー契約を解消して下さい。」
すると、驚くことにケフェウスは笑い出した。
「まあ、いい。」おかしくてたまらないと、涙を拭う。目を拭った大きな指輪を爬虫類のようにチロリとなめる。そのままねちこい視線を彼のパートナーに注ぐ。
「そんなつもりは、まったくないことはお前も知っているだろうに!」
どれだけの嘲りをケフェウスは言葉に込めたことか。
「かわいいお前を誰が手放すもんか!」
カプートの顔にありありと嫌悪が浮かんだ。

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