2月28日新地町で「放射線と健康について」と題する講演会があるというので参加してきました。 講師は福島医大の放射線健康管理学講座の宮崎真さんでした。
福医大は「ミスター100ミリシーベルト」と世界的に有名になった福島県の放射線健康リスク管理アドバイザーの山下俊一氏が副学長として県の放射線対策を担っています。
山下氏は事故当初から県内各地で講演を行いましたが、「100mSV/h以下では健康被害は確認できていないので心配要りません」、計画的避難区域に指定され全村避難した飯舘村でも講演で「この程度のレベルでは子供を外で遊ばせても大丈夫」などと発言し後に多くの批判を浴びました。 批判が大きく広がったことで山下氏が「私が言っていることは安全ではなく安心です」などと発言したことがさらに批判を拡大しています。
このような対応は山下氏の方針でもあるのでしょうが、このような方をアドバイザーに任命した福島県がこの方向でやっていこうとしているのでしょう。 問題はこのような対応が住民の避難行動や子供たちの被曝を最小限に抑える対策を遅らせる原因になっていることです。
事故直後の13日には福島県にはスピーディによる放射能の汚染地図が届いていました。 文科省はこの情報にもとづき環境放射線量の測定を飯舘村長泥地区で行いその値が300μSV/hであることを把握しておりました。(YOUTUBEに検証委員会が文科省の委員に質問したものがアップされています。 朝日新聞の「プロメテウスの罠」にも掲載されました。 現在では単行本も発売になっています)長泥の住民は白装束の何者かが測定しているのを不信に思い彼らに質問し続けていたのですがその測定結果を知らされたのは1週間も過ぎてからでこの値を見た住民は高い値にビックリしたといいます。 いったい何のための測定なのでしょうか。 住民の命を、健康を守るためではなかったのでしょうか。 大変な税金を費やしてこの日のために準備されていたものが何の役にも立たてずに住民をただただ被曝させ続けるというのは犯罪です。 (
文科省のホームページのSPEEDIをみてください、建前と現実の違いに怒りが爆発します・・・高血圧の方は要注意)。
講演会の感想を書こうと思っていたのですが、話がだいぶ横道にそれてしまいました。 つまるところ今回の講演会もこの流れなのかなぁと感じたのです。
これは数ページあった資料の中の1ページなのですが、このページを見ると言わんとしている内容が分かります。 政府や電気事業連合会、電力各社が原発について書いているホームページとほとんど同じです。
①今までの生活の中でもこんなに放射線を浴びているんですよ。
②自然放射能でもとても高い国や地域があります。
③事故前より放射線量は高いですが100mSV/h以下では影響はありません。
④放射線の被害よりストレスや喫煙、食生活の影響のほうが大きい
などこれまで言い尽くされたことばかりです。 これらのひとつひとつのデータが誤っているなどというつもりはありませんが、正しい個別のデータでも組み合わせることによって全体として誤った認識を持たせることがあります。 このページ全体を見ると大体の人は放射線もそう心配しなくても大丈夫と思うのではないでしょうか。 しかし一方で放射能や放射線は確実に人間の細胞や遺伝子を傷つけます。 CTスキャンでは6.9mSVも浴びることが紹介されていますが、これは検査が必要な方の病気を見つける・治すためにやむなく甘受するリスクであって安全だから浴びるものでないことは明白です。 肺のレントゲン検査も日本ではほとんどの国民が健康診断で毎年1回受けていますが、医学的にはこの有効性が疑われています。 毎年レントゲン検査を受けたグループと全く受けなかったグループの間に死亡率の「有意な差」がないということが報告されているからです。 実際に病気が発見された方にとっては有意義なのですが、全体で見るとやってもやらなくても効果が見えないのです。 放射線を浴びることで増えるガンの発生率の上昇や検査にかかる費用が無駄になります。 これは周知の事実なのですが日本ではこの事業にかかわっている事業者や働いている人たちの雇用の問題などがあり継続されているというのが実態です。 この胸部X線検査の100倍を超える放射線を浴びてしまうCTスキャンも日本ではあまりに安易に実施されているために、医療関連放射線量を少しでも低減するための委員会もあってそこには山下氏も名を連ねているのです。 放射線被曝線量は出来る限り少なくしたほうがいいということが世界共通の科学的判断です。
これらの資料を見て私がとくに問題じゃないかと思ったのはページ中央の「セシウム137の生物学的半減期と体内滞留」の部分です。 講師は若年のほうが代謝が早い、若年の方が滞留量が少ないことを説明しましたが賢明にもそれが健康にどう影響を及ぼすかについてはお話されませんでした。これだけの説明では「子供は放射線被曝に強い」と勘違いする方多いでしょう。 先生の生まれて数ヶ月のお子さんが比較的線量の高い地区(外で1μSV/h、屋内0.4μSV)で生活されている話と合わせるとなおさらですが、子供の放射線感受性が大人の数倍あることを否定する専門家はいないのではないでしょうか。 データは正しくても使われ方によっては誤解を生んでしまいます。 これが故意でないことを願うばかりです。
もうひとつ気になったのは小学生などが付けているフィルムバッチです。 生活の中でどれだけの放射線を浴びているかを調べるもので、この前高線量を示した児童の住宅を検査したところ建物の基礎に使用されていたコンクリートが原因だったことが判明し話題になりました。 このフィルムバッチなんですが、結果報告される被曝量はバックグラウンド(自然放射線を引いた値だということです。 もともとあった線量は引いておきましょうということですが、フィルムバッチの仕様ではそういう使い方になっているのでしょうが子供にわざわざフィルムバッチをつけさせたのは実際に被曝した線量を知るためなのですから検査結果から一律にバックグラウンドの線量を差し引いてどんな意味があるのでしょうか。 国のいう1mSV/hがバックグラウンド線量を差し引いた目標なので1.5mSV/年(この資料から)の値がプラスされるのがいやなのでしょうが、体が放射線から受ける影響は自然放射線+事故によるもの+内部被曝によるものなどの足し算なので健康を規準にすればすべての線量を合計した値にすべきでしょう。(ちなみに電気事業連合会のHPによると日本人は医療被曝などが他国より多いので平均3.4mSV/年位だという)
被曝線量と安全基準については専門家の間では議論のあるところですが大量の放射能を撒き散らした事故が起きてしまった今、低レベル放射線被曝の影響云々を議論しても仕方ありません。 武田教授が主張されているようにこれまで日本の法律や国際放射線防護委員会が決めていた一般人の被曝線量 1mSV/年が最も妥当な値ではないでしょうか。 世界の専門家が長年議論し諸説ある中で直線閾値なしモデルが結果的に支持されており、そこから安全率を見込んでこの値までなら犠牲を甘受しようと決めた値なのです。 これは日本政府も専門家の方々を集めて十分議論して1mSV/年と決めていたわけですから科学的にも政治的にも妥当な数値であることは論を待たないでしょう。 国・県・市町村はこの1mSVをどう達成し住民の被曝を最小限に抑えるために全力を集中すべきです。