池袋のはしご

　池袋のコリアン系の飲み屋はクラブにしろスナックにしろ高め。だいたい時間制で５０００円～１万円。その中で，リーズナブルなのが「アガシ」というカウンターバー。

　やはり時間制ですが，３０分が１単位で，１０００円。一時間２０００円，２時間４０００円で飲み放題です。「あと３０分だけ飲もう」という，はしごの最後の一軒として重宝してます。

　店の名のとおり，お店にいる女性はみなアガシ。アジュンマはいません。昼間は日本語学校か専門学校に通っている子が多いですね。

犬「日本はどう？」

ア「いいですよ。韓国に帰りたくないです」

犬「日本食は口に合う？」

ア「全部おいしいです。おすしも新鮮だし，牛丼もおいしいし，焼き肉も…」

犬「焼き肉は韓国が本場でしょう」

ア「韓国のとはちょっと違うでしょう。日本のほうが好きです。あっ，それからビール！」

犬「それは言える」

ア「初めて飲んだのが，日本に来て三日目だったんです。知り合いのオッパがここの生ビール，おいしいよって勧められて。飲んでみたら，本当においしかった。ウユカッタヨ」

犬「牛乳みたい？」

ア「そう。泡がクリームみたいで」

犬「そうね。生ビールは泡のきめこまかさが大事だからね」

　韓国は概して泡には無頓着です。泡が多いと，店がけちっていると思われ，客に文句を言われる。それで，できるだけ泡を少なく出します。泡をぜんぜんいれないで注げる人が腕がいいと思われている。

犬「ビザは留学ビザ？」

ア「そう。最初は観光ビザだったんですけど，途中で日本語学校に入って，切り換えたんです。でも，一度つかまりそうになって」

犬「どうして」

ア「道で警察に呼び止められたんです。それで，ビザを見せたんですけど，それが観光ビザで少し前に切れてたんですね。でも，修学ビザがとれてたから不法滞在じゃなかったんです。でもそのときは日本語がぜんぜんできなかったから，なんのことかわかんなくて。警官はイミグレーション，イミグレーションって繰り返すだけ。私，動転してたのでその英語をわからなくて。　（えっ？　カッチャ（偽物）？　何が？）って」

犬「ああ，そりゃイミテーションだろ」

ア「そして，警察署に連れていかれて，最初は３人ぐらいだったんだけど，そのうち１０人ぐらいに取り囲まれて…。それ以来，警官が怖くて，すれちがうたびにぞっとするんです」

犬「そりゃお気の毒」

　テグ出身。友だちはみなソウルの大学に行くなかで，ひとり地元の大学の日本語学科へ。お祖父さんが香港に住んでいるので，中国語を専攻して香港へ行けと言われたけれども，高校のときに香港に行ったときの印象が悪かったので，日本語を専攻。２年のときに休学して，日本に来ているとのこと。専攻しただけあって，発音も言い回しも模範的です。

　勉強も仕事も頑張ってほしいです。