
以前、東野圭吾の『宿命』(1990年発表、講談社文庫1993年)という作品を紹介したことがあります。
「脳移植手術」に関する作品です。
それに続く作品が、『変身』(1993年講談社、94年同文庫)。
脳移植手術のあとに、人格が変わっていくという恐ろしい作品。
『分身』(1993年集英社、96年同文庫)は、クローン人間に関する作品です。
「クローン」で思い出すのは、韓国初のノーベル賞(科学)が期待された黄禹錫(ファン・ウソク)の事件。
黄禹錫は、2005年、世界で初めてクローン犬「スナッピー」を誕生させて世界的な注目を浴び、韓国世論は「ノーベル賞」間違いなしと熱狂。
ところが、ヒトクローン胚に由来するES細胞に関する不正事件(論文の捏造、研究費の横領、卵子提供における倫理問題)が発覚して、学者としての信用は地に墜ちました。「ノーベル賞」の望みが吹き飛んだだけでなく、ソウル大学教授を懲戒免職、学界から追放され、2014年には、研究費流用や生命倫理法違反などの罪で、懲役1年6カ月、執行猶予2年の刑が確定。
「卵子提供における倫理問題 」とは、研究に使うヒトの卵子の入手にあたって、自分のチームに属する女性研究員2人に、卵子を提供を強要していたという問題でした。
『分身』は、ヒトクローンの倫理的問題を追及しており、黄禹錫事件より10年も前にこの問題を取り上げていることは、東野圭吾の先見性を示しています。
なお、黄禹錫の研究成果はほとんど捏造でしたが、唯一、クローン犬の誕生は認められており、不正発覚後も、世界中の愛犬家から依頼を受けて愛犬のクローンを製造するクローン犬ビジネスを立ち上げているんでそうです。

『秘密』(1998年文藝春秋、2001年同文庫)は、脳移植とかクローンではありませんが、「入れ替わり」を取り上げた作品で、『変身』、『分身』と通底します。殺人事件とその解決という、典型的な推理小説ではありませんが、この作品が好きという人は多い。ドラマ化された影響もあるでしょう。
ただ、ドラマを観た人は、本とドラマで重要な部分が変わっている、と指摘していました。私は観ていないのでコメントできません。
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