犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

日本語の学習書~ニューエクスプレス日本語

2022-02-13 23:57:36 | 
 2年前にフィリピンに行ったとき、娘の婚約者(今は夫)のDに、日本語の学習書をプレゼントしました。

 一つは『ニューエクスプレス日本語』、もう一つは『みんなの日本語』です。

 白水社の「ニューエクスプレス」シリーズは、私がいろいろな外国語学習でお世話になり、とても満足していたからです。

 今まで使ったものは…

タイ語(新旧)、ビルマ語(ミャンマー語、新旧)、インドネシア語、フィリピノ語、ロシア語(新旧)……

 このほかに購入しただけで学習していないものが何言語かあります。

 どの言語も構成はほぼ共通していて、以前、ご紹介したことがあります(リンク)。

 最大の特徴は、この本が日本語学校で使われるような授業を前提とした教科書ではなく、自習書であることです。

 Dに渡したとき、効果的な学習法についても伝えました。

 ただ読むだけでなく、添付のCDを繰り返し聞き、繰り返し音読し、20課のテキストを丸暗記し、何も見ないで暗唱できるまでにすること。

 まあ、これはそれほど楽なことではなく、それなりの努力と時間がかかります。

 今回、来日した時に、進捗を聞くと、「(全20課中)10課までやった」ということでした。

 実は、同シリーズの他の言語が優れていたので、日本語もきっといいにちがいないと思って、内容はあまり吟味していなかったのですが、あらためてその内容を見てみました。

 すると、この「ニューエクスプレス」は、日本語の学習書として、かなりユニークな内容であることがわかりました。

 特徴を挙げると…

1 英語で書かれている。

 訳文、文法説明は英語で書かれており、英語ネイティブまたは英語が堪能な学習者向けです。

 主人公はミラーさんというアメリカ人女性。キャリアウーマンとして日本で働いています。結婚していて、娘が一人いるようです。夫と娘は本文にはでてきませんが、イラストに登場します。夫の国籍は不明。

2 日本語がローマ字で書かれている。

 通常、日本語は「漢字かな混じり文」です。日本語学習書では、初級者の便宜のために、漢字にふりがな(ひらがな)がついていたり、ローマ字が添え書きされたりしています。しかし、本書では逆で、ローマ字表記が主であって、本文はローマ字で書かれ、その下にひらがなが添え書きされています。練習問題は、オールローマ字。漢字は本書のどこにもでてきません。

 漢字の読み書きはできなくてもよい、ひらがなの読みはいちおう学習するが、書きはできなくてよい。読めることも目指さないようです。

3 著者が多い。

「ニューエクスプレス」シリーズは、通常、一人の著者によって書かれています。ところが「日本語」は、7人の著者の共著なのですね。共著であっても、「代表著者」がいるのが普通ですが、序文を読んでもよくわからない。

 7人の著者は以下(掲載順)

刈田カイ、佐藤乃理子、中村豊美、根本牧、安田芳子、ローリー日比野晴美、早川嘉春

 早川嘉春さんは、韓国語学者で韓国語関連の書籍をたくさん出していますが、ほかの方々は調べても他の著書がないのでよくわかりません。たぶん、日本語教育に携わっている方々でしょう。

 みんなで分担執筆したのでしょうか。

 この構成から類推できるのは、学習者の対象は、ビジネスなどで(英語圏から)来日した社会人で、読み書きは必要ないが、基本的な会話ができるようになりたい、初歩的な文法も知りたい、という人たち。

 留学生は、たいてい日本語学校に通いますから、本書の対象外としたのはうなづけます。

 ただ、日本語能力を測るものさしとして、「日本語能力試験」がありますが、その最も下のレベルである5級も、ひらがな、かたかなと、基本的な漢字の読み書き能力が必要なので、この本で学習しても合格できません。

 こう考えると、本書の需要がどれほどあるか、疑問です。

 Dは、日本での生活、就職のために、「日本語能力試験」を目指しているので、「入門」としてはいいかもしれませんが、合格のためには別の学習書が必要です。

 自分なりに、ひらがなを書く練習をしていますが、その字体がちょっとおかしい。

 その原因は、「ニューエクスプレス」にあるようです。

 本書に出てくるひらがなは明朝体で、手書きするときのお手本にするには不適切です。

 とくに「き、さ、ふ、り」などが手書きと違います。

「書き」の習得も目指す学習書は、ふつう、より手書き文字に近い「教科書体」という書体を採用しています。

「ニューエクスプレス」シリーズは、現在、「ニューエクスプレスプラス」シリーズへの改訂が進行中ですが、今のところ「日本語」が改訂版が出ておらず、この「ニューエクスプレス」も品切れ状態。もしかするとこのまま絶版になるのかもしれません。

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