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小鳥による再生の物語、小川糸の『リボン』

小川糸の小説にすっかりハマっていることは以前にもご紹介したが、『キラキラ共和国』を読み終えた後、今度は2013年に出版した作品、『リボン』を読んでみた。



『リボン』は、祖母のすみれちゃんと、孫娘のひばりちゃんが、鳥の卵を大切に温めて、オカメインコの赤ちゃんが生まれるところから物語は始まる。すみれちゃんが、オカメインコを“リボン”と名付け、二人は我が子のようにリボンをとても可愛がる穏やかで優しい日々が続くのだが、ある日すみれちゃんが、鳥籠の聡怩キる為にドアを開けたままにしてしまった時、リボンが籠から出て、そして外へと飛び出してしまう。リボンは空高く飛びだってしまうのだった。

小説が1/4くらい過ぎたところで起こったこの突然の展開に驚き、この後物語はどうなってしまうのだろうと驚いたが、そこからオムニバス形式で全く違う人々の物語が始まる。

死産となってしまった息子を思う女性、昔インコを飼っていて、今は鳥の保護施設で働く男性、インコをバーで飼っていたママとお客の男性、余命僅かの画家の老婦人、病気で亡くなってしまう女性の家族と、その妹家族などの物語が展開していくのだが、どの物語にもオカメインコが登場する。



小説の後半にまたすみれちゃんとひばりちゃんに物語が戻ってくるのだが、その後昔住んでいた家から引っ越したものの、リボンを失ってすっかり老けてしまったすみれちゃんが、ある日大人になったひばりさんに昔ドイツのベルリンに住んでいた頃の恋について語り出す。当時はベルリンの壁が出来て、すみれちゃんと恋人であったドイツ人のハンスさんが壁によって引き裂かれてしまったことなどが語られる。リボンがいなくなってから20年近くも経過していたが、このすみれちゃんの物語を通じて、ひばりちゃんは初めて、なぜすみれちゃんがリボンをそこまで可愛がったのか、なぜリボンと名付けたのかが明らかになっていく。

そして、すみれちゃんも亡くなってしまい、彼女の思い出の地であったベルリンで散骨をしにドイツへと向かうが、大人になったひばりちゃんもまた大きな悩みを抱えていた。そして小説の最後に、昔リボンを飼っていた頃に住んでいた町に戻り、昔の家に今でも残っていた大きな木にも一部すみれちゃんの骨を散骨をしに訪れたところ、奇跡が起きる。なんとあのリボンがいたのだ。20年も経っていたが、リボンはまだしっかりと生きていたのだ。すみれちゃんが生きている間には再会出来なかったが、すみれちゃんの死がまさにリボンとひばりちゃんを結び付けてくれた。まるでリボンのように。



途中オムニバスで登場する物語に登場するオカメインコは、それぞれ名前はバナナだったりスエヒロだったりで、決してリボンでは無いので、全く違うインコの物語かと思うのだが、実はすみれちゃんの前から大空へ飛び立ってしまったリボンは、場所を変え、名前を変えて、様々な人々の人生に大きく関わって、心を結び付けていくのが感動的である。

この小説『リボン』には、もう一つ楽しい仕鰍ッがあった。なんと、とても素敵な“サイドストーリー”があるのだ。『リボン』と同時に出版された『つばさのおくりもの』。こちらはオカメインコであるリボンの目線で物語が語られており、文章もよりシンプルになっていて読みやすい。こちらの方は30分くらいで一気に読めてしまう分量の短編に近い作品だが、まさにすみれちゃん、ひばりちゃんの家を飛び出して、最後にひばりちゃんに再会するまでの状況が、駆け足ではあるがリボンの目線で描かれており、とても面白いサイドストーリーとなっている。本編の『リボン』と併せて読みたい素敵な作品である。



『リボン』は、オカメインコのリボンを通じて、様々な人間模様、そしてその人生全てが大切な時間であることを思い知らせてくれる再生物語となっており、読み終わった後に、仄かな感動と切なさと共に、心が暖かくなる作品であった。突然の展開の変化に、これまで読んだ小川糸の作品とも少し違うような気が最初したのだが、人々の接点とその物語を大切に、丁寧に、そして優しい視点で描いている一貫性が、如何にも小川糸らしいと思ってしまった。なんだか、動物に、そして我が家で飼っているトイプーのきなこ対して優しい気持ちになり、自分の人生を振り返ってみたくなるような作品であった。



これで読んだ小川糸の作品は、『ライオンのおやつ』、『ツバキ文具店』、『キラキラ共和国』、『リボン』、『つばさのおくりもの』と4作となったが、また小川糸の過去の作品をぜひ読んでみたい。
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