リボヌクレオチド還元酵素(RNR)は全ての生物に必須の酵素で、DNAの合成および修復に中心的役割を果たす。1969年、スエーデンのBrown1)は大腸菌のRNR酵素の吸収スペクトルを測定している時に、RNR蛋白B2の精製段階
図1 Ehrenbergが発表した、RNR内に生成するtyrosyl radicalのESRスペクトル2)。g=2.0047、a(4-)=1.9 mT、 a(2,6-)=0.7 mT。4-位のβプロトン1個のhfccが意外に大きい。
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で、(a) 410 nm の鋭いピークの強度は精製と共に増強する、(b) 410、360 nm のピークは鉄元素除去により消失し、鉄原子の再活性化により再現される、(c)蛋白B2を特異的に壊すhydroxyureaやhydroxylamineで410 nmピークも消去する、ことを見出した。Brownの依頼でEhrenberg2) がESRを測定した所、図1のtyrosyl radical (Tyr・)のESRを得た。tyrosine
はRNR蛋白を構成する必須アミノ酸の一つで、生成したTyr・が鉄の二核錯体と相互作用して安定化しており、室温でも観測できる。当該ラジカル生成は非常に一般的で、光化学系Ⅱ、大腸菌以外のRNR系、チトクロムC酸化酵素系、ヘムを含む酸化酵素系および過酸化酵素系、脂肪酸酸化酵素系、等の酵素系でも生成していることが明らかになってきた3)。その後の研究4)で、RNRのサブユニットβ2(B2)が安定なtyrosyl(Y122・)‐FeⅢ2クラスターを有しており、このY122?が35Å以上離れたα2 の活性部位中のシステイン残基(C439-α2)を可逆的に酸化し、生じたthiyl radicalを用いてRNR還元反応を触媒する。このような長距離のラジカル移動は極めて稀で、芳香族性アミノ酸残基を用いるプロトン共役電子移動 (PCET)機構 が提唱されている4)。このPCET はα2 に基質が結合することで引き起こされる蛋白質の構造変化で制御されている。Y122?の還元は一連の反応の第一段階であり、酵素がY122-β2‐Fe(Ⅲ)2 クラスター間のプロトンと電子移動を通じて、全体の反応を制御していると考られている。フレンチパラドックスでお馴染みのレスベラトロールはRNR酵素の機能を阻害する。レスベラトロールの抗酸化作用の本体である4’位の水酸基がRNRのTyr・を還元し、酵素阻害が起きてDNA複製が阻害され、遺伝毒性を引き起こすのである。ここにきて、Tyr・の同定に端を発したESR測定がENDOR、高周波/マルチESR、およびパルスESR測定へと波及効果が急激に広がりつつある4-5)。金属錯体酵素系でのラジカルの役割がますます重要になってきた。
参考文献1) N. C. Brown, et al, Eur. J. Biochem. 1969, 9, 4069. 2) A.. Ehrenberg, et al, J.Biol. Chem., 1972, 247,
3485; 1978, 253, 6863. 3) A. Mukherjee, et al, J. Am. Chem. Soc.., 2011, 133, 227、及び引用文献参照。 4) K.
Yokoyama, et al, J. Am. Chem. Soc. 2011, 133,
18420.. 5) T. Argirević, et al, . J. Am. Chem. Soc.., 2012, 134, 17661。
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