今日もArt & Science

写真付きで日記や趣味を勝手気ままに書くつもり!
徒然草や方丈記の様に!
あるいは寺田寅彦の様に!

やっぱり、次は高くても日本製を買おう

2015-05-20 10:58:17 | ラジカル

中国調達:「やっぱり、次は高くても日本製を買おう」という残念な結末

2014-07-08 14:0

誰も知らない中国調達の現実(227)-岩城真

中国で製造した部品の検査に使うゲージ、みなさんは日本製を使っていますか、それとも中国製ですか?もちろん図面指示がJISであれば、JIS規格のゲージを使わなくてはならない。JISに準拠しているものならば、中国製であっても理屈のうえでは良い。しかし日本に持ち込む部品であれば、筆者は日本製を使っている。通常は日本製ゲージを中国のサプライヤーに貸与し、日本製のゲージで出荷前検査をさせ、合格品を出荷ということにしている。ところが、中国製のゲージを中国で購入し貸与したということがあった。理由はふたつ、検査の対象となるおねじは、位置決め用のナットを締結するだけの重要部でないこと。それに日本製と中国製では、価格差に5倍ほどの開きがあったことだ。   問題が発生したのは、ゲージを貸与してから1年半ほどのこと。日本の工場に入荷した部品を日本で検査すると、ネジ不良なのである。日本製のゲージが通らないばかりか、ラフに作られているはずのナットさえ通らない。そのままでは、まったく使えない状態である。真っ先に疑われたことは、「現地で検査してないんじゃないか」ということだった。結論を先に書くと、現地では全数検査していた。むしろ全数検査していたから、このようなことになったのである。ところで、1年半の間にどの程度使用したのかというと、500回にも満たない計算になる。日本では500回未満の使用でゲージがダメになるなど考えられない。定期更正期間にも満たない。しかし、件の中国製ゲージを中国から送らせて確認すると、日本製のゲージが通らなかったネジに、中国製ゲージはするりと通ってしまったのである。   原因は何か?ゲージが摩耗してしまったという以外に考えられない。元々中国製ゲージの精度が悪かったということはない。貸与当初から現在までの何ロットかは、まったく問題なく良品が送られてきている。即座に筆者は原因を推定できた。原因はふたつ、ゲージの耐久性に難があること、それにゲージの使用方法に問題があることである。   まず、ゲージの耐久性。これは、筆者は工具商に以前確認したことがあった。メーカー間の価格差に疑問を持った筆者は、営業マンに「この価格差の原因は何ですか?」と訊ねた。彼は丁寧に説明してくれ、焼き入れが違うと教えてくれた。つまり検体のネジ山と接触するゲージのネジ山の硬さである。ちょっと話がそれてしまうが、焼き入れ、つまり熱処理というものはノウハウの塊みたいなもので、出来あがったものを分析しても、コピーできるものではない。製品を分解してスケッチすればコピーできてしまう機構部品と違うのである。要するに、中国製と日本製では耐久性が、まったく違うのである。ゆえに新品を比べてみても差異は認められない。   ふたつ目の原因であるゲージの使用方法である。ネジゲージというものは、三本指で握るのが基本である。この基本が守られていない。掌で握って腕力のある人が力任せにねじると、ゲージがダイスやタップの役割を果たし、検体のネジ山を削ってしまうからである。実際に中国の工場を観察していると、やっているのである、まさにそれを。検査員がゲージをねじ込んで入らないと、工場内でもっとも力のありそうな大男を呼んできて、力任せにねじ込ませる、それでゲージが通ると、「OK了、OK了(OKになった、なった)」と言って検査合格、一件落着である。これじゃぁ、すぐゲージがいかれてしまう。   このように、元々耐久性の劣る部品を荒っぽく扱う、しかし、価格差を考えれば、まめに買い替えてもペイする。これって、まさに中国の産業機械の使われ方と同じではないか。初期投資の小ささを考えると中国スタイルも捨てたもんじゃない、とも言えなくもないが、ゲージであれば品質を担保する確実性、産業機械であれば操業の安定性を考えると、やはり日本製を選び、日本らしく正しく使いたくなる。筆者は日本の国粋主義者ではないが、「次からは、高くても日本製を買おう」という結論になってしまう。グローバル調達を推進している立場からすれば、検査機器も早期に現地調達化するというのが、職務上の使命でもある。真に残念な結末である。(執筆者:岩城真 編集担当:水野陽子)


京都の四神相応図

2015-05-20 08:22:41 | まち歩き

桓武天皇と和気清麻呂が船岡山での壮大な計画―平安京

図1京都の四神相応図

桓武天皇は、道教というか道家の思想を若い頃からしっかり習得していたようである。母親高野新笠が何らかの形で百済王一族と繋がっていて、百済王一族の聖地交野に若い頃から度々遊びに行き、親しく師事する人から、大陸文化を教わった。その中に、きっと道教なり道家の思想があったにちがいない。まず桓武天皇が全力を上げて取り組んだのは、平安京の建設である。長岡京では何故思いもよらぬ不幸な出来事が次々と起こったのか? どうもそれは,風水でしか説明ができないのではないか。風水的に見てもっとも良い地域はないか? 山背(やましろ)は風水的に見てどうか? 陰陽師の出番である。山背の地こそ風水的に見て最高の地である。経済的な背景をもとに、実質的に山背への再遷都を勧めたのは秦氏であった。平安初期、驚異的な地理感と卓越した土木技術のノウハウを駆使して皇室に仕え、桓武天皇の治世に貢献した和気清麻呂は、秦氏らの 協力を得て、平安京の遷都を実現させた。当時、朝廷において強い影響力を持っていた有力者である秦氏は、平安京の造営にあたり、そのプロジェクトを推 進するために平安京の大内裏を含む土地や多くの私財を献上した陰の立役者でった。政治的な決定は、和気清麻呂ならびに大納言藤原小黒麻呂(おぐろまろ)と左大弁紀古佐美(きのこさみ)らが行なった。かくして、桓武天皇の強い意思が、思想的にも経済的にも、さらには政治的にも実力者に支持されて、平安京建設という具体的なビッグプロジェクトとして実現されたのである。桓武天皇の行なった「四神相応の平安京の都市建設」について説明をしていきたい。四神相応の地とは、「東に流水あるを青龍といひ、南に沢畔あるを朱雀といひ、西に大道あるを白虎といひ、北に高山あるを玄武といふ。」がそろう地である。、『 和銅元年(708)に元明天皇が発した「遷都平城詔」(続日本紀)には、『朕、祇(つつし)みて上玄に奉りて、宇内に君とし臨み、菲薄(ひはく)の徳を以て、紫宮の尊きに処(お)れり。(中略)平城の地は、四禽図(しきんと)に叶ひ、三山鎮を作(な)し、亀巫(きふ)並びに従ひぬ」とある。「上玄」は天、紫宮は天帝の居所をいい、いずれも用語は道教的である。四禽とは、青龍(東)・白虎(西)・朱雀(南)・玄武(北)を指すことは言うまでもない。新都造営にあたっての土地の卜占(ぼくせん)は陰陽寮の陰陽師に課せられていたことは、「令義解(りょうのぎげ)に、その職掌として「掌(つかさど)らむこと、占巫して地相(み)ること」とあることからも明らかである。この陰陽師の職掌をもって、道教そのものであるとはいえないとしても、それが道教の方術と共通のものであることは確かである。おそらく、このような土地の占いの方は、推古紀10年(602)10月の条に百済の僧・観勒(かんろく)によって暦の本・天文地理の書・遁甲方術の書がもたらされたとあるように、飛鳥時代には知られていたのであろう。四神については、道教教典「淮南子(えなんじ)」天文訓の五星(木星、火星、土星、金星、水星)についての記述の中にある。また、「抱朴子(ほうぼくし)」の雑応篇には、老君(老子)が神亀を腰掛けにし、どうじ20人を従え、左には青龍が12、右には白虎36、前に24の朱雀、後に72の玄武が控えているとある。いずれにしても「淮南子」や「 抱朴子」においては、四神思想は道教の体系の中に組み入れられていたとみることができる。』『 平安京の建設に当たっても四神相応の地を占ったことはいうまでもない。 大納言藤原小黒麻呂(おぐろまろ)、左大弁紀古佐美(きのこさみ)らを遣わして、山背国葛野(やましろのくにかどの)の土地を調べに行かせた時、東大寺沙門・ 賢(けんきょう)が従ったことが、鎌倉末期の仏教史書「元享釈書(げんこうしゃくしょ)」にしるされている。 村井康彦氏によると、賢は皇太子時代の桓武天皇に、室生の山中で延寿法をほどこしていて、それが機縁となって、賢は密教寺院・室生寺を開創するという。この賢が延寿法をなし得ている点に、道教思想の影響が感じられる。』『 四神相応の地とは、平安時代の陰陽家・安倍晴明撰の「簠簋内伝(ほきないでん)」巻四に「東に流水あるを青龍といひ、南に沢畔あるを朱雀といひ、西に大道あるを白虎といひ、北に高山あるを玄武といふ。」がそろう地とある。(注:平安京はまさに理想的な四神相応の地である。)』。

 

 

図2 みそぎの川:青龍=鴨川。中洲の店開きが活況を呈している!図2は広重の浮世絵。

 


外から来たDNAの細胞内侵入を感知するDNAセンサーを発見

2015-05-19 11:11:40 | ラジカル
細胞内に入ったDNAビーズの電子顕微鏡写真(赤は核膜に似た膜、緑はオートファジー関連の膜を示す。)

PDFリリース全文 
(656KB)

2015年5月19日

外から来たDNAの細胞内侵入を感知するDNAセンサーを発見

2015年5月19日

国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)

外から来たDNAの細胞内侵入を感知するDNAセンサーを発見
~DNAセンサータンパク質BAFの働きで外来DNAはオートファジーから免れる~

【ポイント】
■ 細胞内に侵入したDNAはBAFの働きでオートファジーからの攻撃を回避することを発見
■ これまでブラックボックスだった細胞内での反応を可視化することに成功
■ 細菌感染やウイルス感染過程の理解や遺伝子デリバリー・遺伝子治療法開発に貢献

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 坂内 正夫)は、未来ICT研究所において、細胞の有用な仕組みを発見しました。その仕組みとは、DNAセンサー分子BAFの働きで、ウイルス感染や遺伝子導入の際に持ち込まれる外来DNAが細胞内に侵入した時にオートファジーの攻撃から免れるというものです。今回、これまでブラックボックスだった外来DNAが細胞内に入った時の生体反応を明らかにし、BAFというタンパク質が核膜に似た膜構造をDNA周辺に作ることによって、オートファジーを抑制することを発見しました。
 この成果は、将来、埋め込み型の通信媒体を生体・細胞内に導入することを想定した新たな通信方法の創生に大きなブレークスルーとなります。また、DNAセンサー分子の発見が期待されていた免疫学の分野や、細菌感染やウイルス感染で起こる外来DNAの細胞内反応過程の解明が望まれている感染医学分野、遺伝子デリバリー・遺伝子治療分野などに貢献する成果です。
 なお、本研究成果は、2015年5月18日15:00(米国Eastern Time)に国際的科学誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」オンライン速報版で公開されます。
http://www.pnas.org/content/early/recent

【背景】
 NICT 未来ICT研究所 バイオICT研究室では、ヒトを構成する約37兆個の細胞に働きかけを行う『究極のICT技術』の創出に向けて研究開発を行っています。様々な物質や情報が飛び交う細胞の仕組みや動作原理の解明についての研究はもとより、埋め込み型の通信媒体の開発を想定して、細胞内に生体‐非生体ハイブリッドマテリアルを導入し、細胞内に人為的に制御可能な微小空間を創生する取組を行ってきました。免疫学の分野では、外来DNAの侵入を感知するDNAセンサー分子の発見が待たれております。また、細菌感染やウイルス感染などの感染症の治療分野では、感染した細菌やウイルスのDNAが細胞内で、どのように処理されるか、長年にわたって不明のままとなっています。さらに、遺伝子治療の分野では、安全かつ高効率なDNAの細胞核伝送技術の早期開発が待ち望まれている状況にありました。

【今回の成果】
 今回、研究グループは、細胞内に侵入した外来DNAを検出する新たなDNAセンサー分子を発見しました。このDNAセンサー分子は、バリアーツーオートインテグレーションファクター(通称、BAF)と呼ばれるタンパク質です。DNAを取り付けたビーズ(DNAビーズ)を細胞内に取り込ませることによって、DNA侵入時に起こる生体反応を観察し、今までブラックボックスだった細胞の内部を可視化することに成功しました。
 これにより、我々は、BAFが外来DNAの周辺に核膜に類似した膜構造を集合させることで、オートファジーからの攻撃を回避するという仕組みを発見しました。
 これらの発見は、今後、免疫学の分野や、感染医学分野、遺伝子治療分野などに貢献するものと期待されます。

【今後の展望】
 今後、細胞内に制御可能な微小空間(「細胞核」を想定)を創る研究開発を行っていきます。BAFがオートファジーを抑制する仕組みを明らかにすることにより、安全かつ高効率な遺伝子デリバリーの実現を目指します。

 


アトピー性皮膚炎は皮膚の異常細菌巣が引き起こす

2015-05-13 14:51:47 | ラジカル

アトピー性皮膚炎は皮膚の異常細菌巣が引き起こす
-黄色ブドウ球菌と皮膚炎の関係を解明・新たな治療戦略に期待-

慶應義塾大学医学部皮膚科学教室と米国National Institutes of Health の永尾圭介博士(元慶應義塾大学医学部専任講師)との研究グループは、アトピー性皮膚炎における皮膚炎が黄色ブドウ球菌などの異常細菌巣(注1)によって引き起こされることを、マウスを用いて解明した。アトピー性皮膚炎は小児から成人によく見られる疾患で、気管支喘息や食物アレルギーに発展し得ることから、一般的にはアレルギー性の疾患であると理解されています。しかし、皮膚
局所の炎症が起こる原因は現在まで解明されていなかった。一方、アトピー性皮膚炎患者の皮膚では黄色ブドウ球菌が多数存在していることは古くから知られていたが、これがどのようにアトピー性皮膚炎の病態に関わっているかは不明でした。今回本研究グループは、アトピー性皮膚炎のマウスを作成し、そこで見られる皮膚炎は黄色ブドウ球菌を含む異常細菌巣に起因していることを解明しました。これはアトピー性皮膚炎の理解を大きく前進させるばかりではなく、現在ステロイド剤で炎症抑制に頼っているアトピー性皮膚炎の治療法を大きく変える可能性があり、異常細菌巣を正常化させ、皮膚の炎症を沈静化させるための新しい治療戦略の開発を促す重要な基盤となることが期待されます。本研究成果は4 月21 日(米国東部時間)に米国科学雑誌「Immunity」電子版で発表された。

1.研究の背景
アトピー性皮膚炎は乾燥肌と慢性の皮膚炎を繰り返し、通常小児期に発症することの多い皮膚疾患で、気管支喘息、食物アレルギー、花粉症などのアレルギー疾患を合併し得ることから、トピー性皮膚炎そのものもアレルギー性の疾患であると考えられています。しかし、実際には生体が何に反応して皮膚炎を起こしているのかは不明で、原因となるアレルゲンはこれまでに特定されていません。血液検査ではダニやホコリに対する抗体が検出されることから、これらが原因であることも考えられていますが、それを支持する強い基礎および臨床的な証拠は存在しません。アレルギー疾患を引き起こすアトピー性皮膚炎は、何が原因になっているのかは今まで不明だった。
一方、アトピー性皮膚炎患者の皮膚から細菌培養を行うと、黄色ブドウ球菌が多数発育することが40 年以上も前から知られていました。皮膚で増えている黄色ブドウ球菌は炎症の原因なのか、それとも慢性炎症の結果なのかが長らく議論されてきました。近年、分子生物学的手法を用いたマイクロバイオーム研究(注2)では人間の皮膚表面には実に多種多様の細菌が住んでいることがわかってきました。しかし、アトピー性皮膚炎がひどくなった時には皮膚表面の細菌の種類は著しく減少し、その過半数が黄色ブドウ球菌によって占められることもわかりました。アトピー性皮膚炎と黄色ブドウ球菌は密接な関係にあることが明確ですが、適切な動物モデルが今まで存在しなかったため、その因果関係を証明することができなかった。
2.研究の概要
本研究では、ADAM17(注3)という酵素をマウスの皮膚から欠損させることで、アトピー性皮膚炎のADAM17 cKO マウスを作成した。ADAM17 cKO マウスは生後3週頃より乾燥肌を示し、6週頃から皮膚炎を発症します。同時に皮膚バリアの破綻を反映するTEWL(注4)と血清中の総IgE(注5)量が上昇し、総じてアトピー性皮膚炎と極めて類似した症状を示すマウスモデルを作成し得た。ADAM17 cKO マウスに皮膚細菌巣を培養すると、生後4週より黄色ブドウ球菌が大量に検出できることがわかりました。正常マウスと比較したマイクロバイオーム解析(注2)では生後2、3週間まで同一だった皮膚細菌巣は4週目からまずCorynebacterium mastitidis(C. mastitidis)(注6)の出現に続き黄色ブドウ球菌が出現し、C. mastitidis はCorynebacterium bovis(C.bovis)に置き換わり、最終的にはC. bovis と黄色ブドウ球菌が皮膚細菌巣を支配することがわかりました。よって、皮膚炎の発症と共に皮膚細菌巣は異常細菌巣へと劇的な変貌を遂げているといえます。
ADAM17 cKO マウスに離乳直後から、異常細菌巣に効く抗生物質2種類で持続的な抗菌治療を行ったところ、正常の皮膚細菌巣を保ち、皮膚炎を発症しませんでした。さらに、①離乳直後より
無治療で皮膚炎を発症していたが、10 週目で抗菌治療を開始した群(図1A)、②離乳直後より菌治療を行い、10 週目で抗菌治療を中止した群(図1B)に分け、症状の推移を観察しました。そうしたところ、①の群は抗菌治療によって皮膚細菌巣が正常化し、皮膚炎もほぼ治癒しました。一方、②の群はそれまで正常だった細菌巣は一気に黄色ブドウ球菌とC. bovis に置き換わり、激しい皮膚炎を発症しました。このマウスから分離された細菌らを抗菌治療にて一時的に皮膚炎が寛解していたADAM17 cKO マウスに接種したところ、黄色ブドウ球菌が最も強い皮膚の炎症を誘導しました。一方、C. bovis はIgE の上昇を来す免疫反応を誘導し、皮膚の細菌巣が病像を形成する上で異なる役割を果たしていることがわかりました。抗癌治療で使用されるEGFR(表皮発育因子受容体)阻害剤を服用中の患者では皮膚炎が起きることが知られています。この事実と、ADAM17 の下流にはEGFR が機能していることから、EGFR cKOマウスを作成しました。EGFR cKO マウスはADAM17 cKO マウス同様の皮膚症状を示し、その皮膚細菌巣のバランスも破綻していました。よって、細菌巣の破綻はEGFR シグナリングの異常に依存しているといえます(図2)。

3.研究意義・今後の展開
本研究でアトピー性皮膚炎マウスの皮膚炎は、偏った異常細菌巣によって起きることがわっかた。本研究の結果をもとに、細菌巣を正常化することのできる新しい治療法が積極的に開発され、現在ステロイド剤で炎症抑制に頼っているアトピー性皮膚炎の治療戦略を大きく変えることができるのではないかと考えられる。本研究では実験手法として抗生物質を使用していますが、この方法は腸内細菌への悪影響もあるため、臨床の現場でのアトピー性皮膚炎の治療法としては決して推奨できない(注7)。今後、抗生物質に頼らない正常な細菌巣を誘導する方法の検討が行われることを期待する。

4.特記事項
本研究は、主に以下の事業・研究領域・研究課題によって得られた。
■MEXT/JSPS 科研費 21689032,243902771
■厚生労働科学研究費補助金
(H22-免疫-一般-003(平成22-24 年度)、H25-難治等(免)-一般-001(平成25 年度))
■National Institutes of Health (NIH) NCI Intramural Research Programs
ZIA BC 011561: Principle Investigator: Keisuke Nagao
ZIA BC 010938: Principle Investigator: Heidi H. Kong
5.論文について
タイトル(和訳):“Dysbiosis and Staphyloccus aureus Colonization Drives Inflammation in
Atopic Dermatitis”(皮膚細菌巣バランスの破綻および黄色ブドウ球菌の定着がアトピー性皮膚
炎の炎症の原因となる)

著者名:小林哲郎、Martin Glatz、堀内圭輔、川崎洋、秋山治彦、Daniel H. Kaplan、
Heidi H. Kong、天谷雅行、永尾圭介
掲載誌:「Immunity」電子版
【用語解説】
(注1)異常細菌巣
私たちの腸には多数の腸内細菌が共存している。その多種多様な細菌社会をマイクロバイオータと言い、皮膚表面のマイクロバイオータの多様性は腸内をしのぐことがわかってきた。マイクロバイオータのバランスが破綻し、菌の多様性が失われた状態をディスバイオーシスと言う。本文ではディスバイオーシスを来している細菌種を異常細菌巣と呼んでいる。
(注2)マイクロバイオーム研究・マイクロバイオーム解析
今まではある臓器にて細菌を証明するためには細菌培養を行っていたが、実はほとんどの細菌は培養することができません。そこで、局所に存在する細菌由来遺伝子の配列を調べ、その種類を確認することで細菌巣の全貌(マイクロバイオータ)を把握する新しい分子生物学的な方法がマイクロバイオーム解析である。