今日もArt & Science

写真付きで日記や趣味を勝手気ままに書くつもり!
徒然草や方丈記の様に!
あるいは寺田寅彦の様に!

携帯ESRの応用(4) 照射食品検知

2008-06-13 10:14:46 | ESR

 今年に入ってにわかに食品問題がクローズアップされだした。中でも日本にとって問題山積しているのが照射食品である。照射食品とは肉、果物、香辛料などに放射線を照射することにより、殺菌、殺虫、発芽防止した食品を言う。日本では1974年からコバルト60のγ線照射によるジャガイモの芽止めが認められているが、それ以外は全く禁止されている。 しかし、世界的には、

①害虫やカビ、腐敗菌による収穫後の被害と食糧の損耗を防ぐ、

②食品の衛生化と食中毒防止の対策、

③遠隔地からの農産物に対する検疫の手段、として欧米やアジア各国など50余カ国で200種を越える食品に対して照射が許可されている。 さらに近年、

④環境面から従来使用されているガス燻蒸や化学処理が制限されるようになった、

こともあり、食品照射が世界的に広がりつつある。多くの食品を海外に依存しているわが国にとっては一大事なのである。照射食品と明記されているものはまだ良いとして、ひそかに照射された食品が輸入され、知らず知らずのうちに食べているとしたら恐ろしい。

002_3 表1 平成17年度、世界における食品照射、処理量、および経済規模(放射線照射利用促進協議会、平成20年度、第一回大会・講演会要旨より)(クリックで拡大)。

 日本原子力研究開発機構は2007年度内閣府委託事業「放射線利用の経済規模に関する調査」を受託・実施し、調査報告書をまとめた。その中に表1に示す調査結果がまとめられている。これによれば、世界の食品照射処理量は約40万トンで、経済規模は1兆6千億円と求められている。中国、米国、ウクライナが照射量ビッグスリーで、総量の80%に達している。対象となる食品は肉、香辛料、穀物が多く、中でも中国の穀物、香辛料、ニンニクに注目されたい。昨年末から今年にかけて中国製の餃子が大問題になったが、餃子の農薬汚染は氷山の一角で、15万トンに達する食品の放射線照射はもっと注目されるべきである。表1の意味するところについて書き出したらきりがない。いづれゆっくり検討することにして、ここでは照射食品の見分け方、放射線量の見積もりについてESR法の適用とその限界について述べてみたい。

 日本原子力研究開発機構が中心になり、食品照射データベースがまとめられている。食品のESR測定は次に示す検知法に採録されている。

ESR検知法(Detection method):

http://takafoir.taka.jaea.go.jp/dbdocs/min005001.htmlより抜粋)

  • 照射食品照射検知法の現状(総説)
  • 照射食品の検知法に関する国際的動向
  • 照射食品の検知法に関する共同研究計画 -最終会議報告-
  • ESR法による照射骨付き鶏肉の線量の推定
  • 照射鶏肉の炭化水素法及びESR法による検知
  • 照射セルロースに特有なラジカルのESRピークによる照射イチゴの検知
  • ESR法およびアルキルシクロブタノン法による照射魚類の検知についての一考察
    -ニジマスを例として
  • 電子スピン共鳴分光法によるγ線照射黒胡椒中の有機フリーラジカルの加熱による変化
  • 電子スピン共鳴法によるセルロースを多く含んだ照射食品のラジカルの検出
  • 加熱調理によるセルロースを多く含んだ照射食品中のラジカル減衰挙動
  • 照射食品検知の紙類によるスクリーニング法 
  • 放射線照射小麦粉中に誘導されるラジカルの熱減衰挙動-電子スピン共鳴分光法による検出- 
  • ESRによる照射殺菌朝鮮人参の検知 
  • 照射緑茶の電子スピン共鳴法による検知 
  • 照射小麦粉に誘導される有機フリーラジカルの加熱時の挙動 
  • 二種のグルコースポリマーの照射処理により新規に誘導されるラジカルの解析 
  • X-band ESRを用いた殺菌胡椒のラジカルの評価    
  • 酸素フリー雰囲気でのESRによるγ線照射で衛生化したアガリクスの分析 
  • 電子線照射した生薬のESR法による検知

 放射線、中でも主にγ線により、物質は電子とホールが生成する。1秒以内の初期状態では、これらが周囲の物質と反応し、ラジカル化エネルギーが小さい物質をラジカル化して蓄積する。ほとんどの食品は酸素と反応して複数のラジカルが生成し、ESR信号を示す。鉄、マンガン、銅といった遷移金属イオンやビタミン類、ポリフェノール、などの有機化合物ラジカルの他に、加工に伴うメカノラジカルが含まれている。これらの信号源に加えて、放射線照射由来のラジカルによるESR信号が放射線量に比例して現れる。ラジカル種ごとに生成・消滅速度が異なるが、目的に応じ、これらを利用して地質年代測定や線量計さらに、照射食品検知に利用されている。

(例1)ESR法による照射骨付き鶏肉の線量の推定(田辺寛子 :食品照射 第32巻 p.2 (1997) より抜粋・編集)

実験:

 市販国産の手羽元鶏肉に、コバルト-60(60Co)線源(185TBq)を用いて、線量率0.5~4kGy/hrで室温または低温でγ線照射を行った。その後、これから骨を取り出し、骨幹中央部を切り取った。次に骨髄腔の骨髄及びスポンジ状の海面骨を削り取り、水洗・脱水乾燥させた。これをニンニクつぶし器、乳鉢等を使用して粉砕し、篩にかけ、一定の粒度とし、さらに一昼夜真空乾燥した。その約100mgをX-バンド用ESR試験管に入れ、日本電子(株)製電子スピン共鳴装置RE-2X型によりESR測定を行った。測定条件は、ESRシグナルが飽和しないように、中心磁場:335mT、掃引幅:7.5mT、モジュレーション幅:0.32mT、タイムコンスタント:0.03sec、掃引時間:4min、マイクロ波出力:1mWとした。

 線量付加法の試料は、手羽元鶏肉に初期線量として一定線量照射後(3kGy、1kGy、0.5kGy、0.25kGy)、骨の処理をし、ESR測定を行った。その後、同一測定試料に対し、1kGy再照射-ESR測定を繰り返した。または、数個の照射試料を粉砕後、均一に混合・等分し、数段階の線量を同時に照射した。

結果と考察

Fig0004eb0001 図1 未照射、及び0.5kGy、1kGy、3kGy照射した骨のESRスペクトル。

 未照射、及び0.5kGy、1kGy、3kGy照射した骨のESRスペクトルをFig.1に示す。照射線量の大小に係わらず、g⊥=2.002 とg//=1.997(g値は不対電子の吸収位置を示す)の付近に主シグナルを持っている。これは骨の無機成分であるヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)中に電子捕獲によって生じる5)。未照射試料にはこのシグナルは見られず、繊維状タンパク質であるコラーゲンのシグナル(g=2.005付近)が見られ、照射でできるスペクトルとは容易に識別できる。したがって、照射食品であるか否かを判定するにはヒドロキシアパタイト由来の信号を観測するだけで十分である。どれだけ照射されたかを判定するには次の線量付加法を用いる。因みに、当ラジカルトラップは非常に安定で年代測定にも利用されている。

Fig0004f20001  図2 線量付加法による前処理の見積。 

 骨付き鶏肉に3kGy照射、骨の処理をして、骨の粒子を2区分に分けESR測定をし、その後その各々に1kGy再度照射及びESR測定を繰り返した線量付加法の結果を示す。その結果、外挿法(直線を負の方向に延長し、信号強度ゼロの付加線量)3.9kGy、2.9kGyとかなり異なった値を示した。照射とESR測定を繰り返し行うために、ESR管から試料を出し入れしている。そのため測定時には、その都度試料位置が異なり、それが測定値の変動の原因になっていると思われる。しかし、鶏肉の場合、照射上限は7kGyと定められており、照射処理がどの程度であるかを大まかに見積もるには十分である。

(例2) 照射セルロースに特有なラジカルの ESR ピークによる照射イチゴの検知(後藤典子、田辺寛子:食品照射, 37巻, pp. 12-16(2002)より抜粋・編集)。

  種子(イチゴ、胡椒、など)の照射食品の検知法として、照射セルロースに特有なラジカルを ESR で検出する方法が知られている。この原理によるヨーロッパ規格が 2000 年改定され、イチゴから種子を分離する方法についての記述が追加された。この規格では 1.5kGy 照射したイチゴを 3 週間検知可能としている。しかし、イチゴへの照射線量の上限は 3kGy の国もあるが、1kGy とする国が多いので、1kGy 以下の照射の検知を試みた。

Fig00500100002001

図3 照射イチゴの種子が示すESRスペクトル。主ピーク A と照射セルロースに特有のラジカルによるピーク C1、C2 。 

 照射イチゴの種子を分離し、ESR を測定すると、図3ののようにポリフェノール由来の主ピーク A と照射セルロースに特有のラジカルによるピーク C1、C2 が検出される。高磁場側のピーク C2 はマンガンマーカの影響を受けるので、解析には低磁場側のピーク C1 を用いた。数種類の未照射イチゴについて ESR の測定を行なったところ、照射セルロースに特有なラジカルによるピーク C1 付近に、わずかなピークがあった 。これと照射試料のピークとを区別する方法を検討した。図4のように、マンガンの第 3 番目のピークと g 値 = 2.0046 のピーク A の間をベースラインに接する直線 (?) を引き、この直線からのピーク高さ (S) を求め、吸収線のない高磁場側のベースラインからノイズ幅 (N) を求め、S/N 比を検討した。

Fig00500100002003s 図4 照射セルロース由来ラジカルの強度(S)の求め方。

 0.5kGy 以上照射されたイチゴでは、室温で 3 日後、冷蔵で 21 日後、冷凍で 60 日後までは検知できた。また、電子線照射した場合、電子の透過力が小さいため均一な照射条件の結果ではないが、種子の表面に分布するセルロースに起因する特有のラジカルピークがγ線の場合と同様に検出できた。 

 

(以下、工事中)

<問合せ先>: ◎ラジカルのことならキーコム。出張測定も可!

キーコム(株)

〒170-0005 東京都豊島区南大塚3-40-2

KEYCOM Corp. 3-40-2 Minamiotsuka,Toshima-ku Tokyo 170-0005 Japan

TEL:+81-3-5950-3101, FAX:+81-3-5950-3380

Home Page: http//www.keycom.co.jp/

E-mail: ohya@keycom.co.jp


ちょっといっぷく11 賀茂(鴨)川の飛び石

2008-06-03 16:37:36 | まち歩き

Kamo13

 最近、1日5千歩以上の散歩を消化すると、夜は熟睡できることが分かってきた。賀茂川沿いの散歩道を下り、半木(なからぎ)の道の傍にある「賀茂川の飛び石」を渡って引き返すと5千歩以上になる。ところで、この飛び石を渡っているときに何時もふと同じ疑問が浮かぶ:一体、誰がこのような心憎い設計を考えたのだろう?川を眺めながら散歩をしていると、自然に飛び石を渡ってみたい気持ちに駆られる。老若男女、それに犬、特に、観光客はいかにも楽しそうに渡っている。遊び心?!、アドベンチャー?!、それとも、異次元体験?!

 「鴨川 飛び石」でインターネット検索すると、「鴨川 飛び石考」と題して次の一文がヒットした。著者は元京都土木事務所河川課技師の吉見重則さんで、十数年前の設計計画が図に当たったのを見てひそかに悦に入っておられるのではないか?

「十年はひと昔。鴨川に亀の形の飛び石(通称亀さん)を設計して10年経ちました。製造者責任(?)が消え,まさに,「亀さんが一人歩きできるようになった」と,最近,感じています. しかし,これまで,亀さんの設置には色々なご意見をいただきました。『何故 かめ?』に対して,これまで答えたものを並べてみると,

気軽に川で遊んでもらうため。子供たちに雨と川の増水の関係を知って欲しい。「今日の雨は,かめさんの頭まで浸かってたよ」みたいに。

② 思い出の場所にするため。そのためには,子どもに愛され水に住み,上に立ったり座ったり出来るもの。亀以外になんか考えられますか?

 次によくある御意見は,人工的だ,自然の石を使うべきだ,京都らしさがない,デザインに品がないなどです。川の姿と相対するのが砂利の大きさ。今回の飛び石を設置した位置での自然な石の大きさは,とても人の乗れるものにはなりません。そこで,計画コンセプトとして次のようなケースからの選択を考えました。

① 疑似自然とする。しかし,中途半端は失敗の元。

② 目立たないものにする。しかし,これもダメ。子どもも楽しむランドマークとすることも目的です。

結局、

③ 人工物として主張する、となりました。

 後はデザインの問題です。基本は切石。あとは,亀,千鳥,高瀬舟などから見る人の記憶に残り楽しいものを考えてみました。「京都らしさ」と言う言葉にはずいぶん悩まされましたが,私の結論は,新しいものに抵抗しつつ,時間をかけて暮らしに取り入れてしまうこと。近頃,若者や子どもたちに愛着を持ってもらえている様子です。 飛び石の間隔が広く子供や女性には危険だとの声もあります。けれど,お子さんが自分でわたれるようになったら,「一人前の子どもになったな!」と誉めてあげてください。奥さんが怖がったら,何年ぶりかで,手をつないであげてください。久しぶりに(失礼)笑顔にあえるはずです。今度,是非,最愛の人と鴨川へどうぞ。コンクリートの亀が生き生き見えるかも・・・」(元京都府京都土木事務所河川課技師 吉見重則、水環境学会関西支部機関紙:”かんすいNo. 9、2005.7.1寄稿)。

 賀茂(鴨)川には合計5箇所の飛び石があり、それぞれ個性がある。南から数えて第一番目はホテル藤田の傍にある。コンクリート造りの長方形(1×2m)が16個、正方形(1×1m)が8個、それに4個の千鳥型を加えて一列に並べて沈み橋を形成している。石と石の間が7~8十センチあるので、結構冒険心を掻き立てる。4艘の高瀬舟型が飛び石の下流に2列に並び、近くの一の舟入の雰囲気を醸し出している。

 第二番目の飛び石は荒神橋上手にある。長方形型と正方形組み合わせは一番目と同じであるがここでは千鳥と舟形に換えて7匹の石亀が登場する。作者が述べておられるように、人工物の幾何学的組み合わせが自己主張しているが、柳、桜とアーチスチックなハーモニーを醸し出しているから不思議である。

 第三番目の飛び石は高野川と賀茂川の合流点、賀茂大橋の上手にある。長方形、正方形、千鳥に亀型、数も合わせて倍に近い。下鴨デルタの開放的な雰囲気とあいまって、人気のスポットになっている。山村美沙のミステリー番組にはよく登場する。橋爪功演ずる記者には馴染みのスポットである。

 そして、第四番目の飛び石は上に紹介した半木の道の傍にある飛び石で、京都マニアご推薦の飛び石なのである。前3者と異なり、おむすび型三角形が直線的に並び(左図参照、クリックで拡大)、隙間に小型の円形型を挟み込み、石間距離も狭いので、お年よりや子供でも楽に渡れる。所々に往来用の菱形を配置して渡り易くしている。さらに、このおむすび型に数箇所レリーフをはめ込みアクセントをつけている。

 飛び石群の中央に立ち、北山を眺めると、自然の中にどっぷりと浸かっている感じがする。右手に植物園の森の緑を背景にして紅枝垂れの並木道、左にソメイヨシノの白い桜並木を擁すれば、西行ならずとも、もう言うことなし!無精者がこの飛び石にまで足を伸ばすだけの魅力はまさにこれなのである。自然に感謝!京都に感謝!

(蛇足1)これは第五の飛び石として掲載すべきかどうか迷っているが、どうしても上記四ヶ所の飛び石とは異質な飛び石が西賀茂橋の両側にある。直径20センチ程度の円形で、大人が渡れる間隔で配置しているが、兎に角低い!いつもほとんど水没している。何のためにこのような沈み橋を造ったのかご存知の方に教えていただきたいのだが???それとも、下手に土砂が堆積して水位が高くなってしまったか?

(蛇足2) このような飛び石群は専門的には帯工(おびこう)と呼ばれ、局所的な浸食を防止し、河床の高さを一定に保つ目的で小型のダム様の構造物を言う。元来このような構造物は無味乾燥な形をしているのが多いが、遊び心が加味されると賀茂(鴨)川の魅力ある飛び石となる。