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携帯ESRの応用(8)-DNA検査より高感度:ラジカルイムノアッセイ法英語版

2009-06-21 11:15:41 | ESR

携帯ESRの応用(8)-DNA検査より高感度:ラジカルイムノアッセイ法の英語版

Journal of Hepatology 49 (2008) 17?24。

What can be revealed by extending the sensitivity of HBsAg detection to below the present limit?
Hitoshi Togashi1,*, Chika Hashimoto1, Junji Yokozawa1, Akihiko Suzuki1,
Kazuhiko Sugahara1, Takafumi Saito1, Ichiro Yamaguchi2, Hala Badawi3,
Norikazu Kainuma4, Masaaki Aoyama5, Hiroaki Ohya5, Takao Akatsuka5,
Yasuhito Tanaka6, Masashi Mizokami6, Sumio Kawata,

1Department of Gastroenterology, Course of Internal Medicine and Therapeutics, Yamagata University Faculty of Medicine,
Yamagata University Health Administration Center, 1-4-12 Kojirakawa-machi, Yamagata 990-8560, Japan
2Murayama Public Health Center, Yamagata Prefecture, Japan
3Medical Microbiology, Theodor Bilharz Research Institute, Giza, Egypt
4Tohoku Seiki Industries, Ltd., Yamagata, Japan
5Institute for Life Support Technology, Yamagata Public Corporation for Development of Industry, Yamagata, Japan
6Department of Clinical Molecular Informative Medicine, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences, Nagoya, Japan

Background/Aims:We investigated what can be revealed by extending the sensitivity of HBsAg detection to below the present limit.
Methods:We examined the sensitivity of this immunoassay in comparison with real-time PCR detection of HBV DNA using serially diluted sera from HBV carriers. Low HBsAg was measured in 210 healthy volunteers and 368 patients with non-B chronic liver diseases who were negative for HBsAg by a standard EIA method.
Results: The radical immunoassay was able to detect HBsAg at a concentration of 0.025 ng /ml. Low HBsAg was positive in 6 of 210 normal volunteers (2.86%), 5 of 65 non-B, non-C cirrhosis patients (7.69%), 6 of 62 non-B, non-C hepatocellular carcinoma patients (9.68%: p = 0.04 vs. volunteers), 12 of 134 chronic hepatitis C patients (8.96%: p < 0.02 vs. volunteers), and 11 of 107 hepatocellular carcinoma patients complicated by chronic hepatitis C (10.28%: p < 0.008 vs.volunteers). Although no HBV DNA was positive in healthy volunteers, 9 patients with non-B chronic liver diseases were positive for HBV DNA by real-time PCR analysis.
Conclusions: Increasing the sensitivity of HBsAg detection to below the present limit has revealed that infection with HBV, including occult HBV, is far more endemic than suspected previously.

「journal_of_hepatology.pdf」をダウンロード


ちょっといっぷく21 京都における堀川の役割

2009-06-19 18:24:03 | まち歩き

 「堀川に水が戻った」(ちょっといっぷく20)のブログを書き終えた後も何か心残りで、「堀川」をキーワードにして調べているうちに、なぜ、表千家、裏千家の会館が近接して堀川通に立っているのか?西陣織会館はなぜ堀川今出川にあるのか?清明神社は?等々、面白い話が分かってきた。オムニバス風につまみ食いする。
 堀川は前にも書いたように、平安京造成期に開削された人工河川である。右京,左京に堀川が作られ右京を西堀川(現在名:紙屋川),左京を東堀川(現在名:堀川)と呼ばれた。当時は洛中への資材運搬(物流)に重要な役割を果たしていた。

 

 日本古代の歴史書の一つで『日本文徳天皇実録』の後を受け、858 年(天安2)より887 年(仁和3)までを編年体で記した『日本三代実録』には,都の民が堀川の鮎を捕って食べたということが記載されており、水量が豊富で水質もきれいであったということがわかる。また、川のほとりには貴族たちの屋敷(例えば堀川院や冷泉院,高陽院といった邸宅)が並び、庭園の水に利用されていた。水源は賀茂川である。

 

 中世に入ると丹波から桂川に流された木材が堀川を遡り,五条付近まで運ばれ集まるようになった.そのため,商人が集まり,界隈には木材市が立ち並ぶようになった。豊臣秀吉による都市改造が行われた時期になると,賀茂川の他に新たに堀川の水源が開削された。堀川修景整備調査報告書(1983 年3 月:京都市)の資料によると,新たな水源は尺八池やその周辺で,大徳寺の濠を経由し堀川へ接続されていた。しかし,元禄期になると、一旦、尺八池とその周辺からの水源は絶たれ大徳寺の濠は空濠となる。天明期になると大徳寺周辺に水源が出来る。慶応期までには再び尺八池やその周辺が水源となり,これは明治初期から中期まで続いたと考えられる。

 

 不純物や鉄分が少ない堀川の水は染物の糊落としや余分な染料を落とすといった染物の洗浄に適しており、江戸時代ごろから友禅染といった染物の町として栄えるようになった。染織物業界の好不況は水洗いが行われる堀川の水の色で判断されたほどで、戦前まで続いていた。

 

 堀川筋の地下水脈は,茶の湯の文化を生み出し多くの茶道家が庵を建てた。また,中流から下流域の七条,八条では農業用水として利用されていた。

 

 明治時代中期頃に入ると,尺八池とその周辺からの水源が絶たれるようになり大徳寺の濠は空濠となる.さらに,大正時代に入ると,京都市三大事業(水利・上水事業・道路拡張ならびに市電敷設)の一環として琵琶湖第二 疏水建設が行なわれた.琵琶湖第二疏水完成に伴い,市電の開通による道路拡張がされた。さらに軽工業化や都市化,舟運が陸運に取って代わるようになった。その結果、西洞院川や今出川等の河川や水路の多くが暗渠化されるようになり,京都市市街地における平安時代より存在していた人工河川は堀川と紙屋川のみとなった.堀川は賀茂川を水源としていたが,疏水分線と琵琶湖第二疏水が完成して以降,次第に賀茂川を水源としなくなり、疏水分線から水源を依存するようになった。疏水分線の水は小川を経由して堀川に流されていた。
1935 年,京都大水害など度重なる浸水被害により,1940~1950 年代にかけて浸水対策が実施され,堀川の流路も変更されるようになった。そして,都市化に伴う下水整備・流域の減少,水質の悪化により1963 年,第二疏水分線と小川の廃止により水源が絶たれ3 面コンクリート化や暗渠化されるようになった。現在の水路が残されている部分は,上京区堀川今出川の起点から中京区の御池通付近までと,西本願寺の築地塀の前の濠,近鉄上鳥羽口付近から鳥羽大橋の手前で鴨川と合流するまでである。御池通以南から西本願寺の築地塀の前の濠までは暗渠化され都市下水路の役割を担い、地上は幹線道路として機能している。昔の面影は二条城の石垣や一条戻橋,堀川第一橋に見られるだけとなった。現在の堀川の状況は,堀川の下に降りて犬の散歩をしている人や絵を書いている人がいて3面コンクリート化されているにも関わらず堀川を利用している人はいる。しかし,堀川にゴミを不法投棄する人もいる。橋や壁に落書きをする人もいる。鳩の糞害等の問題点が浮上している。大雨になると堀川の岸壁にある下水口から処理しきれなくなった下水の余剰水が堀川に流れてくる。そのため急激に水位が上昇するしかし,雨が止んで2~3時間後には水量が元の状態に戻る.その際,悪臭が漂いゴミが残る。このような状況から,現在の堀川の状況ではアメニティ空間や防災効果の機能を果たすとは考えられない。そこで,近年,堀川の水辺再生を願う市民の声が高まったことを受け,1998 年度に京都府・京都市共催で京(みやこ)の川再生検討委員会で堀川は水辺再生のモデルに選ばれたのである。

 

 堀川水辺環境整備事業の概要(京都市,2002)によれば、京都市では堀川に清流を復活させ、まちづくりと一体となった水辺空間の整備を行う「堀川水辺環境整備事業」に取り組んだのである。この事業の基本方針は以下の4点である:
① 第2疏水分線の水を賀茂川に下越しさせ,紫明通・堀川通を経由して、今出川通から御池通の堀川の開渠部に導水し、せせらぎを復活させるとともに水辺空間の整備を行う。
② 堀川に導水した水の一部を二条城の外堀に導水し、堆積した汚泥を浚渫することにより、外堀の水質の浄化を図る。
③ 京都府の西高瀬川河川整備事業と連携を図り、二条城外堀から西高瀬川へ導水することにより、京都中心部に水と緑のネットワークを形成する。

 

Photo_5

 

 

Photo_3

④ 都市防災の観点から,堀川の河床に消防水利施設(ピット)を整備し,災害時の消火用水,生活用水としての利用を図る。
 以上により,親水機能と防災水利の機能をもつ水辺空間を京都市の中心部に形成する。

 

 この事業で注目すべき点は,市民参加によるワークショップを行い、再生デザインを決めていることである。整備対象区間である紫明通から堀川通を下り今出川通を経て御池通までの約4kmを河川や沿川の状況等によって5つのゾーン(A ゾーン:御池通-竹屋町通,B ゾーン:竹屋町通-下立売通,C ゾーン:下立売通-中立売通,D ゾーン:中立売通-今出川通,E ゾーン:今出川通-紫明通)に分け、その場所に根ざしたワークショップが企画された。ワークショップの参加者は,地元からの推薦と市民を対象に年齢別による一般公募による選出されている(一般参加者75 人,地元推薦者56 人).ワークショップの運営に関しては地元代表,行政,学識経験者による実行委員会が主催し,各ゾーンにおいてはワークショップ参加者の有志による運営委員会が取り組みを進めており,ワークショップは,現地点検→目標設定→ゾーン別デザイン→ゾーン間の調整→最終デザイン決定の流れで行われた.

 最後に、堀川水辺環境整備事業の計画に組み込まれている防災機能と、計画に組み込まれていない隠れた防災効果と問題点を考察する。堀川水辺環境整備事業の計画の時点で考えられている防災機能について考察する。

 

 まず、A-D ゾーン間では橋梁周辺を中心に400m 以内の間隔で左右岸に6箇所ずつ計12 箇所に吸水スポットが設置され、それに伴い消防車停車スペースの確保がされている。また、堀川第二橋(下立売橋)の下は防災に役立てるために水を溜めて置くことが可能である。C ゾーンでは下長者町通近辺、Dゾーンでは、堀川第一橋(中立売橋)の北側に小さな水溜りを設けて約40 トンの水が溜められるようになっている。E ゾーンでは人が近づきやすいと考えられる場所に防火用の消火ピットが約250m ごとに設置される。また、E ゾーンは「地域住民が安全・安心に暮らせる多様な防災機能を備えた水辺空間」整備目標を掲げるなど全ゾーンの内、特に防災に重点を置いていることがいえる。堀川の水は紫明通の起点よりポンプアップして流さなければならない。そのため、被災時でも確実に下流へ水を供給する事ができるように、地下にも自然流下で流れる暗渠(紫明通起点-今出川通付近)が作られる。また、堀川水辺再生復興事業計画の関連事業として、合流式下水道改善を目的に堀川中央、北幹線に下水管の新設がされる(平成13~17 年度)(京都市上下水道局,2004)。これは堀川に雨天時に汚水混じりの雨水を流さないだけでなく、5~10 年に一度の大雨に耐えられるように堀川周辺の浸水対策の向上を図るためである。計画に明示されていないが、期待される防災機能として、非常時(災害時)には、堀川自体が公園化されることにより防火帯や避難経路になり,一時避難場所としての機能を果たす。そして、植樹帯(並木)の設置,整備により防火帯や遅延帯だけではなく火災による輻射熱から身体を保護することが期待される。ステージ、広場といった自由に利用できるようなスペースが設けられることから、物資の置き場や複数のけが人・病人を一時的に安静にする場所として機能するであろう。また、堀川と堀川通間にある歩道が拡張(堀川第一橋-堀川第二橋)されることにより、オープンスペースが広がると考えられる。堀川を流れる水は、災害直後の消火用水として用いられるだけでなく、避難場所におけるトイレなどの生活用水としての利用が考えられる。さらに、水に触れる事が出来るように、水深20cm 池や飛び石、落差工、階段等を設置し親水性に配慮されていたり、ベンチの設置により休憩所が設けられていたりしている。これは、日常時に、子供は様々な遊びをするための空間として、大人は憩いの場や話の場,あるいは絵を描いたり写真を撮ったりするといった趣味の場として機能すると考えられる。遊びや憩い,趣味を通じて人と自然が触れあう空間であり、人と人が触れ合う空間となるであろう。このことは堀川周辺の地域のコミュニティを形成する空間となると考えられる。

 

(出典:京 都 大 学 防 災 研 究 所 年 報 第47号 B 平成16年4月、Annuals of Disas. Prev. Res. Inst., Kyoto Univ., No. 47 B, 2004、「京都の水辺の歴史的変遷と都市防災に関する研究」、萩原良巳・畑山満則・岡田裕介*、* ビッグ測量設計株式会社、の堀川の部分を抜粋・編集)


携帯ESRの応用(7):理想的表面処理素材:DLC(Diamond-like Carbon)

2009-06-10 16:11:16 | ESR

 最近、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)が「エコ」を背景に再び脚光を浴びだした。1990年前後の第1次DLCブームから約20年を経てやっと本格的な市場の拡大が始まった感がある。数年前から量産自動車部品への応用が本格的に始まったことが大きく研究開発の刺激にもなっている模様である。ブームは、日本だけではなく、以前から自動車への応用がかなり進んでいた欧米、最近では韓国でもDLC産業は急成長している。最近のDLC産業の成長の背景にあるのはやはり地球環境問題、すなわち「エコ」である。従来のコーティングや流体潤滑といった役割に代わる環境負荷の小さい材料としてDLCに白羽の矢が立てられたのである。これは、たまたまではなく、本来優れた特性をもつ素材にやっと「時が来た」のである。

図1 炭素材料の結晶構造。左端はダイヤモンドの結晶構造で立方晶(SP3)をとる。右端はグラファイトの結晶構造で六方晶(SP2)。中央がその中間のDLCで,立方晶と六方晶と白い点(図では:ダングリングボンド、または水素)が混在した構造をとる。

Dlc1

 いうまでもなく主役は古くてあたらしい炭素(C)というIV族元素である。 図1に示すように、DLC膜とはダイヤモンドのsp3結合とグラファイトのsp2結合の両者を骨格構造としたアモルファス炭素膜である。簡単に言えばナノレベルで20―80%のダイヤモンドと炭が混ざり合ったものである。したがってDLC膜は両者の特性を併せ持つ。
 DLC膜は高硬度、高耐摩耗性、低摩擦係数、高絶縁性、高化学安定性、高ガスバリアー性、高耐焼き付き性、高生体親和性、高赤外線透過性などの特徴を持ち、表面が平坦で200度C程度の低温で合成できる。このことから電気・電子機器(ハードディスク、ビデオテープ、集積回路など)や切削工具(ドリル、エンドミル、カミソリなど)、金型(射出成形など)、光学部品(レンズなど)、PETボトルの酸素バリアー膜、衛生機器(水栓)、装飾品など幅広く応用され始めている。
 とりわけ、各種硬質膜の中でも10ギガパスカル以上の高い硬度による優れた耐摩耗性と低い摩擦係数を持つことから、機械部品の保護膜として需要が加速度的に増大している。
 最近では、自動車用の量産部品として実用化が進んでいる。インジェクターなどでは以前からDLCが用いられていたが、ここ3年間で適用範囲が大幅に拡大している。代表例のひとつは電磁クラッチ板へのコーティングで、油中での摩擦係数がより高くなること、および滑り速度に応じて摩擦係数が増加することを利用した点でユニークな応用である。
 またエンジン部品としては、カムフォロアへの応用がある。DOHCエンジンのカムが吸排気バルブを押す極めて重要な摺動(しゅうどう)部であることから、このような個所にDLCが実用化されたことは注目に値する。さらに、ロータリーエンジンの部品にもDLCが採用されている。これらの自動車応用技術は、日本のDLC合成装置およびDLCコーティングのレベルの高さを物語っていると言えるだろう。GMが倒れた要因もこのあたりの技術の差にあったのでは?・・・

 DLC膜を実際に部材に応用する場合には、膜の内部応力や基材との密着力がしばしば問題となり、必要に応じて対処することが不可欠となっている。例えば、DLC膜中に金属元素を添加したり、膜の多層化、傾斜層や中間層の形成といったさまざまな手法が挙げられる。
  最近では、DLC膜の需要は工具や金型といった金属材料を基材とする製品にとどまらず、ゴムや樹脂材料など軟質な材料上への需要も増加している。このような基材にDLC膜をコーティングする場合の問題点として、DLC膜が高い内部応力を持つことや基材との密着力が低いことに加え、基材の変形により膜にクラックが生じ、はく離しやすくなることなどが挙げられる。こうした場合には0・1ギガパスカルと非常に低硬度の柔軟なDLC膜を合成する方法が提案され、応用例としてカメラのOリングなどに適用されている。最近、特に基材の変形によってクラックが生じるのを抑制するためのコーティング法として、DLC膜のセグメント構造化が提案されている。

図2 セグメントDLC膜。図左側に示すような連続膜に対し、図右側に示すような碁盤の目のような溝を掘った構造である。

 

Dlc2

 セグメントDLC膜は、図2左側に示すような連続膜に対し、図2右側に示すような碁盤の目のような溝を掘った構造である。連続膜では、基材が大きい弾性変形または塑性変形を生じた場合にクラックが生ずるが、このセグメントコーティング法は、一部にクラックが入っても他セグメントへの影響が小さく、高信頼性のコーティングが得られる。
 また、潤滑油や摩耗くずをセグメント間に保持することで、アブレシブ摩耗を抑制しながら潤滑油による潤滑効果を持続させることができるため、基材の変形によるコーティング膜のはく離が心配となる部材に広く応用されると期待される。
  セグメントDLC膜の合成は、プラズマCVD法により行っている。合成の前処理として、アセトン中で基材の超音波洗浄をした後に、チャンバー内でアルゴンガスを用いてスパッタエッチングする。
  DLC膜と基材の密着力向上のためにテトラメチルシランガスを用いて中間層を形成し、電源には高電圧直流パルス電源を、電極には金属メッシュ形状のものを用いる。つまり、金網の上に基板を置いておくと、金網がマスクになってセグメント構造のDLCが形成できる。この際のDLCの摩耗量もセグメント構造〈TypeA〉では連続膜の約3分の1と小さく、かつSUJ2ボールに対する相手攻撃性も低い。これは、デブリ(破片)を溝部にトラップする効果によりアブレシブ摩耗が抑制されているためである。
 さらにセグメント構造DLCは、溝部に第三物質を添加できる特徴を持つ。市販のスプレーを用いてフッ素樹脂を添加すると、摩擦係数がDLCのみの場合と比較して顕著に低く、かつ静的水滴接触角が100度程度の撥水(はっすいせい)性を持つハイブリッドDLC膜を簡単に形成することができる。低摩擦係数の状態は、セグメント溝のフッ素樹脂が徐々に界面に供給されてなくなるまで、長時間維持される。
  機能の複合化はDLCの応用展開に際し重要な課題。フッ素樹脂に限らず、DLCと他材料との組み合わせは無限でさまざまな機能の複合を図れる点がこのセグメント構造DLC膜の特徴になっている。

 DLCが優れているのは、鉄鋼材料と似て機械的特性の幅が大きいことである。鉄鋼材料では降伏応力で10倍程度の広がりがあるが、DLCもまた硬さで10倍程度の幅がある。鉄鋼材料を設計に応じて選択するように、DLCも用途に応じて選択する時代に入っている。
 さらには、鉄中への不純物添加(炭素以外でも)によってさまざまな特性が発現するように、DLCに不純物添加したり表面官能基修飾したりするのは魅力的な考えである。実際ケイ素などさまざまな元素を入れたり、DLCと他の材料とを組み合わせたりすることが提案されている。

図3 まとめーDLCの合成法、評価法、およびその応用

Dlc3

 DLCの将来像が図4にまとめられている。合成法としてはCVD、PVDそれぞれが特徴を生かした進化を遂げてゆくものと思われる。ブレークスルー技術としては大気圧成膜が挙げられる。コスト面で従来のメッキと比較したり浸炭と比較したりされるが、現在のDLC成膜技術ではそこまで低減できていない。DLCを採用するかどうかは性能との兼ね合いということになろう。社内での環境活動や法規制が動機になることもあり得る。
 評価法としてはDLCの標準化が重要であり、一方では現場でDLCの品質評価をどのように行うかが重要。現在のところはラマン分光、硬さ試験、スクラッチ試験、それにESR(電子スピン共鳴)によるダングリングボンド(DB)の評価が主な手法となろう。
 DLCの応用については機械的応用の進展がまず挙げられる。ついで機能のハイブリッド化、すなわちDLCの特性と他の材料の特性をハイブリッド化することが挙げられる。これも「マイDLC」の流れである。
 さらに、DLCが生体親和性の高い材料ということもあってガスバリアーや生体応用はすでに立ち上がってきている。微小化学分析システム(マイクロTAS)などのマイクロ・ナノ技術と融合することで近い将来かなりの勢いを示しそうそうな気配である。
 最後に、電気・電子素子への応用である。実際に研究してみると水素化アモルファスカーボン(ここではDLCとは呼ばない)の電気・電子的応用は欠陥制御をはじめとして難問だらけで、現状では素子としてすぐに用いるのは難しい。合成技術に立ち戻って欠陥の少ない水素化アモルファスカーボンを合成すること、または一部の半導体のように欠陥が多くてもキャリアが消滅しないような構造を発見することが望まれる。ESR測定はDBの密度を容易に見積もることができ、電気・電子特性を評価する重要な因子である。水素化の過程はまさにこのDBを水素化により不活性化している。しかし、光ファイバーの開発史と同様に、ESRでDBを計測しながら、本来はDBの数を減らす工夫をまず試行錯誤で行わなければならないのではないか?案外、DLCの研究・開発者はESRの重要性を認識していないのではないか?光ファイバーの開発史を是非とも紐解いて戴きたい。その中に、必ずや問題の糸口があるものと信じる。

(2007年11月19日(月)付 日刊工業新聞 26,27面 より一部引用)

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