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ラジカル研究はドグマとの闘い 2 Gomberg Radical

2008-03-22 16:11:20 | ラジカル

Tpm

図1 Triphenylmethyl(TPM)。 

 1900年、Ber. とJACS誌上Ber., 1900, 33, 3150; JACS 1900, 22, 757)にGomberg 博士が合成した安定な有機ラジカルが初めて登場した。元々博士は炭化水素の水素を芳香環に置換することは可能か、可能であればどのような性質の物質ができるか等、純粋に有機化学の立場から合成を行っていた。

Tpm_2

1897年に既にtetraphenylmethane((Ph)4C)の合成に成功していた博士は次にhexaphenylethaneを合成するために1)式の反応を試みたところ、(1)溶液が黄色を帯び、加熱すると色が濃くなり、冷やすと色が褪せる、(2) 溶媒を蒸発させると白色の粉末を得る、CO2ガス雰囲気中で溶媒に溶かすと再び同じ黄色の溶液を得る、(3)CO2の代わりに空気中で溶媒に溶かすと忽ち色あせて、溶媒を蒸発させると別の白色粉末を得た。ここで黄色の物質を単離することができなかった。

 これらの実験結果に基づき、Gomberg博士は式1)に示すように、hexaphenylethaneは熱によって部分的に分解し、原子価3の炭素を含むTPMと言うラジカルが生成したと説明した。学会から強い批判を浴び、約10年の間、この概念は認めてもらえなかったそうである。W. Schlenk がtris(biphenyl)methyl radical (TPMの仲間)の単離に成功し、しかも黒色結晶を得た。これによりやっと学会も認め、Gombergの仮説の正当性が証明されたのである 。 後に、ESRおよびNMR分光法を駆使して、Gombergの仮説が精査された。

Tpmesr

図2 TPMの高分解能のESRスペクトル。

 

 図2にTPMの高分解能ESRスペクトルを示す。全体として196本の吸収線から成り、 3個のパラプロトン(2.86 G quartet  )、6個のオルソプロトン( 2.61 G septet ) さらに6個のメタプロトン( 1.14 G septet )で解析できた。  g-factor は 2.0026で自由電子のそれに近い。 約60年の時を経て溶液状態のラジカルの構造が明らかになった。因みに、ラジカル化エネルギーは61.2kcal/molでBDPA(61.5kcal/mol)とほとんど同じである。

Tpmdimer

図3 高分解能NMRで確認されたTPMのDimer 構造。

 Gomberg博士自身にもにもドグマがあった。TPMの二量化といえば1)式に示した構造と早合点していた可能性がある。しかし、溶液の高分解能NMRはこの構造では説明が付かなかった。1968年、H. Lankamp, W. Th. Nanta and C. MacLean,( Tet. Letters, 1968, 249.)がこの問題を解決した。Gombergも二量体と言えば1)式の構造(head-to-head)と思い込んでいたのが間違いで、実際は所謂、head-to-tail 構造であることが判明したのである。 

Mg1920

図4 Moses Gomberg 博士(1920)

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ラジカル研究はドグマとの闘い1 BDPA

2008-03-21 13:41:56 | ラジカル

Bdpa

図1 BDPAの構造

 ラジカル研究はドグマ(教条主義)との闘いの歴史でもある。ポーリング博士とビタミンCの例も医学畑におけるドグマとの闘いであった。表面に出ないドグマとの闘いは枚挙に暇ない。まず、アメリカで起こった典型的なBDPA(図1)の例を紹介する。

Bdpa_2

図2  ミネソタ大のKoelsch博士が投稿した論文JACS 74 4439 (1957)の第1頁。注目の脚注を四角に囲ってある。

 1957年、ミネソタ大のKoelsch博士が超安定なラジカルBDPAの合成法に関する論文をアメリカ化学会誌(JACSと省略)に掲載したときの第一頁を図2に示す(JACS 74 4439 (1957))。脚注(1)の記述が当時の学会の雰囲気を如実に物語っている。ここではできるだけ忠実にこの脚注を翻訳する:

脚注(1) 当論文の実験部分は1931-1932の二年間、ハーバード大のコンバース記念研究室で、著者がNRC(National Research Council)フェローの時に行ったものである。1932年6月9日、同一の仕事内容を記述した論文を当雑誌に投稿したが不採択になった。審査員はBDPAの示す性質はラジカルの持つ性質ではないと言う考えを抱いていた。しかし、M.M.Kreevoyによる最近の量子力学計算(to be published in J. Chem. Phys.)では、BDPAは異常なほど共鳴安定化が起こり、当物質について報告されている諸性質は決してラジカル構造と矛盾するものではない。当物質へのNa付加に関する熱力学的研究 [N. B. Keevil, THIS JOURNAL 69, 2104 (1937) ]では当物質がラジカルとして異常なほど安定であると示唆している。そして最後に、J. E.Wertz とJ. L. VivoによるESRの研究ではラジカル化の度合いが高く、線幅が異常にシャープで、しかも非常に安定であると報告している (OSR Technical Note 55-203, May 1955, p. 133, and to be published in J . Chant. Phys.) 。23年間空気中にキープしていた試料は外観も変化なくラジカル濃度も非常に高い。最初に提案された構造が確認され、試料請求と合成方法の詳細の請求が多く寄せられているので、今、論文を発行することが望ましいと思われる。歴史的精確さを期するために原論文への変更は脚注5,6,8を付加するに留めた。

Footnote(1) The experimental work in the present paper was done in the Converse Memorial Laboratory of Harvard University in 1931-1932, when the author was a National Research Council fellow. A paper describing the work was submitted to THIS JOURNAL June 9, 1932, but it was not accepted for publication. The referee held that the properties of the chief compound, a,g-bisdiphenylene-b-phenylally1could not be those of a radical.  Recent quantum mechanical calculations by M. M. Kreevoy (to be published in J. Chem. Phys.), however, now indicate that a radical of the structure named would be unusually resonance-stabilized, and that the properties reported for the substance in question would be not at all inconsistent with the structure claimed. A study of the thermodynamics of addition of sodium to the substance [N. B. Keevil, THIS JOURNAL 69, 2104 (1937) ]hinted that the compound might be unusually stable as a radical. And finally, recent studies by J. E.Wertz and J. L. Vivo, using electron spin resonance methods (briefly reported in OSR Technical Note 55-203, May 1955, p. 133, and to be published in detail in J . Chant. Phys.) indicate that the substance is highly dissociated, has an unusually narrow line-width, and is very stable. A sample kept in air 23 years is unchanged in appearance and shows a high free-radical content. Because the structure originally suggested appears to be confirmed, and because many requests for samples and preparational details are being received, it appears desirable to publish the work now. In the interest of historical accuracy, the only important changes in the original paper are the additions of footnotes 5, 6 and 8.

 最後の一行にKoelsch博士の想いが込められている。23年前の成果であることを学会として認知されること、ラジカルと言えども23年間ビクともしなかったBDPAの驚異、等々。

 1932年と言えば、ルイスの有機電子論が一世を風靡していたが、そもそもこの概念の中にラジカルの概念が全くなかったのが悲劇である。量子力学の分野ではようやくヒュッケル博士が分子軌道法を発表した頃である。

 BDPAのラジカル化エネルギーは61.5 kcal/mol でスーパーオキシド(75.7 Kcal/mol)に比べて遥かに安定である。水素引き抜きの際に炭素原子の周りの2p軌道の混成がsp3からsp2に変わり、共鳴の安定化が起こる。結果としてラジカル化エネルギーを小さくする。

 バックナンバーにあるようにBDPAがシングルスピンESR観測法(STM-ESR)の開発に一役買っている。量子ビットの候補の一つである。

Koelsch

 

図3 Koelsch 博士(おそらく退官時の写真)

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ちょっといっぷく7 神山と甲山

2008-03-15 12:16:14 | まち歩き

200803031602

図1 上賀茂神社のルーツ:神山(こうやま:標高301.6m)(図の上部中央の山)。柊の別れからさらに賀茂川に沿って上流に向かうと右手にトロイデ型の小高い神山が見える。上賀茂神社の北方2kmのところにある。

 

 

 マンションの北の窓を開けると正面に神山(図1)、その右手に京都産業大学の講堂等、手前に上賀茂神社の一の鳥居などが垣間見える。天武天皇6年(678年)に、雷神が上賀茂神社の北2kmにある神山に降臨し、神社本殿に鎮座したと伝えられている。従って、神社の正式名は賀茂別雷神社(カモワケイカヅチジンジャ)と言う。神山には現在でも降臨石があると言われているが、登山禁止区域のため、詳細は不明。Googleの航空写真で調べても登山道や踏み分け道などまったくない原始の山のようである。ただ一箇所、頂上の北東約10mのところに石組みのような物が写っている。これが噂の降臨石か?

  神山を初めて見たとき、即座に六甲の甲山を連想した。標高は306mで神山とほぼ同じ。大阪生まれには、小学校の遠足などでお馴染みである。ルーツは神功皇后にまで遡り、国家平安守護のため、山頂に如意宝珠と兜を埋めたのが始まりとのこと。元来、「神の山(コウノヤマまたはカンノヤマ)」だったと考えられている。1974年(昭和49年)には祭祀用の銅戈(ドウカ)が出土し、古来、甲山が信仰の対象であったことがわかる。このように、形もルーツも名前までも非常に似通っているが、上賀茂の神山は全く秘密のベールに包まれている。


ラジカル化エネルギー図V2

2008-03-01 10:47:26 | ラジカル

Photov2

図1 代表的な化合物のラジカル化エネルギーV2

好評に付き、第三位のアルファリポ酸と、最近話題のレスベラトロールを含めてV2とした。前後の化合物と比較していただきたい。

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