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複合体Ⅰに生成するFeSとセミキノンラジカルのESR詳細

2013-09-25 13:36:10 | ラジカル

大腸菌から単離された複合体IにおけるFeSとセミキノンのESR信号詳細

JBC288, 20, 14310 (2013)

図1に示す単離複合体I試料のEPRスペクトル(8.28 mg / ml)は2核クラスタおよび4核クラスタ8種類が重畳する様子を示している。 同試料を嫌気6 mMのNADH(a)又は20mMのジチオナイト(b)で還元した。 EPRスペクトルは、40Kと2 mW(A)または13 Kと5 mW(B)で記録した。図には各FeSクラスターから生じるEPR信号の位置が示されている。

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図1 単離複合体I試料のEPRスペクトル(8.28 mg / ml)。 同試料を嫌気6 mMのNADH(a)又は20mMのジチオン酸(b)で還元した。 EPRスペクトルは、40Kと2 mW(A)または13 Kと5 mW(B)で記録した。各FeSクラスターから生じるEPR信号の位置が示されている。他のEPR条件は、マイクロ波周波数、9.45 GHz、変調周波数、100 kHzで、振幅変調、0.6 mT

 信号強度はNADH還元とジチオナイト還元でほとんど同じである (Fig 1A(a) 、 (b))。 4核クラスタN2, N3, N4のEPR 信号は二核錯体の信号が重畳し、複雑なスペクトルを示す。NADH還元とジチオナイト還元双方でも観測された(13K および 5 mW) (Fig. 1B)。これらのクラスタのgz値および線幅からは目立った相違は観測されなかった。しかし、gz = 2.05 、2.03,での信号強度およびgy ~1.94での信号強度はジチオナイト還元の方がNADH還元よりも目立って大きかった。NADH還元とジチオナイト還元での大腸菌複合体N6 信号における 6倍の違いは NADH還元ではできないがジチオナイト還元で出来るN7による信号が災いしている。 電子移動道から20.5Åも離れているためである。 N6a、N6bは 歴史的にはESRサイレントであると信じられていた。 本研究で初めて、近くで 重なった信号であることが分かった。g = 2.099 信号は204 mW では1.2 mWよりも目立って強い信号を示した 。これは緩和時間が速いことを示す。逆に、  g = 2.086 信号は1.2 mW で大きく、204 mWで小さい。 81 mW での差スペクトルでは2本のピークがある。N4に加えて、N6aが複合体1に存在することを強く示している。Yano 等は P. denitrificans Nqo9 ( E. coli NuoI 同族体) にあるサブユニットでN6a ,N6bの外側対は gz,x = 2.08、 1.89 で、内側対はgz,x = 2.05、 1.92であることを示した。 14 Kで外側対は緩和が速く(P1/2= 342 mW)、内側対は (P1/2 = 8 mW) であった。 g = 2.099信号をN6aと 同定してg = 2.086 をN4 と同定した。 N6bからくる内側対の信号 gzはN2のそれと完全に重畳した。そこで、異なる温度、異なるMW電力、さらに、シム法を併用して解析を挙行した。複合体ⅠのFeSクラスタの還元レベルはジチオナイトの方がNADH還元より大きかった。 20K、5 mW (Fig. 6)で差ESRスペクトルで4核クラスタの寄与を決定した。又、差スペクトルで他の4核クラスタの寄与を最小にするためでもある。20K, 5 mW でN2は十分還元されることを信用して ジチオナイト還元、NADH還元、さらに差スペクトルをそれぞれシムレートした。用いたg値は表1に示されている。

表1 シム解析に使用した複合体1ESR信号のg値

ESR信号         gx       gy       gz
N1a            1.922     1.953     2.000
N1b            1.934     1.942     2.027
N2             1.903     1.903     2.050
N3             1.885     1.939     2.027
N4             1.894     1.940     2.088
N6a            1.895     1.935     2.093
N6b            1.939     1.939     2.048
N7             1.900     1.941     2.049

差スペクトルで余分のESR信号が現れた: g = 2.05、 1.93の信号である。これはN3 (gz,y,x = 2.03, 1.94, 1.88, Fig. 6B (a)), N4 (gz,y,x = 2.09, 1.94, 1.89, Fig. 6B (b)) およびN7(gz,y,x = 2.05, 1.94, 1.90, Fig. 6B (a))でもシムできなかった。これは厳密な嫌気条件で還元して出来るN6bが存在することを強く示唆している。それの性質はN2信号の性質とは全く逆で、好気的でNADHでも完全に還元される。しかし、N2 およびN6b 信号は 軸対象で高温でも観測できる。スペクトル Fig. 6B(c), (赤線) はN6の軸対象ESRシムを示している。これはN2のgz値と重なる。

Fig6

図2. (A)   dithionite (a) またはNADH (b) で還元された複合体1のESRスペクトルとシム合成。ジチオナイト還元とNADH還元の差スペクトル (c) 。スペクトルは 20K、5 mW測定。点線はここのFeSの和を示す。 (B) 4核クラスタのシムスペクトル。

 

セミキノン信号

 精製した大腸菌複合体Ⅰのセミキノン信号SQ信号は他の研究室で検出されたことはなかったが、我々が始めて20Kで検出に成功した (図 3A(a), g = 2.00 領域参照)。このg = 2.005 SQ信号のMW電力特性を150Kで調べた。150KでもN1aのgz = 2.00成分が残りSQ信号と重畳した。それで、SQ信号を分離する為に差スペクトルを取った。 さいわい、完全にN1a は軽減された。 一方、ジチオナイト還元ではSQ信号が消えた(図3(c))。結局、大腸菌複合体1のSQ信号の分離に成功した(図3, 上右)。線幅 (ΔHpp) ~12 Gで,中性セミキノン構造 (QH?) を示している。一般に、余分のプロトン化はキノン環のスピン密度が非対称の摂動のために線幅が増加することが知られている。MW電力飽和解析を行うと、P1/2 = 1.85 mWでは、単一信号として90% 以上であることがわかった。ΔHpp >15G の信号=フラボSQ成分は存在しなかった。複合体Ⅰが電位差滴定で還元されたとき 、フラボSQ成分のΔHppは大体 24Gであった。  さらに。ascimicin (100 μM)存在下ではSQ 信号は60% に 減少している (図3 (b))。 このSQ信号は複合体1における酸化還元と結合したプロトン汲み上げ機構に関与していると思われる。

Photo

図3 (左)、単離複合体IのEPRスペクトル。EPRスペクトルは、150 K、1.2 mWで記録した。複合体I(15μM)のascimicin(強力な大腸菌の阻害剤)不在下(a)、存在下(b)でNADHで還元した(c)は、ジチオン酸塩で還元した。(右)、ascimicinの不在(d)又は存在(e)におけるNADH還元-ジチオン還元スペクトルの差スペクトル。 二核クラスタ、N1a とN1b のEPR信号は 40K、2 mW で観測された.

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呼吸鎖系のFeSクラスターおよびESRスペクトル

2013-09-10 11:41:31 | ラジカル

Photo_3(クリックで拡大。下記URLをクリックすると個々の構造図が詳細に見える)

図1 呼吸鎖全体図

http://www.dbp.akita-pu.ac.jp/~esuzuki/pbc/Folder7/ET/chain.html)。

最近の呼吸鎖系の研究成果は素晴らしい。図1に示したように、ようやく呼吸鎖の全体像が見えるようになり、呼吸鎖を構成するタンパク質や補酵素群のほとんどは内膜に埋め込まれて存在することがわかるようになった。シトクロムcは膜表面に結合している。これらを結晶構造解析の結果を複合体ごとに図1に示されている。H+として運ばれた水素は複合体 I から膜間スペースへ移動し、同時にユビキノン(補酵素Qへ2個の電子が渡される。一方、FADHとして運ばれた電子も複合体 II からユビキノン(補酵素Q)へ渡される。還元型ユビキノンの水素は複合体IIIとの連鎖で2H+として外れて膜間スペースへ移動する。同時に、電子は複合体IIIに渡される。複合体IIIに渡された電子はミトコンドリア膜表在性のシトクロムを経て複合体IVに送られる。複合体IVは、還元型シトクロムを酸化し、生じた電子が酸素分子に渡される。1/2分子のOがマトリックス内の2個のH+と結合すると1分子の水がつくられる(実際は4電子で水2分子が生成する)。複合体Ⅰ、Ⅲ、Ⅳで合計10個のH+が複合体の隙間を通って膜間スペースへ運ばれる。これによって生じるH+の濃度勾配が内膜をはさんでの膜電位を生み出す。

ここで、注目すべきは6個のFeSクラスターが並ぶ複合体Ⅰのサブユニットである(図2)。複合体IはNADHの2つの水素と電子をFMN(又はCoQ)に渡す。

NADH + H+ + FMN(CoQ)→ NAD+ + FMNH2(CoQH2) DGo' = -71 kJ/mol。

複合体Iを電子が通過すると,4つのH+が膜間腔へ運ばれる。複合体Iは42のサブユニットから成る複雑な構成のため研究の進歩は遅い。複合体1はフラビン(FMN)酵素や少なくとも6つのFe-Sを含む。CoQは膜内を自由に動き回れる。複合体Ⅰを電子が通過すると,4つのH+が膜間スペースへ運ばれる。複合体Iはロテノンやアミタールで阻害される。

Sazanov2010nature(クリックで拡大)

図2 Thermus thermophilus の呼吸鎖複合系Ⅰの構造(左)とFeSクラスターの配列の様子と電子の流れ(右)(4.5Å分解能)。

(左)複合体Ⅰの分子構造 (PDBID: 3I9V)と膜領域のαーヘリカルモデル。Fe-Sクラスターは赤と黄色の球で、、FMNはマゼンタの球で表示した。 各サブユニット毎に命名され、異なる色で示されている。

(右)プロトン転位のモデルによると、FMN (マゼンタ)を経由して、 NADH の 2個の電子を一連のFe-S クラスターに渡される。 図では空色線矢印で示している。  電子移動はターミナルクラスター N2を経て, キノンQ(濃紺)に渡される。その際、膜より10Å離れる。2個の電子移動は疎水領域で構造変化と共役している。それはNqo4 4つのへリックスの束 (緑円筒 ) と Nqo6 へリックス H1 (赤)で観測される。 これらの変化は 両親媒性へリックスHL (マゼンタ)に伝播され3個の不連続へリックス(赤)を傾けることになる。各プロトンチャンネル内の残基の配置を換えるとプロトンの転位を引き起こす。第4のプロトンは二つの主ドメインの境界に転位する。

ミトコンドリア複合体Ⅰや バクテリアNDH-1では非共有結合性FMNおよび8-9個のFe-Sクラスターを含んでいる。大西グループの命名法に従えばN1aとN1bは2核クラスターで、 N3, N4, N5, and N6 は4核クラスターで、ESRを与える。 ある種のバクテリアでは、さらに2種の4核クラスター (N7とN6 )を含む。N1a、N1b はサブユニットNqo2/NuoE/ FP24k aおよびNqo3/NuoG/IP75kに位置する。 N3 はNqo1/NuoF/FP51kに位置する。.  クラスター N4, N5,  N7 は サブユニット Nqo3/NuoG/IP75kにある。クラスター N6 (2[4Fe-4S]) はサブユニット Nqo9/NuoI/TYKYと結合している。 N2 は多分、サブユニットPSST/Nqo6/NuoBに包含されている模様。

Sazanov2006fig1smfescluster(クリックで拡大)
図3 T. thermophilus複合体Ⅰの親水部分の構造。(A)側面図、(B)酸化還元中心の配置図(スケールは左図と同じ)。

以下工事中

Fesesr1(クリックで拡大)
図4. 単離された複合体ⅠのESR。嫌気条件下でNADH(a)、またはジチオナイト(b) で還元。

Fesesr(クリックで拡大)

図5  (A) ジチオナイト(a) またはNADH (b)で還元された 複合体IのEPRスペクトルを比較、と差スペクトル(c)。 それぞれシムスペクトルを重ね合わせて表示(点線)。 (B) 4核クラスターのシムESR信号。スペクトルは同じスピン量で規格化  (a-c).

Fesesr2_2(クリックで拡大)

図6. (左) 単離した複合体1のESR信号。ESRスペクトルは150 K 、 1.2 mWで観測.。複合体 I (15 μM) を NADHで還元。 ascimicin(強力な大腸菌複合体Ⅰ阻害剤) (a)なし 、 (b)あり。 ジチオナイト で還元の場合は(c)。 (右)(a)-(b)=(d), (a)-(c)=(e)の差スペクトル.

(Semiquinone and Cluster N6 Signals in Bioenergetics: J. Biol. Chem. published online March 29, 2013)

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チャート層と京都

2013-09-02 13:01:29 | うんちく・小ネタ

Photo_2(クリックで拡大)

図1 チャート層の典型例。

京都盆地を取り囲む山地は,主として丹波層群と呼ばれる中生代層からなり,約 2 億年前のジュラ紀~三畳紀に、遥かミンダナオ島あたりで形成されたチャート(*)などの堆積岩で構成されている。また、盆地の地下に伏在する基盤岩も主に丹波層群であると推定されている。盆地縁辺部には西山丘陵や桃山丘陵などが広がる。これらの丘陵には,300~30 万年前頃の新第三紀から第四紀 に堆積した大阪層群が分布し,未固結の砂礫,砂,粘土などの互層で構成されている。特に,海に堆積した海成粘土層や火山灰などの特徴的な地層がはさまれ,京都盆地にも海が広がっていた時代があった。地表付近は数万年前以降に堆積した新しい地層で覆われ,盆地北部では北山から流れ込んだ河川の作用により扇状地性の砂礫が、南部では旧巨椋池や横大路沼で代表されるように湿地性の粘土やシルトが優勢となっている。京都盆地の縁辺部は花折断層や樫原断層など南北性の活断層で限られ,盆地を囲む東山,西山,北山などの山々との明瞭な地形境界となっている。また,盆地の東側には桃山丘陵により隔てられた山科盆地があり,その縁辺部は黄檗断層などが同じく南北に分布する。これらの活断層については京都市などの調査により,断層の活動履歴などの情報が蓄積されてきている。

(*)チャート(chert)は"堆積岩" の一種である(図1)。主成分は二酸化ケイ素(SiO2石英)で、この成分を持つ放散虫海綿動物などの動物の殻や骨片(微化石)が海底堆積してできた岩石。断面をルーペで見ると放散虫の殻が点状に見えるものもある。非常に硬い岩石で、層状をなすことが多い。チャートには赤色、緑色、淡緑灰色、淡青灰色、灰色、黒色など様々な色のものがある。暖色系のものは、酸化鉄鉱物に起因し、暗色系のものは硫化鉄炭素化合物に起因する。緑色のものは、緑色の粘土鉱物を含むためである。これらは、堆積した環境によって変わると考えられている。 チャート同士を火打石のように打つと小さな火花を生じる。

(Ⅰ 京都市の特性1 京都市の自然環境より抜粋)

Photo

図2 弁慶石あるいは弁慶の腰掛石。

京都にはこの堆積岩が露出している小山や丘が多い。船岡山、衣笠山、吉田山、双丘など標高100m前後の高台はその典型である。これらは良く地学観察に利用されている。保津峡の奇岩、景勝地は保津川の侵食によって出来た。また、有名な神社、仏閣にはチャートで出来た奇石が多く、金閣寺の鏡湖池にある奇岩奇石はその典型である。竜安寺の石庭の15個の石のうち8個はチャートである。各地にある弁慶石(腰掛石)もチャートである場合が多い(図2)。