村上達也 京大物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)助教・iCeMS京都フェロー、今堀博iCeMS教授らの研究グループは、橋田充iCeMS・薬学研究科教授、磯田正二iCeMS客員教授、辻本将彦iCeMS研究員らと協力し、半導体性の単層カーボンナノチューブ(SWNT)が、生体に優しい近赤外光の照射によって活性酸素種を効率良く生成し、さらにその活性酸素種が癌細胞を死滅させることを発見した。これまで、SWNTの発熱作用が、癌の光線治療メカニズムとして注目されてきたが、本研究では、SWNTが熱だけでなく活性酸素種も用いて癌を死滅させることを明らかにした。今後、半導体性SWNTは、これら2つのメカニズムで癌細胞を死滅させるナノ材料としての活用が期待される。
本成果は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費 基盤研究(B)研究課題「ナノ細胞工学:ナノ材料の細胞内精密配置と機能発現」(代表者:村上達也)の一環として行われた。論文は近日中に米科学誌「アメリカ化学会誌(Journal of the American Chemical Society = JACS)」のオンライン速報版に掲載される予定である。
図1
生体に優しい近赤外光の照射によって活性酸素種を効率良く生成し、さらにその活性酸素種が癌細胞を死滅させる(クリックで拡大)。
“Photodynamic and Photothermal Effects of Semiconducting and Metallic-Enriched Single-Walled Carbon Nanotubes”
Tatsuya Murakami*, Hirotaka Nakatsuji, Mami Inada, Yoshinori Matoba, Tomokazu Umeyama, Masahiko Tsujimoto, Seiji Isoda, Mitsuru Hashida, Hiroshi Imahori*
Journal of the American Chemical Society (JACS), DOI: 10.1021/ja3079972
金属性SWNT と半導体性SWNT への分離・濃縮は、蛋白質精製用のゲルを用いている。SWNTは水に全く分散しないため、それぞれの分散液には、SWNT 研究で頻用される合成界面活性剤(SDSなど)が含まれている。この結果、元のSWNT を、金属性:半導体性の量比が55:45 と14:86 のSWNT に分離することができた。今後、金属性SWNT が濃縮された前者をm-SWNT(metallic-SWNT)、半導体性SWNT が濃縮された後者をs-SWNT (semiconducting SWNT)と呼ぶ。得られた各SWNT 分散液に808 nm の近赤外レーザーを照射すると、その光線温熱効果によって、いずれの分散液の温度も上昇しましたが、その温度上昇は、s-SWNT よりもm-SWNT の方が大きいことがわかった。つまり、m-SWNT はより高い光線温熱効果を示すことがわかった。次に同じ実験条件で、活性酸素種の生成を比較した。O2 からの活性酸素種の生成メカニズムはtype I とtype II の2 種類があり、前者ではスーパーオキシドアニオン(O2●?)、後者では一重項酸素(1O2)が生成される。ちなみに光線力学療法で強力な抗癌活性を示すとされているのは、1O2 である。これらの活性酸素種の検出試薬存在下で、808 nmレーザーをそれぞれのSWNTに照射したところ、いずれの活性酸素種もs-SWNTでのみ生成を確認することができた。すなわち、近赤外光照射下では、s-SWNTはm-SWNTよりも非常に高い光線力学効果を示すことがわった。それらの生成量はレーザーパワーに比例して増加した。また、s-SWNT分散液中に酸素を吹き込んでからレーザー照射すると、1O2の生成のみ増強され、このことはs-SWNTが従来の光線力学効果メカニズムに従って活性酸素種を発生したことを示している。最後にs-SWNTの光線力学効果が、癌細胞を死滅させるかどうか調べた。先述のとおり、s-SWNTは全く水に分散しないため、これまで合成界面活性剤を用いて実験を行ってきた。しかし合成界面活性剤は強い細胞毒性があるため、細胞実験を行うためにはsSWNTを別の物質で分散安定化する必要があった。本研究グループでは、高比重リポ蛋白質(HDL=High-density lipoprotein)も研究対象としており、HDLはSWNTに吸着することが知られている。試行錯誤の結果、HDLを用いてs-SWNTの分散安定性を保持しつつ、合成界面活性剤由来の細胞毒性をほぼ完全になくすことに成功した。このHDL処理s-SWNTを癌細胞の培養液に添加し、808 nmレーザーを10分間照射すると、45%の癌細胞が死滅した。重要なことに、1O2の消光剤を添加してレーザー照射すると、癌細胞の死滅率は28%に低下し、1O2がs-SWNTの殺細胞活性に寄与することが明らかとなった。この時培養液の温度は41℃にまで上昇していたことから、s-SWNTは1O2と熱の両方を用いて癌細胞を死滅させたと考えられる。
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