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【O2-】伝説 第二話ースーパーオキサイドは本当にスーパーか?

2007-09-28 15:07:30 | ラジカル

 【O2-】伝説第一話でポーリング博士がスーパーオキサイド(O2-・)の発案者で且つ名付け親であることを述べたが、その後25年間、スーパーオキサイドの歴史に変化がなかった。1959年、アルカリハライド(塩の総称)単結晶に正体不明のESR信号が観測された。酸素雰囲気下で熱すると当信号は急激に増加し、逆に、水素、ハロゲン、水蒸気、さらに、真空下で熱すると急激に減少した。この化学種には超微細分裂がないことなどから、スーパーオキサイド(O2-・)と同定された

 1969年、Bray 等はキサンチンーキサンチン酸化酵素系でスーパーオキサイドが定量的に生成することをESRスペクトルにより証明した。時を同じくして、McCord & Friedovich がスーパーオキサイド不均化酵素(SOD)に関する研究成果を発表した。ここに来て、スーパーオキサイドのESR観測は生体系における酸素酸化反応を探る重要な手段になったのである(図1参照)。1970年以降、スーパーオキサイドをはじめとする活性酸素は化学、生物学、医学、農学に携わる多くの研究者の注目の的になっていった。

 1981年、Sawyer & Valentine がAccounts of Chemical Research 誌上に”How super is superoxide?” と題する総説を掲載した。いくつかの根拠を示して、多くの研究者が考えているほど super reactive ではないと指摘した。確かに Sawyer のような電気化学者の立場からすればスーパーオキサイドの酸化還元電位が飛び離れて目立つほどのものでないことは明らかで、多くの無機・有機化合物と同一視している。しかし、頭に来たのはSODの発見者 Friedovich で、次の年、同じ雑誌に”How innocuous(無害) is superoxide?” と題して主として生物化学者の立場から反論した。結局、平行線のまま時が移り、新しい話題に飲み込まれていった感があるが、スーパーオキサイドの多面性を無機・電気化学と生物化学の立場から眺めていたと言える。それにしても”Super" という接頭語がここまで学者の論争を煽るとはポーリング博士も苦笑いだったのではないか。今では聞くよしもないが・・・。しかし、その後このスーパオキサイドがスーパーコンダクター(高温超伝導体)に結びつくとはまだ誰も知る由もなかった。

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【O2-伝説1】スーパーオキサイド四方山話 第一話ー名付け親は?

2007-09-26 16:47:58 | うんちく・小ネタ

 スーパーオキサイドに まつわる話は非常に多い。気持ちの赴くままに、今まで書かなかったこと、むしろ書けなかったことをブログの威力を借りて書いてみたい。

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図1 金属カリウムを空気と反応させたときにできるKO2結晶の結晶構造。赤は酸素、紫はカリウムを表す。

 スーパーオキサイドも他の化学物質と同様に長い歴史を持つ。1930年代の初め、ポーリング博士がノーベル化学賞の対象となった一連の"The nature of chemical bonds"を執筆していたころの話である。量子力学を基にして化学の諸現象を説明しようとする壮大な計画が進行していた。その中のひとつに三電子結合という概念がある。今で言えばラジカルである。博士の学生E.D.Neumanに、金属カリウムを空気と反応させたときにできる黄色い物質の性質を調べさせた。合成した物質は磁石に吸い付けられた。磁性を帯びていたのである。この現象を説明するためにK+O・・・O-という三電子結合が生まれた。博士はこの酸素分子に一個の電子が乗っかった状態をスーパーオキサイドと命名した。インターネットを駆使して活性酸素を検索すると「スーパーオキサイド」というキーワードが氾濫しているが、70年前にポーリング博士が名付けたのである。少し専門的になるが、この三電子結合の概念は博士の構築した原子価結合法の一つであって、現在はあまり用いられていない。むしろ福井博士などが開発した分子軌道法が一世を風靡しており、その中にラジカルも含まれる。しかし、「スーパーオキサイド」という名前は永遠に残るであろう。

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ビタミンCとポーリング博士

2007-09-18 13:03:27 | ラジカル

 ビタミンCのラジカル化エネルギー(RE: 65 kcal)はビタミンE(RE: 73 kcal)のそれと比べて8 kcalも小さい。即ち、ビタミンEが活性酸素との反応によりラジカル化していてもビタミンCが近づくとビタミンEが元の状態に戻り、ビタミンCがラジカル化する。言い換えれば、活性酸素による生体の損傷がビタミンCにより修復されたことを意味する。この修復能はカロテノイド以外大抵の生体物質に当てはまり、ビタミンCは生体内での修復屋の役割を果たす。出来たビタミンCラジカルは自動的に酸化型ビタミンCになり、溶液中ではこれら3者は平衡関係にある(図1参照)。例えば、カイワレやアオキの葉などそのままでESRスペクトルを測ると、図2に示すような、ビタミンCラジカル特有の2本線が観測される。ヒトの全血でも同様の信号が現れ、その強度は健康度を表す指標になる。現状では装置が高価であること、ESRの原理が難解(?)、操作が複雑(?)、等々の理由で普及はしていないが、健康の指標として最も直接的な尺度である。ビタミンCラジカルの最適量は多くても、また、少なくてもだめな様である。

 

 

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図1 ビタミンC(アスコルビン酸)とMDA(アスコルビン酸ラジカル)および DAA(酸化型ビタミンC)。溶液中ではこれらは基本的に平衡関係にある。  

 

 

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図2 MDA(アスコルビン酸ラジカル)のESRスペクトル。C6H8O6からなる分子骨格のうち、1個の5位水素のみが不対電子と作用して、特有の2本線のスペクトルを示す(g=2.0052、aH=0.18 mT)。

 

 ビタミンCはお馴染みの典型的なサプリで、あまりにも安価であるためにメーカーサイドの魅力に乏しく、従って基礎研究のみならず、応用研究も意外と乏しい。しかし、霊長類はビタミンCを体内で生産できないため、必須栄養素で絶えず補給を要する化合物である。当化合物の研究暦は古く、すでに1920年に、英国の科学者ドラモンドが還元性のある壊血病予防因子をビタミンCと呼ぶことを提案した。 1933年に英国の化学者ハースによってビタミンCの構造が決定されてアスコルビン酸と命名され、1933年にはポーランドの化学者ライヒシュタインが有機合成によるビタミンCの合成に成功した。従って、非常に安価に純品が手に入る。しかし、価格と重要性とは別物である。

 

 米国のノーベル賞学者、ポーリング博士は世界で一番最初に「ビタミン大量摂取」を唱えた科学者で、毎日ビタミンCを18g摂取していた。これは一般的に言われているビタミンCの「大量摂取推奨量」が、1日1グラム(1000mg)であることを考えると、その18倍もの、恐るべき分量であることがわかる。人や霊長類などごく一部の生物種はビタミンCを自分で合成できず、食餌からとる必要がある。そこでポーリング博士は、動物たちがどれくらいのビタミンCを合成するのか、その合成量を調べた。そして、自分の年齢、身長、体重等に基づいて1日18gを食事からとる必要があると推定したのである。1994年に93歳で他界するまで、自らの推論を自ら実践したのである。しかし死因は前立腺がんであった。

 

 2006年、大量摂取ビタミンCの効能に関する新事実がカナダの研究グループによって提示された。同グループは、高用量ビタミンCを点滴投与した3人の患者が予想よりも長く生存していたことを確認した。ビタミンCの癌細胞への選択毒性は、2005年に in vitro (ペトリ皿を使用した細胞培養)で実証されている。高用量ビタミンCの点滴投与は患者に重要な毒性を与えることが分かっており、腎不全や下痢などの副作用は十分に立証されている。事例報告データと臨床前情報を組み合わせによって臨床効果の生物学的妥当性及び可能性を示唆している。今後の臨床試験では、癌患者に対する静脈内高用量ビタミンC治療の実用性と安全性の究明が最終的な課題となっている。2006年、全米化学会会報に、in-vitroでビタミンCが癌細胞を死滅させたこと報告した論文が掲載された。

 

 ビタミンCのラジカル化エネルギー(RE)は非常に低く、生体内での修復屋の役割を果たす重要な根拠になる。しかし、これはあくまで活性酸素除去という「予防」の範囲内での話であって、癌死滅とは別の次元の話である。

 

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