complex 1 における8種または9種 FeS クラスター(Ver 2)
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図1 呼吸鎖全体図
下記URLをクリックすると個々の構造図が詳細に見える。
(http://www.dbp.akita-pu.ac.jp/~esuzuki/pbc/Folder7/ET/chain.html)。
最近の呼吸鎖系の研究成果は素晴らしい。図1に示したように、ようやく呼吸鎖の全体像が見えるようになり、呼吸鎖を構成するタンパク質や補酵素群のほとんどは内膜に埋め込まれて存在することがわかるようになった。シトクロムcは膜表面に結合している。結晶構造解析の結果は複合体ごとに図1に示す。H+として運ばれた水素は複合体 I から膜間スペースへ移動し、同時にユビキノン(補酵素Q)へ2個の電子が渡される。一方、FADHとして運ばれた電子も複合体 II からユビキノン(補酵素Q)へ渡される。還元型ユビキノンの水素は複合体IIIとの連鎖で2H+として外れて膜間スペースへ移動する。同時に、電子は複合体IIIに渡される。複合体IIIに渡された電子はミトコンドリア膜表在性のシトクロムを経て複合体IVに送られる。複合体IVは、還元型シトクロムを酸化し、生じた電子が酸素分子に渡される。1/2分子のOがマトリックス内の2個のH+と結合すると1分子の水がつくられる(実際は4電子で水2分子が生成する)。複合体Ⅰ、Ⅲ、Ⅳで合計10個のH+が複合体の隙間を通って膜間スペースへ運ばれる。これによって生じるH+の濃度勾配が内膜をはさんでの膜電位を生み出す。
ここで、注目すべきは6~9個のFeSクラスターが並ぶ複合体Ⅰのサブユニットである(図2)。複合体IはNADHの2つの水素と電子をFMN(又はCoQ)に渡す。
NADH + H+ + FMN(CoQ)→ NAD+ + FMNH2(CoQH2) DGo' = -71 kJ/mol。
複合体Iを電子が通過すると,4つのH+が膜間腔へ運ばれる。複合体Iは42のサブユニットから成る複雑な構成のため研究の進歩は遅い。複合体1はフラビン(FMN)酵素や少なくとも6つのFe-Sを含む。CoQは膜内を自由に動き回れる。複合体Ⅰを電子が通過すると,4つのH+が膜間スペースへ運ばれる。複合体Iはロテノンやアミタールで阻害される。
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図2 T. thermophilus の呼吸鎖複合系Ⅰ親水部分の構造 (PDBID: 3I9V):FeSクラスターの配列の様子と電子の流れ(上から下へ)。
http://www.thayashi.com/Publications/Hayashi.Stuchebrukhov.2010.PNAS.pdf
ミトコンドリア複合体Ⅰや バクテリアNDH-1では非共有結合性FMNおよび8-9個のFe-Sクラスターを含んでいる。N1aとN1bは2核クラスター、 N3, N4, N5, and N6 は4核クラスターで、ESRを与える。 ある種のバクテリアでは、さらに2種の4核クラスター (N7とN6 )を含む。N1a、N1b はサブユニットNqo2/NuoE/ FP24k aおよびNqo3/NuoG/IP75kに位置する。 N3 はNqo1/NuoF/FP51kに位置する。. クラスター N4, N5, N7 は サブユニット Nqo3/NuoG/IP75kにある。クラスター N6 (2[4Fe-4S]) はサブユニット Nqo9/NuoI/TYKYと結合している。 N2 は多分、サブユニットPSST/Nqo6/NuoBに包含されている模様。
表1 シム解析で決定された複合体1内のFeSクラスターのESR信号のg値
ESR信号 gx gy gz
N1a 1.922 1.953 2.000
N1b 1.934 1.942 2.027
N2 1.903 1.903 2.050
N3 1.885 1.939 2.027
N4 1.894 1.940 2.088
N6a 1.895 1.935 2.093
N6b 1.939 1.939 2.048
N7 1.900 1.941 2.049
(参考)呼吸鎖複合体Iの電子トンネル移動: http://www.thayashi.com/research/et_complexI-j.html