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ラジカルはどれだけラジカルか?2 アスタキサンチンとエダラボンとビタミンC

2007-08-22 15:40:12 | 健康・病気

 標記の共通点を即座に答えられたら化学のプロ中のプロ。アスタキサンチン (astaxanthin) はカニ・エビなどの殻・甲羅に含まれる赤い色素で、1938年にクーンらにより発見された。中心骨格はβ-カロテンやリコピンなどと同じカロテノイドの仲間でキサントフィル類に分類されている。身近な例では甲殻類の殻、またそれらを餌とするマダイの体表、サケ科魚類の筋肉の赤色部分などに見られる。甲殻類ではクラスタシアニンと結合し、カロテノプロテインとして存在している。タンパク質と結合したアスタキサンチンは黒っぽい青灰色を呈するが、カニ・エビを加熱するとタンパク質分子が変性してアスタキサンチンが遊離して本来の赤色を呈する。図1は当色素を含むクラスタシアニンの結晶構造解析の例(PDB: 1GKAをCACheで編集)で、ほぼ直線状の分子骨格を保ち、両端で弱くタンパクと結合している。ここで注目したいのは両端にある6員環内にあって、隣接するケトン(C=O)とOH!この構造がアスタキサンチンの性質を決定している(図2参照)。そういえば、エダラボンにもビタミンCにも同様の構造がある。そう!ケト-エノール互変異性がその本質である。ケトン(C=O)基のそばに動きやすい水素があると、エノール型になってπ電子系が広がることにより分子の安定化を図っている。ラジカル化とはπ電子が広がることを意味するがそのエネルギーがこの互変異性により容易になるのである。エダラボンとアスコルビン酸の分子の形をゆっくり見て頂きたい。さらに、新規抗酸化物質探索の決め手は互変異性かも知れない。

1gkaasx

図1 タンパク質がアスタキサンチンを内包している例。図はPDB:1GKAをCACheで編集し、水素原子を修飾したもの。

Ketoenol_2

図2 KETO-ENOL互変異性の模式図。Pは色素主骨格を表す。図中の(H)は互変異性KETO体での活性な水素を表す。 

エダラボンは三菱ウェルファーマが開発し、2001年に脳保護剤として始めて認可された活性酸素消去剤(商品名:ラジカット)である。有害なラジカルHO・を消去無害化することで,脳虚血後の神経細胞や血管内皮細胞の酸化傷害を防ぐことにその特徴がある。エダラボンはラット脳虚血モデルにおいて,脳局所虚血後あるいは虚血再開通後の静脈内投与により,脳内の・OH 増加を抑制するとともに,脳梗塞巣の進展および遅発性神経細胞死を抑制している。また,エダラボンは虚血に伴う神経症候および脳浮腫を軽減している。脳梗塞急性期患者を対象に実施した臨床試験において,エダラボンは脳梗塞の中核症状である神経症候,日常生活動作障害および機能障害を改善している。しかし、副作用としては、腎臓疾患患者に急性腎不全を起こさせるなど、いくつかの報告がある。医薬品としてフリーラジカル消去を効能書きにした初めての例がこのエダラボンである。前回記事の表1を見ていただきたい。エダラボンとビタミンCのラジカル化エネルギー(RE)は隣り合わせの位置にいる。日ごろからビタミンCをたっぷり摂取しておくことが一番ではないか?

 ”ラジカルを制するものは人類の未来を制する”として今年のフリーラジカル学会にビタミンC60(ビタミンCとは無関係)と銘うったラジカル消去剤が紹介された。今後も次々と新商品が現れる可能性がある。

 しかし、アスタキサンチンはリコピンやγ-カロテンなどの直鎖状分子には勝てない。目下、第三位に甘んじている。1989年、Mascioは一重項酸素消去速度を発表した。表1にラジカル化エネルギー(RE)とともに示す。やはり、予想通り、アスタキサンチンは三位であった。リコピンやγ-カロテンの方が消去速度が速いのである。

表1 カロテノイド等の一重項酸素消去速度kとラジカル化エネルギー(RE)

 

Photo

 余談であるが、Mascio が1989に発表したこの一重項酸素消去速度がサプリや健康補助食品メーカーの宣伝文句の根拠になっている有名な表であるが、アスタキサンチンはビタミンEの100倍、200倍、あるHPでは1000倍の「抗酸化能」があると誇大宣伝されている。彼の発表したデータで一重項酸素消去能を比較すれば、アスタキサンチンはビタミンEの80倍が正しい。しかも、もっとも一重項酸素消去能が高いのはリコピンであってアスタキサンチンではないのである。
 ウソのデータを発表するメーカーの製品は買わないのが一番!真っ赤に熟したトマトをたっぷり食べることが一番

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ラジカルはどれだけラジカルか?(改訂版)

2007-08-16 10:59:00 | ラジカル

 近年、消費者の高齢化に伴い、抗酸化物質を含む健康補助食品の探索が鎬(しのぎ)を削っている。抗酸化物質とは活性酸素を消去する物質の総称であり、具体的にはフラボノイド、カロテノイド、等のことで、水素引き抜きによる酸化に伴うラジカル生成が共通する。また、これらの抗酸化能を評価する試薬にも多くのラジカルおよびラジカル化容易な化合物(スピン試薬)が用いられている。しかし、これらの試薬、抗酸化物質の性能を相互に比較する物差がなかった。ここでは、水素引抜反応を基盤としてラジカル化エネルギーを定義し、これらの物質のラジカル状態の安定性を数値化し、抗酸化物質同士およびスピン試薬との反応性などを統一的に把握することを試みた。今回はOH、NH、およびCH基を持ち、それぞれO、N、およびC中心ラジカルになる典型的化合物について計算し、実験データと比較した結果を報告する。
【定義】抗酸化物質(AH)とO2-・やHO・などの活性酸素(B・)間でのラジカル移動は一般に次の水素移動反応(1)で表される。
    AH + B・⇔ A・+ BH                          (1)
(1)における各化合物のエネルギーをE(X)で表すと(1)のエネルギー式は
    E(AH) + E(B・) = E(A・) + E(BH)+⊿(熱)            (2)
となる。これを書き換えると:
    {E(A・)-E(AH)}+⊿(熱)= {E(B・)-E(BH)}              (3)
で表される。両辺に水素ラジカルのエネルギーE(H・)を加えると、
    {E(A・)+E(H・)-E(AH)}+⊿(熱)= {E(B・)+E(H・)-E(BH)}  (3)’
両辺とも化合物の水素引抜エネルギーになるので、化合物AH(およびBH)それぞれの水素引き抜き前後のエネルギー差:E(A・)+E(H・)-E(AH)をラジカル化エネルギー(Radicalization Energy: RE)と定義すると
    RE(BH)-RE(AH)=⊿                          (4)
となる。⊿>0では水素引抜が起り、⊿<0の時は水素引抜が起らない。
【計算法】計算は時間短縮のために主に半経験的分子軌道法(所謂、福井理論)を用いた。計算ソフトはFujitsu WinMOPAC 3.5 Pro および CAChe Work System 6.01 + Gaussian を用いた。Gaussian はhfccの計算に用いた。水素結合計算に有利なMOPAC-AM1法を用いて当エネルギーを計算した。構造異性体が複数存在する化合物およびそのラジカルでは全ての異性体について計算し、HOF(生成熱)の最小値を示す異性体を採用してREを求めた。

 

Photo_17

 

図1 ラジカル化エネルギー

 

【結果と考察】代表的な化合物のREを図1に示す。比較のためにH2O、H2、H2S、NH3、およびCH4を含めた。結果の特徴を纏めると、
1) H2OのRE(約112Kcal)が最も大きく、生成したHO・(H2Oの水素引き抜きでできる)は近くの物質から無差別に水素引抜することを物語る。
2)H2Oのすぐ上にあるH2のREは109Kcalで約3Kcal少ない。これは水素ガスでOHラジカルを消去できることを物語る。
     H2 + OH・ → H・ + H2O                 (5)
3) C 中心ラジカルは特に構造最適化が激しくREが低くなる(e.g. BDPA、TPM、アスタキサンチン)。
4)表中ではリコピンやアスタキサンチンなどのカロテノイドのREが小さく抗酸化能の高さを物語る。
5)スピン試薬は上位に位置し、VitamineC-と拮抗する。
6) H2O2(⇔HOO・(スーパーオキサイド:SO))より上位の化合物はSOにより水素引抜が起りラジカル化される(抗酸化物質)。下位にフェノール類および孤立OH基を持つ化合物群がある。これらはSOを消去しない。

 

 結論として、REは数多くの実験結果をよく説明し、実験事実と矛盾しないことが多いので、
1)REはラジカルの安定性を示す良い指標になる。
2)REはラジカル移動反応および反応速度を予測する指標になる。
3)DPPHはサプリや抗酸化性物質の評価に使用されているが最適とはいえない。より高機能の試薬探索の必要がある。
4)PTIO、HTIOなどはREが他の化合物より小さいため、検体内ラジカルの総量を評価するのに適した試薬である。
5)孤立OH基を持つ化合物では相関が非常によいが、カテコールなどのOH基が隣り合う化合物ではばらつきが大きい。その原因の一つは引き抜かれる水素原子の帯電によるものと思われる。式(1)で水素結合状態:A・(δ-) …H(δ+)-Bにおけるイオニック相互作用が当該反応速度に寄与してばらつきが生じたと理解される。

 

 今後、折に触れ、具体的な話題について当理論を元に解析する予定である。乞うご期待!!
次回はアスタキサンチン特集!アスタキサンチンは抗酸化物質のトップであるか?

 

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マイクロバブルとオゾン

2007-08-10 16:58:36 | マイクロバブル

Photo_5_2(クリックで拡大)

図1 マイクロバブル発生装置にオゾンを流したときのスピントラップ結果。DMPO-OHの信号(緑の4本線)が増強している。OHラジカルが目立ってトラップされており、殺菌力の増強を物語る。

マイクロバブルとオゾンの組み合わせはマイクロバブル水の殺菌力を高めるために、当初、産総研で精力的に研究された。ノロウィルスの不活性化に成功した組み合わせである。図1は同様の条件設定(気液せん断方式のマイクロバブル発生器とオゾン気体)におけるマイクロバブル水の実験結果である。空気流入に比べてDMPO-OHの信号(緑の4本線)が明らかに増強している。即ち、OHラジカルが目立って生成しており、殺菌力の増強を物語る。勿論この例でもベースライン近くに他の信号が現れており、あまりきれいな系ではないが、OHラジカルが目立って生成していることを証明するには十分であろう。

オゾンの反応は結構複雑である。反応中間体がいくつか生成するが、結局は

O3 → HO3・ → O2 + OH・

という逐次反応により、酸素分子とOH・ラジカルが生成する。即ち、バブル圧壊による高熱で水が分解してOH・ラジカルが発生するが、オゾンガス存在によりその発生が倍加されることを物語る。

 しかし、OH・ラジカルだけでウィルスを不活性化できるだろうか?これは次の問題である。

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マイクロバブルとレイリー卿

2007-08-08 15:22:35 | マイクロバブル

 

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図1 スクリューにマイクロバブルが発生する様子(Phys. Today, 2003 Feb, p36)

(Photo by G. Kuiper, Marin, the Netherlands.)

 マイクロバブル研究の歴史は意外と長い。1800年代の終わりに近い1894年、イギリス海軍が初めて高速魚雷艇をテストしていた時のことである。魚雷艇のプロペラが激しく振動し、その表面が激しく腐食することを見出した。この時に、回転するプロペラの表面に多数の泡が形成されるのを目撃し(図1参照)、原因はこの泡の生成と消滅に関係があるのではないかと仮説を立てた。プロペラを大きくしたり、回転数を減らしたりするとこの泡形成(cavitation)の問題が軽減された。しかし、魚雷艇はスピードが命、しかし、スピードを上げると致命的になるというジレンマに陥っていた。ここで、英国海軍は時の古典物理学の神様、レイリー卿(本名はJohn William Strutt)にことの究明を依頼した。卿は形成した泡(マイクロバブル)がプロペラ表面で爆縮(Collapse)する際に、激しい乱流、高熱、さらに高圧力も発生することを見出したのである。モデルを作って計算した(Rayleigh-Plesset Eq.)ところ、温度が一万度、圧力が一万気圧という結果を得た。科学研究の発端は常に現実味を帯び、しかも必要性に駆られて いる。因みに、このとき、やかんの湯が沸騰する直前に発する雑音はこのマイクロバブルが弾けることによる超音波であると指摘している。

 いまやマイクロバブルの世界は物理から化学、医学、工学へと急展開を見せているが、出発はスクリューの泡(マイクロバブル)から始まったのである。

 

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