「老人タイムス」私説

昭和の一ケタ世代も高齢になりました。この世代が現在の世相をどう見て、考えているかーそのひとり言。

               “断捨離”蔵書の活用法

2013-06-01 05:29:01 | Weblog
日本軍政下、英領ボルネオブルネイ県の県知事だった玉木政治氏(故人)の体験記「亡き妻に捧ぐ南方生活3年」(私家本昭和29年謄写版印刷)を英文に翻訳中だったが、やっと作業が終り、外務省南東アジア二課の尽力で、昨日駐日ブルネイ大使館に送った。ブルネイにはアーカイブをかねた研究機関があり、多分そこに寄贈されることになる。

この私家本は旧友が所有していたものだが、旧友の死後、夫人が他の蔵書と共に僕に相談を兼ねて預けていたものだ。著者の玉木氏は旧友の叔父にあたる方で、昭和18年から軍政官として英領ボルネオに赴任、19年3月から当時のミリ州総務部長兼ブルネイ県知事として終戦まで勤務した。私家本はその間の玉木氏と内地の夫人との間に交換された手紙と戦後つけ加えた体験記である。ブルネイ知事としてサルタン家に招かれた話や水上に泊まった話もあるが、20年6月、連合軍の再上陸でジャングルの中を220㌔サボンまで逃避する話は痛ましい。

亡き旧友から預かった蔵書の中には戦中のことを調べている者にとっては貴重なものばかりだ。昨年11月、僕はシンガポールのNHB(国立歴史遺産局)に用事で訪れた際、夫人の了解のもとで、昭和17年2月、日本軍がシンガポールを占領した直後の昭南の模様が掲載されている「写真週報」(内閣情報局発行)を寄贈してきた。NHBにはもちろんなく、鄭重なお礼の手紙が夫人宛に届いた。

”断捨離”で困る一つは蔵書である。ある年齢になると誰でもその処分に頭を悩ます。自分にとっては大切なのだが、子供や孫にとってはどうだかわからない。わが家でも屋根裏にいっぱい積まれている。処分したい気持ちがある一方で愛着がある。旧友の夫人の”断捨離”の心に敬意を表する。