ビター☆チョコ

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東京タワー オカンとボクと、時々、オトン

2007-04-18 | 邦画

ありえないほどの自由人であるオトン(小林薫)と別居したオカン(内田也哉子)は、女手ひとつでボク(オダギリジョー)を育ててきた。
オカンはどんなときもボクを受け止めてきた。
親元を離れて遠くの高校に進学した時も、東京の美大を受験すると決めた時も、オカンは快く送り出してくれた。
それなのにボクは大学は留年するし、就職はしないし、全く最低の生活を送っていた。

そんな生活にピリオドを打とうと必死で働き出した矢先、
故郷のオカン(樹木希林)の病が完全に癒えていないことを知る。
15歳で親元を離れてから15年。
親子の新しい生活が東京で始まる。

これはあなたにも訪れる物語です。

たぶん誰にでもある親子の情愛と、そしてどんな深い繋がりにもやがて来る別れの時。。。
そのときを淡々と綴っていきます。

始めはオカンの目線で見ていました。
頼りない息子を責めもせず、何もかも受け止めて悠然と構えるオカンの姿と
小さなことでうろたえてしまう自分と、比べて見ていました。
そして、オカンの病が進行する頃には
私は、自分の母親と弟を見ているような錯覚に陥りました。

弟も田舎から上京して美大に入りました。
まあ、田舎の実直な人から見れば、大学とは言え、ほとんど「道楽」に思われてたみたいです。
両親はそれでも弟を送り出し、遠くからいつも心配していました。
やっと卒業しても、なかなか一つの会社に落ち着かず
特に母にとっては胸が痛む歳月だったと思います。
そんな弟もやっと落ち着いて、時々は実家に顔を出して、けんかしながらも母と買い物にいったりして
安心していた頃、突然母が倒れました。
倒れたきり、もう目覚めることはなかったのですが
亡くなるまでの1週間、ほとんど母の側から離れることのなかった弟の姿は痛ましかったです。

同じ母の子供でも
女の私は「現実」に目が向きます。
残してきた家族のこと、仕事のこと、残される父のこと、実家の細々したこと。
弟はそんなものをすっ飛ばして、母が眠り続けている間はただ母のことだけを想っているようでした。

上の子である私がどこか親に遠慮がちに暮らしてきたのとは反対に
なんの屈託もなく母と喧嘩しながら暮らしてきた弟と母の繋がりは、私とは違った「濃さ」を持っていることを思い知らされました。

娘が公開日に観た、というので感想を訊いてみたら
「う~ん、思ったより淡々としていたね。もっと泣かせようと仕掛けてくるのかと思った。」
という答えが返ってきました。

それは、だって、この物語がオカンの死をただ悲しんでるだけの物語じゃないから。
オカンが生きた日々を描いてる物語だから。
訪れる「死」は、淡々とした日常の延長線上にあるもので
けっして特別のものじゃない。
形は違うかもしれないけれど、誰もが必ず経験することなのだから。

娘が、その淡々と描かれているひとつひとつのことが、とても大切だということに気がつくのは、
もう少し先のことなのかもしれないですね。

『楽しいときは鈴が坂を転がっていくように一瞬のうちに過ぎ去って、後には鈴の音色だけが残る。』
過ぎ去って行った日々は取り戻すことが出来ないけど
せめてその鈴の音を忘れないように、
これから自分が残す鈴の音が、思い出した誰かさんを憂鬱にさせることがないようにしたいものです。