ビター☆チョコ

店じまい後も変わらずご訪問ありがとう。
新居をかまえましたので
お近くにお越しの際はお寄りくださいませ。

さくら草

2007-04-12 | 

たまに往診を頼まれることがあります。
ずっと通ってきている患者さんの中には
病気で通院することが難しくなった方もいて、
そういう時は器具を車に積んで往診に出かけるのです。

今日もお供で行ってきました。
治療が終わって、
器具を片付けながら患者さんと世間話をします。

「お花見に行った?」と訊かれたので
「R大学に行って来ましたよ。
また構内に入れてくれるようになったんですよ。」
と答えました。

「ここにこうしてチューブに繋がれたまま何年もたって、
桜はもう何年も観てないわ。
いつの間にか80を越えてしまったのよ。」

そう話す彼女の顔は、
酸素のチューブが鼻に入ってはいるものの
白くなった髪をきちんとまとめ
真っ白な肌はシワもほとんどなく
淡いピンクのパジャマを着て
椅子にちょこんと座ってる様子は
少女のようでした。

お子さんがいない方なので
夫婦二人の暮らしです。
だんなさんがひとりで切り盛りする家は
きちんと整っていて
表通りから奥まったところにある家は静かです。
居間からみえる日当たりのいい庭には、
まだ椿が咲いていました。

うららかな昼さがりでした。
ここだけ、この空間だけが
世間とは切り離されてるような気がして
不思議な気持ちになりました。

仕事を終えて帰ってくると
さくら草が咲いてるのに気がつきました。

ほとんど白くみえる薄いピンクの花が
さっきお会いした患者さんの
白い肌の色とだぶって見えて
胸の奥のほうが「すーん」としました。

この「すーん」の正体がなんなのか
自分でも分からないのですけどね。