ビター☆チョコ

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クィーン

2007-04-27 | 洋画【か】行


1997年、8月。
パリでダイアナ元皇太子妃が事故死する。
そのニュースは世界中を駆け巡り、イギリス国民だけでなく世界中が悲しみにくれた。
そんななかイギリス王室は、
ダイアナは「元」皇太子妃で、今は民間人であるとして沈黙するのだった。


あの日から、もう10年が過ぎようとしている。
ダイアナ元皇太子妃が亡くなった瞬間から、テレビはダイアナ一色に変わり
何も関係のない遠い国にいる私たちまでもが、沈黙を守り続けるイギリス王室の動向に注目したものだった。
ダイアナ妃という華やかなスター性をもった女性を失った悲しみは
やがてイギリス王室への批判というものに形を変えていく。

誰もが知りたいと願ったのに
誰も知りえなかったあの空白の時間。
そこにいたのは
冷淡な女王ではなく、自分に与えられた宿命を背負って生きようとする一人の女性だった。

ダイアナの死に対する国民の過剰な悲しみに
エリザベス女王(ヘレン・ミレン)は違和感を覚える。
女王が思うに
悲しみはもっと慎み深いものなのだ。
マスコミに煽られ、派手なパフォーマンスばかりに注目が集まることにも違和感を持っている。

若くして望まずに即位し
激動の時代を一国の長として切り抜け
母として子供を育て
執務が第一、自分のことは二の次、という姿勢を貫いてきた女王にとって
王室に嫁ぎながら、普通の女性と同じ幸せを求め続けるダイアナの行動は
どうしても理解できないことだったのかもしれない。

静かな城の奥深くで、女王は自分の中にある嫉妬、孤独、疎外感と向き合っている。

そしてそんな女王に助言をし続けるのが就任したばかりのブレア首相。
女王を尊敬しながらも、イギリスに新しい風を入れようとしている首相と
昔ながらの君主制を守りたい女王。
微妙に考えの違う二人が、静かに火花をちらし
ついに女王は英国王室の『とるべき道』を決断する。

威厳と品格を保ちながら
ひとり涙を流す女王の姿。
その姿は、はるかに遠い世界の人でありながら
とても身近なひとりの女性に感じられた。

テレビで見る女王の姿はいつもフォーマルなものなので
広大な領地で車を運転する姿や
ヘアピンをつけたガウン姿
着ているセーターで眼鏡を拭く様子がとてもリアルで
いっそう、親近感を感じる。
ダンナさんのエジンバラ公が寝る前に女王に
「おやすみ、キャベツちゃん。。」なーんて本当に言ってるのかどうか分からないけど
ちょっとした覗き見気分にさせられてしまう。
それほどキャストがみんな実物に良く似ているのだ。

あの衝撃的な事故から10年たったとはいえ
人々の記憶に、まだはっきりと残っているこの時期に
これほどまで、生々しく「女王」の心情を描いた映画が作られて上映される、ということに驚いてしまう。
昭和天皇が亡くなってから20年近くたって、
やっと外国人の監督の手で撮られた『太陽』という映画が日本で公開されたのが去年の夏のこと。
それを思うとき、英国王室の懐の深さを感じてしまう。

王室の立場からすれば
世間に知られたくないような本音のセリフもぽんぽん飛び出す。
ダイアナの評判が世間でどんなに良くても
王室の中では「困り者」であったことを女王も認める発言をしている。
ダイアナを愛するイギリス国民が見れば
王室をますます悪者に追い込んでしまいそうなネタがあふれているのに
不思議なことに
女王が一人の人間として
様々な葛藤を抱えながら生きていることを知ることは
女王をよりいっそう魅力的に思わせてしまうのだ。
このことは
王室にごく近い筋からの協力を得て
出来るだけ事実に近く、
そして細心の注意を払って書き上げたであろう脚本家の苦労を伺わせる。

世間のバッシングを一身に受け
ひとりテレビカメラの前に立つ女王の姿は凛としていた。