ビター☆チョコ

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海を飛ぶ夢

2005-11-03 | 洋画【あ】行
ラモン(バビエル・バルデム)は若い頃に海で事故にあい,その後26年間自宅のベッドの上で過ごしている。
自分では食事をすることも,体の向きを変えることすら出来ない。
彼の世界は窓から見える景色と自分の部屋だけだ。
それでも彼は口にペンをくわえ詩を書き,家族の暖かい介護に支えられ前向きに生きてきた。
そんな彼が,より自分らしく生きるために「尊厳死」を選び,法律では認められていない「尊厳死」の権利を得るために裁判を起こすと言い出す。
彼を支援する団体や弁護士が着々と準備を進めるなか,
ラモンを心から愛し,支えてきた家族の間に動揺が走る。

とても重苦しく難しいテーマの映画なのだけど,不思議と圧迫感は感じなかった。
家族や彼を愛する人々が,尊厳死を認めたくない気持ちはよくわかる。
「死というのは一時的なものではないんだ。もう二度と会えなくなることなんだ。」
無口なラモンの兄の叫び。
訳知り顔でいきなり訪ねてきて,ラモンに生きることの意義を尊大に説く神父。
その言葉をじっと聴いていた義姉のマヌエラが,突然神父に向かって話し出す。
「私はずっと息子のようにラモンを愛し世話をしてきた。あんたはなにもわかってない。あんたはただやかましいだけ!」
愛するものの死は誰だって認めたくない。

しかし,自分らしく生きるために死を選ぼうとするラモンの気持ちも痛いほど伝わってくる。
彼に生き続けることを望むのは,あまりにも酷な彼の人生だ。
答えなんて出せない問題なのだけど
気分転換にと家を出るラモンが乗った車を見送る家族の姿は,
もうラモンの決断を静かに受け止めているようで,観てて涙が止まらなかった。

こんなに重いテーマなのに暗いだけのものにならないのは
ラモンと難病を抱えた弁護士のフリアとの間の,
淡いラブストーリーがあったからかもしれない。
空想の中で空を飛ぶラモン
フリアを抱きしめるラモン
心はこんなにも自由に羽ばたくのにね・・・