ヘーゲル『哲学入門』第一章 法 第十七節[民法と刑法]
§17
Ein *Eingriff* in die Sphäre meiner Freiheit durch einen Andern kann
1) entweder so beschaffen sein, dass er *mein Eigentum als das seinige* in seinem *Besitz* hat, oder *anspricht* in dem Sinne, dass er das Recht dazu habe, und wenn nicht er, sondern ich das Recht dazu hätte, er es mir überlassen würde. Er respektiert hierin das Recht überhaupt und behauptet nur, dass es in diesem besondern Fall auf seiner Seite sei. Oder aber 2) es liegt in seiner Handlung, dass er meinen Willen überhaupt nicht anerkennt und somit das *Recht als Recht* verletzt.
第十七節[民法と刑法]
他者による私の自由の領域への侵害 には次のような場合がありうる。
1)私の財産を他人が彼自身のものとして 占有する か、あるいは、他人がそうする権利をもっているのだと主張するが、もし彼がその権利をもっておらず、そうではなくて私がその権利をもっていた場合には、彼はその財貨を私に委ねるよう場合である。ここでは彼は権利一般を尊重しているのであり、ただ
この特殊な場合においては、その権利は自分の側になければならないことを主張しているだけである。しかし、また次のような場合がある。 2)他人が私の意志を一般的に認めることなく、その結果、彼の行為が 法としての法を 毀損するばあいである。
*Erläuterung.*
Die bisherigen Begriffe enthalten die Natur des Rechts, seine Gesetze, seine Notwendigkeit. Aber das Recht ist nicht ein solches Notwendiges, wie das Notwendige der physischen Natur, z. B. die Sonne kann nicht aus ihrer Bahn treten. Eine Blume muss ganz ihrer Natur gemäß sein. Wenn sie z. B. ihre Gestaltung nicht erfüllt, so kommt dies von äußerlicher Einwirkung, nicht von ihr selbst her. Der Geist hingegen kann wegen seiner Freiheit gegen die Gesetze handeln. Es kann also gegen das Recht gehandelt werden. (※1)
説明
これまでの概念には、法の本性、法の法則、法の必然性が含まれている。しかし、法は物理的性質の必然性のような必然的なものではない。たとえば、太陽はその軌道から外れることはできない。花はその自然に全く適ったものでなければならない。それが、もし、たとえば、その姿形が不十分であるような場合は、そうしたことは外部からの作用によるものであって、花自身からくるものではない。これに対して精神は、その自由によって法則に反して行為することができる。だから法に反した行為もなされうる。
Hier ist zu unterscheiden: 1) das allgemeine Recht, das Recht qua Recht; 2) das besondere Recht, wie es sich bloß auf das Recht einer einzelnen Person auf eine einzelne Sache bezieht. Das allgemeine Recht ist, dass überhaupt Jeder, unabhängig von diesem Eigentum, eine rechtliche Person ist. Es kann also der Eingriff in das Recht so beschaffen sein, dass damit nur behauptet wird, dies besondere Recht, diese besondere Sache stehe einem nicht zu. Aber es wird dabei nicht das allgemeine Recht verletzt.
ここでは次のことが区別されなければならない。 1) 普遍的な法、法としての法。 2) 単に個別的な人格の権利が個別的な事物に関係するような特殊な法。普遍的な法とは、各人が、一般的にこれらの財産とは関わりなく、一個の法的な人格であるということである。したがって、法律の違反は、特定の権利または特定の事物がある個人には帰属しないということが主張されるところにおいてのみ起こりうる。しかし、そこでは普遍的な法が損なわれることはない。
Man verhält sich dabei gegen seinen Gegner als eine rechtliche Person. Ein solches Urteil kann überhaupt als ein bloß *negatives* betrachtet werden, worin im Prädikat das Besondere negiert wird; z. B. wenn ich urteile: dieser Ofen ist nicht grün, so negiere ich bloß das Prädikat des so und so Gefärbtseins, nicht aber das allgemeine. — Im zweiten Fall des Eingriffs in das Recht eines Andern behaupte ich nicht nur, dass eine besondere Sache nicht das Eigentum eines Andern ist, sondern ich negiere auch, dass er eine rechtliche Person ist. (※2)
人はそこでは反対者に対して自らを一個の法的な人格としてふるまう。このような判断は一般的に単なる否定的なものとみなすことができる。そこにおいては、述語において特殊なものは否定されている。; たとえば、私がこのストーブは緑色ではない、と判断するような場合、そうして私はたんに述語を、色彩等々を否定しているのであって、しかし普遍的なものは否定されてはいない。
他人の権利を侵害する二番目の場合は、私は特定の事物が他人の所有物ではないと主張するだけでなく、むしろ、彼が法的な人格であることもまた否定する。
Ich behandle ihn nicht als Person. Ich mache auf etwas nicht Anspruch aus dem Grunde, dass ich das Recht dazu habe oder zu haben glaube. Ich verletze das Recht qua Recht. Ein solches Urteil gehört zu denen, welche *unendliche* genannt werden. Das unendliche Urteil negiert von dem Prädikat nicht nur das Besondere, vielmehr auch das Allgemeine; z. B. dieser Ofen ist kein Wallfisch oder: er ist nicht das Gedächtnis. Weil nicht nur das Bestimmte, sondern auch das Allgemeine des Prädikats negiert wird, so bleibt dem Subjekt nichts übrig.
私は彼を人格として扱っていない。私はそうする権利をもっているとか、あるいはそうする権利をもっていると信じていることを根拠にして或ることを要求するのではない。私は法を法として毀損するのである。このような判断は、いわゆる無限とよばれるようなものに属している。無限判断は、述語について、ただにその特殊性のみではなく、むしろまた普遍性をも否定する。たとえば、「このストーブは鯨ではない。」あるいは、「このストーブは記憶ではない。」など。というのも、たんに規定されたもの(特殊性)だけではなく、そうではなくまた述語の普遍性をも否定されるから、主語には何一つ残されてはいない。
Solche Urteile sind deswegen widersinnig, aber doch richtig. Auf dieselbe Weise ist die Verletzung des Rechts qua Recht etwas Mögliches, was auch geschieht, aber etwas Widersinniges, sich Widersprechendes. Die Fälle der ersten Art gehören zum *Zivilrecht,* die der zweiten zum *Kriminalrecht.* Das erste heißt auch *bürgerliches,* das zweite *peinliches* Recht.(※3)
このような判断はそれゆえに無意味なものだけれども、しかしだが間違ってはいない。これと同じように、法の法としての違反は、また起こりうる可能なものであるが、しかし、無意味なものであり、自己矛盾するものである。第一の種類の場合は、*民法 *に属するものであり、第二の種類の場合は、*犯罪法 *に属する。初めのものは、また 私法 ともよばれ、二番目のものは 刑法 ともよばれる。
(※1)自然的必然性と人間の自由
地球は太陽系の中で定められた軌道から外れることはないし、桜は春になれば開花する。それに対して、人間の精神は自然必然性に拘束されない。人間の自由は、意識の自己内分裂に由来する。A と B との間の選択に必然性はない。
(※2)否定的無限判断としての犯罪、民法と刑法
小論理学の§173 の中でヘーゲルは次のように述べている。
「犯罪は否定的判断の客観的な一例と見ることができる。犯罪、たとえば盗みを行うものは、民法上の係争におけるように、特定の物にたいする他人の特殊な権利を否定するのみではなく、他人の権利一般をも否定するのであり、したがって彼は盗んだものの返還を要求されるにとどまらず、その上になお罰せられる。なぜなら、彼は法そのもの、すなわち法一般を傷つけたからである。民法上の係争は、これに反して、単なる否定判断の例である。というのは、そこでは特殊の法が否定されているにすぎず、したがって法一般は承認されているからである。」(岩波文庫版、松村一人訳『小論理学』§173)
(※3)
とりあえずは以下のように訳したけれど、法律学上にすでに訳語が確定しているのであれば訂正したい。
Zivilrecht,*: 民法 、*Kriminalrecht.*:*犯罪法 * bürgerliches Recht,*: 私法 、 *peinliches Recht. *:刑法
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