NHKの言論自主規制
今月の初めに航空自衛隊の田母神俊雄元航空幕僚長が解職されるという事件があった。田母神氏が民間会社の懸賞論文に応募して、そこで明らかになった歴史観が政府見解と異なるという理由によるものである。この問題は新聞の全国紙においても、その是非についての意見はとにかく、取りあげられるほどの社会問題になっていた。
そうして11月13日、この田母神氏がに参院外交防衛委員会に参考人として招致されることになった。私はこれほどの社会問題になっているのだから、当然のことながらNHKで中継放送されるのだろうと思って、当日にNHKの番組を見てみたのであるが、放送日程には組み込まれていなかった。
世論を二分するほどになっているこれほど大きな問題を、その当事者が国会で発言するというのに、なぜNHKは報道し中継しなかったのだろうか。参院外交防衛委員会での田母神氏に対する質疑を聞いて国民はその是非を判断するはずだったのだ。NHKの報道の取捨選択の基準はどこに、また誰に権限があり、また放送の公正さを公的に検証する機関はどのように存在しまた公開されているのだろうか。それが気になった。
今それらを直ちに調査する暇はないけれども、ただ近年のNHKの番組を見ていて感じていることを書いておきたい。
NHKで働く人々のジャーナリズムの能力は、その真実の追求と報道の能力は、その番組制作能力とともに著しく低下してきているのではないか。ひと昔前のNHKの仕事のようには高く評価はできなくなっている。果たしてNHKは日本の放送文化の格調を保つうえで指導的な役割を果たしているのか。最近はその意思も能力も失われつつあるのではないか。また、NHKで働く人々の資質もそれだけ落ちてきているのではないか。民営放送番組と同じような大衆に媚びる番組も著しく増えているようにも思う。
最近は確かにインターネットの発達などもあって、以前のように新聞やテレビだけに情報も限定されることはなくなっている。私たちはかならずしもテレビに頼らずとも、ネットテレビなどによる視聴の機会も増えている。が、それにしても、ほとんどの新聞の社説にも取りあげられている田母神論文問題の、その当事者が国会に参考人に招致されているというのに、それをNHKが中継報道しないという、その判断を疑問に思う。
かって以前にも、NHKが明らかに報道を自主規制していると思われることを経験したことがあった。その時の傾向が相変わらず改善されず、事態がそのまま続いているように思われることである。
もう何年も前になってしまったけれども、 冬季オリンピック大会のフィギアスケートで荒川静香選手が優勝したとき、金メダルを授与されたその表彰式後に、静香選手は日の丸を着てウィンニングランで観衆に応えてリンクを周回していた。そのときに静香選手の跡を追っていたNHKのカメラマンは、突然カメラを天井に焦点を据えたままにして、日の丸を背負った静香選手の美しい姿をまったく国民に伝えようとしなかった。荒川静香選手の背負った日の丸の姿を、その時NHKは共同放送していた韓国などの他国に「気を遣った」ためであるとも言われている。
また、俳優の関口知宏さんの登場した中国の鉄道紀行番組で、青蔵鉄道を紹介していたときも、この鉄道のもつ問題をチベット民族の立場から報道するということも一切なかった。
中国チベット動乱と日本
NHKの報道姿勢
NHKで働く人々は言論の自由や報道についてのしっかりした哲学とジャーナリストとしての主体性を持つべきであるし、また日本国民に対する教育的使命やその責任の重要性ということを、今いっそう自覚する必要があると思う。
とくに大衆の劣情に媚びる番組ではなく、番組の自主制作能力をもっと高めて、また、土曜日の重要な時間帯に韓国、中国やその他の外国製のテレビ番組の安易な購入などに依存したりすることなく、以前のように本当に楽しくまた価値ある国産の番組の制作と放映に努めてほしい。
また、同じ公共放送であるイギリスのBBCやドイツのZDFのインターネット放送サービスなどに比較すれば、技術的にも完全に立ち後れている。NHKよ、もっとしっかりしてほしい。日本国民の受信料で信頼を受けて経営を託されているのだから、それはNHKの当然の責務であるはずである。