夢と希望と

そして力と意志と覚悟があるなら、きっと何でも出来る。

戦士の思考形態。

2015-02-24 | 中身
 前書きからかなり間があいてしまいましたけれども、ポケットモンスターアルファサファイア&オメガルビーの感想のようなモノを書き殴ります。
 さて、私がこの作品に尋常ならざる期待をかけていた事は以前の記事の通り。シリーズを通して最も愛着のある作品のリメイクなのですから、設定したハードルはそれはもう天にも届こうかという程に高く険しく聳え立っていました。世の中には対象への愛があれば全てを許し受け容れるという思考の方もいらっしゃる事は存じ上げていますが、私は愛すればこそ些細な瑕疵も我慢がならないという蛮族気質。有象無象の美醜には一切関心は無く、禍福どうなろうと知った事ではありませんけれど、愛するモノが醜悪に成り果てるならば……その時は私がこの手で息の根を止めてくれる、という野蛮な輩です。
 そんなこんなで最大限の期待をしつつも刃の用意もしっかりと済ませてプレイに臨んだ今作は、一言で申し上げるなら期待以上、大満足の傑作でした。
 美しいホウエンの大地と海と空を征く主人公。厳しくも優しい理想の父親であるセンリとの闘い。一人ではポケモンを捕まえる事も出来なかった脆弱なミツルが弱さを克服し戦士として一人前となる過程。ミツルとは対照的に負けても照れ笑いで済ませる戦士としてはゴミ同然な隣のガキ。主人公を程の良い小間使いとしか看做していないホウエン地方チャンピオンのダイゴ。世界の生命を文字通り根絶やしにしかねない力を持つグラードンとカイオーガを我がものとしようとするマグマ団とアクア団。そして画竜点睛としてのエピソードデルタ。余人は兎も角、少なくともこの私にとってはほとんど非の打ち所がない素晴らしく楽しめる作品に仕上がっていたと申し上げて過言ではありません。

 ところでストーリーの〆としてのエピソードデルタ、どうも世間での評判は芳しく無いと耳にします。特に物語の鍵を握るキャラクターであるヒガナという娘が、かなり嫌われている様子。まぁこれは無理もない事で、ヒガナというのは私と同様に己のやりたい事をやる為には他の全てを犠牲にする事を厭わない輩、私が定義する所の戦士という人種だからです。その思考のシステムを、噛み砕いて説明してみましょう。
 ホウエン地方に迫り来る巨大隕石、衝突コースにある天災にどう対処するかというのがエピソードデルタの内容ですけれども、大企業であるデボンコーポレーションとその社長令息であるダイゴは「隕石をこの星ではないどこか別の場所にワープさせる」という手段を立案して実行しようとします。隕石の進路上にワープホールを発生させる為には莫大なエネルギーが必要で、ダイゴ達はこれにデボン御自慢の∞エナジーなるモノを用いようとしました。ちなみにこの∞エナジーという代物の正体は、ポケモンの生命エネルギー。X&Yに於いてフレア団のフラダリが使おうとした古代兵器のエネルギー源と同じものです。とはいえ隕石の衝突により人間達が滅ぶなんて以ての外、公共の福祉の為、ポケモン如きの命を数千数万数億使おうとなんら問題は無いのでしょう。少なくとも、良識ある善良な市民国民であるならそう考えねばなりません。
 しかし、ヒガナはそうは考えませんでした。まず、この世界は人間だけのモノではない。人間がポケモンよりも相対的強者である事を理由に、ポケモンの命を公共の福祉の為に用いると言うのなら、この自分がより強者としてそんな事はさせないと考えます。また、ダイゴ達の用いようとしている手段は隕石をどこか別の場所に放り出すだけの事。それでは隕石が放り出された先にもしも他の生命体が存在したらどうなるのか。突然頭上に隕石が出現し、事態の把握もならぬまま死ぬ。そんな災厄の押し付けを行う事が美しい行為でしょうか。ヒガナは、否と考えます。それが可能性に過ぎず仮定の話であろうとも、そのような手段によって拾った命では胸を張って生きる事は出来ない、と。或いは、こうも言えるでしょう。そんな手段に縋ればヒガナの生命体としての命は生き延びても、ヒガナという意思在る者の矜持は死ぬのです。それでは、どうするのか。そんな手段は論外であり、全力で叩き潰すのみです。もしも代替手段が失敗して隕石衝突により死のうとも、それはヒガナとして死ぬ事。ヒガナとして生きたという事。命あるモノは所詮いつかは死ぬのですし、好きに生きて好きに死ねたなら、それで満足するのが戦士というものなのです。
 そんなこんなでヒガナが隕石衝突への対処策として持ち出した手段は、ホウエン地方伝説のポケモン、レックウザと共に隕石を木っ端微塵に砕き散らすというものでした。
 レックウザは深い眠りについており、これを目覚めさせるにはレックウザ本来の役割……つまりグラードンとカイオーガの争いを制し鎮めるという状況を作り出す事が最も手っ取り早い方法です。そのグラードンとカイオーガは顔を合わせれば相争う性質ですけれども、面倒な事にこの二体も封じられていましたから、マグマ団とアクア団を焚き付けてまずはこれを解放しようとしました。
 ところが、事情を知らぬ主人公がこの目論見を阻止してしまい、当初の計画は頓挫します。それならば、という事でヒガナが選んだ戦術が、レックウザに直接エネルギーを注ぎ、強引に覚醒させるというもの。ホウエン地方の著名なトレーナー達が所有するキーストーンという石を強奪し、この石の力を用いてレックウザを起こそうとしたのです。
 その際、当然ながらキーストーンを所有する者達を力ずくで捩じ伏せて石を奪ったのですけれども、ここもヒガナが嫌われる要因の一つであるようです。ヒガナが暴力と窃盗を正当化しているだとか聞きますが、ヒガナ本人にとって暴力も窃盗も手段に過ぎず、粛々と実行しているだけの事。遵法精神の欠如と言えばその通りではありますが、戦士にとって大切なのは己の矜持のみであって、他人が定めた法律なんてモノには耳垢ほどの価値も見出しはしません。粋がって用もないのに無駄に法を破るような事は面倒ゆえにせずとも、必要とあらば躊躇なく法律など踏み超えるのです。そこにあるのは、自己正当化ではありません。つまり自分はやりたいようにやるから、文句があるなら貴様達も私に対してやりたいようにやるが良いという覚悟。強者が弱者を喰らう、ただそれだけの単純な理に過ぎず、自分が正しいだとか正しくないだとかは、そもそも関心が無いのです。自己正当化などというものは、正当性に縋らなければ闘えない、闘争の才能が欠如した者達がやりたがる事であって……戦士には全く不要なモノなのですから。ちなみに、ヒガナのこのプランはレックウザが長い眠りで想定以上に力を失っていた事により破綻します。主人公がたまたま持ち合わせていた隕石の欠片をレックウザが体内に取り込む事で事無きを得ましたが、この辺りの詰めの甘さというか不手際も、また他人とは思えない親近感を抱きます。とはいえ自分がレックウザを駆る事に拘らず主人公へと継承の儀を行い当初の目的を果たしていますし、リカバリーとしては上々ではないでしょうか。
 ついでにヒガナが嫌われる理由として挙げられるもう一つの要素、ダイゴへの発言に関しまして。私には本気で理解不能なのですけれど、主人公に敗れた元チャンピオンに対して「元チャンピオンさん」と呼びかける事の何がいけないのでしょうか。ダイゴなんぞは、所詮は温室育ちのお坊ちゃん。対アクア団でも対マグマ団でも肝心な時に全く役に立たず、主人公を顎で使って事を済ませようとする殿方であり、歴代シリーズのチャンピオン達の中でもイッシュ地方のアデクと並ぶゴミです。こんなヤツに期待なんて出来よう筈もありませんし、ダイゴに対するヒガナの態度は妥当な扱いであるようにしか私には見受けられませんでした。
 あと、これも戦士ならではの思考システムですから解説しておくならキーストーンを強奪した人達への謝罪が無い、反省の色が見られないという指摘につきましては噴飯物です。反省も何も、キーストーン強奪は必要だからやった事。その行動に覚悟が伴っている以上は謝罪の心なんて存在する道理がありません。反省があるとすれば、それはレックウザの残存エネルギー量の想定見積もりが甘かったという点で、これは誰に対して詫びることでも無く単に自省するだけ。反省してますアピールなんてものは、他者からの評価に価値を見出す人間が同情と憐憫と慈悲が欲しくて行うポーズであり、自己評価のみで完結可能な戦士には全く無用です。そうであるからには、形だけの謝罪などする筈も無いという事がお判り頂けるでしょうか。
 
 ……と、このように戦士的な思考をもってすればヒガナの行動は単純明快、実にシンプルで筋の通ったものです。私にはストレス無く楽しめる本当に素敵なシナリオでした。
 が、しかし。私のような蛮族が楽しめるからといって、それが世間に歓迎されるかというと……これは極めて微妙でしょうね。特に昨今は、国家の命令に逆らうなんてとんでもない、命じられた通りに生きて命じられた通りに愛して命じられた通りに死ぬ事が美徳であるというような風潮が勢いを増しています。自己の矜恃よりも法律を重んじ、やりたい事よりもやらされる事に懸命となり、首輪の自慢をしながら唯々諾々と死んでいく事に幸せを感じる方々から見れば、ヒガナも私も秩序を破壊する害悪に他ならないのでしょう。
 破壊されるような秩序ならば、所詮それまでのモノ。産まれたならば必ず死を迎えると定まっているからこそ、酔生夢死ではつまらないと私は考えます。他人が用意したお酒に浸り、酔っ払って生きるより……どこまでも身勝手に己の矜恃に則り生きて闘い、いつか敗れてくたばり、勝者の血肉となりたいものだと願っています。

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2 コメント

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脚本ミスの皺寄せを受けてるという点では気の毒だけど。 (深雪)
2015-02-24 23:52:32
いろいろあるけど、結局の所フォローしようの無い人だよ。すげー迷惑な人だと思う。
急に平行世界とか言い出してさ。
「リメイク前のホウエンに隕石が行っちゃう」っていうのはメタ発言だから、
プレイヤーはRSの世界を守らなきゃ、って気になるかもしれないけど、
作中の人達からしたら何言ってんだコイツ状態だよね。
実際にあの世界では平行世界の存在は証明されてないわけだし。

とりあえず、ちゃんと人に話してみたら?と思う。
平行世界に伝説のポケモンにと突飛な話ばかりだから、人に信じてもらうのは難しいかもしれない。
(あの世界の人達なら相談したら聞いてくれそうな人達ばっかっぽいけど)
でも、誰にも相談も無く自分一人で突っ走ってさぁ。
人に理解してもらう事を放棄した時点で、自分勝手っつーか我儘っつーか。
困った人以外の何者でもないよねぇ。

我儘でもなんでも強けりゃまあ、その「強者」理論でもまあいいんだけど、
強くないんだよね正直。団の長に勝ったレベルでしょ?
正面からダイゴとやったらまず勝てないし、ミツルに勝とうなんてまず論外。
ミツルの家から盗ってったのも、正面からやりあったら勝てないからじゃん、って思えるところがね。
コスいよ。これで作戦成功してりゃあまだいいけど、結局失敗してるし。

それから、グラードンカイオーガ作戦も少なからず地方に被害を及ぼしてるわけで、
「多数の幸福(或いは自分の目的)のために幾らかの犠牲は仕方ない」
っていう考え方で実行したとするなら、デボンの作戦を非難する資格も無いよね。
(そもそもデボンの作戦だって、ポケモンや人にどれぐらいの影響を及ぼすのか明言されてない)
大体あのスイッチ、いざっていう時の保険で残しておけばよかったものを、ぶっ壊しちゃうし。
あれで主人公いなかったら(主人公が隕石持ってなかったら)どーするつもりだったんだコイツ。

大体、グラードンカイオーガ作戦が子供に防がれたという通常ありえない事態を経験してるのに、
よくもまあコイツ「もしレックウザ作戦が失敗したら」というトラブルシューティングもなく行動できるよなと。
学習能力ゼロじゃん。日に二度敗れるバカの類?
結局のところ「想像力が足りないよ」がリフレクで跳ね返ってきてんじゃねーかって感じ。
まあ、動きのモーションとか顔芸は嫌いじゃなかったよ。

あとダイゴ(というか全てのシリーズのチャンピオンがあんな感じだけど)をフォローすると、
顎で使うっつーか、この世界の将来を担う期待の若手に、困難を自力で解決することで成長してほしい、
と思ってるんじゃないの。あの世界だったら多分、世界の危機を救うことなんて七五三ぐらいの恒例行事なんだろうし。

本当に顎で使ってるのは多分、スーパーボール程度の駄賃で福岡から長崎まで荷物を運ばせてる、ダイゴの父親の方だと思う。

【検証】
ヒガナ
ヌメルゴン、ガチゴラス、チルタリス、オンバーン(4匹レベル60)
切り札メガボーマンダ(レベル62)
エアームド、ボスゴドラ、ネンドール、プテラ、メレシー(5匹
ダイゴレベル77)
切り札メガメタグロス(レベル79)

ミツル(廃人化)
ロズレイド、ガブリアス、ジバコイル、マリルリ、ファイアロー(5匹レベル79)
切り札メガエルレイド(レベル81)

ヒガナで勝てるハズも無いのは一目瞭然。
レベル50統一でも多分無理だな。
返信する
少なくともロゼよりは筋が通ってます。 (中身)
2015-02-28 19:28:59
ヒガナが自分勝手で迷惑なキャラクターである、という点は全く以て同感です。
公共の福祉よりも己の矜恃を優先するというのは、つまり自分さえ良ければ世界などどうなっても構わない、という事ですもの。
ただ、似たような感性を持つ者としてヒガナも支離滅裂な言動をしているわけでは無いと私は感じました。

平行世界関連につきましては、実際にリメイク前ホウエンの存在の是非はたいした問題ではありません。
肝要なのはダイゴ達の手段では隕石を他所に放り出すだけの事であり、放り出した先の存在に危害が及ぶ可能性があるのなら、そんな手段は美しくないというヒガナ当人の主観です。
その可能性がゼロでは無い限り、ダイゴ達の装置を使うという選択肢はヒガナには無いのです。ですから、保険としてあのスイッチを壊さず取っておくなんてする筈がありません。
貴女がヒガナの手段とダイゴ達の手段を比較して、犠牲の多寡や成功の可能性の大小を考慮なさるのは当然の事ですし、一般的にそれで正しいのだろうとも推察しますけれども……ヒガナや私にとって大切な事は「やりたい手段かそうでないか」という一点だけだったりします。

他人に対して説明して協力を仰がない理由は、単純に自分一人が尽力すれば事足りると判断していたからではないでしょうか。
信頼関係を築き、事情を打ち明け、懇切丁寧に言葉を惜しまず説明して多くの人間の協力を取り付けなければ成就しない目的であれば、そうするしかありません。
しかし一人でやり遂げられると認識しているなら、有象無象と一致団結なんて面倒な真似は御免被る……私でも、そう考えます。
ヒガナは流星の民の末裔として天からの災禍を打ち砕くという使命を果たせれば良いと考えているのであって、人々からの賞賛や感謝が欲しい訳ではないのですし。

そしてヒガナの強さ、という点に関しましては……貴女が提示なさっているダイゴのデータはエピソードデルタの後の物ですね。それ以前ならば手持ちは
エアームド 57/ネンドール 57/ボスゴドラ 57/ユレイドル 57/アーマルド 57/メガメタグロス 59
の筈です。ヒガナがメガボーマンダにサブウェポンとして大文字でも覚えさせておけば、問題なく抜けるでしょう。
ミツルに関しても廃人化するのはバトルハウス後なので、それ以前の手持ちならヒガナに勝つのは至難を極めるかと。
再戦トレーナーが強くなるのはポケモン世界の慣例であり、ヒガナも仮に再戦の機会があればよりレベルの高い手持ちになっていたでしょうね。
とはいえ、これも実はそれ程重要なポイントではありません。
仮に勝てない相手でも、隙を突いて強奪すれば目的は達成出来るのですし、そうする事もまた強さに他ならないからです。

「想像力が足りないよ」は、確かに自分自身の想定の甘さに刺さってしまいましたが、だからといってダイゴ達に想像力が足りていたかと言えばそうではなく、結局どちらにも足りていなかったという事。
物事に臨む時は万全の備えと、不慮の事態に対する想定が必要であるという教訓をヒガナ自身が痛い目を見て示している訳で、他山の石として受け止めておこうと思います。
ちなみにチャンピオンの責務につきましては……後ほど改めて書いてみようかと。
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