夢と希望と

そして力と意志と覚悟があるなら、きっと何でも出来る。

オレとオマエが伝説になる。

2011-08-13 | 中身

 私はこれでも、かなり寛大寛容で温厚無類な性質であると自任しているのですけれど、それでもイナズマイレブンの新シリーズやダンボール戦機などのつまらなさには堪忍袋の緒が切れそうです。ラノベ原作系の深夜アニメ系にしてもまた然りで、惰弱なシナリオに頭の軽い女の子を盛り合わせたような作品の数々は、まとめて焼き捨ててしまっても何ら問題あるまいと考えます。
 愚弟曰く、それは私が擦れて捻ねて純真な心を失い、無味乾燥で面白味のない薄汚れた大人になったからだ、という事。言葉による反論の前に肉体的懲罰を加えてやりましたが、それにしてもこれは由々しき事態ではないでしょうか。男組や野望の王国は言うに及ばず、アイアンリーガーもテッカマンブレードも聖闘士星矢も北斗の拳も勇者シリーズもエルドランシリーズも知らずに成長する今の子供達は、何を心の礎として自我を構築して行くのでしょう。
 ……等と柄にもなくこの国の未来を憂慮していましたところ、発見したのが「メタルファイトベイブレード」という作品です。まずは1分30秒、騙されたと思ってこちらを御覧下さい。

 清々しいまでにストレートな歌詞、そして映像。非常に完成度の高いオープニングであると私は感じました。何より素晴らしいのは、1分ジャストからの展開です。ここで終わっても、それはそれで綺麗にまとまっていた筈。しかしここからが、このオープニングの真骨頂ではないでしょうか。
 主人公たる少年に必要な物は、先天的な特殊能力や後天的に会得した特殊技能ではありません。馴れ合い傷を舐め合う仲間でも、無条件に惚れてくる女の子の群でもありません。必要なのは、そう……ライバルです。互いに全力で向き合い争い喰らい合い、結果として互いを磨き合い高め合う存在。「オレとオマエが伝説になる」という歌詞が、それを如実に示しているようで、個人的にクリティカルヒットでした。

 ただ、オープニングだけ優れていても中身がそれに見合った物でなければ、まさに羊頭狗肉という物です。その点でこの作品は、羊頭竜肉とでも称するべき逸品でした。まず、以下の基礎知識を頭にお入れ下さい。
・ベイブレードとは、分解カスタマイズが可能なベーゴマの事。作品中では主にベイと称される
・ブレーダーとは、ベイブレードを用いる者の事
 この二点を理解なさったなら、次はコレを御覧下さい。トータルで20分程、おそらく損とはならないのではないかと……!

 特筆すべきは、ライバルである竜牙の強さと、その言動の正しさです。彼は主人公である銀河の故郷から、禁断のベイとして封印されていたエルドラゴを強奪し、その際に封印の守人であった銀河の父親を仕留めています。それを踏まえた上での竜牙の挑発は、とても十歳そこそこの子供とは思えない物で、超一級品。
 まず竜牙は、銀河を軽くあしらった上でこう告げます。
「……話にならんな。もう少しマシなベイを親父に貰って来い」
 これは銀河を一人前のブレーダーと見なさず、更にそのベイであるペガシスを侮辱する言葉です。父親の形見であるペガシスは、所詮は貰い物。竜牙が自力で奪ったエルドラゴとは異なり、銀河が独力で得た物ではありません。相手の急所を的確に鋭く突くという、挑発の基礎を完璧にこなしています。
 追撃として、こうです。
「もっとも、弱いオマエの親父のベイじゃタカが知れてるがなぁ」
 銀河が、父親を誇りとしている事を知った上でのこの言葉。相手が大切にしている存在を踏み躙る事は、相手を逆上させ冷静さを失わせる為に非常に有効な手段です。案の定、銀河は怒り狂って怒鳴り散らします。「もう一度言ってみろ、もう一度父さんをバカにしたら只じゃすまさないぞ貴様!」、と。無論、こんな反応は挑発を行う当人にとっては織り込み済みの事。竜牙は臆さず動じず、返します。
「何度でも言ってやる。オマエの親父はカスだ。親がカスならその息子もカスだ。親父のようにオマエもオレの足元に這いつくばれ!」
 言葉の内容、表情、声音と三拍子揃った完璧なトドメにより、銀河は完全に逆上します。怒りに我を忘れ、日頃偉そうに口にしていた綺麗事を自ら裏切る行為に及びます。これこそが、挑発の真骨頂です。相手の矜恃、相手の流儀が上辺だけの偽りであれば、それを他ならぬ自身の手で汚させる。それは他人にそうされるよりも、遙かに深い痛みとなって心身を苛む事になるのですから。ベイは心で撃つ物だ等と吹聴していても、結局は憎い相手を力ずくで叩き潰そうとする……その根本はオレと何ら変わらないではないか、と思い知らせたのです。
 しかも、この挑発は単なる加虐趣向から行われた物ではありません。エルドラゴへのエネルギー供給を肩代わりさせるという、純粋に戦術的有用性を伴った挑発なのです。ブレーダーとしても、闘争を行う者の心構えとしても、銀河は完全に竜牙に敗北しました。
 そして、だからこそ素晴らしいのです。完膚無きまでに叩き潰され、失意と屈辱と絶望のどん底にある時こそ、そいつの真価が垣間見えると、私は考えています。これだけの敗北を喫して、それでも立ち上がり、立ち向かう。そうするだけの礎を己の内に築き直す。その過程にこそ、人間の意思の輝きというモノは煌めくのだ、と。

 この作品については他にも素晴らしい点が多々ありますが、要するに……きちんと血の通ったキャラクターが、各々の矜恃に基づいて生き、闘っているというのが魅力の源泉でしょうか。久々に自信を持ってお勧め致します。


 ……ちなみに、この竜牙という子。どうにも他人とは思えないネーミングセンスだったりします。「暗黒転技・竜皇翔咬撃」とか「究極暗黒転技・竜皇絶命爪」とか。後者は私なら「竜皇天臨絶命爪」とでもする所ではありますが、非常に親近感が湧きます。

コメント (2)
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