夢と希望と

そして力と意志と覚悟があるなら、きっと何でも出来る。

最も悲惨な侵略者。その2

2013-05-25 | 中身
 太陽系に辿り着いたラダム母艦が、侵略の尖兵とすべく捕獲した原生生物とは人間でした。宇宙船アルゴス号を旗艦として外宇宙探査に赴く途上にあったタイタン調査団を、土星付近で襲撃してこれを寄生の依代とすべく、テッカマンへのフォーマットを行ったのです。
 外宇宙探査を行おう等というアストロノーツ達は、当然ながら心身共に極めて優良な個体である筈ですから、寄生するには非常に適しています。ですからこの選択そのものは、充分に妥当と言えましょう。ラダムは然る後に即座に月面裏側に母艦を着底させ本拠地を設け、軌道エレベータ基地であるオービタルリングを速やかに制圧して前線基地とし、人類を地上に封じ込めた上で確実に仕留めにかかるという、自己の圧倒的戦力に傲る事の無い着実な戦略を用いてきました。先述しました通り、人類には微塵も勝機など無い筈だったのです。
 しかし。このタイタン調査団の中に、ラダムの誤算がごろごろと紛れ込んでいました。
 テッカマンへのフォーマットには相性が存在し、不適合と判断されればフォーマット以前に処分されますし、フォーマット開始後であっても不具合が発生すれば中止して排出・処分が行われます。タイタン調査団を率いていたのは宇宙物理学の権威である相羽孝三であり、調査団の中核を担うのは彼の血縁者達だったのですが、結果として適合者は彼等数名のみ。以下に、その一覧を記します。

・相羽孝三
体質不適合の為、テッカマンへの素体フォーマットの段階で排除される。
フォーマットの影響で体組織崩壊を起こしており、僅かな余命と引き替えに相羽タカヤを救出し、脱出させて死亡。

・相羽ケンゴ
相羽家の長兄。ラダムの司令官、テッカマンオメガへとフォーマットされる。割とまともなテッカマンであるが、肉親への情が完全に除去されておらず、ラダムの勝利よりもシンヤの安全を重視するような行動も見受けられた。戦果・ブレード用支援メカであるペガスの撃墜。

・相羽タカヤ
ケンゴの弟。シンヤとは一卵性双生児で兄にあたる。強襲突撃型のテッカマンブレードへとフォーマットされるが、ラダムによる寄生が行われる直前に父である孝三により逃がされる。
規定のプロセスを経ていない不完全なテッカマンであり、テックセットに30分の時間制限がある等、正規の完成品と比べると不具合が生じている。
努力なしで努力家の弟シンヤに肉薄する成果を残す天才肌。極めて直情的な性格で、味方戦力である連合防衛軍本部をボルテッカとフェルミオンミサイルにより壊滅させた。

・相羽シンヤ
タカヤの弟。多目的汎用型のテッカマンエビルへとフォーマットされる。極めて高いレベルでバランスが取れた強力なテッカマンだが、ラダムの勝利など限りなくどうでも良く、一卵性双生児の兄であるタカヤへのコンプレックスのみを行動の基盤とする。
勤勉で地道な努力家だがタカヤに固執するあまり大局的な視野というものが欠如しており、実質的な戦果は皆無に近い。

・相羽ミユキ
相羽家の末妹。諜報索敵型のテッカマンレイピアへとフォーマットされるが、最終段階で体質不適合により排除される。そのまま脱走して兄であるタカヤの元に駆け付けるが、エビル・ランス・アックス・ソードの四人がかりで袋叩きにされ、自爆ボルテッカにより死亡。
この自爆による敵テッカマンへの損害は軽微だったが、味方戦力であるスペースナイツ本部は完全に壊滅した。

・フリッツ・フォン・ブラウン
アルゴス号の乗組員。遠距離支援型のテッカマンダガーへとフォーマットされる。
ほぼ唯一の正常なテッカマンで、ブレードのテッククリスタルを破壊するなど大戦果を挙げる。しかし機能的な面から見れば全テッカマンの中で唯一ボルテッカを備えていない欠陥品でもあり、ブレードのボルテッカにより死亡。

・ゴダード
相羽孝三の親友で助手、電子工学の専門家という触れ込みだが劇中ではそんな描写は一切なく、タカヤとシンヤの武術の師という面ばかり描かれている。近接格闘型のテッカマンアックスへとフォーマットされた。
シンヤがタカヤに抱いているコンプレックスは9割までが幼少期より事ある毎に「どうしたどうした、そんな事ではタカヤ坊には勝てんぞ!」等とコイツが煽りまくった事で植え付けられたもの。戦果ゼロ。

・モロトフ
アルゴス号の乗組員。参謀型のテッカマンランスへとフォーマットされる。「完成されたテッカマン」を自称し、エビルに匹敵する能力を持つとされたが、調子こいて単騎でスペースナイツ基地に攻め込んだらパワーアップしたブレードに完膚無きまでに叩きのめされ殺された。戦果ゼロ。

・フォン・リー
相羽ケンゴの婚約者であり、稀に見る不細工顔。司令官護衛型のテッカマンソードにフォーマットされる。ラダムの事など心底どうでも良く、ケンゴへの愛だけがその行動の指針。
情愛に基づいた暗躍以外に目立った活躍も無く、人間の新兵器で討ち取られる。戦果・宇宙船ブルーアース号及び人造テッカマン1号機の破壊。

 ……この、揃いも揃ってゴミ揃いなのはどうした事でしょう。テッカマンとは先述の通り、常軌を逸した超兵器であり、1体で地球を制圧する事さえ可能な筈の代物です。それがどいつもこいつも戦果ゼロ、或いは宇宙船やらサポートメカを壊した程度。人類側に大きな打撃を与えたのは連合防衛軍基地をボルテッカで吹き飛ばしたブレードと、スペースナイツ基地を自爆ボルテッカで消失させたレイピアくらいのもので、しかもブレードとレイピアは人類側のテッカマンです。
 何故こんな事になってしまったのかと考察すれば、これはもう疑問の余地無く理由は明白で、「素体に選ばれた奴等の意識が残ったままであり、寄生したラダムの思惑から外れた行動ばかりしていたから」です。最終回間際で、打ち倒したエビルから這い出てきたラダムをブレードが踏み潰し、「こいつのせいでシンヤが……!」等とほざくシーンがありますけれど、とんでもない濡れ衣です。シンヤは徹頭徹尾、「タカヤ兄さんを越える」という己の意思で闘っていたのであって、ラダムにしてみれば寧ろ取り込まれて利用されていただけのようなモノ。宿主がくたばり、ようやく解放されたと思って這い出したら踏み殺されるとは、災難以外の何物でもありません。

 宿主として選定した生物が、よりにもよって殆ど全て強烈な我執に凝り固まった連中だった。その為に、寄生して支配するどころか逆に利用され、安全確実な戦略も戦術も破綻して壊滅の憂き目に遭う。強大で無慈悲な侵略者として地球に君臨する筈であったラダムの末路を見る時、私は彼等こそが最も悲惨な侵略者だと感じずにはいられません。
まぁ悲惨だろうと何だろうと、相対的な弱者が相対的な強者に敗れて喰われただけ、という事でもありますけれども。