禍津時雨>>成る程、斯様な解釈も可能ではあろう。民間人への対応についてはヨーン・バインツェルが同様の事を行いかけし折りにはエストに固く制止されており、またあの時点に於いてミッション・ルースは明確に名乗りを上げてはおらず局面は極めて微妙と言わざるを得ぬが、状況に応じ法よりも重んじる物があると判断し己の責任において法を超えて進む事も確かに王たる者には必要であろう。バストーニュにおける民間人殺害とレディオス・ソープ及びラキシス逃走幇助がその決断を下すべき局面であったとは思わぬが、そもそも儂が遵法精神について語るも烏滸がましき事よな。更に言うならば、この一件によりコーラス3世はアマテラスに恩を売り後のハグーダ戦への協力を取り付け、ミラージュ騎士団という絶大な戦力を提供された訳じゃ。政は結果が全て、故に此の振る舞いについても儂は大きくは騒ぐまい。騎士としての腕前の件は、一度目は騎士と気付かれる事も無い体たらく、二度目は王太子たる身でありながら不意討ち紛いと、どちらも褒められたものではあるまいと考えるが、些細と言えば些細な事よ。そなたの言う通りコーラス3世が騎士として有能であった、という事にしても構わぬ。儂があの男を使い物にならぬ暗君と評せし理由の最たる物は、別に存在するが故にのう。其の理由とは、マイトでも無き身でありながらモーターヘッドの建造なんぞを試み、三十年という歳月と膨大な国費を投入し、未完成であると知りながら実戦に投入した挙げ句に大破させ、国王たる身が殺害或いは捕虜となりかねぬ窮地を招き、あまつさえ他国の者に救われ、更にそれでも懲りる事なく専用モーターヘッドに国力を注ぎ、ファティマを欠き戦闘不可能であるにも関わらず戦場に赴き殺されるという一連の愚行じゃ。ウリクルが死んだ?未完成のモーターヘッドで戦場に連れ出したコーラス3世にこそ元凶があろう。ファティマの悲しみ?愚かな主を持つ事こそが悲しみよな。自分のベルリンをトリオに回せる?乗りこなせぬので無い限り、ハリコンの神機とやら謳われたエンゲージを使えば良かろう。先天的素質が無ければ不可能とされるモーターヘッドの設計に手を出し、ランドブースターなる無用の長物を背負わせた挙げ句に墜落とは笑い話にもならぬ。そんな物が無くともエンゲージもA・トールも空は飛んでおるわ。コーラス3世が自己満足の為にのみ建造せしモーターヘッドに、ジュノーンなんぞと星の名を与える事がそもそも噴飯物よ。レディオス・ソープは「装甲の合いが線を引いたようだ」等と宣うておったが、要するに装甲の合い程度しか褒める所の無い機体という事じゃ。改修後のジュノーンがランドブースターを取り払われ、外観も全く変わり果てておるのが証であろう。風祭万里、そなたの言う通りコーラス3世という男は人間的であるのやも知れぬ。大きく譲歩しコーラス3世を一介の騎士としては一流としても良い。されどコーラス3世は王じゃ。王たる者が政を他人に任せ、素人芸のモーターヘッドなんぞという役にも立たぬガラクタの製作に没頭するとは何事か。儂には到底、コーラス3世は王たる器とは思えぬ。
風祭万里>>・・・ですからね、後付け設定が出てくる度にコーラス陛下って立場を失うんですよ。その連続があまりにも続くので、あたしは永野護というのは構想力が決定的に欠落しているだけでなく、コーラス3世が嫌いで嫌いで仕方がないのではないか、と思う程で。まず、エンゲージなんてものはあのお話が書かれた時点では存在してませんし、空飛ぶモーターヘッドなんて無いことになってたんです。マグロウが「空を飛んだ?」とか言って驚いてますよね。で、マイトでもないのにとか言われますけど、「コーラス3世はマイトではない」と明言されたのって大分後の話です。しかも、同じ後付け設定で、コーラス王って代々趣味だかなんだかでモーターヘッドの設計やってることになってるんですよね。エンゲージシリーズって、全部そうですから。恐らく、最大限整合性を付けて解釈するなら、コーラス王家にとってモーターヘッドの設計って家業というか、先祖代々習うことなんでしょう。正式な資格は無いけど、子供の頃から叩き込まれる家芸のような。そして、あの出撃ですけど、あたしは自ら陣頭に立とうとしたコーラス3世を賞賛しこそすれ批判しようとは思いません。事実、結構な数のマグロウを潰しているんですし。むしろ批判されるべきは、国王が出陣しているにも関わらずブーレイとミミバに侵入を許した軍首脳部でしょう。一体、彼らは何をやっていたんでしょうね。そもそも、コーラス3世って当時のコーラス王朝首脳部の中では際だって若いんです。政治と戦争の采配は、自分より遙かに経験豊富なルーパス・バランカとリザート・マイスナーがやっている。そういう状況下で若い王が何をすべきかと言えば、敗戦続きで沈んだ士気を何とかすることでしょう。若い王が最新鋭機を駆って敵モーターヘッドを狩る、というのは、恐らくその為にやったことだったと思います。お話の中ではあまり描かれていませんけど、国王自らが陣頭に立ってファティマを失い重傷を負うまで戦ったこと、そして再び立ち上がって反攻を呼びかけたこと、これらはさぞ国民を鼓舞しただろうと思いますよ。彼は彼に出来る最大限のことをしたんだと思います。彼は唯一絶対の支配者でもなければ神様でもないし、政戦両略の天才でもなかったんですから。だいたいあのお話、そんな化け物ばっかりじゃないですか。やれ神様だ、なんとかの血統の純血の騎士だ魔法使いだ、剣聖だなんだって・・・後から後から化け物が続々と追加されていけば、そりゃ物語の当初からいたキャラクターは霞んでしまいますよ。でもあたしがコーラス3世というキャラクターが今でも最も好きだと思うのは、彼がそういう人外の化け物でもなんでもない、欠点もある普通の若い王様だからなんですよ。彼に魅力を感じる人は、多かれ少なかれそう思っているんではないでしょうか。・・・正直、こうした物語外部、作者を視野に入れたメタな視座からの反論ってあまりしたくないんです。でも、コーラス3世をこきおろす意見のほとんどが、そういった建て増しの歪みに直結している理由から来ているように思うんですよ・・・。
禍津時雨>>後付け云々についてはコーラス3世に同情せぬでも無し。なれど総体的に観た場合、その行動が愚かに映るも事実であろう。なおエンゲージはコーラス1世の依頼を受けマール・クルップが設計し、製作をルミラン・クロスビンが引き継いだという設定になっておるのう。無論此も後付け故に詮無き事なれど、コーラス3世の長女たるセイレイ・コーラスもそうしたように専門家に依頼する事が賢い行いじゃ。父親の遺作をそのまま複製するのではなく当代随一と目されるマイト、ダイアモンド・ニュートラルの元に持ち込む辺りセイレイが父親程に夢想家では無いと観る事が出来、興味深くはあるのう。話を戻してウリクルを伴い出撃した際の事に言及するならば、陣頭に立つ事自体を責めてはおらぬ。単騎にて隠密裏にゲリラ戦を仕掛ける事が武帝と称される者の行いとは思えぬが、卓越した技量を持ち信頼性の高いモーターヘッドを用いるならば有効であろう。問題は、規定出力の1/3も出ない欠陥機を用いた事にあると言うておる。まともな運用試験を行わず、勢いに任せて飛び出した挙げ句にあの体たらくでは話にならぬわ。討たれて果てるならばまだ救いもあろうが、あの状況ではコーラス3世が捕縛され、極めて不利な条件で講和条約が締結された可能性すら低くは無し。エンゲージが後付けとしても、そなたの言うようにコーラス3世が真に高い技量を備えていたならばベルリンにて出撃しても事は足りよう。更に少々話の筋は逸れる事なれど、軍首脳部の失態の最たる物は、この時の教訓を全く活かさずアトキにおけるハグーダとの決戦においてミミバ族の接近を許し、事もあろうに本陣の位置を知られたという点であろうな。あれは恣意的にコーラス3世の殺害を目論んだと言われて然るべき行為じゃ。そして欠点を含めた人間性が魅力と言われたならば、此はぐうの音も出ぬ。儂が指摘したコーラス3世の王としての欠陥が、そのまま魅力に他ならぬという事であればのう。しかし風祭万里、そなたの言う建て増しの歪みを差し引いて観ても儂にはやはりコーラス3世という男は王の器とは思えぬのじゃ。ファティマさえ居なければ良き夫にもなろう、良き友でもあろう、良き隣人であり、良き恋人であるやも知れぬ。されど王としてはあまりに認識が甘い男じゃ。
風祭万里>>・・・ええ。そこについては、実は時雨さん、貴女の意見に賛同したいんです。コーラス3世という人物の最大の不幸は、王家に生まれてしまったことなんだろう、と。多分、王位を継ぐべき立場でなかったら、ウリクルと二人で星団中渡り歩いて高名な騎士として楽しい人生を過ごすことができた人だと思うんです。王家に生まれてしまったばっかりに、いろんなものを背負わされ、大してしたくもない結婚までさせられて・・・。エンゲージについてはあたしが読んだ資料では、コーラス1世が開発したとあるんで、コンセプトというか基礎設計をコーラスがやって仕上げは専門家がやった、という感じなのかも知れませんね。で、ジュノーンはその集大成のつもりだったのかも知れません。・・・で、結果としてジュノーンがまともに動かずウリクルが死に自分が重傷を負ったことは事実でしょうが、マグロウは相手になってなかった訳ですし(マグロウって雑魚でもなんでもない、ちゃんとした機体なんですから)、サイレンなんていうものが出てこなければ問題は無かったはずです。あの時点でハグーダにあんなものが荷担しているとは判明していなかったんですから、ある程度は仕方無いところでしょう。
禍津時雨>>それよ。知らなんだが故に仕方が無い、此が王には許されぬ。王たる者の双肩は己のみならず国家の存亡、ひいては国土と国民の命運を担うておるが故に。尤も、これはコーラス3世のみならず、トリオ・コーラス王朝自体の情報収集システムに問題があったという見方も出来ような。そして王家に生まれなんだらという仮定には同感じゃ。単身ではデコース・ワイズメルあたりに斬られる気がせぬでも無いが、ロードス・ドラグーンの後をついて回り見聞を広め、騎士としての腕を磨き、気ままに生きたならば当人は幸福な命を全う出来たやも知れぬ。身の丈に合わぬ王という地位に生まれついたがコーラス3世の不運であろう。ただ、それは不適格な王を迎えし国家にしても不運であったという事。一枚の硬貨を表裏どちらから眺めるかの違いに過ぎぬ。
風祭万里>>・・・ええ。マグロウ相手なら問題なかろう、と思って出て行ったら何故かサイレンが出てきた、というので見通しの甘さを責めるなら、それは甘んじて受けなければならないでしょう。でも、それならルーパスとリザード以下の王朝首脳部って、阿呆と愚者と痴呆症患者の集団なのではないかと思うほどに、見事に無能揃いだと言えるはずです。王という地位が身の丈に合わないとは思いませんし、立派な王様だったとも思うんですよ、あたしは。ただ、本人はあまり幸せではなかったろう、と。もしもコーラス3世がおらず、ルーパスとリザードが王朝の最高権力者だったとしたら、下手したらあの戦争負けてたとさえ思います。遙かに国力で劣り伝統的に敵対している隣国から奇襲されるという間抜けさ、その隣国に他の列強が荷担しているという外交的稚拙さ、それに気づかないという情報能力の欠落・・・これはもう、国王云々ではなく国家そのものが腐っていたのではないか、と。ああ、だから焦っていたのかも知れませんね、コーラス陛下は。何とかして鼓舞しないと国が滅ぶ、と。身も蓋も無い話ですけども、ルース大統領とアマテラスがコーラス陛下の友達でなかったら、恐らく戦争は負けだったんじゃないでしょうか。
禍津時雨>>トリオ・コーラス王朝の首脳部が首脳と称するに値せぬ白痴の集まりである事は全く異存の無い所じゃな。一方コーラス3世は結果のみを見たならば立派な王であるとも言えよう。泥沼のハグーダ戦にA.K.D.を引き込む事で勝利を収め、国難を排した英雄である事を否定もせぬ。あのような性格は国民に好かれる事も事実であろう。そなたの指摘通り、コーラス3世が居なければ負けぬまでも国土を大きく削られていた事は間違いあるまい。ただ、コーラス3世はあまりにも危険な賭けを好み過ぎるのじゃ。そなたはあの男を不幸と言うが、実際には運だけは持ち合わせておる。コーラス3世は人生の難局を全て運だけで乗り切ったと言うても過言では無いとさえ儂は思うておる程じゃ。王たる者、無論運は不可欠であろう。如何なる名君も流れ矢に当たり命を落としては仕舞い故に。されど運だけに頼り無謀な振る舞いを繰り返す者に、己以外の者を背負う資格は無し。儂はそう考えておる。
風祭万里>>ええ、だからあたしも別に彼が完璧な英主だったと強弁する気はありませんし、欠点が無いと言うつもりも無いんです。ただ、やれるだけのことはやったし、運にも味方されて結果も残した、後で振り返ってみたら良い王様だったのだろう、と。レーダー8世が「死して歴史に名を残したか」とか言って褒めてましたけど・・・ただ、それが本人にとって幸福かどうかは全く別問題ですけど。・・・何も考えていない阿呆のような王様だったら他にもいくらでもいますし、あの世界には。
禍津時雨>>何も考えぬ阿呆が王でも滞り無く政が働くシステムを構築してあるならば国家としては優れているとも言えようが、此はまた別の話となろうな。さて、そなたも儂も言いたい事の骨子は喚き散らしたかのう風祭万里。元より人物評に絶対なんぞがある道理は無く、物語を楽しむ上での一要素として思考し遊ぶ事こそが目的じゃ。どちらに理があるか、或いは双方ともに理が無いかは此を読む者が各個に判断すれば済む事であり……そして誰にどのように判断されようと、そなたも儂も自己の楽しみを損なわれる訳でも無し。名実ともに益体の無い四方山噺じゃ。
風祭万里>>ええ。だいたい言い尽くしたような気はしますし・・・思ったほど無茶苦茶は言われなかったので正直ほっとしています。貴女のことですから、完全に人格まで否定するような事をいいだすんじゃないだろうかって結構怖かったんですけど・・・それなりに話も通じたみたいですし、楽しかったですよ。
禍津時雨>>儂を何だと思うておるのじゃ風祭万里、此までも物の道理に反した無茶苦茶なんぞを言うた覚えは無いのじゃが。しかし兎にも角にも大儀であった、そなたの力添えの甲斐あって、此度の仕事は実に簡単に片付く仕儀と相成りそうじゃ。当家の内証で慢性的に回り続けておる火の車の勢いも、若干ながら治まろう。ゆるりと寛ぎ、物のついでに法王庁の所有戦力の詳細についてでも語って帰ると尚良かろうて。
風祭万里>>・・・ふふ、貴女は結構あたしの話を聞いてくれるから好きですよ?あたしの周りって、人の話聞かない子ばっかりですし・・・はっきり反応が返ってくるあたり、静流よりも話がしやすいのかも知れませんね。あくまでもある意味においては、ですけど・・・。で?法王庁の?ああ、あたしは半分引退の身ですから。今の猊下に変わってからどうなったのかは良く知りませんよ?もうあたしみたいな年寄りはお呼びでないでしょうし・・・いつまでも古い人に頼っているようじゃ、独り立ちなんでできないんですよ、あはっ。
禍津時雨>>ち。儂も「知らなんだが故に仕方が無い」では済まされぬ立場故、裏付けは多いに越した事は無いのじゃが、無理強いはせぬ。事を構えるにせよ構えぬにせよ情報は多ければ多い程に良し、されど幾千幾万の情報に勝りしは時として……ふむ、詮無き事よな。ならば暫し庭にて遊んで行くが良かろう。幾つになろうと時には童心に返るも悪くは無い物じゃ。(そんな宣言を勝手に行い、湯飲みを手にしたまま縁側から庭へと向かう。素足で降り立った玉砂利の上で、唇の端を微かに吊り上げ、軽く手招き等を。)
風祭万里>>・・・驚きました。貴女に、普通の意味での「遊び」に誘われるなんて(一瞬目を丸くしたあと、嬉しそうに微笑んで。こちらも立ち上がると、後に続くように縁側から降りて。素足に伝わる感触は、どこか懐かしかった)
完