夢と希望と

そして力と意志と覚悟があるなら、きっと何でも出来る。

竜皇の敗北。

2012-02-12 | 中身
 私が週に一度、非常に楽しみにしているTV番組があります。以前にも書かせて頂きましたけれど、「メタルファイトベイブレード4D」という作品です。
 これの何がお気に入りか、それは一言で申し上げるなら脚本として「認識が甘くない」という事。登場人物それぞれに行動の流儀があり、物語としての都合による強引な舵取りを感じさせません。甘ったれた事をほざいているキャラクターにはしっかりと容赦のない突っ込みが入りますし、馴れ合いをよしとしないキャラクターはあくまでも自分勝手を通します。そうしたキャラクターを活き活きと描きながらお話を紡ぐ制作者の力量は、率直に尊敬に値すると感じています。

 さて、そんな作品の中で私が最も精神構造的に親近感を憶えるキャラクターが竜牙です。星の欠片から生まれた世界最初のベイの一つエルドラゴデストロイを操り、自分が最強のブレーダーである事を至上の目的として常軌を逸した特訓の日々を送る少年です。その実力は他のブレーダーを圧倒し、主人公であろうとこれまでのシリーズのラスボス格であろうと軽く一蹴してしまう程。彼の行動の流儀は「己の誇りが最優先。それ以外は基本的にどうでも良い」というモノ。故に、自分以外に最強を名乗る者が居れば誰であろうと潰しに行きますし、恩義も侮辱も倍返しです。
 その竜牙が、先日放送された第44話「破壊神VS竜皇」において敗北しました。
 相手は暗黒の太陽と呼ばれ、世界の全てを無に還す破壊神ディアブロネメシスというベイです。念の為に申し上げておきますが、ディアブロネメシスは比喩でもなんでもなく、文字通りの意味の破壊神です。天変地異を自在に発生させ、地球の文明全てを容易に滅ぼし去る力を持った代物なのです。エルドラゴデストロイも原子力潜水艦程度はあっさり撃沈し、火山の一つや二つは容易に粉砕する力を持ってはいますけれど……ディアブロネメシスと真っ向からぶつかれば敗北必至である事は明白でした。これに対し、地球は星の力を優れたブレーダー達に託し、彼等が一致団結して協力する事で結界を発生させディアブロネメシスを封印するという対策を示したのです。
 それでも、共闘を持ちかける主人公達の言葉に一切耳を貸さず、竜牙は単身でディアブロネメシスに挑みます。私は、この竜牙の心情にとても共感出来るのです。言われるままに共闘し、結界を用いればディアブロネメシスは封じられる。しかし、そんな事をして何になると言うのでしょう。地球という星が救われる?全人類が死なずに済む?けれどもその代償として、己の誇りは失われるのです。およそ勝負事というモノは、当然ながら勝つ事が重要です。負けても良い等という心積もりで臨むのは論外です。そうではありますけれど……ただ勝てば良いというモノでもありませんし、勝てる見込みが無いから闘わないというモノでもないと、私は考えます。闘いというのは己の流儀を貫く為に行うのであって、闘いによって流儀を曲げてしまっては本末転倒というものだ、と。どれほど強大な相手であろうと、寄って集って袋叩きにするような闘い方は、竜皇の流儀ではない。竜牙はその点に妥協しなかったのです。
 闘いは、一方的な物となりました。竜牙が繰り出す究極転技も、ディアブロネメシスに対して有効打とはなりません。これまで彼が他者に対してそうして来たように、己が蹂躙される事となりました。虫ケラ同然だとか、人の身で神に挑む事が身の程知らずなのだとか、竜皇気取りの愚か者のおかげで結界が崩れて大助かりだとか、容赦なく愚弄された挙げ句に敗北し、エルドラゴデストロイは砕けました。
 それで、良かったのです。
 誰であろうと、永遠に勝ち続ける事は出来ません。どれだけ勝利を重ねても、いつかは敗北する時が訪れます。どう勝つかという事と同等以上に、どう負けるかは重要なのです。竜牙は、おそらくそれが解っていたのではないでしょうか。

 相手や状況がどうであれ全力で闘い、勝つか負けるかして、喰らうか喰らわれるかすれば良い。私は常々そう口にしますし、そうありたいと願っています。
 己にとって何がどう大切なのか。それを見失わなければ、たとえ嬲り殺され喰い散らかされようとも、何も問題はないのですから。